軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第169話 恋人たちの石

飛竜の住処は、岩壁をくり抜いた洞窟のような場所だった。

ぐるりと見渡すと洞窟内には幾つものくぼんだ穴があり、アルコーブベッドのような寝床に何頭かの飛竜が入って休んでいるようだ。

俺の秘密の小部屋にもアルコーブベッドを作ってもらったっけ。何か妙に落ち着くし、ロフトとはまた違った秘密基地っぽさがあって良いよね。

「ここが飛竜たちの寝床じゃ」

「ひろいねー」

飛竜の出入りする入口は間口が広く、外の光が洞窟内に差し込んで薄青く照らされていた。

巨大な飛竜を休ませる場所としては最適な広さなのだろう。これぐらいの規模の洞窟でもなければ、飛竜を休ませる場所が提供できないのも理解できる。

一般のテイマーに飛竜などの大型の魔物を従魔にしている人がいないのも、食事代だけでなくこういった場所がないからだろう。

「そしてこの奥に孵化場があるのじゃ。そこでは雌の飛竜が自分の卵を見守っておってな。わらわの飛竜であるラールもそこにおる」

ということは卵を産んだってことかな?

「わらわのラールはまだ卵は産んでおらんぞ。雌の飛竜が交代で卵を見守るのが習性なのじゃ。そして雄は雌の為に食事を運ぶのが仕事じゃ」

「へぇ~」

ということは、厨房の窓から中を覗いていたのは全部雄だったのか。

匂いに釣られて第一王子側の飛竜もちらほらいたらしいけど、もしかして美味しそうなご飯を運んであげようとしていたのかな?

雌の気を引くためには美味しいご飯の方が良いもんね。

「飛竜の群れのボスは一番大きな雌がなる、所謂女王制なのじゃ」

シエラ王女様の飛竜は現女王ではなく、次代の女王様ってことか。そして一番大きいとさり気なく自慢してらっしゃる。

興味はなかったけれど、詳しく話を聞くと中々面白いものだね。

飛竜の群れは女王が統率していて、現在は第一王子側の女王竜が群れのリーダーなんだけど、かなりの老齢で今回の産卵が最後らしい。

「じゃが此度の卵の中に女王の卵があってな。それがカシム側の者に渡ると厄介なことになりそうなのじゃ」

「じょおうのたまご?」

「うむ。数年から数十年に一度、次代の女王として産み落とされる、巨大な女王の卵があり、わらわのラースもその一つだったのじゃ」

女王候補として群れには通常、二~三頭ほどの飛竜の王女様がいる。

その中で一番大きな雌が女王になるので、シエラ王女様のラースが次の女王竜になるだろうという話だった。

だがそれに異を唱えているのが第一王子側で、二番目に大きな王女竜がカシム王子の飛竜なんだって。

飛竜が雄でも雌でも、選ぶ人間の性別は関係ないようだ。

というか、飛竜は雄より雌が強い個体なのかな? 生き物の中には、時々雌の方が雄より強い種類があるし、多分飛竜もその類なのだろう。

「カシムが妙な余裕をかましておるのは、女王竜があちら側に存在しておるからこそじゃ。しかも産卵した飛竜も向こうが多いのもあって、まず女王の卵の前に並ぶ順番もあちらが先なのじゃ……」

なんかよく判らないけど、今回の孵化の儀式で飛竜の卵から生まれる仔竜を従魔に出来る優先権があるのが、第一王子側ってことでいいのかな?

女王竜や王女竜を多く抱えていることが有利な条件ってことか。

あちらは女王竜一頭と王女竜二頭、翻ってシエラ王女様側は王女竜のラース一頭。確かにこれじゃ勝ち目はない。

飛竜にとっては人間の事情なんて関係ないらしいけれど。

「女王の卵にカシム側の候補生が選ばれなければ、シエラの候補生にも順番が回ってくるであろうがな」

「ラース以外の女王竜候補は、全てカシム側じゃからな……」

「他の女王竜候補は既に何度か産卵しているだけに、ラースは身体がデカイだけの扱いになりそうだな」

「ぐぬぬ……。わらわのラースはまだ若いから仕方がないのじゃ……」

え~っと。シエラ王女様とアラバマ殿下の説明を頭の中で整理すると。

孵化場にある卵に女王の卵があるのは理解した。それが数年から数十年に一個だけ生まれる希少なもので、今回はそれがある訳だ。

主人を選ぶのは飛竜なので、そこは人間側はどうすることも出来ない。

しかしお見合いでのアピールタイムの優先権が与えられるのは、女王候補が沢山卵を産んだ側にある。だから第一王子側が常に有利だった。

そのせいでシエラ王女様側の候補生たちは、第一王子側を選ばなかったちょっと変わり者というか、残った僅かな仔竜と感応していたってことだ。

残り物には福があるとは言うけれど、残らなければ回ってこない福でもある。

オーケー。何となく把握した。

「此度の女王の卵をこちらが感応できれば、二対二となる。じゃからどうしても負けられぬのじゃ!」

「なるほどね」

シエラ王女様の竜騎士隊は実力があっても、頭数は第一王子側の方が多い。彼らが好き放題に威張り散らかしているのも、権力だけでなく数で優っているからなんだろうね。

「じゃがわらわがラースに選ばれた時は、それはもう嬉しくてのう! 心が震えるというのは正にあのようなことを言うのじゃな!」

「候補生の中でお主が一番デカくて目立っておったからだろう。あの巨体が一直線に飛び掛かって来たのを受け止められるのも、シエラだからだったしな」

「うむ。他の候補生のように無様に倒れる訳にはいかぬ。ましてや生まれたての仔竜に踏み潰されるなど、竜騎士として恥でしかないわ。カシムの奴など偉そうにほざきながら、無様に引っ繰り返っておったぞ!」

「……そういう意味ではないが、まぁ、そんなことはどうでもよい。そろそろ孵化場に着くぞ」

アーチ状にくり抜かれた通路を通り抜けると、孵化場である地熱を利用した円形状の産卵場所に辿り着く。ほんのりと温かな砂場には、いくつかの卵が半分ほど埋まっている状態で鎮座していた。

飛竜の寝床のように、ここにもアルコーブベッドのように壁がくり抜かれていて、そこには数体の飛竜が収まっており、卵を見下ろすように見守っている。

見守っているというより、卵が奪われないように見張っているのだろうけれど。

そして教えられなくても一際巨大な卵が中央にあり、きっとあれが女王の卵なのだろうことが判った。

殆どの飛竜の卵は俺ぐらいの大きさで、女王の卵はそれよりも二回り程大きい。殻はほんのりと金色っぽく輝いて見え、やたらと目立っていた。

他の卵は青銅色で十円玉みたいな色で、女王の卵は奇麗な五円玉色って感じ?

『情緒も何もない例えですね』

「……」

俺に感受性を求めないでほしい。

豊かな表現よりも的確さを重要視しているのだから。

しかしほんと大きいなこの卵。

これって、オムレツ何人前分ぐらいあるだろうか?

『マスター。卵だからと言って、もしや食べようなどと考えてはいませんよね?』

「……」

日本人は卵を前にすると、大きさで何人前か程度は軽く想像するんだよ!

そして様々な卵料理を思い浮かべたりするのは最早習性でもあるのだ。

ノワルだって横で食べたそうにしているしね! シルバは良い子なのでそんなことは考えてなさそうだけど。

「ふぬ? 何やら卵が少し動いたような気がするが、気のせいじゃろうか?」

『マスターの食い意地に反応して、恐怖で震えたのかもしれませんね?』

「……」

「そろそろ孵化しかけているだけだろう?」

「そうじゃな。にしては、全てが一斉に動いた気がしたような?」

「どのくらいで孵化しそうなのですか?」

「数日中と言いたいところじゃが――――おお、ラースがこちらに気付いてやってきたようじゃぞ」

「――――え?」

もしや俺が卵を前にオムライスを想像したのに気付いて、警戒して文句を言いに来たのかとビビっていると、黄銅色の巨大な飛竜が目の前に静かに舞い降りてきた。

「紹介しよう。これがわらわのパートナーである、ラースじゃ」

ピュイー! という甲高い鳴き声で、俺に向かって吠えた。

すごく……大きい……です―――――っていうか、想像よりも静かに飛ぶんだね。砂場なのに砂があんまり舞い上がってこないや。

「飛竜は風属性だからか、魔力で風圧をコントロールしているのだろうな」

俺が不思議そうな顔をしているのを見て察したのか、親切にも解説をしてくれてありがとうディエゴお兄ちゃん。

俺の畑に墜落してくる飛竜は見てない時にやってくるから、実際にこうして優雅に着地してる姿を見るのは初めてなんだよ。

「ふむふむ。どうやら礼が言いたいそうじゃ。食事の改善を提案してくれたので、非常に喜んでおるみたいじゃぞ」

「あ、そうなんだ」

にゃんリンガルを見てシエラ王女様が飛竜の本音を教えてくれた。

良かった。俺の脳内オムライスが伝わったのかと思って焦っちゃったんだぜ。

「いやいや、この者は候補生ではなく、アルケミストじゃ」

ピュイピュイと鳴いているラースに、シエラ王女様が応えている。にゃんリンガルを活用して会話することを楽しんでいらっしゃるようだ。

飛竜も気持ちが伝わるのが嬉しいのか、おしゃべりに花が咲いているような気がする。やはりそこは女の子なのかな? 楽しそうにガールズトークをしているみたいな感じである。

それにしても見た目に反して可愛い声だね。

「うむうむ。わらわの怪我の治療にも大いに貢献してくれた者であるぞ」

にゃんリンガルの表示を確認しながらだから、ちょっと面倒な会話だな。

本音翻訳機で意思の疎通ができるのは良いけれど、召喚士と違って念波で意思の疎通ができないから仕方がないんだろうけど。テイマーの会話って何となくって感じらしいし。

従魔は赤ちゃんの頃から人間に慣れさせているから、主人の言葉自体は理解しているそうだけれど、人間側は魔獣の言葉を理解しないからね。声音や仕草でしか気持ちが判んないんだって。それはもどかしいだろうな。

アラバマ殿下も召喚士にジョブチェンジするまでは、にゃんリンガルを欲しがってたし。

一つしかないにゃんリンガルだから、持っている人にしか判らないんだよなぁ。

今後のことも考えて、他の飛竜の本音を知りたいのだが。

基本的に従魔は主人以外の他のテイマーには愛想が良くない。なので現状シエラ王女様のラースの本音しか判らなかった。

他の人ににゃんリンガルの貸し出しはしたくないしね。

もっと良い方法はないものか……。

「ふむ?」

確か思いを伝えるパワーストーンがあったような?

それを持ってたらにゃんリンガルがなくても会話ができるかもしれない。

テイマーと従魔の間で信頼関係が強ければ会話できる物があれば便利だよね。

信頼や愛情がなければ意思の疎通ができないかもだけど。

「これつかってみて」

試しにムーンストーンをリュックから取り出す。

「ぬ? なんじゃこの石は?」

「ほんやくいし?」

月の光を宿した神秘的な石で、お守りとしての効果もある。別名『恋人たちの石』と呼ばれていて、パートナーとの絆を深めてくれるのだ。

と言ったことをディエゴに説明してもらって渡した。

「カーバンクルに負けず劣らず、貴様は色々な石を持っておるな」

「まーね」

石拾いは子供の頃からの趣味だし。

撫でて良し、投げて良し、飾って良しと、石って夫々に違いがあって不思議な魅力があるんだよね。ツルツルして触り心地の良い石は特に好きなんだよな~。

そしてこれは月光のような輝きを放つブルームーンストーンである。

ムーンストーンじゃない似たような石は結構あって、ペリステライトやラブラドライトとよく混同されているので注意が必要だけれど。

「この魔道具がなくとも、この石を持っておれば会話が出来るかもしれぬのか?」

「かもしれない」

可能性は無きにしも非ず。大切なのは互いの絆と愛情である。

そして信じる心がパワーストーンには必要なのだ。

「こ、これを持っておれば、魔道具がなくとも従魔と通じ合えるのじゃな?」

「かもしれない」

シエラ王女様側の竜騎士たちは自分のパートナーを大切にしているらしいから、この石を持つことでひょっとしたらひょっとするかもね。

あくまでも「かもしれない」なので、信じる強さにかかっていると言っても過言ではないだろう。

だからシエラ王女様自身で実験――――ではなく、試してみてはどうだろうか?

会話が出来なくとも、孵化の感応の儀式で候補生全員にムーンストーンを持たせておけば、『幸運・希望・恋の予感』の効果によって、引き寄せの法則が発動するかもしれないからね!