軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第30話 編入当日

それから、あっという間に一週間が経った。

どこから話が漏れたのか、今ではすっかり学園中がラガルド殿下の編入の話で持ちきりとなっていた。

ラガルド殿下はグザヴィエ殿下の腹違いの弟にあたる。

グザヴィエ殿下は陛下の側室の子。そして彼の誕生の数か月後に生まれたラガルド殿下は正妻の子だ。

一番に生まれたのはグザヴィエ殿下。

しかし王妃の子はラガルド殿下。

そのような背景もあって、グザヴィエ殿下が立太子されるまでの情勢は非常に荒れていた。

貴族は第一王子派と第二王子派に分かれ、派閥同士がぶつかり合う事も少なくなかった。

とはいえ、グザヴィエ殿下の器の大きさや彼自身が持っていた素質もあり、第一王子派の数が圧倒的に多く……過激的だった第二王子派の声は国王陛下に聞き入れられない結果となった。

グザヴィエ殿下とラガルド殿下の生まれた時期は数ヶ月しか違わない。

つまりラガルド殿下は私達と同じ学年に編入する事になっていた。

とはいえ必要な単位などは以前の学園で全て取得しているとの事なので、ラガルド殿下の編入は勉学ではなくあくまでグザヴィエ殿下周辺の人間関係の偵察や、彼自身への牽制を兼ねてのものなのだろう。

ヴィーが言っていた通り、登校頻度は多くはなさそうである。

さて……そんなこんなで。

廊下の真ん中を真っ直ぐ突き進むラガルド殿下と、近寄りがたい空気を醸し出す彼に道を譲り、息を呑む生徒達。

……そんな絵面が、編入一日目から広がっていた。

因みに私がラガルド殿下と接触してしまった事についてはヴィーから情報がいったらしく、グザヴィエ殿下からは接触禁止の命を受けている。

既に過激で強気な姿勢を見せているラガルド殿下の事だ。目を付けられないよう警戒しておくに越した事はない……というのがグザヴィエ殿下の見解だった。

勿論私とて同じ考え。

故に私はさっさとラガルド殿下から離れようとした。

その時だ。

「やぁ、ラガルド。ようこそ」

ラガルド殿下とは反対の方角から、グザヴィエ殿下がやって来る。

ヴィーとアンセルム様を傍に従えた彼は笑顔でラガルド殿下へ挨拶をした。

「お久しぶりです、兄上」

「そうだね。同じ王宮にいても如何せん広すぎて中々会えないし」

自分の命を狙った相手だというのに、グザヴィエ殿下はラガルド殿下への心証をおくびにも出さない。

一方のラガルド殿下は笑みを浮かべてはいるものの言葉尻や視線に嘲るような意味合いを感じさせる。

……恐らくはこのような差の積み重ねが、王太子を選んだのだろう。

「先程来たばかりなんだろう? 私が案内するよ」

「いやいや、いくら家族であり同じ王族とはいえ、兄上はこの学園の生徒会長である上に王太子ですから。ただでさえお忙しい兄上にそのようなご迷惑をおかけするわけにはいきませんよ」

「このくらい、遠慮する事はないのだけれどね」

「兄上が良くとも、他の生徒が委縮してしまうでしょう。王族が二人並んで歩いているともなれば」

ラガルド殿下はそういうと、現在進行形で委縮している生徒達を見回す。

……いえ、彼らが委縮しているのはどちらかと言えば貴方単体のせいだと思いますけどね。

そんな事は口が裂けても言えないので、ひっそりとラガルド殿下から離れつつ彼らの様子を窺う。

「ですから、そうですね。そういう事であれば……彼をお借り出来ませんか? 確かに学園の事は早めに知りたいですし、案内人は欲しいなと」

ラガルド殿下はアンセルム様を示した。

グザヴィエ殿下とヴィーは驚いたような表情をするが、指し示された当の本人は動じていない。

……本来ならばあの三人の中で一番素直なのはアンセルム様なので、恐らくこれは三人の中で既に擦り合わせが済んでいる、想定された話だったのだろう。

それにしても、ヴィーはもう今更として、グザヴィエ殿下も中々の演者である。

「彼を? けれど彼は私の側近だからね。私と離れさせるわけには」

「短い時間だけですよ? 別に四六時中彼の補佐が必要なわけではないでしょう? ……そちらのアホ面の護衛を外すのを渋られるのなら分かりますが」

この第二王子、口の悪さが露呈し始めている。

まあ彼がそう言いたくなるのも仕方がない話ではある。

目を見開いただけの、品の良い『驚いています』という顔をしているグザヴィエ殿下とは打って変わり、今のヴィーは目では終わらず口までかっ開いているのだから。

何ならラガルド殿下の提案の際、「んぇ?」みたいな声すら聞こえた気がする。

これをアホ面と言わずして何と言うのか。

我が婚約者ながら……あと芝居だとはわかりつつも、それでも何だか恥ずかしい。

「ええと、彼を外す事は出来ないかな。そういう事なら、彼を連れていくといいよ」

「え?」

私は思わず驚きの声を漏らす。離れていたお陰でこの声を聞いた者がいなかったのが救いだ。

グザヴィエ殿下はあっさりとヴィーをラガルド殿下に付ける事を提案した。

「ええっ、殿下ぁ!?」

「……彼は護衛ですよね?」

「ああ。まぁ、少しくらいならね。護衛が他にもいる事は知っているだろう?」

「それはそうですが」

ラガルド殿下は驚いているヴィーを品定めするようにじろじろと見る。

ヴィーはというと、グザヴィエ殿下とラガルド殿下を交互に見ながら慌てふためいていた。

「……護衛よりも、彼を手放したくない……僕に預けたくない理由があると言う事ですね?」

やがてラガルド殿下はアンセルム様へ視線を移してから、挑発めいた笑みをグザヴィエ殿下へ突き付けた。

グザヴィエ殿下は何も言わない。

ただにっこりと、作り笑いを貼り付けているだけだ。

「……分かりました。そういう事であればお言葉に甘えて、彼をお借りしましょう。おい、アホ面」

「アホ面じゃなくてヴィクトル・アルナルディですよぉ、ラガルド殿下」

「ああ、アルナルディ伯爵の……なるほどな、あの親にしてこの子ありということか。まぁいい、さっさと来い」

ラガルド殿下は乱暴にヴィーの腕を引っ張っていく。

「うわっ、とと……。はいはい。んじゃ、いってきます~」

「いってらっしゃい。よろしくね」

「さっさと行け。ラガルド殿下にご迷惑をお掛けするな」

「二人とも冷たくない!?」

グザヴィエ殿下は笑顔で手を振り、アンセルム様は冷たく追い払ってヴィーを見送る。

一方のヴィーはラガルド殿下の後に続いて、その場を離れていった。

……そんな光景を目の当たりにしていた私だけれど。

(な、何でヴィーが……!?)

勿論こんな展開になるなどという話は微塵も聞いておらず。

ラガルド殿下の編入一日目。

早速発生した想定外の展開に、私は人知れず頭を抱えてしまうのだった。