軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第60話 突撃!異世界の食事処

見上げる程の大きなアーチには『ようこそ、子供心がよみがえる、アントネストへ!』という、なんとも微妙な気持ちになる歓迎の言葉(異世界語)が書かれていた。

裏には『アントネストに、また来てくださいね!』と書かれているに違いない。

観光地でよく見かける文言だ。

俺の住んでいる田舎にも、県境の看板にこういうのがあった。

「意味が判んねぇ歓迎の言葉だよなぁ?」

「そうよねぇ? 誰の子供心なのか判らないわ」

多分それは俺みたいな奴の子供心だと思う。

「子供の場合はどうなんすかねぇ?」

「そうだよね。なんの心がよみがえるんだろ?」

子供のことを考えてるわけではない。

あくまでも大人に対して語り掛けているのだから。

ぼくの夏休み的な意味で、田舎で暮らす一時の思い出のような何かだろう。

最初から田舎に住んでいる俺にはよく判らない感覚だけど、都会の疲れた大人には心に染みるのだそうだ。

俺はただ虫取りがしたいだけなんだけどね。

因みに俺は昆虫採集はしない。あくまでも捕まえるだけで、標本とかを作る気は全くないし。(捕まえて堪能した後は逃がす)死骸を飾るような趣味もないしね。

そうして。俺たちがアーチの下でぼんやりしている間にも、賞金首である賊の確認が行われていた。

今回は俺たちはほぼ何もしていないので、暢気なものである。

「確認が取れましたので、報奨金はギルドにこの割符を渡して受け取ってください」

門番さんらしき人が、金属で出来た割符をロベルタさんやシャバーニさん、そしてボルトさんたちに渡す。

今回も生け捕りにしたことで、全員生きたまま引き渡せたのもあって、かなりの額の報奨金を受け取れそうである。

死亡した状態だと減額となるので、できれば生け捕りが好ましいそうだ。(後運ぶのが大変)

そうして捕まった賊は、ちょっとヤバイ労働環境へ強制収容され、罪の重さによって労働期間が決まる。所謂犯罪奴隷ってやつだね。

賊の場合は余程のことでもない限り死罪にはならず、死ぬまで働かされるので無駄なく搾取できるそうだ。(逃亡すれば速攻で死罪)

どこに送られるのかは、俺は子供だから教えて貰えないけどね。

本当は子供じゃないけど、別に知っても仕方がないので聞かないけど。

「では冒険者ギルドに寄って、依頼完了の報告をしましょうか」

「そうですな。いやぁ、色々ありましたが、楽しかったですね!」

「我々もシュテル氏に習って、ブリステン領に来たかいがありましたよ」

「実に、実に充実した旅でした!」

「ははは、でもお楽しみはこれからですよ!」

ちょっと何を言ってるか判らないんだけど、ここまで来た商人さんの殆どが、シュテルさんに唆されて付いてきたみたいなことを言っている。

しかもお楽しみはこれからだとかのたまっているシュテルさんだけど、俺たちはもう関わらないからね。

そう思って護衛の二人を見遣れば、何故かサッと目を逸らされた。

「どうした、リオン?」

「……う~ん?」

怪しい。なんだか面倒な予感がする。

「とりあえず、ギルドに寄って報告するメンツと、宿を決めるメンツに分かれようぜ」

「じゃぁ、テオとディエゴは、リオンと一緒に宿を決めて頂戴。コテージでも、借家の一軒家でも好きなのを選んで。決まらなかったら、今日だけはどこかの宿にでも泊まるのもいいわ」

「了解した」

「了解っす~」

てきぱきと役割を分担するアマンダ姉さん。流石リーダーである。

「チェリッシュとギガンは、ギルドに行って報告を済ませて、報酬の受け取りよ」

「そうすっか」

「は~い」

そうして俺たちは夫々分かれることにした。

宿が決まれば、ノワルが伝達しに行ってくれるから便利だね。

夕飯時なのに、少々寂しい通りを歩く。

【アントネスト】が人気がないという話は真実だったのか、ダンジョンがあるのに冒険者の数が少なく活気がなかった。

これはあれだ。コロポックルの森のある、田舎町に雰囲気が似ている。

でも今はあの田舎町も賑わいを見せていて、冒険者や商人だけでなく、キャリュフ料理目当ての旅人(観光客)が多く訪れていた。

そんなことを考えていると、どこからともなく夕飯時らしい香りが漂ってきた。

その匂いに誘われるように、俺は思わず鼻をひくつかせる。シルバも同じように鼻をひくつかせていて、どうやら同じ方向にこの匂いの原因があると当たりを付けた。

「やっぱり、今回もコテージっすか?」

「いや、観光施設案内によると、この辺りに数軒、借家があるそうなんだが……」

気に入ったところを選んでくれと言われたので、探しているのだけれど。

因みに受付の人には、この時間は案内が出来ないと断られた。

これが当然の対応で、平均的な労働態度だ。終業時間になっても時間外サービスで働くのは日本人だけである。(その異常さは美徳ではないと気付け。ただの遣り甲斐搾取だ)

「借家っすか? 閉店してる店しかないんすけど?」

「貸店舗みたいなのしかないな……」

しかし気に入ったも何も、寂れた商店街のシャッターが閉まった通りのように、開いている店舗も少ない。ここらにあるのは住居兼店舗っぽいのだが、まさかねぇ?

そう思ってディエゴを見上げる。

「開いている店に入って、聞くしかないか」

「そうだねー」

「営業中の店っすね。あそこに飯屋があるんで、聞いてみるっすか?」

「そうしよう」

俺が美味しそうな匂いだなと思っていた店舗に足を向ける。

外観がとても可愛らしい、メルヘンチックで周りからちょっと浮いている店のドアを開けた。

カランカランと、ドアについているカウベルが鳴る。

「あら、いらっしゃぁ~い! ちょうどいいタイミングね。今、美味しいスープが出来てるのよ~いかがかしら?」

「あ、いや、ちょっと、話を聞こうと―――」

「あ゛?」

客じゃないなら出て行けという、迫力のある「あ゛?」である。

「食事がてら、話を聞こうと思ってな。従魔もいるが、大丈夫だろうか?」

なのでディエゴはすぐさま客であることを装った。

確かにお腹が空いている時間だしね。今夜はある物で済まそうと思っていたけど、そろそろ俺もこの世界のお店の食事をしてもいい頃合だ。

店内も清潔で可愛らしく、全体的な色合いがチョコミントみたいで美味しそう。

「あら可愛らしいワンちゃんと、コトリちゃんね? いいわよ~」

シルバとノワルを、ワンちゃんとコトリちゃんと呼ぶとは。この店主、中々肝が据わっていると見た。

「それと仲間が数名、後から来るのだが、いいか?」

「やだぁ~、そうなの? ご覧の通り空いてる席はいっぱいあるから、お好きな席でお待ちになって!」

「では、窓際の席で」

「はぁ~い!」

途端に機嫌のよくなる《《オネーサン》》である。

メニュー表らしきものを持って、可愛らしいレースで飾られた窓際の席に案内してくれた。

「本日のお勧めは、このホロホロラーナのソテーと、同じくホロホロラーナの骨を煮込んで作ったブイヨンのスープよ」

「ラーナというと……」

「美味しいわよ」

「では、それを……人数分で、いいか?」

最後の問いかけは俺にだろう。なのでうんと頷いた。

ラーナ……ラーナねぇ。確か……イタリア語でカエルだよな? しかも魔物図鑑(爬虫類&両生類)に載っている巨大なカエルだ。(本当に牛ぐらいある)

この世界って、商人さんや冒険者があちこち行き交うのもあるし、人種も言語もかなりごちゃ混ぜになってるっぽいんだよね。聞いたことがある発音でありながら、ない言葉も混じっている感覚が不思議。

でもカエルなら食べたこともあるし、なんなら爺さんが捌いてくれたし、俺もウシガエル程度なら捌けるんだよな。

あっさりした鶏肉と白身に似ているので、美味しくて好きだよ。それをディエゴに念波で伝えると、ほっとしたような顔をした。

「後で三人加わるので、とりあえず六人分頼む」

「はぁ~い、かしこまりぃ~!」

ウキウキした様子でカウンターの奥へと消える《《オネーサン》》。

もしかして、このお店を一人で切り盛りしているのだろうか? 不用心すぎない?

「ノワル。とりあえず、ここに居るとギガンたちに伝えてくれるか?」

「ワカッタ! ジャーキークレ!」

「はいはい」

そうして俺はノワルにジャーキーを与えると、メッセージを届けさせるために窓を開けて飛び立たせた。