軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九十九話 シャルティー

うまくいったよな? 【自然化】のスキルはまだ解いていない。さすがにシャルティーにはもう俺の位置は分かっているだろうが、切江と紫乃にはまだ存在を掴まれていないはずだ。というのもシャルティーの行為のおかげだ。

シャルティーがとにかく俺と二人を引き離そうとして【バジリスク】で吹き飛ばしてくれたのが良かった。まだ【媚薬】が効いていない時だ。きっと2人を助けようとした。だがそのことで俺の存在を気づき損ねたのではないか?

「いってー! 何するんだシャルティー!」

「いや、今一瞬六条の気配がしたような……」

「マジか? じゃあ六条をシャルティーが攻撃しようとしたのか?」

やはり二人は俺の気配を掴み損ねている。2人とも近接職である。気配の察知は得意じゃない。切江達は俺のガチャアイテムの豊富さに気づききれてない。彼らを今まで邪魔してきた武官と俺では戦い方が違いすぎる。そして、

「何をされましたの?」

シャルティーは自分がどうなったのかが分かってなかった。何かを無理やり飲まされた。それだけは分かるだろうが、その内容まで分からない。

「毒? でも苦しくない」

【媚薬】

それは【幻惑の粉】の特性は似ていて、使用する前にその薬に念じることで、効果がある相手とそれに効果を与えられる人間を決めることができる。そしてその【媚薬】を飲んでしまったら最後。俺が声をかけるだけでも体が疼く。

触れられるとそれだけで感動し、ましてやその相手から気持ちよくなるようなことをされた場合。想像を絶するほどの幸せに包まれる。そういうものだという説明を受けた。

その強烈な体験は、効力のある1日を超えても脳に焼き付き、消えなくなる。そうするとその後も持続的に、使用された側は、使用した側に依存するようになる。結果、永続的な惚れ薬のような効果を発揮する。

『こっそり教えておいてあげるにゃ。あんまり悪いことに使うんじゃないにゃよ』

黒桜はブロンズのアイテムは使用を間違えると大変なことになるので、かなり詳しく【意思疎通】を通じて、使用法を教えてくれた。倫理的には頭のイカれたアイテムだ。でも、黒桜は俺が悪用しないと思ってくれてるか……。

「シャルティー。六条はどこに行った?」

切江が聞いた。片手を失った状態のまま、それでも一番警戒心が強く見えた。シャルティーにも一定以上は近づかないでおこうとしている。今の状況が不可解に思えたのだろう。

何しろシャルティーに吹き飛ばされたと思ったら、目の前の光景が【幻惑の粉】で見せられていたものと全く別物になったのだから。

「おかしいですわ。苦しくはなってこない。見ていた光景が全然別物になってるけど、多分これが正しい。幻覚を見せられていたんだってなんとなく分かりますもの。というか六条はどこに行ってしまいましたの?」

そしてシャルティーはまだ自分の状況を理解できていない。自分の手を開いたり閉じたりしていた。試しに鞭を一振りさせてみる。何かされる前と後で、自分に変化がなかった。シェルティーにはそう思えるようだ。

「おい、シャルティー聞いてるのかよ!」

「あ、ええ。聞いてますわ。ですが、なんというか六条。いえ、六条祐太という名前は、素敵なお名前ですわ」

「は?」

「いえ、だって」《シャルティー。俺を居ないものとして話を聞いてほしい》

【媚薬】の怖いところはまだある。というのも【媚薬】の効果に関係しない思考能力は、全く通常のままなのだ。

『だから【媚薬】を使われたものは、使われたことに気づかないまま一生終わるにゃ。「【媚薬】を使ったんだ」と言われても信じないぐらい、自分にとっては、自分のその変化が自然に溶け込むようで気づけないにゃ』

黒桜の言葉通りだ。俺の言葉を聞いた瞬間。シャルティーの体が嬉しそうに跳ねた。そして頬が赤く染まる。効果を発揮しているようだ。これは使える。紫乃と切江に疑われないようにいけば、まだ“殺せる”。

「おいおい、どういうことだ? あいつらまだ戦ってるぞ。残りの2人もまだ生きてるじゃないか」

全員まだ戦っているのだ。当然のごとく先ほどまで見ていた光景との違いに、紫乃の顔には戸惑いが浮かんだ。切江は仲間たちがまだ戦っている様子をよく見ながら口を開いた。

「【幻惑の粉】か。ということはビルを破壊した時に吸い込んだ煙か」

気づくのが早い。だがどうせ気づくなら、もっと徹底するべきだった。そんなにガチャアイテムを手札として使うわけがない。そう思い込まずに徹底的に煙を吸い込まなければよかった。それができなかった。

俺を舐めすぎたのだ。

「は? え? あの時の煙ですの?」

俺の声が聞こえたはずのシャルティーが、普通に驚いていた。

「シャルティー。ところでさっきの『六条祐太という名前は、素敵なお名前ですわ』って言葉さ。なんだか少しおかしくなかった?」

切江は引っかかっているようだ。そりゃあの状況で、その言葉はおかしい。切江がシャルティーの異常に完全に気づく前に、できる限り早くしなきゃいけない。

《六条。敵の私に声をかけるとはなんのつもりですか?》

【媚薬】は人の考えそのものに変更を加えているわけではない。あくまでも俺の言葉をこの上なく心地よく感じ、俺からされることを幸せだと感じる。俺が行動するたびにシャルティーが喜ぶように、脳みそにそういう物質を届ける。

そういう効果の薬なのだと聞いた。

《その、こんなことを急に言ったら驚かれるかもしれないが》

そしてその行動はシャルティーに対して、好意的なものであるほど効果が大きいらしい。

『【媚薬】は使用した1日目が一番重要にゃ。多分このクエストで使わざるを得なくなると思うにゃけど。中途半端なことをすると返ってヤンデレになったり面倒にゃ。ちゃんとしっかり効果のあるその1日に相手に教え込むにゃ』

黒桜の言葉である。結局本当に使った。たとえ黒桜に言われてなくても使った。それぐらいこちらの戦力が足りてない。味方を増やせるのなら、増やすしかない。

《どうしましたの?》

【意思疎通】の伝達は口の会話よりもはるかに早くやり取りができる。口でなら10分喋っているようなことが【意思疎通】なら瞬時に終わる。特に【意思疎通】のレベルが上がっていると、そのやり取りの効率は凄まじく良い。

切江が気づく前に終わらせる。

《言いにくいんだけど、どうしても伝えたいことがあるんだ。シャルティーは敵なのにこんな言葉を言えばバカだって思われるかもしれない》

《ま、まあ、敵なのにですか?》

シャルティーがかなりドキドキしているのがわかる。【意思疎通】は隠そうとしない限り、相手の心理状況まで伝えてくる。

《俺》

《お、俺?》

《シャルティーがあんまりにも綺麗だから、一目惚れしてしまったみたいなんだ》

自分でも戦いの最中に敵に言う言葉でないことだけは間違いないと思った。

《ま、まあ、それは本当に?》

俺の言葉を幸せに感じる。【媚薬】を使われた方は、【媚薬】を使われたことに気づかないまま相手に夢中になっていく。もともと悪く思っていない相手ならば、その効果はより絶大なのだという。

そしてシャルティーは元から俺の顔をかなり気に入ってるようだった。

《ごめん。敵なのにこんなこと言って、バカな男だと笑ってくれていい。でもシャルティーの顔を見てると我慢できなかったんだ。どうしても俺はシャルティーが好きなんだ》

《ま、まあ、いいのですよ。それで六条はどこにいますの? 私に惚れたのなら、こんな戦いはやめてこちらに来てくださるのですね? ふふ、お姉さんが全部教えてあげますからね。ずっと一緒にいましょう。ああ、もう、お家に帰るまで我慢できるかしら》

《それは嫌だ》

《え? ど、どうしてですの?》

俺に嫌だと言われて胸が締め付けられるほど悲しい気持ちになる。【意思疎通】から伝わってくる感情が、そう教えてくれた。【媚薬】。恐ろしいまでの効果だ。正直これが自分に使われたらと思うと怖い。

《俺は意味もなく人を殺したりする人間が嫌いだ。だからさっきの紫乃の行動が許せないんだ。シャルティーお姉さんは好きだけど、紫乃は嫌いだ。俺はそっちに行って紫乃に触られると思うだけでも寒気がするんだ》

《それは……》

《シャルティーお姉さん》

《なんですか?》

《紫乃を今この場で“殺してくれないか”?》

《まあ、いけない子! そんなことできません!》

《どうして?》

《だって紫乃とはずっとダンジョンの中で、一緒に苦労してきた仲間なのです。私が生きてるのは紫乃が何度も助けてくれたから、絶対に私は切江と紫乃だけは裏切れませんわ》

普通の人なら簡単に殺す。でも、仲間になると殺せない。戦争の時にもよく言われていたことだ。引き金を引くだけで殺せる“一般人”を殺せる軍人も、自分の家族は殺せない。人とはそういうものなのだ。

その“人としての常識”にシャルティーは逆らえないという。なかなか笑わせてくれる事実だ、

《俺の言うことでも嫌?》

《嫌……》

特に悪いことをしているとは思わなかった。こいつらは特に関係のない相手ならいくらでも殺す。こいつらを相手に普通なら非道だと思えるようなことをしても、それ以上にこいつらをさっさと一人もいないように根絶やしにする。

そっちの方がはるかに大事だと思った。可哀想だとか思うなら、さっき死んだ人たちの方がはるかに可哀想だ。

《紫乃が大事なんだね。分かった。じゃあもう二度と連絡はしない。俺はこのまま逃げるけど、シャルティーお姉さんのことはずっと好きなままだから。でもごめん。もう二度と会えない。紫乃が怖いからシャルティーお姉さんには近づけないんだ》

《ま、待って!》

【意思疎通】からシャルティーの強烈な迷いが伝わってくる。しかし、時間はそれほどかからなかった。紫乃への仲間意識が憎しみに変わっていく。紫乃のせいで俺と仲良くできない。それどころか紫乃のせいでもう二度と会えない。

もっと俺の言葉を聞きたい。その心から逃れられない。ダンジョンアイテムの効果とは人間の忍耐力のはるか先にある。【奈落の花】で俺が迷わず死のうとしたのと同じだ。条件が揃わないものはそれに逆らえないのだ。

《そうですわね。紫乃は悪い子ですわ。殺さないと》

はっきりと紫乃に向かっていく憎しみが強烈に伝わってきた。

《ありがとう》

奇妙に胸がチクリと痛む。こいつらはどう考えても悪人だ。一刻も早く全員殺さなければいけない。そうじゃなければどんどんと人が死ぬだけだ。武官から責任は俺に移ってる。投げ出す気がないのなら迷わない。

自分の頭で思いつく限りの最大効率でこいつらを全滅させる。

《でも俺、シャルティーお姉さんが傷つく姿を見たくないんだ。紫乃はそのまま仲間の顔をして近づいて、不意打ちで殺してほしい》

《ああ、六条。私の身を案じてくださるのね。分かりましたわ。紫乃をそうやって殺します》

これで紫乃が死んだら切江と2対1。さっさと終わらせよう。効率的ではあるが、胸糞悪いと思っている。正々堂々とできない俺の弱さ。一番効率的だと思ってこれをやるやつはどれぐらいいるんだろう。

俺だけなのかもな。

「切江。だってあんなに顔のいい男ですよ。名前だって響きがいいものじゃないですか。六条。どうですか? いいと思いませんこと?」

【意思疎通】中に加速していた思考が元に戻る。シャルティーは俺には10分ぐらい経ってるんじゃないかと思える後になって、切江に言葉を返した。

「あまり思わないけど……」

シャルティーは俺の言葉を聞くだけで幸せな気分になる。だからもっとお近づきになりたい。そう思うだけで他の部分が正常なまま。だから【媚薬】を使用されたシャルティーは、そのことに気づかないまま俺を好きになる。

「シャルティー。切江。それより【幻惑の粉】を使った六条はどこにいるんだよ。まさかこれをしておいて逃げただけか? 正直私たちの誰か1人殺されてるぐらいはあってしかるべきだろう」

紫乃が当然のことを口にした。

「シャルティー。六条に攻撃されたんだよね? だから俺たちを吹き飛ばしたってことでいいんだろう? なのに六条がいない。正直意味が分からないんだけど」

切江が納得いっていないようだった。

「それが分からないのですわ。私は六条から攻撃を受けてすぐに目が覚めて、お二人にとにかくそれを知らせた。でも幻と現実の差に戸惑っている間に、六条がどこに行ったか分からなくなってしまいました。彼は何をしたいのでしょうね。私たちは誰一人傷ついてないというのに」

「嫌な感じだな。相手の行動が理解できないのはかなり良くない。紫乃、シャルティー。最大限に警戒してね。特に紫乃。無駄にあちこち壊さないでよ」

「分かってる。もうしないよ」

「彼はとにかくガチャアイテムを異常なほど所有しているみたいだ。ブロンズガチャには【媚薬】とか他にもまずいものがたくさんある。そういうのも持ってるかもしれない。姿を隠すアイテムも確かあったよね」

「【異界世界】だろ。あれは特定の人間にしか出ないって話だ」

「それも持ってるのかも……。あまり長時間は使えないという話だ。警戒だけは怠らないように」

「ところで紫乃」

シャルティーは紫乃のすぐそばまで近づいた。切江は何かを奇妙だと感じながら、その確信に至れないようだ。それほどにシャルティーの様子はいつも通りで、疑うにはあまりにも自然だった。

【媚薬】という物を知っていても、使われている人間を見たことがあったとしても、使われたとは誰も気づかない。そして使った人間は、使ったことを誰にも言わない。

そうなると【媚薬】の詳細は、自分が所持して使ってみるしか知ることができない。

「あん?」

「?」

ごく自然の動きだった。

【バジリスク】

それを使われてもまだ紫乃は敵かと思って、シャルティーに警戒心を向けず、おそらく俺が出てくるのではと警戒した。そしてきっといつもと違う動きをした【バジリスク】はゆっくりと紫乃に近づく。

「何をしてるんだいシャルティー? まるで紫乃を攻撃しようとしてるように見えるよ」

それでも何か奇妙に思い続けていたのだろう。切江がシャルティーの動きに注意した。念のためというように素早く紫乃の前に立った。

「おい、なんだよ。切江。邪魔だぞ。シャルティーが私に攻撃するわけないだろ」

「どうかな。何かがおかしい。シャルティー。【バジリスク】は何のために出した?」

いつでも対応できるようにと切江がレイピアに力を込めて言ってる。

「おい、やめろ。切江。仲間同士でやり合ってる場合かよ。そもそもシャルティーが敵に操られているなら、私達はさっき【バジリスク】で吹き飛ばされた時に攻撃されてるだろう。まああれぐらい避けれたけどな。でも切江だってシャルティーのすることだから、避けなかったんだろう」

なるほどあれでもまだ避けれたのか。

「本当ですわ。そんなことするわけないでしょう。切江。私がこれを出したのは六条がまだいるからですわ」

俺は動いた。自分の存在を表に出した。【自然化】を解き、紫乃を殺すために、

【炎死鳥!】

叫ぶ。炎の鳥が紫乃目掛けて飛びかかる、紫乃は受け止めるために斧を構える。若干の不意打ちになってダメージは通りそうだった。しかし、先ほどから警戒心が全く解けなかった切江が俺の放った【炎死鳥】が届く寸前で叩き斬る。

「六条。そのまま隠れて逃げれば良かったのに、どうして向かってきた?」

突然のことに切江は俺の方を最大限に警戒してしまった。今、切江の心の中には俺のブロンズアイテムに対する警戒心がMAXなのだ。不意を突かれるわけにはいかないと思ってしまったのだろう。

そして、

「え?」

自分の状況に納得がいかないというように、紫乃は牙を突き立てられた腹を見た。【バジリスク】が紫乃に噛み付いた。しっかりと胴体を貫くほどの牙で歯を立てていた。

「嘘。シャルティーが私を攻撃するわけ……」

よほど強い猛毒なのか、紫乃の体が紫色に変色していき、地面に倒れる。ピクリとも動かなくなった。おそらく死んだのだろう。

「紫乃!? シャルティー! なぜ!? いや、六条祐太に何かされた? シャルティーが俺たちを裏切るわけがない。【媚薬】? こんなに分かりにくいのか?」

【媚薬】という以上、急に狂ったようになるのかと切江も思っただろう。でも違った。俺でもここまで分かりにくいとは思わなかった。切江は【幻惑の粉】にはすぐに気づいた。大抵のブロンズアイテムは見たことがあったのだろう。

でも、【媚薬】は見たことがあっても分からない。自覚症状のあるものが滅多にいないからだ。だから騙せた。

「失礼ですわよ切江、この私の六条への思いが薬のわけがないでしょう? 私は純粋に六条を愛してしまいましたの」

本人ですらこの調子なのだ。シャルティーが俺の元に来て寄り添ってくる。

「そんなわけない! こんな短時間でシャルティーが紫乃を裏切るわけない! 気づくんだ! 六条に薬を盛られてるんだ!」

「だから違いますって」

「じゃあ紫乃を自分の意思で殺したと?」

「そうですわ。紫乃が死んでくださらないと私、二度と六条とお話ししてもらえませんでしたの」

仲間を殺したというのにシャルティーはこの上なく幸せそうだった。切江の顔に余裕がなくなった。自分で切り落とした腕があれば、頭を掻きむしっていたことだろう。

「これで六条とお話ができますわ。ああ、紫乃。死んでくれてありがとう」

唇を合わせようとしてきたシャルティー。

「シャルティー。後にして少し待っててくれ」

「あん、もう待てませんわ」

そう言いながらも離れたシャルティー。

「や、やったな貴様!」

「まさか自分たちはまともな死に方ができるとでも?」

「六条。俺は君を勘違いしていた。もっと真面目な子なのかと思った。でも違うじゃないか。不真面目どころじゃない。こんなことが平気な顔でできるなんてね!」

「寝言は寝て言え。俺の自由を奪いに来て、人の自由も散々奪って、俺の仲間は全員殺してやろうと思ってるんだろうが! そんなことを他人にして自分たちが幸せなままだと思ってる方が頭がおかしいんだよ! お前もこの場で死ね! シャルティー。手伝ってくれるよな?」

「あん、もちろんですわ。切江。2人のために死んでくださいまし」

「……もうダメなんだねシャルティー」

切江が一筋の涙を流していた。それでもレイピアを構えた。だが、その姿が霞のように消えていく。それは現れた時と同じだった。

「待ってくれ! 六条だけは殺さないと気が済まない!」

切江が叫んだがその言葉を最後に姿が消えてしまった。

「なんだ?」

「ああ、引き上げちゃいましたわね。私もよく知らないのですけど、五層で発明された【異界渡り】という装置ですわ。私は外しましたが、足元に転がってるこの球体。裏切りが出るとすぐにこれも回収してしまうのですけどね。ほら消えた」

シャルティーの足元に転がっていた黒い球体が本当に霞のように消えた。

「これで五郎左衆は簡単に現れることも消えることもできますの」

「これが聞いていたやつか……」

五郎左衆は逃げ足が速い。追い詰めたと思ったら逃げてしまう。そのせいもあって余計に武官は彼らを追い詰め切ることができなかった。そう聞いていたが、なるほど確かにこれは使われたらその時点でどうしようもないと感じた。

「四層の発明品を三層の人間が使うことは極端に嫌われますの。それが五層ともなれば尚更です。またよっぽどの恥知らずじゃない限り、今まで五層の物なんて調べようともしなかったし、使おうともしなかったのです。でも、五郎左はむしろ五層の物を好んで使いますのよ。下品ですわよね」

「なるほど……」

当然それぐらい分かっていただろうに捜査資料に載ってなかったのは、プライドのせいかそれとも俺に教えるのが腹立たしかったか。まあ早く失敗してほしいんだもんな。

「六条。その……」

シャルティーにはまともな思考も残っている。だから自分が敵であり、本来なら受け入れられる立場ではないことも知ってる。だが、少なくともこれから24時間の間は俺の声を聞きたくて仕方ない状態になる。

それを許してもらえるかと上目遣いに見てきた。

「……」

俺は多分かなり戦闘でハイになっていたのだと思う。

間違いない。

これは……。

やらかした……。

もうちょっと他に方法はなかったのだろうか。いやこれが間違いなくベストだったと思う。しかし美鈴たちが帰ってくるのがどんどん怖くて仕方がなくなってくる。これはやばい。

俺の死因も仲間に殺されたなんてことにならないことを祈った。