軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話 明晰夢だと思う

「う~ん。食べにくい……」

こちらを凝視するように、じっと見詰められている。

あれかな?やっぱ、失礼だったかな?勝手に味付けしちゃったりして。

いやでもなぁ~、滋味深いだけだと、食が進まないんだよ。

SNSでアップしても、美味しくできないと苦情が来るし。俺の個人アカ、一応ソロキャンメインだしさ。

今回の山菜も、短い調理動画をアップするつもりで採って来たわけだしね。

本来はてんぷらにするつもりだった山菜の入った籠を見下ろし、俺はどうしたもんかと溜息を吐いた。

『ねぇねぇ、ちょっといいかな?』

「ん?」

『そのピクシー・ダストなんすが……』

「ぴくしーだすと?」

とは何ぞやと俺は首を傾げるが、多分、このハーブソルトのことかと、一つ頷く。

「いる?」

掲げて見せれば、テオは感動したように口に手を当て、声をかけて来たチェリッシュはうんうんと頷いた。

「ん~、ま、いっか。食事のお礼と思えば」

普段から味の薄い滋味深いだけの食事をしているようだし、 刺激(スパイス) が欲しいのかもしれない。

なので構わず俺は、自分の持っていた器を差し出し、味見をさせてから彼らにハーブソルトをおすそ分けすることにした。

味覚が違うと困るからね。俺は旨いと思っても、彼らには微妙かもしれないし―――と、そう思っていたのはほんの一瞬でした。

まぁなんやかんやありまして。

俺の取り出したハーブソルトを彼らの器に一振りしてあげると、めっちゃ競い合うように食べ始めた。

飢えてたのかな?ってぐらいに。

多分だけど。「美味い!美味いぞー!!」的な台詞が飛び交っている気がする。

時折聞き取れる言葉を脳内で整理する。単語の範囲でしかないけれど、俺のハーブソルトは「ピクシー・ダスト」という、おそらく妖精の粉と呼んでいるっポイ。

おかしな夢を見たり、空が飛べる(物理)ような怪しい粉じゃないんだが。

喜んでいるから良いかということにした。

それよりも。もっと気になることが俺にはあった。というのも、先程この調味料を取り出そうとした際、リュックの中を開けてみたら、真っ暗闇が広がっていた。

暗闇というか、底が見えなかったんだけど。これってどういう現象なんだろうか?

某青い狸のような猫の腹にくっついているポケットのようになっていたとでも言うべきか。思わず焦ってしまったが、頭に浮かんだハーブソルトが直ぐに手に触れたから、平静を装うことができたけれど。

「……もしや、明晰夢では?」

夢の中で夢だと自覚すると、思い通りにコントロールできるっていうし。

何せ現実的ではない、非常に不可思議なことが俺に起きている事だけは判る。それだけしか判らんとも言うが。これが夢でなくて何と言うのか。神隠し的なナニカより、余程現実的である。

明晰夢かどうか確認するには、己の置かれている状況を理解し、認識の柔軟さを実感すればいいんだっけ?

「ふむ……?」

だがしかし。突飛な発想は止めておこう。

非現実的な体験中とはいえ、咄嗟に想像できることにも限界がある。

例えばこのリュックの中に、山菜の籠が入る―――入れられる―――と念じてみるとか?

「……まぁ、入るよね」

あっさりすっぽり入った。四次元リュックだからね。当たり前だね。

俺がそう思い込んでると叶うのが明晰夢というものだ。

「ん~……?」

他に取り出せる物はないか……。リュックの中に入っている物以外の、例えば山に置いてきた俺のソロキャン用テントとか。四次元に繋がってるなら、そういうのも取り出せないもんだろうか?それって取り寄せバッグだったっけ?

「わぁ……明晰夢すげぇ」

出て来たよ。愛用のオリーブ色のドーム型テントが。入れた覚えはないんだけどね。そもそも入らんし。マジで四次元ポケットみたいだわ。なんか面白くなってきたぞ。

それならばと、俺は調子に乗ってもう一つ持っているワンポールタイプのテントも出てくるかなと、脳裏に描いてリュックの中を探ってみた。

「うわぁお」

サンドカーキ色の、ドーム型テントよりちょっと良いお値段のワンポールテントが出て来た。

これ、コンパクトな割に2ルームタイプで、寝室とリビングスペースもあるし、出入りもしやすいんだよなぁ~。二人用にもできるけど、俺は専らソロキャンなので。タープとしても使用可能だし便利なのだ。

でも最近は専らオリーブちゃん(ドーム型テント)ばっかで、サンドちゃん(ワンポールテント)はお家でお留守番させてたけど。たまにはサンドちゃんも使ってあげようかな?

「ふむ」

となると、俺の脳内に浮かんだモノなら何でも出てくるとか?その可能性は高いぞ。

やべぇ、テンション上がって来た。

そうして俺は欲望ダダ洩れになって、10万以上するから諦めた、ハンティングヘキサよ出て来い!!と願ったのだがしかし。

「……うん。知ってた。想像力の欠如だよね」

残念ながらハンティングヘキサは出て来なかった。

四次元リュックの中で、俺の手が虚しくスカスカしてたわ。

そもそも愛用もクソもないしな。ネット画面で眺めてただけだし。私物ではないからか、何も掴めなかった。

でも夢なんだから出て来てくれてもいいじゃないかと俺は思うんだ。せめて夢の中で使い心地を試してみたかったんだよぉ……。

「この法則で行くと、俺の持ちモノならある程度出てくるとかかな?」

例えば、山の入り口にある駐車スペースに置いてきた、ホンダGB350こと、ハイネスちゃんは――――あるな。うん。グリップの触り心地がハイネスちゃんだわ。でもこれ引きずり出すのはヤバそうだから、確認だけにしておこう。ちょっと奥に入っててね~っと。

既にテントを二つも引きずり出しておいて今更ではあるけれど。

そうして俺は、思い出せる限りの愛用のキャンプ用品の数々を、リュックの中から出したり入れたりを繰り返していた。

それを呆然と見つめる、5人の目があるにも拘らず。

後々その行動についてくどくどと不用心極まりないと怒られることになるのだけれど。

この時は明晰夢だと思ってたし、妙にテンション上がってたんだもん。もうしないから許して欲しい。