軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十一話 Side美鈴 ドワーフ工房

「見つけるものは見つけられたね」

「ええ、でも、クエストを先に達成しておかないと」

「ユウタ。本当に無事ならいいのだけど」

祐太と連絡がつかないまま時間が過ぎた。不安はあったけど今は無事を信じて、私たちは探索を続けている。先に私とエヴィーとラーイで食品工場の屋内に七階層に降りるための階段を見つけることができた。

そして一時間前にドワーフ工房を伊万里ちゃんとリーンが見つけたと知らせがきている。私たちはラーイに乗ってその場所へと急行していた。

「結局一番危ないことを祐太に任せているよね」

それが私の心を悩ませる。ダンジョンに入り始めてから本当にちゃんと祐太の役に立っているのかとばかり考えてしまう。おんぶに抱っこは嫌だ。ちゃんと頼られる自分でいたい。

「仕方ないわ。私たちじゃ見つかったが最後、逃げることもできずに殺されるのがオチよ。役割分担してやれることをそれぞれに精一杯やる。とにかく、祐太が帰ってきた時にできるだけ早く下に降りられるようにだけはしておかないと」

「なんだか歯がゆいな」

「私もよ。それでも役割分担よ」

「うん。そうだね」

「それよりも気になるのはクエストね。ダンジョンの中にいない祐太じゃ流石にクエストクリアにはならないでしょ。ミスズはどうするべきだと思う?」

「えっと、言ってた10日は明日だよね。祐太は大丈夫だって私は信じてる。だからクエストが10日目以上にかかるようなものなら私たちのほうでクエストを始めかけてもいいんじゃないかな。せっかくここまで順調に来たんだもん。最高効率で進んだ方がいいと思う」

頼られる自分になるためにも、祐太を待つばかりの女になっちゃダメなんだ。

「まあミカエラのことを考えると七階層に早く降りられることの方が重要か」

伊万里ちゃんにも確認を取ると、七階層に降りるのが優先で、ミカエラからの退路を作る。そのことを優先しようという話になった。私も祐太はきっと約束の10日目に帰ってくると信じたいし、みんなそうだった。

ダンジョンに再現された山梨県。その地名でいうところの櫛形山をラーイが木も谷も無視して強引に走り抜けてゆく。やがて甲府盆地へと出ると県道110号線を跳び越えた。

普通のライオンなら女二人を乗せて、アスファルトの上なんて走ったら足を痛めるだろうが、ラーイは意にも介さない。

さらに団地へと突入して、ラーイが家の屋根を叩き潰すように跳び越えながら走った。そして団地を越えて田園風景が広がる地域でラーイが足を止める。

《主、ミスズ。ここだと思うがどうだ?》

「ここ?」

「ここは田んぼだよ。ラーイ。場所を間違えてないの?」

《だがミスズ。確かに指定されたポイントはここだぞ》

それは山に囲まれた土地で、目の前はどう見てもただの田んぼだった。少なくとも私の目には田んぼ以外は見えない。しかし、探索者用スマホの地図を確認すると、伊万里ちゃんに言われた場所は確かにここだ。

「どう見ても田んぼしかないわよね?」

5月の終りに差し掛かった頃。田植えが始まったのか、田んぼに水が張られている。六階層のダンジョンの中は見ていないところがいつの間にか更新されて、田植えの時期になるとちゃんと水を張っていたり、稲を植えてあったりする。

「こういうのってさ、モンスターが田植えしたりするのかな?」

「田植えをしているアラクネとか大蜘蛛はあまり考えたくないわね」

「今の冗談だよ?」

「わかってるわよ。この田んぼの中で指定ポイントは間違いないわね。イマリはどこ?」

私たちの履き物は田植えに適したものではなかったから、田んぼの中に入るのはいやだった。それでも迷っている暇はないから、言われた通り水を張った田んぼの中へと足を踏み入れる。そうすると景色が変わった。

「おお!?」

目の前に建物が急に現れる。

「何これ?」

その建物はかなり大きかった。見た目は和風建築だ。でも、どこか違う。屋根が普通見かける和風建築よりも反り返り、柱も太い。白壁にはトンカチのようなものが描かれて、普通の建物よりもゴテゴテして高くて煙突がついてる。

かなり変わった造りだ。少なくとも私はそれを日本で見たことがなかった。田んぼのぬかるみへと一歩踏み出した瞬間に現われた異物。地面はいつの間にか砂利を敷き詰められていて、まるで異空間の中に入り込んだようだった。

「これは……ダンジョンの外と中みたいに空間が違うのかしら?」

「分かんないけど、なんかおしゃれな建物だね。神社ってわけでもないし、アニメとかで見る和風ファンタジーって感じだな」

「イマリはよくこれを見つけられたわね」

「本当。こんな田んぼの真ん中なんて一目見ればわかるから通り過ぎちゃうよね。しかもぬかるみの中だから、よっぽどのことがない限り足を踏み入れないでしょ」

泥だらけになる場所に踏み入れない限り、この建物は見つからない。そして今までこんな奇妙な仕掛けは一度もなかった。外から見ているだけでは絶対に分からない場所なんて、見つけるのが難しすぎる。

「見つけたというより、偶然です」

噂をすればというが、和風ファンタジーな建物の中から伊万里ちゃんが現れた。リーンも後ろから、とことことついてきていた。

「偶然?」

私が聞いた。

「アラクネですよ。この辺を通り過ぎようとしたら急に襲いかかってきて、糸で足を縛られて断ち切る前に田んぼに投げ捨てられたんです。このままじゃ泥だらけになるなあと思っていたら、この建物の中ですよ」

「まったく迷惑なことだ。急に近くで戦いだすから何事かと思ったぞ。あいつらここには近づかないのにどうしたんだ?」

そしてそのさらに後ろから人間のようにも見える小さな存在が現れた。

「この人、えっともしかしてドワーフ?」

この世にダンジョンが現れ、不思議なものがこの世にはあるんだということも、もう世界中のみんなが分かっている。神様の存在だって信じる人が増えている。おかげで廃れかけていた宗教が、今はものすごく元気である。

十二神教なんて新興宗教の信者数が一億人を超えて増え続けてたりもする。でもファンタジーの住人がいるということを知っているのはきっと探索者だけなのだろう。何しろこうやって探索者をしている私たちですら、知らなかったんだ。

目の前の存在が居ることをしらなかったんだ。

中から伊万里ちゃんと共に現れたのは浅黄色の甚平を着ている見た感じ初老の男だ。背が低く、がっちりとした体格、耳が尖り、鼻が高い。

「親方。伊万里殿も良いが、こちらもめちゃくちゃ可愛いですね。特に一人すごいのがいますよ」

そしてさらに後ろにも誰かいる。同じく背が低くて若い成年……だと思う。初老の男ほどではないが、日本基準で言えば、結構立派な髭を蓄えて、がっしりとした体格をしていた。

「お前はそればっかだな。だからなかなか腕が上がらねえんだよ」

親方と言われた男はひげが濃くて、白髪だった。そしてものすごくいかつい顔をしている。その見た目は間違いなく“ドワーフ”だった。

「あの?」

「【ドワーフ工房】の親方、 行慶(ぎょうけい) さんです」

伊万里ちゃんが紹介してくれた。さすが和風ファンタジーな建物である。ドワーフの名前がお寺のお坊さんみたいだ。

「ここを仕切らせてもらっているものだ。親方と呼ばれることが多いから、そう呼びたきゃ、そう呼んでくれ」

「あ、ああ、初めまして親方さん。私は桐山美鈴です」

「私はエヴィー・ノヴァ・ティンバーレイクよ」

「こいつは 利久(りきゅう) だ」

「よろしくー」

すごくだらしない顔で若いドワーフ、利久さんがあいさつしてきた。

「まあ、こっちから来る奴も珍しい。上がれや。日本からだと分かっていると思うが靴は脱げよ」

「ささ、綺麗なお嬢さんたちどうぞ!」

親方がさっさと中へと入ってしまい。利久さんが工房の中へと上げてくれる。目がチラチラと伊万里ちゃんの巨乳に向いていて、伊万里ちゃんからは冷ややかな目を向けられている。

「あ、はい」

私は装備の履物を脱いで、上がらせてもらう。エヴィーは戸惑いながらも靴を脱いでいた。宿泊しているホテルでは靴を脱いでいるけど、人の家で、靴を脱ぐのはきっと初めてなんだろうなと思った。

「まあ座れよ。応対はワシがするわけじゃないがね。利久。女の胸ばっかり見てねえでしっかりやれよ」

「へ、へい! 任せてください!」

最近は日本の家でもめったに見かけないほどの立派な床の間まである部屋へと通される。利休さんから座布団を勧められて座ると、少しお待ちくださいと言われた。

「なんだか、すごく変わった家ね」

そこかしこに見本となるものだろうか? 剣や防具類が飾られ、その一つ一つが私の身に着けている装備よりも高価な物のようだった。二本の尻尾があるネコがちょろちょろと入ってくる。可愛いというよりでかくて、全長1mはある。

ネコがやっているのだろうか? ぷかぷかと和菓子とお茶を乗せたお盆が浮かんでいて、それが座敷机の上に宙に浮いて並べられた。

《ごゆっくり》

大きな化け猫がゆっくりと座敷から出ていく。奥からはがやがやと鍛冶をしている音が聞こえてきて、鳴り響くトンカチの音が騒々しかった。たまに親方の怒鳴り声が聞こえてビクッとなる。職人って感じだなー。

「イマリ、ミスズ。私、ようやく日本に来たんだって感じがするわ」

「これが日本だって言われたら違う気もしますけど」

「エヴィー。日本で和の体験をする時間なんてなかったしね」

出された緑茶を飲む。和菓子までつけてくれている。ダンジョンの中で、こんなにゆっくりできる場所があるとは思わなかった。私が黒文字を使って和菓子を食べていると、エヴィーが見よう見まねで戸惑いながら食べているのが可愛かった。

「にがっ。緑茶は苦手だわ」

「はは、まあアメリカのコーヒーみたいなもんだから」

「コーヒーはブラックで飲むけど、これは別でしょ」

「2人ともくつろぎ過ぎだと思います」

祐太の安否が気になって仕方のない伊万里ちゃんが、出された和菓子に手を付けることもなくこちらを睨んでくる。あれから一度として祐太からの連絡はなかった。信じて待つしかないというのはなかなか辛い。

もしこうやって必死に探索していても、祐太が死んでしまっていたら、すべて無駄になってしまう。

伊万里ちゃんは祐太がいなくなったら、あとを追って死のうと思っているし、正直、私だって祐太がいなくなったら自分の中でポッキリと何かが折れてしまう。エヴィーも多分そうだ。良くも悪くもこのパーティーは祐太が中心なのだ。

「うん。そうね。ごめんなさい」

エヴィーがお茶菓子に手をつけるのをやめた。

「『食べるな』とまで言ってないですよ。ただ……」

伊万里ちゃんは祐太のことが気になって気が立っている。それだけなのだ。

「いいのよ。それよりイマリ、偶然ここを見つけたと言っていたわね。オヤカタの言葉を聞く限り、本来アラクネはここで戦闘しないはずなのに、ここに来たみたいな感じだったの?」

「はい。なんだか私をここに放り込んだらすぐにいなくなりました」

「……ねえ、イマリ。ユウタが残していた言葉を覚えている?」

「もちろん。『アラクネが力をくれた』とか言ってましたよね? そうなるとあのアラクネがわざと私をここに飛ばした?」

「そんなことってあるの? モンスターが人間に協力するなんて。というか私たちなんて途中で一体アラクネを殺しちゃってるよ。めっちゃ苦戦したけどね」

「私も三体ほど殺していますね」

「へえ、アラクネを倒すとか凄いですね。でも、アラクネならありえますよ」

と若いドワーフの利久さんが、再び現れて言ってきた。座敷机を挟んで私たちの前に座った。何か知っているようだった。

「アラクネなら?」

エヴィーが聞いた。

「まあ女に協力することは滅多にないはずなんですけど、アラクネは女しかいないモンスターです。だから繁殖するために気に入った男をハントするっていうのは有名ですよ」

「ゴブリンみたいな感じ?」

「ううん。あれとはかなり違いますね。アラクネはハントした男と両想いになることを強く望む傾向があり、ハントした男から好かれようと努力します。その献身ぶりは、笑いの種にもなるほどすごいそうですよ」

「笑いの種ね」

「ええ、だって、人種の女はそんなことしてくれませんから、皮肉った笑いになるんですよ。人種の彼女が嫌がってしてくれないことでも『アラクネならしてくれるのに』ってね。ですからアラクネに狙われるのは男の一つの夢ですね」

「変わったモンスター」

素直な私の感想だった。でも、なるほど。それで祐太か。あのスケコマシ。

「そうですか? モンスターにはそういう種族が多いですよ。ゆえに『神に嫌われた欠陥種族』とも言われます。アラクネなんて一生涯で一人の男しか好きにならないということでも有名な種族です。おかげでアラクネは男にいいように利用されてしまうパターンが多いんです」

「へえ。何処かの誰かさんが聞いたら耳が痛いかもね」

エヴィーはきっと伊万里ちゃんを安心させようと思ったんだろうけど、伊万里ちゃんの頬が膨らむ。それにしても利久さんの視線は不躾で、伊万里ちゃんがエヴィーの後ろに隠れた。利久さんが私の胸の方に視線を向けて明らかにがっくりした。

イラッとしたのは言うまでもない。

「祐太どうしてるんだろう」

「イマリ。焦りは禁物よ」

「わかってるけど」

「何か心配事でも?」

利久さんが聞いてくる。

「パーティメンバーに一人だけ男がいるのだけど、ちょっと別行動中なのよ」

「ああ」

利久さんが私たち一人一人を見ていく。明らかにがっかりした。ドワーフって人間の女でもいいんだろうか? かなり見た目が違うから美の基準も違うと思うのだけど、利久さんは伊万里ちゃんに魅力を感じているようだ。

「もう相手居るのか……そりゃいるよな。はあ、どこかに胸が大きくて可愛くて小柄な女の子いないかな。って、いやいや」

利久さんが頭を振って、こちらの顔を真面目に見てきた。

「さて、大体こちらとしては内容はわかっているんですが、伊万里殿から、あなたたちが来てから説明するようにと言われていたので一応説明しますね」

「ええ、お願いするわ」

「うちは【ドワーフ工房・行慶】。ダンジョンから依頼されて、この階層からお店を出させてもらってます。鍛冶全般なんでもござれ、ガチャから出てきた武器防具ならいくらでも取り扱います。あなたたちは、ストーン級の一般装備と専用装備の強化。そしてクエストの詳細について聞きたい。それで、よろしいでしょうか?」

利久さんは澱みなくしゃべった。そうすると不思議と仕事ができるように見えた。

「ええ、お察しの通りよ。先に確認だけど、あなたがするの?」

「はい。そうです。みんな残念がるんですけど、僕ですよ」

「いいえ、それだけの腕があるということなんでしょ?」

でもエヴィーは平気だ。さすが世界を股にかけてきたトップモデルである。不躾な視線には慣れているんだろう。

「安心してください、これでも鍛冶組合でブロンズ級の職人だって認定はもらっているので」

「そんなものがあるのね。もしかしてレベルもブロンズ級だったりするのかしら?」

エヴィーが聞いた。それにしても組合か。いよいよ地球とは違う別の世界があることが濃厚になってきた。

「おお、察しがいいですね。その通りです。僕はレベル165です。こういう場所で店を出す以上、それなりのもの以外は選ばれないんだって思っておいてください」

「なるほど。了解」

「では、まず、ここに来た探索者が必要とするものは装備強化ですよね?」

「できれば一刻も早くしてもらいたいのだけど可能かしら? 私たちは専用装備がガチャから1つしか出てないから何かここで売っている装備が購入できるのなら、一番それが良いのだけど。まあ連れの男は全部だけどね」

「全部? 購入に関して今は無理です。ダンジョンから六階層での販売は禁止されていますし、そもそもあなたたちはお金を持っていないでしょ」

「お金を? 円でよければ結構な額を持ってるわよ」

「残念ながら通貨単位は【貨】です。字は日本語の貨幣の貨です」

「両替は無理?」

「 今(・) は(・) 無(・) 理(・) です。それにこちらはすべて電子決済なので、流通している紙幣や貨幣もありません」

「そうなの? 思った以上に進んでいるのね」

こういう時はエヴィーが話す。祐太がいると祐太になるけど、何かとこの方が話が早いので、意見がない限り私たちは黙っている。それにしても座布団を勧められて正座しているわけなんだけど、日本人なのに慣れない。

エヴィーはよくあんなに綺麗に座っているなと思った。

「まあ、このことについては、あなたたちならおそらくそう遠くないうちに分かりますよ」

「私たちなら?」

「そうです。うちはここで店を出していますが六階層の入口から入ってくるのは、どのダンジョンにある入り口からでも幸運に恵まれないと無理になっているんです。つまりあなたたちはダンジョンに好かれている。おそらく一番好かれているのはお連れの男の人でしょう」

「どうして分かるの?」

「先ほど『全部』と言ったじゃないですか。専用装備を全部揃えるという幸運な男がいるってことですよね?」

「あなた ボ(・) ン(・) ク(・) ラ(・) ではないのね」

「美人に褒めてもらえるのは嬉しいですね」

利休さんは嫌味が通じないようだ。

「ともかく装備強化についてですが、まず、クエスト達成が最低条件です。それができないことには、そもそも装備強化に対する報酬があなたたちは払えない」

「リキュウの言うお金がどういうものなのか、まだよく理解できないけど、その報酬はガチャアイテムではダメなの? 金カプセルから出てきたアイテムとか、ここではなんの価値もないのかしら?」

「金カプセルを売る人なんていないでしょ?」

当然のことだが、利休さんは祐太のガチャ運5を知らない。専用装備を全部揃えることが出来る人間が居るとは気づいたみたいだけど、それがどれほどのものかは知らない。

「もしも売れるほどあると言ったらどうする?」

「それは……え?」

「……」

エヴィーが私たちを見てきた。見せていいかどうかを確認してきているんだろう。話を聞いている限り、この利久というドワーフは視線がエロいけどダンジョンからちゃんと選ばれた人物のようだ。最低限は信用していいだろうと思った。

私が頷いて伊万里ちゃんも頷いた。

「じゃあ、これを見てちょうだい」

エヴィーがマジックバッグから2個の合成素材を取り出し、机の上に並べた。

「これを売れないかしら?」

「売る? 金カプセルのアイテムを売る? たかだか六階層の人間が……」

利久さんはこちらに詮索する目を向けていた。

「あら、詮索?」

エヴィーが笑う。綺麗すぎて怖かった。

「はは、いや、やめときましょう。詮索は御法度ですね。職人はただ、注文された品物を最高の領域に仕上げる。それが仕事だ。そしてそれが僕のプライドだ」

「そうなの?」

「ええ、でも残念です。報酬が払えるなら、仕事をしたいところですが、これはエヴィー殿たちの物じゃなく、お連れの男の方の物ですよね?」

机の上に置かれているのは、綺麗な黄色い岩石、そして、真っ赤な宝石だった。

「それも分かるの?」

「素材っていうのは相性があります。この素材は、2つともエヴィー殿たちとは 関(・) 係(・) の(・) な(・) い(・) 素(・) 材(・) だ。宝玉が【火精霊の玉】。火はエヴィー殿も適性はあるが、召喚士に精霊系のアイテムは御法度です。鉱物は純度100%っていう天然じゃあり得ない【 黄輝鋼(こうきこう) 】というもので、こちらは土属性のない人間には相性が悪い」

「そう……」

エヴィーの顔に落胆が浮かぶ。祐太の合成素材としては明らかに過剰な数である。余ったもので、こちらの装備を強化出来ればとも望んでいたのだ。

それにしても利休さんは当たり前のようにこちらのことを見透かしていた。鍛冶士には鑑定持ちが多いのか?

「落ち込む必要はありません。【黄金花】は持っているでしょ?」

「あるわ」

そう言ってエヴィーはそれも三つ机の上に置いた。

「うん。変な傷も入ってないし、良品だ。エヴィー殿たちは腕が良いようだ。それぞれに強化したいものを選んでください」

そう言われて私は無銘の弓を、エヴィーは専用装備の【コーリエの召喚杖】を、伊万里ちゃんは金カプセルから合成素材が二つも出ている。これを無銘装備に使ってしまうのはもったいないので、次のガチャで専用装備が出ることを願ってお預けだった。

「では【火精霊の玉】のほうが貴重品なのでお返しします。そして【黄輝鋼】をお金に換えます。2600万貨でどうです?」

「相場を知らない私たちにそれを聞くの?」

「それもそうですね。ではお得意様になってくれることを願って、ちょいと色をつけて3000万で買い取りましょう。まあ相場観が分かりにくいでしょうが、あなたたちの日本とほとんど同じだそうですよ」

「なるほど3000万円か。残りはあなたのところで預かっておいてくれるのね?」

「承りましょう。大丈夫。すぐにまた会いますから。そして【黄金花】を使いこれを強化します。この代金が無銘で30万、専用装備が70万で、100万貨となります。3日掛かりますがこれを預かってもいいでしょうか?」

「私はOKだよ」

私の持っているものは無銘装備だ。預けたところで予備があるので問題なかった。

「私もレベル上げは終わっているから問題ないわよ」

「強化すればどんなふうになるの?」

私が聞いた。

「【黄金花】は魔力の塊のようなもので、これを使うと武器にしろ、防具にしろ、非常に強力な魔力を帯びるようになります。結果、【コーリエの召喚杖】なら召喚した召喚獣が強化される。ほぼ全てのステータスに+10がつくと思っておいてください。こちらの無銘の弓なら威力のみが+10です」

「無銘装備のバフがしょぼいのはやっぱり無銘だから?」

思わず聞いた。初期の頃なら大きいけど、一つのステータスの+10は今となっては無いよりはあるほうがいいよね。という程度のバフである。

「残念ながらそうです」

がっくりきた私はやっぱり早く虹カプセルを出す必要があるなと思った。

「では次ですが、僕というより、親方が探索者に対してクエストを出すようにダンジョンから依頼されています。そしてそれを僕が代理で出させてもらいます」

「了解」

「それでですが、六階層はあなた達の世界とそっくりに見えて実際は違います。そのためあなた達の世界では取れない鉱物もとれます。その中でグランド鋼という金属があるんですが、これを10トン用意してもらいたい」

「10トンも?」

「そうです。期間は3日です。その日までに用意することができればクエストクリアです。甘くしたところでダンジョンにバレるので、1分1秒でも時間が過ぎれば容赦なくクエスト失効となります」

「それはいいけどグランド鋼?」

エヴィーが聞いた。

「グランド鋼はそちらで言うところの鉄のようなものです。私達の世界では一般に使われる金属でかなり重宝しているんです。色は茶褐色でよく目立ちますから、見ればわかると思いますよ。それと、これは僕からのアドバイスですけど、この階層からは、あなたたちの技術の何を使っても本当に大丈夫です。ダンジョンの中なので、車の免許が必要なんてことも無いようです。トラックでも何でも使って、できるだけ早く達成できることを祈っています」

「グランド鋼が採掘できる場所とか教えてもらえたりする?」

「こちらからのヒントは先ほどのもの以外、何もないですね。これでもあなたたちは十分に恵まれていますから」

そう言われるとそうだろう。普通に探索をしていたら、ここにあるドワーフ工房を知らないまま下に降りちゃうのだから、クエスト自体ができないことになる。

「あ、でも、採掘した【グランド鋼】はちゃんとこちらのお金である【貨】で買い取りますよ。10トンで50万貨です」

「鉄の相場と同じか。ふうん……私たちはまだまだ知らないことだらけのようね」

エヴィーが立ち上がった。そしてスマホをとりだしたので、私と伊万里ちゃんもとりだした。やることはわかってる。探索者用のスマホで時間計測のスタートである。

「リキュウ。今からの計測で間違ってない?」

「この建物を出た瞬間からクエスト開始でお願いします」

「了解。じゃあ行きましょう」

3人で立ち上がってドワーフ工房を出る。そして3人で時間を合わせた。

「ねえエヴィー。私、探索の途中ですごく大きい茶褐色の塊を見つけた気がするんだよね」

「本当?」

「うん。多分場所は分かると思う」

話を聞いていて、私は幾つか思い当たるものがあった。私の探索網に引っかかった茶褐色の岩石を覚えていた。時間的に考えてさすがに鉄鉱石のように採掘しろというわけではないだろうから、あれで間違いないはずだ。

エヴィー達に話すと私とラーイでそれを確認しにいき、エヴィーと伊万里ちゃんは軽油が満杯に入った10トントラックを探しにいくことになった。エヴィーがトラックを運転して、伊万里ちゃんとリーンはトラックの護衛役をするそうだ。

エヴィーってトラックを運転するとかできるんだろうか?

というか、この階層から本当に地球の技術のすべてが開放なの? じゃあレベルアップ時のステータスへのマイナス判定もなくなるの? じゃあ戦車とか戦闘機とかもいいんだろうか? 山梨って自衛隊の基地とかあったか?

「まさか戦闘機でモンスター殺しても良かったりする?」

さすがにそんなことしている暇はないかと思いながらも、私はラーイに乗って走りだした。