軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24.光の中の再会 side王都の民

side王都の民

「……き、消えた……!」

「本当に、消えたぞ!」

「ヴェリディア国へ行ったのか?」

「ヴェリディア国か……。しかし、このままこの国にいても……」

「なあ、女神の使徒って、本当の話なのか?」

「使徒はサラ様だろう?」

「いや、こんな奇跡、女神の力以外に説明がつかない」

混乱と畏怖、そしてかすかな希望が人々の間を駆け抜けた。誰もが顔を見合わせ、息を呑む。私はただ、目の前で揺らめく光を見つめていた。

光がふっと消えた瞬間、決意は固まった。

――もう、迷っている時じゃない。私は、ルイに会いたい。

その思いが、抑えようもなく心の底から湧き上がってくる。

『国を憂いし女神の子』

あの声は、確かにそう告げていた。ならば、あれは“国を思う者”にしか届かない声なのだろうか。

だったら――。

女神の使徒であるなら、捕虜に無体なことはしないはず。ルイは誰より女神を信仰していた人。きっと、女神が守ってくださっている。

そうよ、ルイは、生きている――!

「わ、私はヴェリディア国に行くわ!」

気づけば声が出ていた。私は踵を返し、夜の道を駆け出す。冷たい風が頬を刺したが、決意はいっそう強くなった。

家に飛び込み、寝室の灯をともした。

「メアリー、起きて!」

「ん……? どうしたの? まだ眠いよ……」

「お父さんに会いに行くわよ!」

「お父さん? 本当!? やったぁ!」

「すぐ準備して!」

「うん!」

二人で慌ただしく荷をまとめる。小さな鞄に、食料を少し、衣類を数枚、そして家族の写真をそっと忍ばせた。

メアリーの手を強く握りしめ、私は再び外へ飛び出す。

広場には、まだ微かな光が残っていた。人々は皆、言葉を失ったようにその光を見つめ、立ち尽くしている。

「マ、マイラ、本気かい?」

近所のレベッカが、震える声で呼び止めた。

――怖い。でも、行くしかない。

「本気よ。『女神の名にかけて』って、はっきりおっしゃっていたわ。きっと大丈夫。女神様が守ってくれる」

言い切ると、私はメアリーの手をもう一度ぎゅっと握った。

指先が震え、鼓動が耳元で鳴り響く。恐怖を押し込めるように、何度も自分に言い聞かせる。

「怖くない……怖くない……」

そうつぶやきながら、メアリーを抱き上げ、光の文様の中心へと一歩を踏み出した。その瞬間、世界が白く弾けた。

身体がふわりと浮き上がる。

冷たくも温かくもない、ただ柔らかな光の中に包まれる。不思議と、恐怖はもうなかった。 目を開けると、そこは、広場だった。

空気が澄み、遠くには同じように光の中から現れた人々が立ち尽くしている。彼らもまた、互いの存在を確かめるように静かに見つめ合っていた。

私はメアリーを抱き寄せた。その小さな体が、かすかに震えている。

「お母さん……」

震える声。メアリーの瞳には、まだ恐怖の残光が揺れていた。私の服の裾を掴む小さな手が、必死に“現実”を求めている。

そのとき――。

背後から、懐かしい声がした。

「体調は大丈夫ですか? あれ……?」

振り向くと、夫ルイの同僚、ヘンリーが立っていた。緊張で張りつめていた身体が、少しだけほぐれる。

「ヘンリー! ルイは……ルイはどこ!?」

祈るように声を震わせた。不安と希望が渦を巻き、今にも涙になってこぼれそうだった。

「ああ、無事だ。ルイ! マイラたちが来たぞ!!」

その声が響いた瞬間、乾いた地面を蹴る足音が遠くから近づいてきた。

見慣れた背の高い影。ルイだと一目でわかる。

「あっ! お父さん!!」

メアリーが弾けるような声で叫ぶ。

「メアリー、マイラ!!」

ルイの声は、驚きと喜びが混ざったように震えていた。次の瞬間、駆け寄ってきた彼の腕に二人まとめて抱き寄せられる。力強くて、あたたかくて、張りつめていたものが一気にほどけ、涙が頬を伝った。

「ルイ……捕虜だって聞いて、ずっと心配で……」

言葉にすると、胸奥の痛みが溢れてきて、息が詰まりそうになる。

「大丈夫だ。無事だよ。人間らしい生活もさせてもらっている。心配かけてすまん。……よく来ることを決心してくれたな」

そう言うルイの声は、どこかほっとしていた。顔を見ると血色もよく、思っていた以上に元気そうで、安心した。

「あなたの無事を確認できて、本当に安心した……」

言葉を絞り出すと、また涙が溢れそうになる。

「マイラ、聞いてくれ。俺はこの国で、兵士として生きていきたいと思っている。だから――」

「ねえねえ、二人ばっかり話してずるい! メアリーの話も聞いてよ! お父さん、メアリーね、三つ編みができるようになったんだよ!」

割り込むように胸を張るメアリーの無邪気さに、緊張していた空気がふっとほどける。ルイの顔にも自然な笑みが灯った。

「おお、それはすごいな、メアリー。はは、そうだな……まずはゆっくり話そう。これまでのことを、全部聞かせてくれ」

周囲では、遠巻きに見ていた兵士たちのざわめきが少しずつ大きくなる。それでも三人で顔を寄せ合うと、その喧騒さえ優しい音に聞こえた。