軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第77話 幕間の交流②

「カミーユ。先日はご苦労様」

王国騎士団の中でも名が通っている一人、カミーユ。

所属は王宮を本拠点とする騎士団の王族の護衛を担当する部隊だが、その剣の腕前と少々特殊な背景を持っている事から、グザヴィエ殿下より婚約者のジュリエンヌ様の護衛を任されている。

その為、現在は王宮よりもファリエール公爵家のタウンハウスなど、ジュリエンヌ様のお傍に付いている事が殆どだ。

学園内では王族であるグザヴィエ殿下を除いては原則護衛や使用人を連れることが出来ないが、学園外でジュリエンヌ様とお会いする時や登校、帰宅時は毎回と言っていい程カミーユの姿を見る。

研究棟の件でカミーユが私の指示に従ってくれていたのも、優秀な護衛の存在が少しでも私の力になればというジュリエンヌ様の計らいあっての事だった。

「いいえ。ニコレット様こそ。……まあ」

片目に掛かる程度の長い前髪の下、優しい微笑みに翳りが生まれる。

「お一人で研究棟へ向かわれた時は気が気ではありませんでしたが……。ボクの頭と胴もついにお別れかと」

「そ、その節は本当に多大な心配と迷惑を」

「はっはっは、いやぁ、本当に」

遠い目をして引き攣った笑いを浮かべるカミーユには申し訳が立たない。

私が深く頭を下げれば、こほんという咳払いと「あたたた」と軽い声が聞こえる。

視線を挙げた先ではジュリエンヌ様がカミーユの耳たぶを抓んでいる。

「あなたはいつから侯爵令嬢に物申せるようになったのかしら」

「冗談じゃないですか。麗しい女性の困り顔を少々拝見したくなって、ああ、冗談です、扇子で頬を叩くのはお止めください」

「ごめんなさいね、ニコレット。不躾な騎士で」

「ああ、いえ……今に始まった事ではありませんし」

失言を重ねようとする騎士の様子に不満を抱いたジュリエンヌ様はじとりとカミーユを睨み、閉じた扇でその頬をぺちぺちと叩き始める。

(……騎士としては有能だし、仕事への向き合い方も含めて信頼は出来る相手なのだけれど……どうにも女性に対しては歯が浮くような言葉遣いが多いのよね)

研究棟で私を他の騎士から庇った時や、ヴィーから引継ぎを受けた時の頼りになる姿と今の姿の違いに私は苦笑してしまう。

「……ヴィクトルも、そんな顔しないで? これが何の意図もない言葉だというのは分かっているでしょう?」

「いつも通りですけど?」

「あら。貴方の唇はそんなに尖っていたかしら。もう少し綺麗なお顔だと思っていたのだけれど?」

「ああ、もう。今漸く機嫌が直ったところだったのに」

「その言い方は流石に赤ちゃんと同じ扱い過ぎません?」

ジュリエンヌ様の指摘にヴィーへ視線を戻した私は、彼がシャルル様と対峙している時と同じ顔をしている事に気付いて困り果ててしまう。

そんな私とヴィーを見ているジュリエンヌ様や、何故か彼の機嫌を損ねた張本人であるカミーユまでもが生温かい視線をこちらへ向けていた。

「しかしまあ、ボクはさておき。彼にお会いした直後だったのでしたらヴィクトル様の嫉妬心が大きくなっているのも仕方のない事ですね」

「ああ、確かあなたは在学の時期が被っていたわね」

「ええ、ギリギリ。三年上の先輩ですね」

「シャルル様が、何か?」

「まあ、結構有名な話ですよ」

かつて王立学園に通っていたというカミーユの言葉に合点がいっていないのは私だけのようだった。

ジュリエンヌ様は納得した様子で頷いているし、ヴィーもカミーユの言葉を否定する様子はない。

不思議に思った私が問えば、カミーユは困ったように肩を竦めた。

「学生時代の彼の素行はまあ、あまり褒められたものではなかったそうで。とくに有名だったのは異性を誑かして遊んでいるといった噂ですね」

「た、誑かして……?」

私は研究棟や先程のシャルル様の姿を想起する。

穏やかで誠実そうな、物腰の柔らかい青年……そんな印象を抱く彼は、カミーユの言葉とはどうしたって結びつかない。

しかしこの場で誰よりも情報通と思われるヴィーが『剣術バカ』を演じながらも疑問を呈さない所を鑑みるに、根も葉もない噂ではなさそうである。

(確かに、あの甘い顔立ちを放っておかない女性は多いでしょうけれど……)

軽薄でキザな言動を取るシャルル様を思い描いてみるも、あまりに自分の中の印象とかけ離れていてしっくりと来ない。

「そ、想像が出来ないわ……」

「ま、流石に今は落ち着いたみたいですしね」

「そもそも、それって今のあなたとそう変わらないんじゃあ」

「心外だなぁ。ボクは別枠でしょう、ボクは」

軽口を交わすジュリエンヌ様とカミーユの会話を聞き流し、またいつの間にか私にすり寄ってきているヴィーへ宥めるように寄り掛かりながら、私はシャルル様の姿を思い返して複雑な気持ちになる。

そこへ、軽やかな足音が近づく。

「ジュリおねえさま、ニコルおねえさま!」

「「……えっ」」

その愛らしい声に、私とジュリエンヌ様は同時に振り向く。

すると満面の笑みを浮かべた天使……いえ、クロエ様が私達の前へ飛び込んで来る所だった。

「く、クロエ……!?」

「どうしてこちらに」

ジュリエンヌ様は顔を輝かせながらクロエ様を抱き留める。

そんなお二人を見つめながら疑問を抱いた私だったが、その視界の端に別の人物が映る。

「最近、俺が王宮にいる事が多くて会えていなかったので、殿下の計らいで招いて頂いたみたいです」

金色の瞳と目が合う。

彼は困ったように笑いながら私達へ一礼するのだった。