軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十四話 統合階層

「東京だね」

「うん」

下に降りて周囲を見渡す。そうすると、どう見ても周りの街並みが東京だった。高層ビルばかりが立ち並んだ地区。日本でも東京でしか存在しないような光景だ。思わずお上りさんのように見上げてしまう。

「ううん?」

しかし何かが違う。

奇妙な違和感が拭えない。というかあんなビルあったか? まるで中国で見たようなビルがある。といっても俺は中国に行ったことがないので映像で見たことがあるだけだ。あの特徴的な捻れたようなビルは、

「あれって上海タワーじゃないの? それに向こう側がなんだか砂っぽくない?」

「確かに……いやいや、それよりもいつも通り一旦上に戻らないと」

そう言葉にしながらも、どうしても気になってしまう。何しろ上海タワーの横には東京スカイツリーが建ち、そして三角形がいくつも合わさったようにできているもう一つのビルがあった。

たぶん、あれはニューヨークにあるワン・ワールド・トレード・センターである。

その三つの建物が並んでいる姿が、正直異様だった。どうしてその三つが並んでいるのだろうか? 意味もなく適当に混ざっているだけなら別にいいのだが、今まで何かしらダンジョンには意味があることが多かったはず。

しかし、いくら気になったとしてもここは危険地帯だ。

なにより、“かなり強めの気配”を感じる。

「祐太。こっちに気づいたやつがいる。こいつ、ちょっ、なんでこんなに速いの?」

探索網に引っかかったらしい敵に美鈴が焦った顔をした。

「戦いになる前にさっさと戻ろうか」

「そうね。一旦戻ってちゃんとクエストを確認しましょう」

俺たちは下の階層に降りた時はいつも一旦戻る。そしてクエストの確認をするのが決まり事だ。しかし確かに異常な速さで近づいてくる敵がいた。俺の全力よりまだ速い。面倒な敵がいる。

だがなぜかそれを 懐(・) か(・) し(・) い(・) と感じている。

どうしてだ?

気になりながらも六階層に戻った。リーンとラーイとクーモは敵が襲ってこないように見張りに着く。一番新人のクーモの巨体がやはり目立つ。10キロ先からでも見えるんじゃないかというぐらいでかい。

まるで10トン車みたいなデカさの蜘蛛だ。街中でクーモを出したら間違いなく誰もが即行で逃げ出すだろう。

「クーモ、お前やっぱり目立つな」

「本当ね。クーモ。あなたちっちゃくなったりはできないの?」

エヴィーがクーモとしばらく目を合わしていた。そうするとクーモの姿がまるで周りの景色と同化するようにスーッと消えていく。専用装備の【レッドアーマー】の機能だろうか?

クーモの姿がどこにも見当たらなくなった。とてつもない巨体でありながら、姿を完全に消すことができるらしい。

「ねえねえ祐太」

「何?」

「こんな巨大な蜘蛛が姿を消して隣にいたら、超怖くない?」

すぐにクーモは姿を現したが、美鈴の素直な感想だ。ダンジョンでこんなモンスターが出て来たら間違いなく大変苦労するだろう。しかし、クーモってこの図体で隠密が得意だったりするのだろうか? 恐ろしいヤツである。

「祐太。これなんか変じゃない?」

先に七階層のクエスト画面を開いたらしい伊万里が言ってきた。その言葉を聞いて俺もクエスト画面を開く。

「どこが?」

しかし変というわりには、いつもどおりのクエスト画面な気がする。

「いや、確かに変か。どうして エ(・) ヴ(・) ィ(・) ー(・) だ(・) け(・) な(・) ん(・) だ(・) ?」

「それもだけどさ。数もおかしいんだよ。下にスライドさせて」

伊万里に言われるままにクエスト画面を下にスライドさせた。そうすると空中に浮かんだ画面に触ることができて、スマホみたいに文字がスライドした。そして思わず二度見した。何か見間違えたかと思ったからだ。

「七階層、八階層、九階層……なんで十階層まであるんだ?」

その表示は今までと明らかに違った。本来ならクエスト画面に表示されるクエストは、七階層のクエストが表示されているだけのはず。しかし、七~十階層まで四個のクエストが表示されていたのだ。

七階層クエスト

クエスト:【秘】魔女 白蓮(びゃくれん) の悩みを解決せよ。

使用武器:刀剣類。自身の魔法とスキル。

クエスト条件:エヴィ・ノヴァ・ティンバーレイク一人で行うこと。

クエストレベル:55

成功報酬:ストーン級魔法【徹甲弾】

A判定で力、素早さ、防御、器用+30。

S判定で力、素早さ、防御、器用+60。

八階層クエスト

クエスト:高位アンデッド・リッチグレモンの秘法を入手せよ。

使用武器:刀剣類。自身の魔法とスキル。

クエスト条件:東堂伊万里一人で行うこと。

クエストレベル:69

成功報酬:ストーン級スキル【空間把握】

A判定で力、素早さ、防御、器用+30。

S判定で力、素早さ、防御、器用+60。

九階層クエスト

クエスト:【秘】魔眼病を治癒せよ。

使用武器:刀剣類。自身の魔法とスキル。

クエスト条件:六条祐太一人で行うこと。

ミカエラが死亡してもクエスト評価に変化なし。

クエストレベル:100

クエスト使用可能上級アイテム:サファイア級【天変の指輪】

ゴールド級 【奈落の花】

成功報酬:ブロンズ級スキル【煉獄斬】

HP、MP、SP、力、素早さ、防御、器用、魔力、知能+70

十階層クエスト

クエスト:統合階層最終ボス【ラスト】の討伐。

使用武器:刀剣類。自身の魔法とスキル。

クエスト条件:桐山美鈴一人で行うこと。

クエストレベル:100

成功報酬:ストーン級スキル【索敵糸】

A判定で力、素早さ、防御、器用+30。

S判定で力、素早さ、防御、器用+60。

【秘】統合階層に対するあらゆる事柄。

「「「「……」」」」

4人全員がその内容に言葉を失った。あまりといえばあまりな内容である。その内容は今までのクエストと違いすぎた。各階層のクエストに対する条件が、それぞれパーティーの中の一人でやれと言ってきている。

それなのに仲間がクエストを達成しても、俺にもクエスト報酬が入ると書いているように見えた。

「これは……それぞれのクエストを 全(・) 部(・) 一(・) 人(・) で(・) こ(・) な(・) せ(・) ってことだよな?」

「そうみたいね」

「ひょっとするとこれが十階層を超える前の最終試練ってことか?」

「ユウタだけクエスト報酬が【ブロンズ級スキル】になっている。おまけに魔眼病ってミカエラのことよね? ユウタがやっても、私達にもブロンズ級スキルが貰えるの? その上、9項目もステータスアップ? こんな条件で良いの?」

「ちょっ、よく見たら、なんで私が十階層なの!?」

「大丈夫ですよ、美鈴さん。報酬からして一番難しそうなのは間違いなく祐太です」

俺は一度読んでもう一度読み直した。美鈴のことも衝撃が強かったが、俺にとって一番衝撃が強かったのは、俺自身のクエストだ。ダンジョンは人間をクエスト対象にするのか?

「祐太。この四つのクエストって、全部が私たちそれぞれ個人に向けたものじゃないかな?」

伊万里が言った。そしてさらに伊万里は続けた。

「エヴィーさんは召喚士ジョブだからそれに近しい魔女のクエストが出てる。私は光の属性が強いから、アンデットのクエストが出てる。祐太は言うまでもなくミカエラとの因縁が深いよね」

「伊万里ちゃん、私は?」

「さあ、そもそもラストがどういうモンスターかもわからないし」

伊万里が首をかしげると美鈴が口を開いた。

「というかさ。なんで三階層のネームドがもう一度十階層のボスで出てくるの? ラストって三階層で出てきたあのおっかないゴブリンだよね? 正直今となっては楽勝じゃない……ないんだろうな……」

そんなこと説明されるまでもなく美鈴自身が一番分かっているようだった。

「そういえばあの時のラストもぜんぜん本気を出してなかったな」

「あ、あのさ。祐太」

「何?」

「そりゃミカエラほど強くないかもしれないけど、最終ボスって普通は一番強いんじゃないの?」

「普通じゃなくても一番強いんじゃないかな」

「そういうのって私がやる事じゃないよね?」

美鈴はこのクエスト内容にかなり不安を覚えたようだ。

「ミスズ。多分だけどミスズはあの時かなり判定が悪かったでしょ。C判定だったはずよ。言い換えてみれば、ラストのせいで、あなたはガチャ運の悪さに加えてステータスの悪さも抱えてしまうことになった。つまりミスズにとってラストは因縁の相手ね」

「むむ。ちゃんと“やられたらやり返せ”ってこと?」

「まあそういうことね。おそらくだけど報酬からして、S判定を取ろうと思った場合の難易度はそれぞれほとんど同じなんじゃないかしら。まあ桁違いなのが1つだけあるけど。魔眼病の“治癒”ね」

「祐太。やっぱりミカエラって相当強いの?」

美鈴が聞いてきた。

「多分、あいつは十二英傑になれる可能性があったんだと思うよ。俺、ネコになってミカエラと一緒に住んでいた時に、ミカエラの日記を盗み見たんだ。そこに『十二英傑の人から仲間に誘われた』みたいなことが書かれていたんだ」

本当に少し違えば天使ミカエラだったのかもしれない。よく考えたらフォーリンよりもミカエラの方が名前的には納得がいく。

「……強い。じゃなくて超強い?」

「うん。ダンジョンが出してきたこの条件だと、A判定もS判定もないから、レベル100まで上げることができる。それでも普通にやったら100%殺されて終わりだと思う。だからダンジョンは2つだけ上位アイテムの使用を許してくれた。それでもこれだけ桁違いの報酬だ。まず実行不可能だってダンジョンも分かってるんだよ」

「それでもあなたはやるんでしょ?」

エヴィーがこっちを真っ直ぐに青い瞳で見てきた。

「ああ、クエストで出なくったってやるつもりだった。それに治癒じゃない。殺すことになると思う。 治(・) し(・) て(・) や(・) る(・) なんて甘い相手じゃない。きっと一瞬でもそんな考えを起こした瞬間に殺される」

「だから殺すのね?」

「ああ、ミカエラはちゃんと俺が決着つけるよ」

「ユウタ。あなたが人殺しなら私も人殺し。心が痛いなら後で胸の中で泣かせてあげる」

エヴィーは俺を抱きしめてきた。エヴィーはいい女だ。本気で言ってくれる。

「……ありがとう。でも、自分でやったことは、自分でちゃんと背負うよ」

「……ユウタ」

エヴィーは寂しそうだった。だけど、ミカエラのことが少し理解できたから、殺した罪ぐらいは自分が背負ってあげたかった。

「しかしダンジョンも大盤振る舞いだね。クエスト難易度が違うのに私たちにまで報酬くれるなんてさ。祐太」

「うん?」

「これが手に入れば、私もずいぶん強くなれるんだから期待してるよ」

美鈴がおどけたように言う。

「ああ、期待していてくれ」

俺もおどけて返す。伊万里は何も言わなかった。そしてそれでいいと思った。続けて全く関係ないことを伊万里が口にした。

「祐太。悪いんだけど私ガチャを回したいから上に戻るね」

「OK。予定通り回しに行ってくれたらいいよ」

伊万里は五階層、六階層の攻略後に、パーティーで集まったコインを全て使ってガチャを回すはずだった。そして専用装備をなんとしてでも手に入れるのだ。六階層終了時点で伊万里がまずするべきことだ。

「でも、悪いんだけど俺はこれだけしかコインが……」

五階層ではまだ余裕があったからコインを集めることができた。しかし六階層では集めることができず、手元には15枚のコインしかなかった。これでも気を利かしてくれたクーモが拾ってきてくれたのだ。それを伊万里に渡した。

「十分だよ。ありがとう。あと、美鈴さん、よかったら一緒に来ませんか?」

「私?」

「はい。私、専用装備が三つ出ればいいって思っています。今回美鈴さんがかなり集めてくれたから、祐太の分を入れて、186枚あります。それで専用装備が三つ出たら、その後は美鈴さんとガチャを交代するっていうのはどうでしょう?」

「えっとね」

美鈴は俺を見てきた。一気にガチャを回した方が当たりが出る気がする。そう口にしたのは俺だから、美鈴はそのことを気にしているみたいだ。

「もちろん一気に回したいなら、余ったコインを持っていてくれてもいいですよ。でも、美鈴さん」

「は、はいな」

美鈴は伊万里のことがちょっと苦手みたいで緊張した返事だった。

「レベル50ぐらいまで、レベル上げを私が手伝った方がいいんじゃないですか? 多分この下って七~十階層までが全部統合されてるんだと思いますよ。最後の項目の下の統合階層って言葉から考えると、十階層のモンスターも出てくるってことじゃないんですか?」

「えっ、そうなの?」

「多分」

「ああ、だから、東京とニューヨークと上海の建物が三つあったのかな? いや、それだと四階層分だから、四つ目がないような」

「いえ、四つ目もあったわよ」

エヴィーが言う。

「どこに?」

「低くて分かりにくかったけど、ピラミッドがあったわ。かなり砂が舞い上がっていたでしょ。あれは向こう側に砂漠があるんだと思うわ。つまり、この下の階層は四つの都市が混在している。伊万里の言う通りの可能性は高いわ。見て、さっき降りたときに更新された“七階層のはずの地図”よ」

エヴィーが、スマホに示された地図を見せてきた。形は今までと同じ円ではあるのだが、面積の表示が変わっていた。

【3万1415平方km】

この面積を見ても前ならいまいちピンと来なかった。でも、今の知能が上がった頭ならすぐにどういうことか察しがついた。

「俺、ダンジョンには地球の地形もあるって話だから、地図関係のことはだいたい頭に入れていたんだけどさ。これ、九州と大体一緒ぐらいの面積だよ。それに逆算すると半径100キロになっている。今までは半径50キロだったのに倍になっているんだ。半径が倍になると、面積は四倍になる。つまり」

「統合階層ね。全部合わせて四階層分。だからご丁寧に四倍の面積になっているって事か」

美鈴が呟いた。

「幸い地図には海はないみたいよ」

「エヴィー、東京もニューヨークも上海も全部本来海はあるよね? エジプトは知らないけどさ」

「まあ、あくまでもダンジョンの中に創り出された世界だから、六階層と同じで実際とは違うってことでしょうね」

だが陸地ばかりだと言っても、九州ぐらいの面積があった。その中を探索系のクエストが二つあり、おまけにそれをどちらも一人で見つけなきゃいけないというのはかなりきついクエストだ。

「10階層のレベル限界は100よ」

「ああ、ここを超えられるかどうかが探索者にとっての分水嶺だ」

「十階層を超えることができた探索者は日本でもかなり優遇されるって話ですよね」

「つまり私たちも晴れて上級国民?」

美鈴が言ってきた。

「まあ実質そうなるね。まずレベル100を超えるとどれだけ重い罪を犯しても警察に捕まらなくなる。つまり法律に縛られることがなくなるって事だからね。まあその分、逸脱し過ぎたときは牢屋に入れられるなんて生ぬるい措置は取られない。殺るか殺られるかって話になる」

ミカエラがまさにそうである。そしてミカエラは今まで全て殺ってきたのだ。

「科学が素晴らしいほど発展してきているっていうのに、そういう面では時代は見事に逆行していってるわね。いえ、それを逆行と捉えるのは、私たちの価値観でしかないのでしょうけど」

これから行く階層に対する情報はかなり少ない。あったとしても本当かどうかの真意がほとんどわからない。そもそもたどり着く人が少ないし、ダンジョンからの意志もあって秘密主義が蔓延しているようだった。

俺たちはさらにS判定の条件などを話し合った。

「じゃあ行こうか」

俺が声をかけると3人とも立ち上がった。別々の道を行くことになる。どのメンバーも誰かに頼りきりだったものはついてこられなくなる。なみちゃん、れいちゃん、りんちゃんがレベル100以上を目指さなかったわけである。

いや、むしろ図々しくも、ミカエラに統合階層でも寄生し続けてレベル100になったわけか。それでもさすがに【寄生虫】などという称号をつけられてやる気がなくなったか。あの三人を思い出すとミカエラに対して冷静で居られなくなる。

俺は冷静になろうと頭を振った。ふと遠くにアラクネの姿が見えた。アウラとは少し見た目が違う。それでも「行ってくる」と呟いた。

美鈴と伊万里がガチャを回しにいき、俺はエヴィーと共に下へと降りた。

「ユウタ。当分、また会えないわ」

俺とエヴィーはまず、東京スカイツリーのゲート裏に隠れた。

「ああ、二ヶ月以内にはなんとか終わらせたいところだ」

統合階層の広さ的に、今までの階層の四倍は時間がかかる。二ヶ月で終わればまだ早い方だ。探索をちょっとでもミスすれば四ヶ月かかってもおかしくない。

「はあ、あなたは私と一緒じゃなくても全然平気そうね。私はそろそろいろいろ溜まってきているんだけど」

「残念だけど、そんな時間はない」

本当にそんな時間がなかった。どれだけエヴィーに求められても無理だ。俺は1分1秒でも早くレベル100に到達する必要があった。米崎が【奈落の花】を用意してくれるまでの七日間で、レベル100になる。それが最重要課題だ。

「そんなに時間がないの?」

「ごめん。余裕がないとは思ってる」

「まあそうよね。1分1秒でも早くレベル100にならないと、あなた殺されちゃうものね。それに、あなたがミカエラと接触するまでに、私がクエストを達成できたら、あなたのステータスアップに貢献できるのよね」

「それは無理しなくていい」

「自分が一番無理する癖に……ところでユウタ」

「うん?」

「ミカエラもだけど【奈落の花】なんて何処で手に入れるの?」

美鈴と伊万里はそのことを聞いてこなかった。世界で起きているあまりにも悲惨なことは日本では報道規制がかかる。だから【奈落の花】を知ろうと思うと、裏サイトに行かなければいけない。そしてそこに出ている【奈落の花】は、かなり強烈な花だった。

「米崎がなんとかしてくれるんだけど……やっぱりエヴィーは知っているのか?」

「ここ二年で起きた南米戦争や欧州紛争、果ては中華テロに使われて、毎回、何万人も殺したって曰く付きの代物よね。高レベル探索者がダンジョンからどうやってかは分からないけど持ち帰ってきて、あちこちに売り捌いたって」

「うん。30億らしいよ」

「お金はどうしたの?」

「米崎に一時的に借りるつもりだったけど、合成素材が余ったから、それを渡すつもりだ」

「ダメよ。お金は私が何とかするからガチャからしか出てこない貴重品は置いておきましょう」

「でも」

「いいの。それより、下手に【奈落の花】なんて使ったら共倒れよ」

「ああ、でも単純に考えて、ミカエラと俺が戦うって考えたら、それぐらいしないと戦いのレベルにすらならない」

レベル42の時、俺はミカエラに遊ばれていた。向こうはこれっぽっちも本気じゃなかった。そんな状態のミカエラですら俺はさんざんに翻弄された。それはレベル100でも変わらない。差は縮まってもダメージを与える程の攻撃手段がない。

「そんなものを使わなきゃ戦いにならない相手なんてね。まるでゴジラでも相手にするみたいだわ」

「エヴィー。俺のこともだけどそっちも十分気をつけてくれよ。レベル50なんかでこの階層をうろつくのは正直……」

俺は言葉が止まった。ミカエラのこともだがこの階層。

「どうしたの?」

エヴィーはこの辺の勘がやはり鈍いようだ。

「主、敵!」

後ろから黙ってついてきていたリーンが、急いでエヴィーと【人獣合体】をした。リーンの青い物体にエヴィーの体が包み込まれた。その状態でラーイに乗せられ、同時だった。棍棒の一撃が俺とエヴィーの間に飛んできた。

棍棒がスカイツリーの土台に叩きつけられる。スカイツリー全体が振動するほどの衝撃が走る。

俺たちはスカイツリーのゲートの裏にいた。その隙間を覗き込んだ影があった。二本の角と鋭い牙が伸びていた。棍棒を持っている。筋肉質で黒い肌。人型であり4mほどある。

「人間か……」

そして言葉を喋り、さらに棍棒を振るった。速く。力強い。その姿はまさに、

「【鬼】か!?」

【鬼】だった。普通に喋っている。防具らしきものを一切身に着けておらず、腰布を巻いているだけの鬼。異常に発達した筋肉から蒸気が立ちのぼり、周囲が揺らいでいた。ラーイと俺がそれぞれに散開する。

「ほお、降りてきたばかりにしては、すばしっこいな!!」

鬼の棍棒が向かってくる。こいつの速さ。こいつの気配。俺には覚えがある。さっき降りて来たばかりの時に急速に近づいてきていたやつだ。

「【縛糸】!」

鬼を糸が包み込む。しかし、まるでそんなものは存在しないようだった。棍棒が何一つ止まらない。あわてて【韋駄天】を唱えながら逃げる。鬼は東京スカイツリーの頑丈な鉄骨に棍棒が止められるかと思ったが、そのまま振り抜いてしまう。

「クーモ、頼むぞ!」

大きすぎて階段を降りられなかったクーモがエヴィーに召喚された。

「ユウタ。私も!」

「いい! エヴィーは行くんだ! 俺はこいつでさっそくレベル上げだ。エヴィーは俺のためにもクエスト頼んだよ」

「ああ、もう! 気をつけて、そいつ多分かなり下の階層のモンスターよ」

「ああ、分かっている。でも、こいつぐらい殺せないと話にならな!」

喋っていたら棍棒がふるわれた。

「女と睦言とは余裕だな」

「そうでもないよ」

「たまに現れるとても威勢のいい人間がいる。だが大抵は期待外れだ。お前はそうじゃないのか?」

「お前こそ、そんな大したものなのかよ?」

「言うじゃないか。覚えておけ。俺は十階層モンスター【鬼】。レベル150だ!」

俺が喋っている隙にもう一度放った【縛糸】が鬼の棍棒の一振りで簡単に破られる。そしてもう一振りに鬼のスキルが込められた。

「【轟衝】!」

棍棒を振った衝撃がこちらに飛んでくる。想像以上に速く飛んできたそれを俺はまともに受け止めてしまう。体がスカイツリーの地面に叩きつけられて大きくへこんだ。さらにその上から連打が叩き込まれる。

その度に俺の体がコンクリートにめり込んでいった。

この感覚。この容赦のなさ。力が違う。大きさも違う。速さが違う。でもわかる。こいつ、

「お前の相手は俺じゃないだろ!」

「クク! さあ“お前”では誰のことを言ってるのか分からんな!」

俺が【炎流惨】を唱え、【斬糸繰々】を重ねがける。鬼の棍棒とぶつかり合った。