軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第196話 新たなる女王の誕生

「あれ? 候補生がまた増えたっすよ?」

「ほんとだ。今までどこにいたんだろう?」

最後の卵である次代の女王となる卵の前に、ラクシュさんだけでなく今まで孵化場に居なかった候補生が付添人と共に現れた。

「あの方たちは女王竜のパートナー候補なのですわ。わたくしもラージャとエンゲージしなければ、きっと今頃あの場に立たされていたのですわ」

ファティナ王女様の解説によると、女王竜の主として相応しい候補生は別室で待機させられ、その時まで孵化場に立つことはないのだそうだ。

それは他の飛竜に選ばれることを防ぐ為でもあり、じっとこの瞬間を待っていた者たちである。

「でも、最後の卵なのよね?」

「そうですわ。でも、ここで選ばれなくても、女王竜の卵の候補生である栄誉が与えられますから……」

栄誉が与えられても選ばれなければ意味はなさそうだけどね。

何にしても上流階級の人たちって、こういう選民意識というか別格扱いされることに喜びを感じるから納得しているのだろう。

だがラクシュさんは今回が最後のチャンスだ。他の飛竜に選ばれる可能性を捨て、女王の卵のみに狙いを定めている覚悟がある。

だからなのか、どの候補生よりも完璧に仕上げられた衣装で挑んでいた。

「うわぁ……。あのベールのレース、ステキ~」

ラクシュさんの頭髪を覆う白っぽいレース状の頭巾を見て、チェリッシュがうっとりと呟く。

俺の家の居間と台所の仕切り口には、おばあちゃんの作ったレースの暖簾が掛けてあるけれど、それにデザインが似ていた。

透けるようで透けないあの微妙な感じが気に入っている。

渋めの紺色の暖簾も良いけど、おばあちゃんの手作りというところが良いのだ。

本人は全く料理が出来ない人で、勘とオリジナリティに溢れたポイズンクッキングをやらかしていたが、裁縫はプロ級だったんだよね。いや、プロだったかな?

俺と爺さんはそのおばあちゃんの気紛れポイズンクッキングに、何度も死ぬような目に遭わされていたっけ。懐かしくも恐ろしい思い出である。

「ラクシュさんの衣装、まるで花嫁のようね。散りばめられた宝石も、華美で派手にならないように抑えられていてとても上品だわ」

「生涯のパートナーとして選ばれるための衣装ですわね。どなたのデザインかしら?総レース仕様ですし、他の候補生が霞んで見えますわ」

デザイナーはアマル様の侍女さんですね。

普段はアマル様の衣装しか手掛けないらしいけど、今回は特別にシエラ王女様側の候補生の衣装を自ら作り上げてくれたそうだ。デザインはしても彼女自身は作成しないって意味なので、とても珍しいことなんだって。

お陰様でシエラ王女様側の候補生たちの半分以上が、侍女さんのデザインした衣装を気に入った飛竜の赤ちゃんに選ばれるという快挙を成し遂げているのだ。

流石に総取りとまではいかなかったけどね。七割以上はシエラ王女様側の候補生たちが竜騎士になれたのでよしとしよう。

「だがありゃぁ、アラバマ殿下が花婿みてぇだな。いつの間に着替えてきたんだ?」

「気合い入ってるっすね! ラクシュさんと対になるデザインすかね?」

「付添人もそれに相応しい衣装を着るのが伝統なのですわ。ただ、庶民はそうでもありませんけれど……」

予算の関係上という事情ですね。

しかし今回は違う。スポンサーがいるのだ。

「今回は庶民側も負けじと衣装に気合いが入ってるよ!」

「シエラ殿下やアマル殿下も協力して出資したからな」

「ふふふ。そのようですわね」

だがアラバマ殿下まで気合いを入れなくても良いと思うのだが。

とはいえ女王竜の卵の候補生とその付添人は、みんな素晴らしい衣装でこの場に挑んでいるようで、特におかしなことではない。普段のアラバマ殿下が農民に混じって質素な作業服やラフな格好をしているから珍しいだけだった。

「新作衣装のお披露目会のようだな」

「そうだねー」

朴念仁であるディエゴと俺は、妙なファッションショーを見せられている感覚でしかないので、感想もこんなもんである。

そうして卵の周りをぐるりと囲むように候補生と付添人が一周する。ラクシュさんを入れれば女王竜のパートナー候補は四人ってことかな? ファティナ王女様がいれば五人だったのだろうけど。

残りの候補生と違い、選ばれし者は一番近い位置で待機するようだ。

付添人は候補生所縁の者なのだろう。彼らは最後の励ましの言葉などをかけ合い、そうしてゆっくりと離れて行った。

同じように去り際にアラバマ殿下がラクシュさんを見つめ、それに応えるように彼女は綺麗な笑みを浮かべる。言葉ではなく気持ちを伝え合っているようだった。

こうして。どの飛竜の赤ちゃんにも選ばれなかった候補生と、本命の女王竜の卵一点に絞って挑む候補生たちが出そろった。

「そろそろか……」

「たぶんねー」

夕暮れから始まり、深夜にまで及んだ孵化の儀式が、夜明けと共に終わろうとしている。

洞窟内に、濃紺に微かな赤色が混じった薄紫色の朝焼けの光が差し込んできた。

五円玉色――――ではなく、朝焼けに照らされるように黄金色に輝いて見え始めた女王竜の卵が微かに動き始める。

誰かの喉がゴクリと鳴った。

いよいよだ。

固唾を吞んで見守る中。

気が付けば居なくなっていた新たに竜騎士になった者やその親族が、女王の誕生に居合わせようと集まってきていた。

だが誰も声を発することなく、静かに見守っている。

孵化場に残った候補生たちが、祈るように手を合わせ膝をつく。

だがその視線は閉じることも降ろされることもなく、黄金の卵に向けられていて、誰もが自分を選んでほしいと、見逃さないで欲しいと願っているのが判った。

ピシリと卵に皹が入る。それと同時に、岩棚で静かに見守っているだけだった女王竜と雌の竜たちが一斉に歌うように鳴き始めた。

励ますように、そして新たなる女王の誕生を慶ぶように。

その歌声に励まされるかのように遂に卵が割れ、頭頂部から可愛らしい黄金色の頭が飛び出す。

「ピュイーッ!!」

そうして甲高い鳴き声と共に、新たなる女王が顔を出した。

候補生たちの祈りが強くなる。

自分を選んでほしいという切なる願いが広がって、場の空気を緊張感で包み込む。

そんな切実な思いを一身に受けながら、朝焼けの光が眩しいのか、その光に少し目を細めた幼い女王は、まるで導かれるように視線を巡らして――――――俺を見た。

「え?」

コラコラ違う違う! こっちじゃなくソッチ!!

ラクシュさんの方を見るのだこのおっちょこちょい!

既にすき焼き串の匂いはリセット済みとして除去されている筈なのに、何でこっちを見た!?

首を傾げるな!

キョトンとするな!

可愛いけど!!

あああああああ!!

そのせいでまたみんなが一斉にこっちを見てるぅ~~~!!

感動のシーンが台無しだよ!!

なんでみんな「ダメだこりゃ」みたいな顔してんの!?

その気持ちは判るけれども!!

――――あ。向けられる視線が痛すぎて爆散しそう……。

シルバが慰めるように俺にすり寄り、ノワルはよしよしとその大きな羽で俺の頭を撫でた。

ブランカは――――手を叩いて喜ぶんじゃありません。シンバルを叩くサルみたいだぞ。

うん? シンバルを叩くサルで何か思い出しかけたけど、何だったっけ?

そんなことよりも俺に視線を向けたまま、うんしょうんしょと自分を包んでいる卵の殻を押しのけ始める幼い女王様。

選ばれたのは自分ではないと、諦めた候補生が次々とその場から遠ざかっていく。

だからなのか。完全に場の空気が白け始めていた。

朝日の差し込む洞窟内も白くなっているけどね!

ヤバイ。微妙な空気になって来た。

俺は空気の読める日本人である。

こんな時ぐらいは空気なんて読めなければいいのに、読めてしまうのが哀しい種族なのだ。

だから俺は必死に幼い女王様に目配せした。

違う違う。そうじゃない。君はこっちじゃない。あっちだよ!

脳内電波も駆使してラクシュさんを見ろとメッセージを飛ばす。

伝われこの思い!!

後で美味しいすき焼き串からデミドラゴンのステーキまで食べさせてあげるから、さっさとパートナーを選んでエンゲージを結びなさい!!

君に届け! この思い!!

「ピュイ?」

何かを感じ取ったのか、突然幼い女王様がラクシュさんの方を見た。

既に諦めかけていたのか、ポカンとした表情で幼い女王竜から向けられた視線に対面する。

そこには驚きや感動ではなく、困惑が滲んでいた。

「ワ、ワタクシ……で、宜しいのですか?」

「ピュイピュイ!」

うんうんと頷く幼き飛竜の女王様。

差し出されるその黄金の前足に、戸惑いつつも手を差し伸べるラクシュさん。

ゆっくりと二人の手が重なり合い、ファティナ王女様のエンゲージメントの時と同じく、バルス的な目が潰されるような輝きに包まれる。

唐突なエンゲージメントにゴーグルの着用も間に合わず、俺たちは目が潰された。

その瞬間。

なんか判らんけれども『アナタガイチバンキレーダカラ~。アッチハ、オイシソウナケハイガシタカラ~』という、幼い女王様の声が聞こえてきた気がした。

そうして。

本来ならば感動的なエンゲージメントシーンは、まばゆい光であるのに何処かちょっとだけ残念な空気と共に終了することになった。

余談だけれど。

物凄いエンゲージメントの光が洞窟内に広がって外にまで漏れていたので、事情を知らない人たちにとっては新たなる女王竜と、それに選ばれた新たなる竜騎士の誕生に沸いていたことをお知らせしておく。