作品タイトル不明
第34話 プレゼント選び
最後の講義を終えた放課後。
ヴィクトル、グザヴィエ、アンセルムは廊下を歩く。
「セル、今日は先に帰るんだよね?」
「はい。ただ……」
生徒会室へ向かうヴィクトルとグザヴィエに続いて歩くアンセルムを見て不思議に思ったグザヴィエ。
彼の問いにアンセルムは頷きながら辺りを見回した。
「あ」
そして目当てのものを見つけたのか短く声を漏らした。
アンセルムの視線の先、同じく辺りを見回していたニコレットが近づいてくる。
「あ、ニコル――」
「アンセルム様」
ヴィーが目を輝かせて手を振ろうとするが、それより先にニコレットはアンセルムへ声を掛けた。
「ヴィーとグザヴィエ殿下も。先程ぶりです」
「え、お、おお……」
「どうも、ニコレット嬢」
「ニコレット嬢。お誘いに応じていただきありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ」
「ああ、なるほど。そういう事か」
「え、誘い!? 待てよ、聞いてないぞ!」
ニコレットとアンセルムの会話を聞いてグザヴィエは察したらしく納得したように頷く。
一方でヴィクトルは主にアンセルムへ食って掛かった。
しかしアンセルム本人は涼しい顔だ。
「お前がいない時に誘ったからな」
「な……っ! 浮気者ォッ!!」
(珍しい。セルがちょっと楽しんでいそうだな)
顔に出している訳ではないが、空気や声音からアンセルムがヴィクトルの反応を面白がっている事を感じたグザヴィエはその光景を微笑ましく見守っている。
ヴィクトルはアンセルムに異を唱えても何も状況が変わらない事を悟ると、今度はニコレットを抱き寄せ、頭を摺り寄せた。
「なぁニコル~……、それって、俺と出掛けるのじゃ駄目なのか?」
「駄目ではないけれど、意味合いは変わりそうね」
「何だよ意味合いは変わるって!」
デートとプレゼント選びでは意味合いは変わる……その通りなのだが、何とも思わせぶりな発言だという事に本人は気付いていなさそうである。
「ヴィー」
「んー?」
「ちょっと、くすぐったいわ」
駄々を捏ねているヴィクトルに捕まったままのニコレットはふと、先程生徒会室で彼に話そうと思っていた事を思い出す。
甘えるようにぐりぐりと顔を押し付けるヴィクトルに困りながらも彼女はそのままの姿勢で聞く。
「三週間後の休学日なんだけれど、空けられたりする?」
「っ! ……あっ」
拗ねていたヴィクトルが顔を輝かせるが、彼はすぐにハッと我に返り、グザヴィエを見た。
グザヴィエはヴィクトルの言わんとしている事を悟り、くすくすと笑う。
「いいよ。たまにはお休みも必要だろうからね」
「ありがとうございます!!」
「ちょっと、声が大きい」
「声が大きいなぁ」
「煩い」
ニコレットは機嫌が戻ったヴィクトルの腕から擦り抜けると少し嬉しそうにはにかんだ。
「それじゃあ、空けておいてね」
「お、おう……」
「じゃあ。お仕事頑張って。……グザヴィエ殿下も、失礼します」
「俺も、失礼します」
「うん、いってらっしゃい」
ヴィクトルとグザヴィエはニコレットとアンセルムに手を振って見送る。
二人の姿が遠ざかった頃、ちらりと横目でヴィクトルの顔を盗み見たグザヴィエは思わず小さく吹き出してしまった。
「っ、んっ」
「……なんですか」
「いや……嫉妬してるなと」
「……するでしょう! 何であいつなんですか! 俺が! 婚約者! なのにッ!!」
「っ、ふっ、はははっ! やめてくれ、あまり笑わさないでくれっ」
子供のように嫉妬心を剥き出しにするヴィクトルを見てグザヴィエは腹を抱える。
目尻に溜まった涙を指先で掬いながら、グザヴィエは溜息を吐く。
「全く……」
(毎日激務に付き合わせてしまっているからか、毎年自分の誕生日を忘れているんだよなぁ)
ニコレットが何の為に出掛けて行ったのかもわかっていなさそうなヴィクトルにグザヴィエは内心で呆れるのだった。
***
街へ繰り出した私とアンセルム様はそれぞれ異性の好みなどを聞きながら店を回っていた。
「同年代の女性ですらあまり詳しい方ではないのに、今度九歳の女性となると……余計に分からず」
「ああ、確かにそうですよね。私なんて……十年くらい一緒にいても未だに何が正しいのかわかりませんけれど」
今はアクセサリーショップの中を見て回っている最中だ。
そんな中、ヴィーの事を思い浮かべた私は思わず遠い目をしてしまう。
普段の『剣術バカ』としての彼の好みならば多く知っているけれど、それが彼の本当の好みとは限らないのだ。
特に最近、彼の色んな一面を見たからこそ、これまでよりも余計にプレゼント選びが難しく感じる。
「ニコレット嬢が選んだものなら、何でも喜ぶと思いますけどね、あいつは」
「……本当に相談に乗ろうと思ってくれていますか?」
「適当を言っている訳ではないのですが……」
一通り店内を見て回った私達は、一度他の店も回ってみようという話になり、外へ出る。
扉を開けて先を譲ってくださるアンセルム様に会釈をし、その脇を通り過ぎると、耳元で彼の声がした。
「ただ、そうですね。クロエのプレゼントを相談したいという思いも、ニコレット嬢の相談に乗るつもりも勿論あるのですが……お誘いした一番の目的は、気晴らしでしょうか」
「気晴らし?」
「はい」
振り返った先、アンセルム様が扉を閉める。
「最近は深刻な話ばかりでしたし、ニコレット嬢は特に周りに気を付けなければならない都合から気を張っていたでしょう。ヴィクトルと話せる機会も減っているでしょうし。ですから気が滅入ってしまうのではと」
「……気を遣ってくださったのですか?」
「そんな大層なものでは。ただのお節介ですね。クロエの件で、お世話にもなっていますし」
「それこそ、気にされる事ではありませんよ。私が仲良くしたくて仲良くしているのですから」
クロエ様とは初めてお会いした後も何度かお顔を合わせたり、文通をしたりしている。
今ではすっかり、お友達の一人と呼べる間柄だった。
(やはり、アンセルム様はお優しい方ね)
確かに、最近の私は気持ちが沈みがちだったかもしれない。
そうでなかったとしても、仮面舞踏会の一件から、日々頭は悩ませていた。
確かに一人で街を出掛けるよりも、誰かと話しながら歩いている方が、今の私にとっては気が楽だった。
「ありがとうございます、アンセルム様」
「いいえ、こちらこそ。……次はあちらを見てみますか?」
「ええ、そうですね……」
私達は別の店へ向かって歩き出す。
その時だった。
「た、たすけてぇっ!!」
どこからか、子供の声がする。
私達は足を止めて辺りを見回した。
すると……大人に抱えられた子供が路地裏へ引き込まれていくのを目の当たりにする。
「っ、人攫い――」
「ニコレット嬢、そこにいてください」
「な……っ、アンセルム様!?」
近くに警ら隊がいないか、いなければ少し離れた場所で見張っているはずの護衛に声を掛けようと思い私は辺りを見回す。
しかし私がそのいずれかを見つけるよりも先、アンセルム様はそう言い残すと路地裏――子供と人攫いが消えた道へと飛び込んでいくのだった。