軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第79話 とある屋台にて

町興しのためのB級グルメフェスには、爺さんと何度か来たことがある。

俺の住んでる田舎町でもやってた。

お祭りの屋台とは違って、一般的な店舗と同様の条件で食品営業許可を取る必要があるので、食中毒になる危険性が低いしね。

とはいえここは異世界なので、油断は禁物なのである。

魔物肉であれば、寄生虫や細菌類の繁殖による食中毒の危険性が極めて低いかもだけど、それ以外の要因もあるので食べるには勇気がいる。

がしかーし! 俺にはこの鑑定虫メガネこと、Siryiという強い味方がいるのだ。

Siryiは、食品の栄養素も俺の知識から検索して見分けることができる。成分の鑑定が出来るから、人体に悪影響がある物質の判別ができるんだって。

細菌やウイルスになると難しいらしいけどね。その内できるようになればいいな。

なので俺はそこそこ安心してあちこちの屋台を覗き込むことができた。

「それが欲しいのか?」

「……ううん」

みてるだけー。でもそれは口に出してはいけない。

メイン広場(イベント会場で一番人が集まる場所みたいなところ)には、流石というか、魔物のお肉をメインとした屋台が多い。しかもエアレーなどの魔獣のお肉ばかりである。

残念ながら爬虫類系のお肉の屋台は少し外れた位置にあるのか、メイン広場にはないようで見当たらなかった。

爬虫類のお肉は鶏肉に近くて、味が淡白だからな~。労働者階級の冒険者には物足りないのかもしれないね。

それでもデミドラゴンクラスになると飛びつく美味さなんだけど、市場に出回らない貴重なお肉なので、屋台で手軽に食べられる肉ではない。

とはいえ淡白なお肉でも味付けに工夫を凝らせばいい訳で、やっぱ万能調味料の調合は喫緊の課題なのかもしれない。

オネーサンは急がなくていいって言ってたけど、Siryiのお陰で調味料の配合も楽になりそうだから、ちょっと頑張ってみるかな~。

『ご期待に沿えるよう、頑張ります』

うん、おねがいね~。

でもお肉の美味しさって、やっぱり脂肪なんだよなぁ。

『肉の旨味は、見た目や味、食感に香りが加味されてこそ、総合的な美味しさになるかと思われます』

それなんだよな~。爬虫類のお肉は脂肪が少ないから、あっさりしていて物足りないのがネックなのだ。でもそこがアドバンテージでもある。

ダイエットに効果的だし、筋肉を育てるのにも良いというのが、もっと知られればいいのにって話なんだよね。

「お、坊主、この肉が食いてぇのか?」

「う~ん?」

「味付けはシンプルに塩だけだが、うめぇぞ!」

「取りあえず、一人前貰おう」

「あいよ! まいどありっ!」

俺が眺めているだけなのに、ディエゴが一人前だけ注文してくれた。

別に買わなくてもいいんだけど?

『手持無沙汰なのではないでしょうか』

そう言われると俺も申し訳ない。ディエゴをほったらかしにしていた。

目的は伝えているんだけど、本当にただ眺めているだけだからな。もしかしてお腹が空いてるのかな?

『違うと思われます』

まぁそうだよねー。買って貰えそうにないから眺めているだけっていう風に、周りに見られているような気がするし。保護者として、何か食べさせてあげなきゃって気になってるのかもな。

屋台のおじさんから焼いた肉を一皿受け取って、ディエゴが俺に渡してくれる。

お皿っていうか、大きな葉っぱに、焼いたお肉を乗せているだけだ。紙皿なんてないもんな。

ここらの屋台では、バナーナの葉をお皿にするのが主流のようだ。大きいから、いくつかに切り分けてサイズを調整していることが伺える。

『バナーナの葉は硬く耐火・耐熱に優れており、このような屋台ではお皿として使用されております』

なるほどね。アツアツの焼きたてお肉を乗せても大丈夫なんだ。

『マスターの識るバナナの葉は、ペルーなどの南米で作られる、トウモロコシ粉を練って包んだ、「タルマ」という蒸し焼き料理に使用されていると記憶しているのではないでしょうか?』

そういやそういう料理があったね。俺の記憶というか、Siryiはさらっと読み流した俺の脳内情報を検索できる奴だった。

「ひとくちでいーよ」

「他にも食べるのか?」

「そうだねー」

取りあえず味見程度で良いので、シンプルな塩味のお肉を頂くことにする。

Siryiからの情報によると、このお肉は鹿の魔物肉だそうだ。鹿は高級ジビエ肉の代表みたいなもので、高タンパクで低カロリー、そして鉄分が豊富。シンプルに塩コショウでステーキや焼き肉で頂くのが良い。

この屋台のおじさんも、分かってるな~。確かに胡椒が欲しいけど、そうなると値段が上がっちゃうんだろうね。といった納得の味付けです。

「どうだい?」

「おいしーね」

「そうかそうか!」

愛想よく笑うと、おじさんはガハハと笑った。

お肉は納得の美味さで、シンプルだからこそ素材の味が活かされていた。

この世界で初めて食べる鹿の魔物の肉なのでいい勉強になったよ。このお肉はやっぱり商人さんから仕入れているんだろう。アントネストのダンジョンで、鹿の魔物の肉がドロップするはずないし。

ディエゴがおじさんに払った金額は、日本円で一皿千円もしていた。

屋台にしちゃやっぱ高いなぁ。俺の世界のB級グルメでも、肉フェスだとこれぐらいの値段設定だったし。大人一人分の分量としては物足りない。

沢山食べる狂戦士にとっては、値段が高くて大量に食べようとしたら、かなりの金額になるんだよな。

GGGさんたちは稼いでそうだけど、時間停止魔法付マジックバッグ購入のために倹約してるそうだから、ここらの屋台は割高そうだ。

メガ盛りチャレンジメニューがある分、オネーサンのお店の方が、逆にリーズナブルのような気がしてきたぞ。

そして俺は、またうろうろしながらSiryiで屋台のお肉を鑑定していく。

どのお店も魔獣系のお肉で、鹿の他に定番の エアレー(牛肉) や羊に兎(俺の帽子の肉部分だろう)の魔獣肉、珍しいところでカバやサイなどの魔獣肉もあった。

まさに異世界のB級グルメ肉フェス会場である。(違う)

だけどマンガでよく見る串焼きはない。焼き鳥っぽい食べ方って、日本独特なのかもね。小さい串に刺して肉を焼くのは、意外と技術がいるもんだ。

串焼きかなと思って見ていたら、ここらではシュラスコのように鉄串に刺して焼いていたし、肉を鉄串から外して葉っぱ皿に入れていた。

それか削ぎ切りだ。ケバブみたいな感じの焼き方が多いね。

これらは全部魔獣なので、爬虫類系じゃないんだよな。アントネストなのに……。

味付けも基本的に塩、そしてちょっと風味を効かせるためのニンニク、お値段が高目なのがコショウやトウガラシを使っていた。

すりおろした玉ねぎとか、ショウガやハーブを使っても良いと思うんだけどな。

肉は違うのに、味付けが大体一緒なんだよ。素材の味そのままってのは悪くないけど、こればかりだと飽きちゃうね。

オネーサンの料理は、様々な調味料やスパイスを使って味付けをしているというのに、これが屋台の限界なのかな?

だからGGGさんたちもオネーサンのお店に足繫く通って、三食オネーサンのお店で食べたがるんだろう。

仕入れ値が高い魔物肉なので、屋台での値段設定も高く、味付けはシンプル。

パンのような主食は別のお店で買ってきて、お肉を挟んだり乗せたりしてオリジナルの食べ方をしているし、屋台ではタコスやブリトーみたいに焼いた生地で肉を巻いたモノを売ってはいないのである。

これじゃ女性にはウケないや。映えに拘るのはどうかと思うけど、もっとお洒落な味付けに工夫しないと。

しかも最悪なのが、冒険者たちは肉をそのまま手掴みで食べているってところだ。

箸がないのは仕方がない。でもせめてフォークで食べろと言いたい。(因みに俺とディエゴはマイフォーク持参である)

葉っぱ皿に顔を突っ込んで食べている人もいるし、ここの冒険者たちは絶対女性にはモテそうもないなと、失礼ながら思ってしまった。

強い魔物である爬虫類系ばかりのダンジョンで稼ぐのだから、多少ワイルドなのは判るんだけれど、野蛮なのは駄目だと思います!

だから余計に女性が遠のくのだ!

そうして俺が謎の憤慨をしているところに、何やら嗅ぎなれた匂いが漂っていることに気が付いた。

「ん~?」

香ばしい、そして懐かしい(わけでもない)匂いだ。

そしてその匂いに誘われるようにふらふら歩いていると、これまた見慣れた筋肉の林が立ち並んでいた。

「あれ?」

「GGGの連中か?」

肉フェス会場でも人通りの少ない並びの屋台に、GGGのみなさんがいた。

もしかして揉めているのかな? と思わせられるような感じで、屋台のおじさんが客であるシャバーニさんたちにぺこぺこ謝っていた。

「なにがあったんだ?」

「なんだろー?」

温厚で良い人なGGGのみなさんがたむろして、屋台のおじさんから謝られているなんていう、異常な事態に遭遇した俺たちは戸惑った。