軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第194話 孵化の感応

歌うように歓喜して咆哮を上げる飛竜たち。

孵化が始まった合図なのか、洞窟内に飛竜たちの鳴き声が響き渡った。

「カシム。貴様は早く候補生を整列させ、順番を決めろっ!」

「此度はシエラの候補生を優先させることになっているっ!」

「それでも隊長であるお前がいなければ、勝手なことを仕出かす愚か者が出てきて混乱するだろうがっ!」

「わ、判ったっ!」

「お兄様、わたくしも参ります!」

彼ら兄弟に続いて俺たちも孵化場へと走り出す。

以前案内されたトンネルのような通路を抜け、飛竜の卵がある孵化場に辿り着く。

そこには大勢の候補生たちが緊張した面持ちで立ち並んでいた。

既に陽は落ちかけ、外は薄暗くなりつつある。洞窟内に灯された灯りがオレンジ色に揺れ輝いて、儀式らしく厳かな空気を漂わせていた。

「リオン様方は、あちらですわ」

俺たちとは別に、アラバマ殿下とカシム王子様は孵化場へと向かって行く。

そうしてファティナ王女様の指し示す方を見れば、孵化の儀式に招待されたであろう人々が並ぶ席があった。

きっと候補生の親御さんたちや貴族だろう。

関係者以外の外国人招待客は俺たちだけのようだ。

王女様に案内されているのもあり、妙に視線を集めていた。

「こちらの席へどうぞですわ」

特別席が用意されていたのか、丁度俺たちスプリガンのメンバーが座れるだけの空間が開いている。(因みにグロリアストリオは招待されていないので途中で別れた)

観衆が固唾を飲んで孵化を見守る中、俺たちは促されるままにその席へと静かに着席した。

孵化場では到着したカシム王子様が、緊張している候補生に話しかけているシエラ王女様へ駆け寄っている姿が確認できた。

「シエラッ! 孵化の始まった卵の前へ、お前の隊の候補生を並べるんだっ!」

「カシム?! 随分と遅かったではないか、今まで何をやっていたのだ?」

「そんな事より、早くお前の隊の候補生を並べるのだ!」

「ほう、カシム《《兄上》》がその確約を守るとは思わなかったぞ?」

「ふん。お前に兄上と呼ばれるのは少々気持ちが悪いが、約束は約束だからな」

今回は冒険者たちのフェスバトルで勝利したシエラ王女様の候補生が優先される。

その約束通り、カシム王子様が揺れ動き始めた卵の前に、シエラ王女様の候補生を整列させるように指示した。

「まずはあの卵の前へ!」

グラグラと動き始めた卵の前へ、幾人かの候補生を進ませる。

見ればシエラ王女様側の候補生たちはみな、薄絹を幾重にも巻いた色鮮やかな衣装に身を包んでいた。

カシム王子側の候補生の衣装に負けず劣らず派手である。

以前は粗末な生成りの普段着だったそうなので、シエラ王女様というかアマル様の侍女さんが頑張ったようだ。相変わらずどこかサヘールの民族衣装と浴衣が合体したっぽいデザインなのは不問に処す。

祈るような気持ちで候補生が卵の前に並ぶと、揺れていた卵にヒビが入った。

比較的小さい卵から孵化が始まるようだ。候補生も小柄な者が選ばれているのか、大きな体躯の候補生はその後ろに下がっていた。

パキリと音がして、割れた卵から飛竜の赤ちゃんが顔を出す。

「ピュイーッ!」

高らかに一声鳴くと、飛竜の赤ちゃんは何故か俺たちの方を見た。

「あの飛竜の子、こっちの方見てねぇっすか?」

「……見てるな」

「まさか、こっちに来ねぇよな?」

「ねぇねぇ、もしかしてリオっちを見てない?」

「ファティナ殿下を見ているのかもしれないわよ?」

「いえ、わたくしは既に従魔と契約しているので、それはないかと……」

こっち見んなし。生まれ立てなのに鼻が良いな。

さっきまですき焼き串を焼いていた所為か、野郎ども全員にその匂いが染みついているのだろう。その匂いを嗅ぎつけて、こちらを向いたに違いない。

並ぶ候補生たちも自分を見ることなく、殻を破って真っ先に観覧席へと意識を向けている赤ちゃん飛竜に戸惑いを隠せないようだ。

俺は飛竜の赤ちゃんに、候補生へと意識を向けるよう心の中で念じる。

お腹が空いているのだろうが、ご飯を食べたければ早く主人を見つけなさい。

好みの色でも宝石でも構わないから選べ。食い気より先に好みの候補生を見つけることが先決である。食事はその後だ。

「あ、やっと候補生に意識を向けたようだぜ?」

「なんだ。勘違いっすか……」

「びっくりした~。こっちに走ってきそうな雰囲気だったよね?」

こっちに走ってきたら俺は真っ先に逃げるよ。

踏み潰されてはたまったものではない。もしくは頭からパクリと齧られるかもしれない危険性もある。

聞くところによれば、極たま~に候補生を無視して観覧席の人間に向かってくる赤ちゃん飛竜もいるのだとか。

好みの風属性持ちの人間であれば構わないって感じかな?

竜騎士として訓練してない人間を主人に選ぶ変わった仔もいない訳ではないので、走って来ても大丈夫なように観覧席は屈強な竜騎士が守っているけどね。

「どうやら無事にシエラ王女様側の候補生を主人に選んだようだな」

「そうだねー」

俺からの念が届いたのだろう。焦ったようにキョトキョト辺りを見渡し、漸く好みの主人を見つけた赤ちゃん飛竜が駆け寄っていく。

周りの候補生も自分ではないと瞬間的に悟ったのか、選ばれた候補生のためにその場から立ち退いた。

そうして結ばれる 契約(エンゲージメント) 。

淡い光に包まれて、抱き締め合う候補生と飛竜の赤ちゃん。感動のシーンだ。

新たな竜騎士の誕生に沸く観衆。

羨ましそうな候補生たちに見守られながら、一番乗りでパートナーとなった互いの絆を確かめ合っている。

その前にちょっとおかしな間が開いたのはご愛敬だ。

「さぁ、最初の竜騎士が選ばれた! だがまだ残りの卵はある! 割れ始めた卵の前に候補生は並べ!」

見届け人の役目を担っている竜騎士が、孵化しそうな卵の前へと候補生を次々と押し出していく。主にシエラ王女様側の候補生だけど、漏れなく彼らが選ばれているようだ。

やっぱ見た目って重要だよね。髪も肌も整えられ、美しく着飾ったことで赤ちゃんたちも迷うことなくシエラ王女様側の候補生たちを選んでいた。

なのである程度作戦は成功したと見ていいだろう。

カシム王子様側の候補生は悔しそうだけど仕方がないね。だってフェスバトルで勝利したのはシエラ王女様側だもん。

「選ばれた者は餌場へ急げ!」

「生まれたばかりの飛竜は腹を空かしているからな!」

「食わせ過ぎないよう気を付けるんだぞ!」

あちこちで卵が割れ始め、孵化場は騒然とし始める。

厳かな雰囲気を想像していたのだが、実際の現場はなんか違った。

卵を取り囲む候補生は、初売りやバーゲンセールで目当ての品物に群がる買い物客のようである。

商品を手に取る客なのに、商品から選ばれるのを待っているだけだけどね。

それにしても。

「しっかし、何で一々こっちを見るんだろうな?」

ギガンの言うように、卵が割れて頭を出した赤ちゃん飛竜は、何故かみな一様にこちらを見るのだ。

その理由をディエゴに説明してもらうことにする。

「リオン曰く、俺たちが良い匂いを振りまいてるせいだそうだ」

「……そう言われれば、アンタたちから美味しそうな匂いがするわ」

「ほんとだ。すき焼き串の匂いが染みついてるよ~」

「マジっすか!?」

「ヤッベ、マジかよ?」

クンクンと自分たちの匂いを嗅ぐテオとギガン。長いこと焼き場に居ると、染みついた匂いが気にならなくなるもんねぇ。

「うっわマジだ……」

「自分じゃ気付かないもんなんすねぇ」

香ばしくあまじょっぱいすき焼きの匂いが食欲を刺激するのは仕方がない。

特に生まれ立てでお腹が空いている飛竜の赤ちゃんにとってはたまらないだろう。

だが卵から孵るたびに、匂いに釣られてこちらを見る飛竜の赤ちゃんに何度も念を飛ばし続けるのは疲れる。

正しく俺の念を受け取っているかどうかは判らないけれど、俺が首を振るとスゴスゴと主人を見つけて歩み寄っていくのだ。

突進して候補生にケガをさせることがないから良いのだけれど。候補生を見るより先に、匂いに釣られて俺たちを最初に認識するからおかしなことになっていた。

そんなことが何度も続くからか。

観覧席に座っている周りの人も、見届け人である竜騎士も、そして候補生も奇妙な表情で俺を見るじゃないか。

完全に候補生以上の逸材がココに居るのか!? みたいな表情を向けている。

シエラ王女様も俺を見て瞳を輝かせるな。俺が飛竜に選ばれることは万が一にも億が一もないよ。何なら不可思議レベルでその可能性はない。

それ完全に勘違いだから。単純に匂いに釣られているだけだからね。

人間よりも嗅覚が鋭い魔獣だから、遠くにいる俺たちの美味しそうな匂いに気付いただけである。

美味しそうな匂いを振りまいているのは俺だけじゃなく、ギガンにディエゴにテオだっているんだぞ。

なのに飛竜の赤ちゃんは何故真っ先に俺を見るのだ。

主人に選ばれたのかもと勘違いする以前に、瞳を輝かせて涎を垂らしそうな表情に見えるからとても迷惑なんだよ!

確かに俺が一番すき焼き串を焼いていたけれども!

それとも『オレサマ オマエ マルカジリ』とか思っているんじゃないだろうな?

「あ、あの、リオン様の匂いですが、とても香しいと思いますの!」

ファティナ王女様が気遣ってくれた。でもそんなフォローになっていない慰めはいらないんですけれどー!

候補生から竜騎士となり、己のパートナーを連れて孵化場から立ち去っていく。

これからお腹を空かせた飛竜の赤ちゃんに食事をさせるのだろう。

だがその飛竜の赤ちゃんが、俺たちにちらちら視線を投げて出ていくのだが。

その口元を見ればどう見ても涎を垂らしてます。

勘弁してください。

頼むから食べ物と勘違いして襲い掛かって来ませんようにと、俺は別の意味でドキドキしながらそれを見送るのであった。