作品タイトル不明
6-19
魔術院の人たちへの報告は平和に終わったけれど、両親へ報告した際は大騒ぎだった。
「ラスウェル侯爵家のご令息と婚約!?」
「メイベル、あなた一体何をしたの!? どうしたらそんなことになるの!?」
レナード様と婚約したいと伝えると、お父様もお母様も目を剥いて驚いていた。何度も私の妄想なんじゃないか、行き違いはないのかと確認されてしまった。
それでも今度レナード様が挨拶に来たいと言っていると伝えると、ようやく半分くらいは信じてくれたようだ。
「そうか、よくやったな。メイベル。ラスウェル家と縁が結べるのならうちとしても大歓迎だ」
「ラスウェル家のご令息を迎える準備をしないとね。食器を新しいものに買い替えなくちゃ」
お父様もお母様も、ご機嫌でそんなことを話しながら、早速準備をしに出て行ってしまった。
「メイベル、今の話どういうこと……?」
「お姉様」
振り返ると、呆然とした顔でこちらを見るお姉様がいた。お姉様はつかつかこちらへ歩いてくる。
「ラスウェル家のご令息と婚約ってどういうこと!? 一体そんな方とどうやって知り合ったのよ! 私はエイデン様と婚約解消してから、ほかの人とも全然縁談がまとまらないっていうのに!」
「ラネル魔術院でです。お姉様も会ったことがあるじゃないですか。ほら、随分前にお姉様とブラッド様がパートナーとして参加したパーティーで……」
そう答えると、お姉様の顔がみるみるうちに引きつっていった。
「あの時の……? え、まさか、あれがきっかけで……?」
「きっかけ……。そうかもしれません。それだけではありませんが、あのパーティーでレナード様が一緒にパーティーに参加してくれたときから、距離が近づいた気がします」
そういえば、レナード様と距離が近づいたのはあのパーティーがきっかけだったように思う。あの時、傷心の中レナード様に手を差し伸べてもらえて、なんて優しい方なのだろうと感動したのだ。
そう考えると、私はお姉様に感謝するべきなのかもしれない。
「よく考えたら、レナード様と婚約できたのはお姉様のおかげなのかもしれません。お姉様、ありがとうございます!」
感謝の気持ちを込めてお礼を言った。しかし、お姉様の顔はさらに引きつってしまった。
「……あんたなんか知らないわ! 見てなさい、今にあんたよりずっといい男捕まえてやるんだから!! あまり調子に乗らないことね!!」
「えっ? なんで……」
私は怒って立ち去っていくお姉様を戸惑いながら見送る。
お礼を言ったのにどうしてだろう。
困惑したけれど、いつものお姉様の気まぐれだろうと思い直した。
「レナード様が来てくれる日が楽しみだな」
そう呟いて、私は軽い足取りで自室に戻った。
色んな人たちへの報告も終わり、私は今日も元気にラネル魔術院に通っている。
私とレナード様の婚約の件は、あっという間に学校中に知れ渡ってしまったけれど、概ね好意的に受け入れられている。
もっと「あんな平凡な女ではレナード様に釣り合わない」とか、「伯爵令嬢ごときがラスウェル侯爵家のご令息と婚約するなんて」だとか、物語に出てくるような陰口を叩かれるかと思ったけれど、今のところそんな話は聞かない。
ちなみに、ブラッド様には教室まで来て一体どういうことなのかと詰め寄られてしまった。婚約の件を一から説明すると、何度か考え直すよう言われたけれど、首を横に振り続けていたらふらふらした足取りで去っていった。
ブラッド様にはもっとぴったりな方がいると思うので、私のことは早くすっぱり忘れてくれたらいいのにと思う。
多少騒ぎはあったものの、私は今日も平穏に、レナード様と妖精の生態調査なんかをしながら過ごしている。これも学園長先生からの依頼だ。
「メイベルさん、あれはラムビーだと思う? 図鑑に出てきたラムビーとは少し違うように見えるんだけど……」
「確かに、羽根の色がラムビーにしては薄すぎる気がしますね」
「一旦捕獲してみようか」
「そうですね、じっくり観察してみましょう!」
学園長先生に依頼された通り、魔術院のそばにある森でそこに生息している妖精を調べていく。
婚約者という間柄にはなったものの、レナード様との会話の内容は今まで通り呪文やら魔獣やら妖精やら、魔法に関することばかりだ。
結局、私たちは変わらないままなのかもしれない。そう思ったら、つい笑い声が漏れた。
「メイベルさん、どうかした?」
「いえ。楽しいなと思って」
私は心からの思いで答える。
ちょっと色気には欠けるかもしれないけれど、私にはこういう時間が一番幸せに思えるのだ。
「レナード様、これからもどうぞよろしくお願いします!」
そう言ったらレナード様は、こちらこそ、といつも通りの笑みで返してくれた。
私は幸せな気持ちに浸りながら、学園長先生の依頼を達成するべく再び妖精探しに戻るのだった。
終わり