軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第77話 新機能の覚醒(+閑話)

頭の中で考えている事って、普通は誰に聞かれることでもないので、ああなればいいな~とか、こう出来ればいいのに~って好き勝手にぼやくじゃん?

思考するから人間なのであって、考えることを止められないのが人間なのである。

この鑑定虫メガネは、本来であれば魔昆虫類やそのドロップアイテムしか鑑定できない。だが俺は思考の海に沈んでいたのもあって、うっかりと鑑定できるはずもない爬虫類の魔物からドロップしたアイテムを鑑定していた。

アクータートルという亀からドロップしたヤバイアイテムを鑑定したせいもあるんだけど、その時に俺の鑑定虫メガネに新しい機能が覚醒したようだった。

覚醒ってどういうことだって話なんだけど、もうそうとしか考えられないのだ。

鑑定虫メガネを持ったまま、魔昆虫類関係以外に、もう一つ鑑定する種類を何にしようかなぁ~って考えていた。

爬虫類系のお肉の栄養素が判ればいいのになぁ~とか、そういうことも考えていたと思う。

別に爬虫類のお肉限定って訳ではないけど、食育について考えていたのもあって、食べ物全般の栄養素の表示がされるといいなってのも、まぁ、考えてなくもなかったんだけどね。特にお肉類についてだけど。

それが原因なのか知らない内に、鑑定虫メガネの機能に《《バグ》》を発生させたらしい。

《《虫》》メガネだけに!

『どうぞ、質問して下さい』

といった具合に。

この鑑定虫メガネ・アレクサ二号は、俺が何を登録しようか決め切らなくて、あれもこれも知りたいと考えているのも相まって、焦れた挙句ヤケになって、質問があれば答えられる範囲で答えてやろうと覚醒したのである。

アクータートルのドロップ品の鑑定も、サービスのつもりだったらしい。

本来ならちゃんと『爬虫類関連の鑑定をしたい』と、強く念じる必要があったそうだ。でも俺はそんなことを念じてはいない。

とりあえず鑑定しないとな~って感じで、ドロップ品を見ていただけだ。

これって、鑑定虫メガネのシークレット機能なのかな?

『あなただけの 機能(サービス) です』

そうなんだぁ~。へぇ~。

正直すまんかった。不気味で怖いとか思ってたけど、これって俺のせいでもあったんだね。便利になってくれてありがとうと言うべきかな?

『どういたしまして』

アレクサと違って、なんとなくSiryiっぽいな……。

音声で操作することを前提に作られている【アレクサ】の反応する範囲は広い。

だがディスプレイで操作することを前提に作られている【Siryi】のように、鑑定虫メガネは俺が触れていないと返答できないのである。

アレクサは音声機能なので、話しかければ―――というよりヤツは勝手に話しかけてくるんだけど、二号の場合は接触していないと応えることはないってことだね。

この違いは俺にとって都合が良いのかどうなのか。知りたいことがあれば問い掛ければいいので、アレコレ口出すことがないってことだから―――うん、優秀!

やたらと質問に答えていたのは、俺に認識して欲しかったからだって。

今後は俺の欲しい情報だけを、知り得る範囲で教えてくれるそうだ。

でもSiryiにも答えられないことはある。

俺の知識に依存していることもあるらしいけれど、まだダンジョン以外の情報が収集されていないからなんだとか。なのでなるべく外に出て、これから学んでいくからお願いしますってさ。

というわけで、俺はこの世界のSiryiを手に入れたのである。

俺の世界では機能があると知っていても、使用率が低い(日本人は音声アシスタントに声を掛けることを苦手としている)Siryiだけど、この世界ではこれぐらいで丁度いいんだよ。

自己主張の激しいアレクサだって、一般家庭にそこまで普及してないしね~。

アレクサ二号とか呼んでごめんね?

呼ばなくても勝手に応えるから、ちょっと似てるなって思っちゃっただけだし。

よし、今度からこの鑑定虫メガネはSiryiってことにしよう。そうしよう。

誰かに怒られる気がしなくもないけど、その時は改名すればいいよね?

下手したらアントネスト限定鑑定虫メガネ(魔昆虫&爬虫類)で終わっていた筈のSiryiだけど、今後も何かと活躍しそうだな~。

『今後ともよろしくお願いします』

「よろしくねー」

文字の羅列だけだから感情は判らないけれど、何となく嬉しそうなSiryiである。

鑑定虫メガネを持つことで、歩きスマホ状態になるのだけれど、でも障害物や危険が迫ったら教えてくれるからとっても便利だよ!

そうして俺は、怖くなくなったSiryiから様々な情報を得た。

脳内で話しかけるだけで質問が出来るからね。夜中にブツブツ独り言を呟く危ないヤツに見られる心配をしなくてもいいのだ。

アレクサ……ヤツは駄目だ。傍から見ると音声アシスタントと掛け合い漫才をしているように見えるらしいからな。本気で喧嘩してるのに……。言い負かされるけど。

ジェリーさんの作るタリスマンは、ダンジョンでドロップするジョークグッズとは違い、効果の程度は低いながらも危険性はないモノということを、Siryiを介して知ることとなった。

しかも全て『蓋然性』での効果なので、人によっては持っていても効果を発揮できないアイテムでもあるらしい。

例えば俺やディエゴのように、恋人が欲しいと願ってもいない人間が、恋愛等に効果のあるアイテムを持っていたとしても、成就の確率が高かろうが低かろうが効果を発揮しないのだ。

道端にお金が落ちていても、認識しなければ拾うことすらできないと考えればいいだろう。

我思う故に我有りじゃないんだけど、存在の認識のような感じかな?

恋愛成就にご利益のある神社に行く人って、好きな人と結ばれたいと願っていたり、素敵な出会いを求めているからね。既に成就していると、神様が嫉妬して別れさせるとかいうし。怖いね~。

つまりは、その願いを叶えるために、自ら積極的に行動をとらなければならないのである。商売繁盛にしても、まずは商売を始めなければ意味がないように。

なので『おみくじタリスマン』は、持ち主の蓋然性を高める効果がある。

確率のパーセンテージが僅かでも上がるってことだね。

可能性ではないのはそういうことなんだって。あるなしじゃ全然違うもんな。

5%から10%にちょっとだけ上がったとしても実感がないかもしれないけど、それを消費税と捉えれば、積み重なるとかなりの金額になるのを実感するだろう。

このタリスマンは、切実に願って行動している人間を、成就へと導く手伝いをしてくれる。だから効果の大きさが、願いの大きさによって異なる、おみくじみたいな段階になっているようだ。

直ぐに叶えられそうなお願いと、叶うまでに時間がかかるお願いの違いもあって、トンボ玉のドロップ率の低いヤンマ系はより具体的な祈願内容になっている。

そして最強オニヤンマのタリスマンは、備えあれば憂いなしの効果があるので、条件というよりも危機察知能力が向上するらしい。第六感である、《《虫の知らせ》》みたいなもんだろう。どこまで虫に関連付けているのやらだ。

そんな風にSiryiから得た情報により、条件付きで効果を発揮するタリスマンだよって、ジェリーさんやみんなに伝えることにした。

この程度なら問題ないしね。

タリスマンの効果に危険性はないけれど、一方でSiryiに危険性はないのかと考えていたら、『持ち主の善良性に依存します』と答えられた。

善良性って何だろうね? 正直で素直であれば良いってことなんだろうか?

確かに俺は隠し事が苦手で、態度に出るらしい。表情筋はちょっと死んでるけど。言わなきゃバレないなら言わないだけで、口に出すと正直に話しちゃうから、今のこの言葉が拙い状況は不便だけど都合が良かった。

口は禍の元だからねー。それでよく失敗しちゃうんだ。

そんなことはともかくとして。

もしこの鑑定虫メガネを悪用しようとすれば出来るのかもだけど、特に思い浮かばないし思い浮かんでもダメだなと思えばしないだけの理性はある。つまりは、そういうことなのだろう。

~閑話・妖精のタリスマンと可愛い(?) 悪戯(おもてなし) ~

「やっぱそこそこの効果を実感できるのは、小さな願い事だろうなぁ」

「リオっちのタリスマンの効果は露骨だったもんねぇ」

「あまりにも運気が上昇するから、途中から怖くなっちゃったわ……」

「流石、本物の妖精の作ったタリスマンっすよね~」

その本物の妖精であるリオンは、鑑定虫メガネを持ってディエゴとシルバ&ノワルをお供に、本日はあちこち出掛けて買い物をすると言ってこの場にはいない。

今日も休養日として、彼らはまったりとした一時を過ごしていた。

それをいいことに、先日リオンの作った『運気上昇効果』のタリスマンの効果を実感した四人は、こそこそとその感想を述べているところだった。

本人には「怖すぎる」とは言えなかっただけに。

特にダンジョンでドロップする素材の確率をよく知るアマンダやギガンにとって、リオンの作ったタリスマンの効果は覿面すぎた。

最大限に効果を発揮すれば壊れるとはいえ、欲しがる者はどれだけの金額を提示されても買うだろう代物だ。

ダンジョンでしか使用してないが、あらゆるものに効果が現れると考えれば、利用価値の高いアイテムであることは間違いない。

「世に出回るには、過ぎたもんだったな。ありゃ、人間の欲望を増幅する危険なアイテムでもあるぜ?」

「そうねぇ。私たちの作ったものは、効果がないそうだけど。あの子のは規格外だったわ」

「みんな同じように作ったのにね~?」

「さっすがリオリオっす!」

昨日この場に集まった全員で作ったアクセサリーではあったが、彫金師であるジェリー以外はタリスマンにならなかったのである。

彫金師だからこそ、アイテムとしての効果を引き出す能力があると思うが、適当に作っているリオンの方がその効果は高かった。

本人は不思議そうではあったが、彼ら全員の感想として、それは不思議でも何でもなかったのである。

そうなるのも当然だろうと。だって彼は《《本物の妖精》》なのだから。

人間ごときが太刀打ちできるはずもない。

「虹色に光った時は、ビックリして叫びそうになったっすよ」

「それ、私も見てみたかったわ。怖いもの見たさだけど」

「アタシたちが起きた時は、もう作り終わっちゃってたもんね」

「ジェリーとやらも金色に光ってたが……ありゃぁ、次元がちげぇよ」

しみじみと語るギガンに、テオも同意するように頷いた。

「俺らは白く光っただけで、なんもなかったすもんね」

「ディエゴに比べりゃマシだろ」

「あれはもう、次元が違うとかじゃなくて、呪われたアイテムを作ってるような気がしたっすよ」

「それも凄いよね~。さすディゴって感じ?」

「あれはあれで厄介なモンを作ったっぽいな」

「どんな効果があったのか、知りたいような、知りたくないような怖さがあるわね」

リオンからゴミ呼ばわりされていたアイテムを思い出す。

誰が見てもヤバそうなアイテムを作るディエゴと、確実に良いモノを作っているであろう妖精との差は、輝きからして違った。

そもそもディエゴは光ることなく黒い煙を吹き出していたので。

「でも勿体ないなぁ~。リオっちの作ったタリスマンを売ったら、どれだけ稼げるんだろうって思わない?」

「ばぁか。ありゃ、人間をダメにするタリスマンだ。持ってたって、それに依存し始めて、逆に不幸になってくぞ」

「そうよね。便利だからってそれに慣れたら、失った時の反動が怖いわ」

「そういうもんっすかね?」

「お前らはまだ判んねぇだろうが、今ですら俺らはリオンの恩恵のお陰で、贅沢しまくってるじゃねぇか」

貸店舗の宿泊であるのに、高級宿屋よりも快適なのだ。流石は家事妖精であるブラウニーといったところであろうか?

コテージの時とは違い、己の思うままに改装を施してあり、様々な便利アイテムが散りばめられていた。

自分たち以外に見られたらとんでもないことになりそうなので黙っているが、既にそれらをリュックに仕舞えとはいえなくなっている。

とにかく居住空間にだけは誰も迎え入れないようにしなければならないが、全員一致の認識でその恩恵に肖ってはいるけれど。

店舗部分は誤魔化せる範囲ではあれど、それだって自分たちがリオンの不思議な道具類を見慣れているせいで、おかしいと思わないだけなのかもしれない。

「確かに、もうあの羽毛布団の寝心地が良すぎて、朝起きるのが大変だったよ!」

「起きたら起きたで、美味しい朝食が用意されてるしねぇ……」

なのでちょっとした悪戯はするが、それでもまだ可愛いと言えるレベルである。

リオンが齎す恩恵に対して、些細な悪戯ぐらいは目を瞑ろうというものだ。

ただ一緒になってディエゴもやらかすので、奴に関してはきっちり叱っておかなければならないが。知ってて黙っているのは、悪戯というより愉快犯でしかない。

本人は「妖精の悪戯を見届けただけ」と言っているが、内心面白がっているに違いないのだ。

「妖精の趣味ってのがよくわかんねぇんすけど、あの不気味な顔だけのマグカップは、どうにかならないもんすかねぇ……?」

「だからって、仕舞えって言えるか?」

「言えねぇっす……。だって、すっげぇ大切そうに磨いてるんっすよ?」

まるで銀食器を磨くように、丁寧に扱っているのだ。そしてたまに祈るように拝んでいる。どういう意味があって拝んでいるのか判らないが。

余程気に入っているのか、好きなマグカップを選べと言われても選べない種類のマグカップだった。

遠慮もあるが、好きではないと言えないだけだけれど。他は割とまともなカップ類が並んでいるだけに、そこだけ異様な雰囲気を醸し出していた。

「やたらと気に入ってるもんね。GGGさんたちが褒めてたあの上半身裸のマグカップも、どういう趣味なんだろう? って思っちゃうんだけど」

カウンター越しから見える、棚に飾られているおもしろマグカップを眺めながら、みんなで溜息を吐く。

「私たちの部屋から撤去させた食べ物そっくりの偽物も、悪戯のつもりなんでしょうけど、ここに飾られていると良い感じなのよねぇ」

「偽物だから腐らねぇしな」

「食べられないけどね! 美味しそうなのに、食べられないなんて、酷いよぉ~!」

「チェリッシュが引っかかったから、それで満足ってことでいいじゃねぇっすか?」

「アマンダ姉さんも、食べればよかったのに!」

「アンタと一緒にしないでよね。持った瞬間に違うって判ったもの」

「チェリッシュはもう少し、疑うことを覚えろ」

「うわぁ~ん! みんな酷い~っ!」

悪戯に引っ掛かったチェリッシュを呆れながらも、たまにリオンの悪戯に引っ掛かることもあるので、彼らも人のことは言えないだろう。

階段部分にある魔道ランプだって、今でこそ便利だなと思えるが、ステップを踏んだ瞬間突然光って驚いたのである。

リオン本人は「べんりー」と、あっけらかんとしたものだが、遭遇したこちらとしてはかなり驚いたのだ。

部屋にあるライトも、触れると色が変わる不思議なものだし、綺麗だけれど驚かされる物ばかりだった。

「ああいう可愛い悪戯が、あちこちにあるから、油断できないわ……」

「全くだ……」

「でもあのプラネタリウムってライト、俺はすげぇ楽しくて好きっすよ!」

「お前は良いよな、単純で……」

流石は妖精と言わざるを得ない、不思議な悪戯のオンパレードである。

まだこれらはパーティメンバーにしか発動されていないのだが、周囲にまで及び始めると考えると空恐ろしい。

でもリオンは良い子なのだ。気遣いが出来るし、個人の好みに合わせて料理を作ってくれるし、便利な道具を使って快適な生活を提供してくれる。

それに好き勝手している訳ではなく、相手が喜ぶであろうことを考えて行動するので、悪意はないと見ていいだろう。

それが時折、悪戯に直結していることに気が付いてはいないけれど。時に そういった行動(過剰サービス) が、人間の常識から外れてしまうのは、彼が妖精だから仕方がないのだ。

「そういやぁリオンの言う『おもてなし』って、『悪戯』って意味なんじゃねぇかと思うんだが、お前らはどうだ?」

「嬉しいけど、ビックリするのよね……『おもてなし』って」

「俺は感動しますけどね?」

「テオは単純だからでしょ!」

そうして彼らは、リオンの齎す恩恵とは別に、『おもてなし』の謎について語り合うこととなった。

日本人(ブラウニー) の『おもてなし』文化は、予想外過ぎて中々理解されないようである。