軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百七十九話 三人の誓い

迦具夜達のいる部屋へと歩いていた。廊下には人間の像がいくつも並んでいた。背中に羽のあるものや耳の長いもの。頭に角があるもの。普通の人間の姿もある。どれも生きた人間がそのまま固まったように見えた。

「今までレガと取引してしくじった人たちでしょうか」

千代さんがそんなことを言ってきた。なんだかこの呼び方本当に昔っぽいな。千代さん自体感覚が、やっぱり昔で止まってるんだろうな。でもこれは何だか楽しめる。お姉ちゃんは正直キツかった。

「悪趣味な置物だ」

「来た時は見なかったのに帰る時は見せる。きっと逃げたら分かってるなって感じですよ」

「さしずめニザヴェッリルに降りてくる人間を待ち構えて、面白そうな人間と取引して、価値がありそうなら目玉代わり、価値がなさそうなら像にしてしまうとか……」

「悪神ならありえますね。服が何百年か前のものが多いですよ」

「なら、目玉をもらった人間が死んだら、ここに飾ってるって可能性もあるよ」

どちらだったとしても怖すぎる。目玉をたくさんそうやって増やして、あちこちを常に見ている。レガの瞳にはきっと大八洲国の姿も見えていたのではないだろうか。そうやって俺のことも知ってたんじゃないだろうか。

「レガは……」

ふと思いついたことがあった。

「ひょっとすると……」

「うん?」

「いや、いいんだ」

口に仕掛けて止めた。あの悪神がどこで見てるかわからない。でも1つ思ったことがあるのだ。小人神レガはひょっとすると"カインの瞳"を狙ってるんじゃないだろうか。俺がカインを殺せばしれっと蘇らせて、その目玉を対価にもらう。

逆に俺が負ければ俺の目玉を。どちらにしてもレガにとっては何の損もない。どちらの目玉も面白そうだと思っている。レガはそう考えて俺に声をかけてきた。何だかその考えはとても正しい気がして身震いした。

間違いなく取引しない方がいいやつだ。それでも取引してしまったからには、

「祐太さんぼーっとしてますよ。どうしたんですか?」

千代さんが俺の顔を覗き込んできた。くっつきそうなほど目の前にいた。

「いや、結局のところ命がけだと思っただけだよ」

誰にも言えないことがある。千代さんにも言えないこと迦具夜でも弁財天でも言えないこと。それが一つある。それをどうしてレガは知っていた。心の中を見られたか。だとすると本当に悪神とは厄介だ。

「安心してください。私の目から見ても、祐太さんがうまくやってるのは間違いないと思いますよ。でもそれ以上に大変なことばっかり起きるんですよ。まあきっと全部うまくいきます。私の旦那様ですし、この私もいます」

「そうだな。千代さんがいるのは頼もしいな」

でもきっと少しだけ寂しいことが起きる。そんなことを考えながら俺から手をつなぐと嬉しそうに繋ぎ返してきた。ここでは姿を隠しても意味がなさそうなので、千代さんも隠れる気はないようだ。

「ところでお二人に例のことは話すんですか?」

千代さんは迦具夜と弁財天のことを言ってるようで、二人がいる部屋の方向を見た。

「そうですね」

迦具夜と弁財天の顔が浮かぶ。今も魂が少し繋がったままの迦具夜。そして肉体がある部分で何度も繋がった弁財天。二人ともとても大事な人たちだった。離れがたいし、嫌われたくない。それでもどれほど考えても、

「話そうと思います」

あの二人に対してその答えしか出なかった。これが美鈴とエヴィーなら言うことを迷ったかもしれない。どうしてか言語化するのは難しいが、あの二人には言いたくない気持ちの方が勝っていた気がする。

「それでもし二人が俺に『死ぬべき』と言ってきても、千代さん」

「何ですか?」

「二人を殺そうとしたらダメですよ」

「どうして? 世界が滅ぶぐらいで祐太さんを殺そうとするやつらなんて殺しちゃっていいと思いますけど」

「ダメです。その時は殺すよりも俺と一緒に逃げてください。そしてダンジョンの外で二人で生きていきましょう。その場合俺の目玉はなくなっちゃうから目の代わりお願いしますね」

「ふふふふふ、はい! お任せください!」

千代さんがしっかり腕を組んでくる。

「私はこの腕をもう離しませんよ」

「離さないと動けませんよ」

「心理的な話です。もちろん迷惑な時は離しますよ」

「本当ですか?」

「本当です」

そんなことを話しながらも、俺の心臓は激しく脈打っていた。正直怖い。でも一緒に動く人間には言うべきだ。何しろ俺と一緒に行動すれば世界を壊してしまう片棒を担ぐことになるかもしれない。

本音では言わないでおきたいけど言わなければいけない。それだけはあの二人に対する礼儀だと思った。

「大丈夫」

千代さんは何を大丈夫だと言ってくれてるんだろう。それがわからないまま迦具夜達が待つ部屋に到着していた。

「お帰りなさい」

「かなり時間がかかったのね。千代女さんがいるから大丈夫とは思ったけど、そろそろ探しに出ようかと思ってたの」

部屋に入る前に千代さんは姿を消した。真実を話して2人の反応が敵対的だった場合、千代さんは俺を連れてすぐに逃げる。ウキウキして見えたのは気のせいではないと思う。多分千代さんは俺と二人の未来の方が嬉しいんだ。

それを知らない二人は俺のそばに歩み寄ってきた。

「いや、本当はもっと長引きそうだったんだけど、二人をあんまり待たせると悪いと思ってこれでも急いだんだ」

喋りながらも覚悟を決める。同じ嫌われるなら嫌われ方にも拘りたかった。レガに言われたことでやむを得ず嫌われるのはいい。でも自分自身が嘘をついていたことで嫌われたくない。そんな独りよがりの理由。

それでも誠実さを貫いた結果嫌われたい。自分は正しいことをしたのだと思いたい。

「レガとの話で二人にちょっと聞いてほしいことがあるんだ」

「レガの話?」

「ああ、楽しい話じゃない」

俺がその言葉を言った瞬間、二人の顔に怒りが浮かぶ。二人の力が漏れ出て建物全体が揺れた。俺が何も話していないこの時点で、俺が嫌われたせいとは思えない。俺がレガに何かされたと思って瞬間的に怒ったのだ。

「何を言われたの?」

「不利な契約でも結ばされた?」

「やっぱり私たちもついていくべきだった」

「悪神の分際で……いいわ。本州の真性三神・三の柱 月夜見(つくよみ) 様に相談しましょう。あの方は私が好きだから、きっとなんとかしてくださるわ」

「ユグドラシルと戦争ね。いいわ。大八洲国12柱は私の琵琶がとても好きなの。『ユグドラシルの悪神にいたずらされた』って言いつけてやる。小人の頭をちょん切ってやりましょう」

一気に危ない方へと思考を持っていく。俺もそういうところがあるけど、この二人はもっと極端だ。二人ともこじらせたまま400年以上も生きてるのだ。俺の自惚れでなければ、ようやくつかんだ幸せの邪魔をされる。

たとえ相手が誰であっても許せないだろう。でも誰が味方をしてくれたとしても意味がない。何よりも大八洲国VSユグドラシルの戦争まで起きたら、それこそ世界を壊すというレガの言葉が本当に聞こえてくる。

「二人とも落ち着いて。今はクエスト中だ。大八洲国の真性神の力なんて借りたら、100%クエストが失効してしまう。そうなれば日本も助からない。迦具夜も俺も助からない。だから、まず俺の話をちゃんと聞いてほしい」

何か言われたし、不利な契約も結ばされた気はする。しかしともかく二人に話すところからだ。俺が椅子に座りお茶に使われるのだろうテーブルに着いた。

「ごめんなさいね。そうよね。祐太君、悪神と話してきたのよね。ゆっくり落ち着いてまず私たちに話を聞いてほしいわよね」

「そうね。ごめんなさいね。私もちょっと冷静じゃなかったわ。祐太ちゃんゆっくり話してね」

迦具夜と弁財天がそれぞれにお茶とお菓子を用意してくれた。大八洲国から持ってきた練り切りのようで、俺はその甘い和菓子を一口で食べた。そしてお茶を飲んでホッと落ち着く。考えてみればレガの用意したワインを飲んだ。

それだけでもかなり異常だ。無理やり飲まされたとは思わない。それでもあの場の雰囲気はなぜか俺にアルコールを飲ませた。それぐらい緊張した。

「こっちも美味しいわよ。ほら、みかさよ」

「祐太君、洋菓子も好き? チョコレートも用意してきたの」

おそらく二人とも俺を甘やかしたくて仕方がないんだろう。俺はよく堕落せずに頑張っているものだと自分を褒めてあげたかった。お茶をもう一口飲んで落ち着く。そして俺はゆっくり話し始めた。

「これから言うことだけど、この話に対して二人が何を言っても、俺は二人を恨んだりしない。だから、本当のことを言ってほしい。まず俺は——」

二人に全てを話した。色々と話せない部分もあった。レガも千代さんに聞かせられない部分は【機密保持】を使用して、聞かせなかった。しかしほとんどのことは話すことができた。

俺が『世界を壊す』と言われたこと。『神側の人間ではなく悪神側の人間だ』と言われたこと。『カインを壊してほしい』と言われたこと。『しくじれば俺の目玉がなくなる』と言われたこと。それらを全て話した。

「——どうして話したの?」

全部話すのにゆっくり時間をかけて丁寧に話した。その間二人は口を挟まなくて、俺が話を終えて、弁財天が入れてくれた緑茶を口に運んだ時、迦具夜が俺にようやくその言葉を口にした。

「それで二人が俺を殺そうと決めたら、やっぱり俺は死ぬべきなんだろうと思ったからだ」

「……」

心からそう思った。俺が生きていれば可能性としてでも世界が壊れるなら殺されて当然だ。そして俺はこの話に関して正直自分の見解がよくわからなかった。世界を壊してまで生きたいなどと思っていない。

それなら自分は死ぬべきだ。でもあまりにも現実感がなく、どう捉えるべきなのか未だに結論が出てなかった。だから二人に話したというのもある。ここで二人に殺されるならやはり殺されるべきなんだろう。

まあ今回の場合その前に意地でも千代さんが、俺と逃げてしまうだろうが。千代さんと二人で生きていくとしたらどんな人生になるのだろう。なんだか紐になる未来しか思い浮かばないな。

ただそうなるにしても、せめて三種の神器は見つけておきたい。日本を救っておかないと千代さんENDどころじゃない。それさえできればあとは短い期間ほんのちょっとだけ、四ヶ月だけで終わる新婚生活を楽しもう。

それにしても、千代さんの裸をレガにだけ見られるぐらいなら、一生目を閉じておいてやろうか。俺がそんな二人に殺されそうになったパターンを一生懸命考えてしまっていた時、弁財天が言った。

「祐太君。そういう話は昔から何度か言われてきたことなのよ」

俺はその言葉が意外で目をまたたいた。

「それは本当に?」

俺を励ますためについた嘘ではないかと思えた。

「本当よ。だから勇者がいるのだとも言われてる。でもね。ルルティエラ様という存在がどれほど生きているのかもわからない。私たちでは想像もつかないほど長生きだということだけが分かってる。その命の中で何度もそういう話は出たという伝承がある。月夜見様とかならもっと詳しいわ。でも今まで一度も世界は滅びなかった。祐太君の世界で言うところの【ノストラダムスの大予言】というのがあったでしょう?」

「ああ、聞いたことがある」

当時の大人たちは1999年7の月、世紀末に本当に世界が滅びると思って恐れていたらしい。

「その話はこの世界じゃそれぐらいに扱われている話なの。だからきっと大丈夫。祐太君1人が生きてるぐらいで世界が滅びるわけないわ。それに祐太君、翠聖様とお話ししたことあるんでしょ?」

「ああ、ある」

「あの方は何でも知ってるわ。祐太君の未来すら見えていたと思う。それでも何もしてこなかったんだもの。きっと大丈夫よ」

「大丈夫……」

「でもショックだったわね。今日は何でも言って。私が何でも聞いてあげるから」

俺を甘やかすことに関しては一番の弁財天が俺の頭を抱きしめて引き寄せてくれた。温かい感触が伝わってくる。迦具夜も抱きしめて口にした。

「何があっても私はあなたの味方よ。この幸せを手放すぐらいなら世界なんて滅んでもいいわ。だからあなたも私がその程度のことで、敵に回るなどと思わないで。そもそもそんなことありえないのだから」

「二人とも、そう言ってくれるのは嬉しい。でも世界を壊すという言葉は本当かもしれないと俺は思っている。少なくともレガから聞いた時俺はそう思えたんだ。だから2人が俺を好きだから、そんなこと気にしないとかじゃなくて、これだけはちゃんと確かめておきたい。俺はそんなことする気はない。もしそんなことをしなければいけない状況に追い込まれたら、その時はダンジョンから逃げようと思ってる。二度と入らない。それでもついてくるんだな?」

「もちろん。私、弁財天は何があってもあなたについて行くわ」

「ええ、月城迦具夜も何があってもあなたと一緒に生きていくと決めているわ」

その言葉が素直に嬉しかった。本当はどこまで一緒にいられるかなどわからない。こんなことなかったとしてもわからない。それでも二人の気持ちは嬉しかった。千代さんが二人の姿にようやく安心できたようだ。

「祐太さん。良かったですね」

姿を現して、俺は三方向から三人の女性に囲まれて抱きしめられた。このまま時間が止まってしまえばどれほどいいだろうか。そう思えるほど幸せな時間。不意に扉が叩かれた。そして執事の声がした。

「お食事の用意ができました。レガ様はおられませんので、部屋で食べていただいても食堂に来ていただいても構わないとのことです。いかがなさいますか?」

そんな言葉だった。四人で力を合わせると決まったのなら、カインに対してどうするのかも話し合いたかった。カインさえ始末することができたら、一番の懸念事項が解決するのだ。その話合いに他人はいてほしくなかった。

「とりあえずご飯でも食べながら話そう」

そう言って三人に離れてもらうと扉を開けた。そこに姿勢正しく執事が立っていた。赤い髪をした男で、その姿はどこかアフロディーテを思い出させた。きっと同じ赤い髪だからだろう。

「話し合いたいことがある。すまないがここに持ってきてくれるか」

「畏まりました」

そう返事をするとすぐにあのきわどい服を着たサキュバスのメイドさん達が、部屋の中に食事用のテーブルまで改めて運び込んできて、俺たちの椅子を並べ、テーブルの上に食事を次々と並べていく。

ローストビーフに生ハムと牛肉を使ったサルティンポッカ。

野菜のピクルス。

ホタテとサーモンのタルタルソース和え。

トマト、バジル、モッツァレラチーズのカプレーゼ。

旬の野菜のサラダ。

ポテトとブロッコリーの卵サラダ。

スモークサーモンのマリネ。

マッシュポテトと合挽き肉の重ね焼き。

肉汁が滴るステーキ。

香辛料のよく効いたカレースープ。

ふわふわ卵のオムライス。

フライドチキン。

キャビアが乗ったピザ。

トリュフの乗ったグラタン。

コーンポタージュ。

ロブスター入りの魚介のパスタ。

様々な料理が所狭しと並べられた。

「お皿に魔法を仕掛けてあり温度は全て、いつまででも一番美味しい温度で保たれております。それでは全員下がりますよ」

「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」

それらをナンナが全て指揮して、料理の説明をするとすぐにサキュバス共々出ていく。

「レガ様から『ゆっくり四人で話ししたいであろう』と申し付けられております。ですから下がらせていただきますが、いつでも呼んでいただければ控えておりますので、廊下に向かってお声かけをください。それでは、どうぞごゆるりとお食事をお楽しみください」

最後に執事がそう言い残し姿を消した。俺の『女の接待は必要ない』という言葉をよく聞いているのだろう。サキュバスたちも俺に色目を使う様子もなかった。まあ向こうからしても迦具夜達がいるのにそんなことをするのは怖すぎるだろう。

「レガのところで飲んだワインだ」

「美味しかったですよね」

レガのワインも五本ほど用意されていた。どれもこれも食べきれる量ではない。まあ食べ切らなきゃいけないわけでもないのだろう。

「毒はないんだよね?」

失礼は承知で言った。

「成分は分析しましたけど、毒があるとは出てきませんでしたね。このワインもアルコール度数以外は美味しくなるように魔法で加工されただけの普通のワインですし」

「私も精霊に聞いてみたけど、細工した料理ではないと言ってるわ」

「祐太君、私も一応魔法で検査したけど大丈夫だと思うわ」

「そっか。迦具夜、弁財天、千代さん、せっかくだし食べながらしゃべろうか?」

「ええ、そうしましょう」「賛成」「お腹ペコペコです」

3人ともレガのことはかなり疑っているようだ。それでも出された食事はとても美味しいそうで、久しぶりに落ち着いた気分で、四人で食事会兼カインの対策会議を始めた。