軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九十五話 裏切り者

俺はさらに久兵衛と話し合うと、基本的に久兵衛とやり取りをして、暗号通信はこちら側のやり方に合わせてもらった。摩莉佳さんが予定通り五郎左衆との接触に成功していれば、タイミングを見て情報を流してもらう予定だ。

流す情報は、

『六条祐太個人に五郎左衆壊滅クエストが出された。それを受けて、六条は自分の仲間をどこかに逃がした』

というものだ。あまり米崎には褒められなかったが、俺はどうにも嫌な予感が拭いきれず、俺の方で五郎左衆の戦力分析が終わるまで、美鈴達は今回の件に関わらないようにと気を配った。

「ではな」

部屋から久兵衛が出て行くところだった。

「ああ、死なないようにな」

「分かっておる。それがしは死ねないのだ」

久兵衛としてはこのクエストが終わったら、いい加減覚悟を決めて猫寝様を嫁にするのだ。そこから他の女性に手を出す気はないようだが、そこは久兵衛の自由だ。結局のところ大八洲でも久兵衛のように純愛を貫く人間もいる。

そして土岐のようなタイプもいる。答えは自分で見つけるしかない。3人の心を見て、それぞれに全然違う生き方で、それでいて同じパーティーにいる。どちらの生き方が悪いなどとも思っておらず、問題は本人がどうしたいかだけ。

探索者とはそういうものなのだ。

「誰かの生き方を真似ても仕方がないか」

そうして俺たちはそれぞれ別々に外に出た。まず土岐とジャックが出て、その次に久兵衛が出て、最後が俺と玲香だった。

「玲香。本当ならお前も安全なところでいてほしかった」

「どう考えても、それは無理って博士に言われたでしょ」

「そうなんだよな……」

『君は自分の力を過信しすぎている。僕は君の考えならできる限り採用したいが、君とクミカ。その程度の戦力でどうにかなるようなものじゃない。せめて、玲香君は連れて行きなさい。あと、猫寝家の人間ともあまり離れて動かないように』

そう言われてしまった。久兵衛と土岐とジャックは、固まって動くと目立つので、離れた位置からついてくる。自分一人では動かない。結局そうすることになってしまった。

「なくなってる」

「そうだな」

部屋を出るといつの間にか、案内してくれた男の人が崩れた砂の塊はなくなっていた。俺たちが入った後、扉が消えて再び廊下だけになった。この空間を掃除している存在もいるらしい。俺はやはり不思議な気分になる。

半年と少し前までは、学校で虐めに悩む少年だった。それがこんな場所にいる。犯罪組織撲滅の指揮をとる虐められっ子。自分がやっていることが正しいのか正しくないのか、それすらも分からなくて悩んでるというのに。

《人生とは分からないものですね》

《全くだ》

クミカもゴブリン集落でのことを思い出していた。その時の俺たちが、こんな場所にいると予想できるはずもなかった。俺は容姿レベルを落として、ビルの中を歩く。あの部屋を利用した場合、出口は10箇所用意されている。

その10箇所のどこから出ても良くて、どの出口も1㎞以上離れている。本人の気分で自由に出る場所を調節でき、このビルから出る時に危険に巻き込まれることはまずない。

「念入りなことだよな」

たかが話をするだけで、さすがに大げさなのではと思えた。

「この後、五郎左衆の拠点に行くのよね?」

「ああ」

米崎の情報収集によって分かった地下カジノがある。五郎左衆のしのぎとして利用されているものらしい。五郎左衆の活動範囲のメインは四層と五層で、探索者だらけの三層やそれ以上では滅多に動かない。

そして三層で動く時はかなり計画的で、慎重に動く。

彼らの今までの行動で、一番問題になったのは桃源郷の三層にある仙桃園を襲ったことだ。シルバー級の探索者に死者が出たのもこの時で、五郎左衆は警戒厳重な仙桃園から見事に100個近い仙桃を盗んだのだ。

これが大問題になり、そして五郎左衆の名前を一気に有名にした。桃源郷の仙桃を盗むのは、命を盗んだのと同じぐらいの意味で、これには貴族も腹を立てている。とはいえ五郎左衆の拠点があるのは四層や五層である。

貴族にとってそんな場所に降りることは、体裁が良くないらしい。何よりもレベル200を相手に遅れを取ったシルバー級の探索者が愚かだということになった。大八洲国では弱者が強者に勝つと、弱者は褒められ強者は貶められる。

だからこの時、貴族は出なかった。それが悪い方に向いた。五郎左衆に人が集まるきっかけになってしまった。構成員が250人にもなって手がつけられなくなり、武官も翠聖様から任務を外された。

今、五郎左衆はかなり調子に乗っていた。

何よりも仙桃園は警戒厳重などというものではない。それを襲って五郎左衆側には不思議なことに一人の死者も出ていないそうだ。だがそのことで五郎左衆は、その背後関係も武官の捜査ではかなり注目されていた。

『仙桃を使って回復した可能性もあるけどね。それでも10人ぐらいは死ぬよ。それが被害を出さないなんて、おそらくかなり高い確率でバックに“貴族”がいるよ』

武官の間ではそんな噂が立っていた。米崎もそう思うようだ。武官の裏切りに貴族。どうなったらそんな面倒なクエストが俺に回ってくることになる。美鈴達はおそらく安全だと思うが、玲香はいる。自分が緊張しているのが分かる。

身の回りの誰も死なせず、探索者集団を壊滅させる。

なんとしてでも成功させなきゃいけない。

長い廊下を歩かされて、本体のオフィスビルからも距離が開いた。出口の光が見える。

「出口みたいよ」

玲香が口にした。

《祐太様》

《ああ》

その出口は日本でもスーパーなどで見られる両開きの透明な自動扉だった。その間に誰か倒れているように見えた。倒れているために自動扉が閉まらずに、つかえていた。

今、さらにドサッと鈍い音がして、上からラグビーボールのようなものが落ちてきた。

「誰?」

足がこちらを向いていて、誰かを特定するのが難しかった。それでも異常さに玲香も気づいたようだ。俺は胸騒ぎが強くなる。自然と玲香と手を繋いでいた。

「どうしたの? 夜まで我慢するって話でしょ?」

「バカ。玲香。俺から絶対離れるな。いいな」

「それは元からそのつもりだけど」

ゆっくりと慎重に出口に向かっていく。誰か倒れている。それが誰なのか気づく。思わず口内に苦いものが込み上げてくる。吐きそうだ。誰が倒れているのか。俺はそれを知っている。近づくほどに確信してくる。

頭がなかった。

ラグビーボールかと思ったものが頭だったようだ。

「ちょっとあれって?」

玲香もそれが誰なのか気づいたようだ。俺の手を握る力が強くなる。強い緊張感を覚えている。誰か倒れているのか、はっきりと理解した。俺は土岐とジャックに連絡を入れた。

《ジャック、土岐。こっちに来い》

《どうした?》

《何かあったの?》

自動扉は壊れているのか“死体”に向かって閉じたり開いたりしている。自動扉が開いた。俺はそれの前に立つ。出口は人通りの多い外と繋がっていて、周囲を見渡した。周囲の人々が騒然としている。叫び声を上げる女の人もいた。

《クミカ。周囲にいる全員の心を読め》「玲香! 死体を氷漬けにしろ!」

「え、ええ」

玲香の動揺が伝わってくる。こんな経験は初めてだろう。何よりも“今さっきまで話していた人間”の首と体が泣き別れているのだ。俺だってかなり心臓がバクバクいっていた。死んでる。まず間違いなく死んでる。

ご丁寧に頭を脳みそまでえぐられてる。玲香が一応氷漬けにしてくれたが、どう考えても復活は無理だ。どうしてだ。なぜ殺された。こいつは強いはずだ。それに絶対に生きなきゃいけない理由だってある。

その時、周囲の人間の心を次々と読んでいくクミカの思考が、俺の中にも流れ込んでくる。

《うわー。可哀想》

《えっぐ、あんな殺され方ってあるか?》

《見たくないもの見ちゃった》

《さっさと離れないと。これって探索者の》

《六条祐太と桐山玲香》

《久兵衛は死んだ》

《これで後何人だっけ?》

その言葉を考えているやつがいた。

《祐太様。見つけました! 祐太様の名前が頭に浮かんだ者がいます!》

出口にあったのは“久兵衛の死体”だった。首が鋭い刃物でおそらく一瞬にして斬られた。復活できないようにご丁寧に脳みそを抉り取られている。なぜ殺された。どう考えても久兵衛は簡単に殺されるほど弱くない。召喚獣は何をしていた。

警戒に当たるベゼルが……。

《いや、そうか。久兵衛は強いんじゃない。俺たちの中で一番弱い状態だったのは久兵衛だ》

心を読んでいたから分かる。いつもならアーニャを自分の護衛に立たせるが、俺が狼牙を殺したせいでアーニャは幾ら久兵衛の命令でも、従うことを嫌がった。

召喚獣は主に対して絶対服従だが、あまりに嫌がるとパフォーマンスが致命的なほど落ちる。それに俺との交渉で揉めたくなかったから、今回アーニャは俺の前では使わないことにしていた。

だが、この弱点をこんなに早い段階で突こうと思うと、もう裏切り者がいるとしか考えられなかった。俺はクミカが発見した犯人と思われるものを見た。それは女達だった。見たことはない。

《洗いざらい心を読め。相手はこっちが気づいたことに気づいてない。読み終わったら殺す》

《畏まりました》

「そうよ。ポーションで首をくっつけてすぐに再生させたら、生き返るわ!」

「いや、無理だよ。頭を見ろ」

「え? うわっ……」

久兵衛の頭の部分がえぐれていた。あれは再生できない。蘇生薬でもない限り無理だ。相手は再生できないようにちゃんと殺している。こういうことに手慣れたやつらなら、その辺の加減を間違えているとは思えなかった。

「玲香。一応氷漬けにしておいてくれ。生き返らせることができないか。米崎もだが、猫寝様に聞いてみるべきだろう」

猫寝様なら蘇生薬を持っている可能性がある。高レベル探索者でも、持っているものは少ないという話を聞くが、少なくとも死んだと確定するまで保存しておくことは大事だ。

「分かったわ」

玲香は久兵衛の体を氷漬けにした。そしてできるだけ頭も崩れないように氷漬けにする。すぐに俺の手を握ってくると震えていた。かなり怖がっているのが分かった。周囲の人間は俺たちが探索者だと気づいたのだろう。

遠巻きに見ていたのを急にやめて離れていく。探索者同士の戦いに巻き込まれたらどんなことになるのかよく分かっている人間の行動だ。しかしその逃げていく人間の首が次々と刎ね飛んでいく。

「危ないことには近づかない。こいつら学校で習わなかったのかなー」

俺は玲香が離れないようにだけ気を使った。何しろ完全にビビっている。次々に人間の首が地面に落ちていくのだ。怯えるなというのが無理だろう。

《側を離れるなよ。自分を守ることだけ考えろ》

《え、ええ、大丈夫よね?》

「弱い人間を殺すのって楽しいか?」

少なくとも殺すなら意味を持ちたい。

それぐらいの矜持は持てよ。

《人を殺すのって楽しいー》

そう考えていることが頭に流れ込んでくる。

そんなアホがこの世にいることに苛立った。

「別に。ちょっと歩く先にいたから邪魔だったんだ。運がない子たちだよね」

それは女だった。何か面白そうにこちらを見て、俺が気づいて近づいたのに逃げようとしていない。

《五郎左衆で間違いありませんが、久兵衛を殺したのはこの者ではありませんね》

同じように思考が流れてきたから、俺もそのことは分かった。

「久兵衛を殺したのは誰だ? お前は知ってるのか?」

「へえ、私じゃないって分かるんだ。心が読めるっていうのは本当なんだ」

随分と余裕そうだった。専用装備らしき剣を背中にさしている。女性にしてはずいぶんと大きな剣だった。玲香の震えが止まらない。こういうのが本当は苦手なのだろう。

《ごめんなさい。情けないわね。なんとか落ち着くから待って》

《いい。俺が全部決着をつける。ここで見ていろ》

「こんにちは六条。すごい男前だって聞いたから来たんだけど、思ったほどすごい男前じゃないじゃない。というかむしろダサ。何よその普通以下。チェンジしてくれない?」

《クミカ。こいつだけじゃないな。人数は特定できたか?》

集中できないので一旦クミカに心を読むのは任せた。

《周囲に8名。全員女性です。攻撃します》

「お前が六条で間違いなっ」

俺の瞳にクミカの力の流れを感じる。ボンッという鈍い音が響いた。思ったほど大きな音ではない。人の頭が爆発した音にしては小さいと思った。相手の女の頭が爆発していた。スイカが腐ると最終的に腐敗してガスで爆発する。

そして地面に赤い汁を飛ばしてとても臭い。過去に伊万里がスイカがあるのを忘れて、そんな痛ましい事故が起きた。それを思い出した。血糊が飛んできたのを避ける。玲香が避け損ねて、頭の破片をくらいそうになったので受け止めた。

汚いと思って地面に払った。そして何か抜かしていた女が地面に倒れていく。頭が綺麗に爆発してなくなっていた。

《クミカ。情報が取れなくなるぞ》

《必要な部分の心は読みました。裏切りの情報は持っていません。その他の情報も引き出しました。あと7名。全員殺します。いいですね?》

《まあそれならいいけど、一人でしなくても手伝うぞ》

《必要ありません。すぐに終わりますから。ただ、お手を煩わせて申し訳ないのですが、私が伝える方向へ目だけ向けてもらえるでしょうか?》

クミカからの【意思疎通】を受け取り、俺が視線を動かした。7人全員を捉える。向こうも俺に見られたことに気づいた。何か嫌な予感を感じ取ったのだろう。後ろを向いて逃げ出した。そこそこ綺麗な女たちだが、それ以上の感情はない。

やはりいくら綺麗でも、人間は心も大事だ。

腐ったスイカなんて好きになれるわけがない。

「待って! 私たちは関係ない!」

「そうか。殺せ」

ボンッと頭を爆発させた。

「お前いくらなんでも酷いだろ! 私たちは偶然通りかかった探索!」

瞬間残りの6人全員の頭が吹き飛んだ。胴体だけが残って倒れていく。俺の中にはこいつらの心の中がクミカを通してリアルタイムで入り出した。クミカも汚い心すぎて一人で見るのが嫌だったそうだ。