軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第46話 別の目的の可能性

剣が交わる音が試合場に響き渡る。

ラガルドは相手生徒の剣を自分の剣で受ける。

その背後から雷が走るが、彼は相手の剣を弾くと振り向く事もなく半身でそれを避けた。

敢えて後退したラガルドへ振り下ろされる剣。

それは彼の刃に簡単に受け流され、相手が体勢を崩す。

その鳩尾に強い蹴りが繰り出され、相手は堪らず体をくの字に曲げた。

そしてその顔の前に、ラガルドの剣先が突き付けられる。

「そこまで!」

上がる歓声の中、ラガルドは退屈そうに溜息を吐いた。

「この程度か」

魔導具による結界のせいで、試合場内での怪我は起きない。

衝突の衝撃や一瞬の痛覚は働けど、剣や魔法等は全て相手の体に触れた瞬間にその威力を霧散させる。

お陰で試案参加者の肌に傷がつく事は一切なく、安心して剣術大会に臨めるという仕組みだ。

だが、だからこそ本当の実践とは程遠い生温さをラガルドは感じていた。

彼は舌打ちをすると対戦相手を気遣う様子も見せずにさっさと会場を後にするのだった。

***

ラガルドの試合を遠目に見ていたグザヴィエは小さく息を吐く。

「うん、やはりいたね」

そう呟く彼の背後には数名の来賓の姿がある。

彼らは皆隠し持っていたナイフをグザヴィエへ向けていた。

しかし彼らの動きはそこで止められている。

「……少しは危機感を持ってください」

彼らの足は凍らされていた。

足場に癒着したように固定された彼らは皆どこか虚ろな目のままグザヴィエを見つめており――その傍らではアンセルムが深い溜息を吐いていた。

「君が周囲の者に気遣い、目立たないよう配慮出来ている内は問題ないだろう?」

「全く」

グザヴィエは余裕そうな笑みを顔に浮かべ、アンセルムを横目で見る。

アンセルムは眼鏡を押し上げながら短く呟き、同じく周囲で刺客を捕らえようと構えていた護衛達に指示を出す。

アンセルムの察知能力と的確な支持のもと、刺客は来賓に扮していた護衛達によって手際よく捕らえられ、人目につくよりも先に闘技場の外へと連行された。

「今回は仮面舞踏会の時とは違う。あの時騒ぎを起こしたのだって、密会の証拠隠滅の為。今回の行事に乗じてラガルドが何か手を打つとすれば、それは密会ではなく私や王太子派の重鎮足り得る貴族達を消す事」

「だから、あの時のような大きな騒ぎは起きない、と。そうおっしゃっていましたね。しかし」

アンセルムは憂いるように目を細める。

「本当に、それだけでしょうか。ただ『夢の香霞』を使い、他者を操って暗殺する……。我々がそれを想定して動く事くらい、想像に容易いでしょうに」

「上手くいく時ほど不安になるのは仕方のない事だね。けれど、彼が他に何かを企んでいたとしても、現状持ち合わせている情報の中で私達が出来る最善の策はこのくらいだ」

他に何か企んでいる可能性を考え、グザヴィエや彼の味方である貴族の護衛を他へ回すわけにはいかない。

最も避けなければならないのは王太子であるグザヴィエが死亡する事なのだから。

そう頭では理解しているアンセルムだったが、彼の不安は拭えなかった。

***

剣術大会は最初の二日間が各学年のトーナメント戦。

トーナメント戦でそれぞれの学年の上位者を決め、三日目に各学年の上位者による総当たり戦で学園全体の上位を決める。

一日目が終わり、順調に勝ち進んだヴィクトルは試合後、人気のない校舎を歩いていた。

昨年の剣術大会中、グザヴィエがヴィクトルとアンセルムにはそれぞれ放課後の付き添いを断っていた。

そのような背景がある為に、今年も不自然さを出来るだけ薄めるという理由から、放課後の付き添いを断られたヴィクトルは空いた時間で校舎の見回りに出ていた。

(今日既に動きがあったとは聞いているが、ラガルド殿下の性格を考えればそれだけで終わらない可能性も充分ある。堅実さや遠回りよりも、多少強引であろうとも目先にある最も大きな利益を掴もうとする……そういう性格だ)

グザヴィエの命を狙っているラガルド自身から目を離す事は出来ない。

それを考えれば、ヴィクトルを剣術大会に参加させたグザヴィエの判断は正しいものだといえる。

実際、グザヴィエが認めた通り、ラガルドは優れた剣術を披露して一日目を勝ち進んでいるし、試合を覗き見たヴィクトルの目から見ても、彼が二日目まで勝ち残る可能性は十二分にあると思われた。

(だが正直、ラガルド殿下本人が何かしら行動に踏み切るとは思えない。大会に参加している以上、グザヴィエ殿下とは物理的な距離があるし、かといって彼との接触を試みた結果、試合の参加者であるラガルド殿下が観客席へ入れば、それだけで注目が集まる)

校舎の外廊下を突き進みながらヴィクトルは考えを巡らせる。

(……『被検体』、か)

ヴィクトルはラガルド本人が何か動くとは踏んでいない。

その上で、彼が刺客を送り込む以外に何か用意しているのだとすれば、それは……

「――最も人通りがなくなる校舎」

前方から声がした。

物思いに耽っていたせいで、近くに人がいることに気付くのが遅れた。

ヴィクトルは顔を上げる。

「隠れて何かをしたいなら、ここが最も都合が良い」

艶やかな黒髪が揺れた。

紫色の瞳を細めながら、彼女は不敵な笑みを浮かべていた。

「そうは思わない?」

「……ニコル」

名を呼ばれ、ニコレットは笑みを深めるのだった。