軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四十八話 買取商

「よう」

「……」

それは探索局の建物から出る前のことだ。待ち伏せするように、奴はいた。

「おい、ジャックだぞ」

「目を合わせるなよ。殺されるぞ」

「なんでいるの? いつも五層で豪遊してるんじゃないの?」

人で溢れていた探索局がそれでもジャックの周りだけ、誰も近づきたくないというようにぽっかりと空間ができている。そこにいたのは間違いなく俺たちを襲った殺人依頼請負人ジャックだった。

「何をしにきた?」

美火丸を首飾りから出そうとした。

「やめとけって。ここじゃそんなことすると俺様に殺される前に捕まるぞ」

ジャックは鬼神のスカジャン姿で肩をすくめた。

「祐太。その男の言う通りにゃ。【翠聖都】の中で争うのは禁止。翠聖兎神様がそう決めてるにゃよ。逆に向こうも何もできないにゃ」

黒桜が言ったのを聞いて美火丸を出すのをやめておいた。

「これからどこへ行くんだ? 案内してやろうか」

と、なぜかついてくるジャックに言われた。俺はさっさとその場を美鈴と伊万里とともに後にして、外に出る。米崎たちを呼ぶために日本に戻らなければならない。ゲートは本州にあると聞いたので、転移駅を探して周囲を見渡す。

絶対に案内される必要はなかった。探索局を出てすぐの看板に地図付きの案内が表示されていたのだ。日本よりも日本建築の多い風景。まるで京都にいる気分だ。

「うるさい。ついてくるな」

「お前のお仲間の命が尽きるまで後1日ぐらいしかないんだ。行きたい場所があるなら案内してやるってば」

「必要ない」

「探索局第二局前転移駅に向かうにゃ」

黒桜が言った。

「ちょっと黒桜」

俺の肩に乗っかっている黒桜に美鈴が怒った。

「どうせついてくるにゃ。それなら好きなようにさせればいいにゃ」

「猫の方がよっぽど話が分かるじゃねえか。転移駅ならこっちだ。ほら着いてこいよ」

そう言って探索局のある正面の道を歩いていった。100mも歩いていない右側に、小学校の運動場ぐらいの広場があり、中央には噴水。地面には砂利が敷き詰められ、提灯が並んでどこか幻想的だった。

【探索局第二局前転移駅】

と和風な門の門柱に掲げられていた。両側に食べ物屋の屋台が並んでいていい匂いが鼻腔をくすぐる。その奥には朱色の大きな建物があった。時刻は23時を過ぎていた。東京ですらこの時間帯になれば人通りは減るのに、人で溢れている。

「あれが転移駅だぜ」

「それはどうも案内してくれてありがとう。じゃあさようなら」

入ったらすぐにアナウンスする声も聞こえた。

【大変お待たせをしております。23時10分。今より1分後に門が開きます。通行希望のお客様は、停止線の手前でお待ちください】

【日本からの新規のお客様への連絡です。転移駅の利用にはお金が必要となります。ここでは日本の通貨『円』の使用ができません。『貨』の待ち合わせがない方は、最寄りのアイテム買取商へご相談ください】

「お、これってお前らのこと感知してるんだぜ。どうやってやってるんだろうな。ここで妙なことをするとこんなふうに一発でばれる。で、お前ら大八洲国の金持ってるの?」

ジャックにそう聞かれて伊万里たちを見る。当然のように首を振った。

「貸してやろうか?」

「いらん」

馴れ馴れしくするんじゃない。お前は俺たちにしてやられて、死ぬほどキレていただろう。俺は周りを見渡した。そうすると、

【買取商】

と暖簾が掲げられている時代劇に出てくる質屋みたいな店があった。俺たちはその建物の中へと入っていった。先客はいなかった。

「おや、お客様とは珍しいですな。ここ最近は暇で暇で仕方がなかったのですが、もう日本からのお客様が復活したのですね」

「お邪魔します」

「はいはい。優秀なお客様が来ていただいて本当に嬉しいですな」

人間の老人だった。首輪をしているからからくり族なのだろう。商売はほとんどからくり族がしているのか。まあこのからくり族を造っているのが、貴族ならば、貴族が商売をしているとも考えられるのか。

「すみません。買取をしてほしいんですが」

「もちろん構いませんよ」

「アイテムを売ってお金に変えたいんですけどいいですか?」

「もちろん構いませんよ」

老人はニコニコ笑って話しやすかった。俺はマジックバッグの中から、ドワーフ工房の利休さんに【火精霊の玉】と鑑定された赤い宝石を出した。光を当てたわけでもないのにほんのりと明るい。日本で売ると1億は下らない代物だ。

「おお、見事なものだ。【火精霊の 玉(ぎょく) 】ですな。形も良い。お客様。これは当然金カプセルのアイテムでございますね?」

「そうです」

「おお、金カプセルの品を売っていただけるとは嬉しいことです。今鑑定しますのでちょいとお待ちを」

老人がカウンター内に置いてある電子レンジのような機械に、【火精霊の玉】を入れた。そうすると電子レンジが動き出して魔法陣のようなものが上に浮かび上がる。10秒もしないうちにチンッという音がして終わったようだった。

「ほおほお、とても良いものですな。金カプセルの品に間違いない。となるとお値段は5000万貨でどうでしょう?」

「5000万……」

想像していたよりは高かった。利休さんの話では円と貨の価値の感覚は、日本とほとんど同じらしい。ということはダンジョンアイテムがここでは日本より安い。そしてストーンガチャから出てくる金カプセルのポーションと近づいてる。

日本では森神様のおかげで、ポーションの流通量が他のダンジョンアイテムよりも多い。そのためにポーションの価値は他のダンジョンアイテムよりは低い。そしてここでも同じくポーションは同じぐらいの値段らしい。

つまり通常の供給であればガチャのアイテムはこの値段に落ち着く代物とも言える。利休さんが黄輝鋼を3000万貨だと言っていた。ストーンガチャから出てくるアイテムの価値は1000万~5000万前後ぐらいか?

日本ではストーンガチャから出てきたものでも極端に高値になるものがある。それは日本のダンジョンアイテムの市場が未成熟だからと考えれば理解できる値段だ。

「あのもう一声無理ですか?」

そこまで一気に考えてさらに値上げ交渉をしてみた。

「むむ。では5500万貨でどうでしょう? これ以上となると少々難しいです」

元々相場を知っているわけではない。ただ日本よりは安くなるのが当たり前とも思える。どのみちお金はいるが……。

「急に500万も上げていいんですか?」

「もちろんですとも。お客様は良いお客様になってくれそうですから、ここは私が損をさせてもらいましょう」

この老人は日本側の体制が変わったことを知っているようだ。だからこのタイミングでここに来る新人探索者が、とても良いお客になるということも分かるようだ。

「OKです。じゃあそれでお願いします」

老人がほっと息をついたのが見えた。極度の緊張を感じていたのがわかる。最近金銭感覚が鈍ってる俺からすれば大した額ではない。だがこの老人からすれば、大金だったんだ。

「ではそちらのステータスにチャージさせてもらいます。アクセスするので名前と生年月日だけお知らせください。年号は日本の号でお願いします」

「六条祐太。平成**年1月16日生まれです」

「承りました。ではこれで振り込ませてもらいます。ステータスを開いてチャージの確認をお願いします。あ、ステータスを全て開く必要はありませんからね。振込金額を頭に思い浮かべてください。そうすれば出てきます」

「へえ。了解です」

探索者の中にはステータスを全て出してしまって、もめてしまうことがあるんだろうな。俺はそんなドジを踏まないように気をつけて、ステータスを開く。きちんとお金が5500万貨振り込まれたことを確認した。

【月城伯爵家日本探索者部門から5500万貨の振り込みがなされました】

と表示された。なるほどこの人は月城伯爵家で働いている人なのか。やっぱり商売には貴族が関わってるんだな。伯爵ってどれぐらいの偉さなのだろうか。中世の貴族制度とほとんど同じなんだろうか。

「うん。じゃあまた来ますね」

「お、お客様。お待ちを!」

あっさり出て行こうとしたら呼び止められた。無難に恥をかかずに終われたと思ったのに、何か忘れたかとヒヤッとする。

「私は絡繰操術第八式で生み出された宗治と呼ばれる月城伯爵家のものです。月城様に創られたものとして真っ当な商売をさせてもらっております。ここで商売をしていたのも、あなた方日本からのお客様が、お金に困ることがないようにとの月城様のご配慮によるものです。どうかそこを鑑みて今後もごひいきによろしくお願いします」

宗治さんが頭をしっかりと下げた。きっと優良な探索者と仲良くなれるだけでこの人達は相当儲かるのだ。それにしても本当に造られた存在なんだな。思いながら俺は「覚えておきます」と言葉を残した。

「よお」

そして俺たちが買取商から出てきてすぐにジャックがいた。

「なんだよ魔眼殺し。そんな顔して、調子が悪いのか?」

「なんのつもりだ。仲良くしようってわけじゃないんだろう」

俺は目に殺意を込めた。

「怖いねー。仲良くなんて勿論しねえよ。ただ久兵衛のおっさんに『後をつけろ』って言われたんだ。それならついでにお話でもしようかと思ってな」

「こっちに話すことはない」

「魔眼殺し。なあミカエラをどうやって殺したんだ? あの女はよ。俺が唯一狙って殺せないって思った女だ。同レベルなら誰にも負けねえ自信があった。それなのにミカエラだけは殺せなかったんだ」

「それを殺したやつが気になって仕方がないのか」

「そうだよ。たった半分のレベルでやってのけた。そんなふざけた話を聞いたら尚更だ。なあ、どうやって殺したか教えろよ。俺様の殺人キャリアに関わる重大事なんだよ」

鼻と耳にピアスをして額に殺の文字を書き込んだイカれた男。どうやら今まで見てきたどのタイプの人間とも違うらしい。

「お前の殺人キャリアなんて興味がないな」

【大変お待たせをしております。0時10分。今より1分後に門が開きます。通行希望のお客様は、停止線の手前でお待ちください】

アナウンスが流れる。そして別のアナウンスが頭の中に流れた。それはいつも聞く女性の声だった。

【転移駅の利用にはお金が必要となります。これより向かう先は本州・天岩戸下駅行きとなります。料金は15,240貨。引き落としを許可しますか?】

なんとも便利なものである。俺は頭の中で『許可する』と考えた。たったそれだけのことで、チャージされたお金から自動的に15,240貨が引き落とされた。

「祐太。聞こえた?」

「ああ、すごいな」

かなり便利なシステムだ。俺たちのような異界人にも理解しやすいシステムである。

「ねえ、黒桜はどうなるの?」

伊万里が気になるようで聞いた。

「大丈夫にゃよ。召喚獣でもお金の取り扱いはできるにゃ。さっきチャージされたお金から払っておいたにゃ」

先ほど買い取ってもらったことで得たお金は全員で山分けしている。エヴィーの分は黒桜に渡していた。