軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第122話 乗りかかった舟だからね

「随分とさっぱりしたな」

グロリアス軍団のお陰で、思った以上に早く雑草を駆除できた温室の手入れをしていると、ふらりとアマル様が現れた。

他には今まで何度かラヴィアンのハーレムメンバーが邪魔しに来ようとして、軍団に阻まれて温室まで辿り着けなかったのだが。流石にアマル様はこの船のオーナーでありキャラバンの隊長なので、すんなり通されたようだ。

「こんにちわ?」

「ああ。先日は美味い物をありがとう」

「どういたしましてー」

お口に合ったようで良かったです。

この温室も使わせてくれてありがとうございます。

雑草に紛れて、色々な薬草が沢山あって面白いよ。

という意味の笑みを浮かべ、俺はぺこりとお辞儀した。

「シュテルから聞いたが、そなたアルケミストだそうだな」

「らしいねー」

「まぁっ! アマル様に向かってそん――――」

「さぁさぁ、侍女さんはあちらで私たちとガールズトークをしましょう!」

「リオっちの作った美味しい焼き菓子もあるんだよー!」

アマンダ姉さんとチェリッシュが、付き添っていた侍女さんを拉致して、温室の中央に設置した休憩スペースへと連行して行った。

「焼き菓子? では、私もいただこうか」

ところがアマル様は焼き菓子というキーワードに反応してついて行こうとする。

どこまで食いしん坊なのだこの人は。

「アマルさまはこっちねー」

貴重なアマル様とのトークを邪魔されないよう、気を利かせて侍女さんを排除してくれた女性陣の為に、俺はリュックからふわふわのシフォンケーキを取り出した。

それを見たアマル様はシフォンケーキに視線が向き足を止めた。

ケーキのお皿を左右に移動させると視線も一緒に動く。面白いのでしばらくゆらゆらさせていると、ギガンに取り上げられてしまった。

アマル様ってなんていうか、猫っぽいから面白くて……ごめんなさい。

「これは何というのだ?」

「シフォンケーキだよ」

炊飯器で作れる簡単ケーキである。

魔道具化した電化製品は、俺の料理作りにとても役立っていた。

「ちょうどいいから、きゅーけいしよー」

暇に飽かせて作っていた傷薬を含むポーションの制作を中断して、テオに頼んで、見張り役をしている軍団さんにもおやつを渡してもらう。

二~三人ずつ交代で甲板の入り口に待機してもらっているのだ。

それ以外の暇な他のメンバーは、船内をぶらぶらしながら、他のクランの様子を報告してくれるのでとてもありがたいよね。(ご褒美目当てだろうけど)

どうやらグロリアス軍団は、俺の作る料理に味をしめちゃった感じなのだが、これは餌付けになるのだろうか?

そんなつもりはなかったんだけど、屈強な番犬が増えたと思えばいいかな。

ところでアマル様は何故ここに来たのかな?

シュテルさんからある程度事情を聞きだしたことを咎めに来たような気配はしないんだけど、一度ちゃんと本人の口から聞きたかったんだよね。

ということで、話しやすいように場を整えよう。

俺はリュックから必要な物をポイポイと取り出し始めた。

こちらから声をかけるのは失礼らしいので控えていたが、せっかく向こうから声をかけてくれたのだ。逃がさないようにしなければ。

貴族の優雅な午後の一時ではないが、整いつつある温室はジャングルから植物園っぽく様変わりして、ちょっとしたお茶会の場に相応しくなっているからね。

「どうぞ、めしあがれー」

瞬く間に用意されたテーブルやイス、そしてティーセットに目をまん丸くして驚いたような表情をして。

それでもフッと笑みを浮かべると、アマル様は促されるままに優雅にセッティングされた椅子に座った。

「これは、どのように食べるのだ?」

シンプルなシフォンケーキを見て、アマル様が問われる。

それにギガンたちは慣れないながらも、あれこれと世話を焼き始めた。

「この生クリームをかけると美味いぜ」

「ジャムもある。好きなものを選ぶと良い」

「紅茶とコーヒーどっちが良いっすか?」

慇懃な態度こそないけれど、自然に対応するみんなにアマル様も身体の力が抜けたのか、促されるままにケーキを食べた。

「……うまいな」

シフォンケーキに生クリームとジャムをたっぷり乗せたアマル様は、無表情ながらとても嬉しそうである。

高貴な方って、あんまり感情を表に出してはいけないのかな? 少しでも隙を見せれば、付け込まれちゃうからだろうけど。

食べ物で釣られている時点で、それは失敗していると思うんだけどね。

「そなたらだから、よいのだ」

あ、思っていたことを察せられてしまったようだ。

「毒が入っていない食べ物であることは、判っているしな」

そうして優雅に紅茶を飲んで、ふうと一息つくと、アマル様はガールズトーク中(無理矢理)の侍女さんへちらりと視線をやった。

「アレも悪気はない。私のことを考えて、あえて憎まれ役をしているのだ」

「きにしてないよー」

「ならばよい」

そうして俺たちは、アマル様がここへ詫びに来たということを知った。

「事情はシュテルから聞き出したそうだな」

「まぁ、大体のところは」

「信用できる者が少なくてな。申し訳ないと思いつつも、この度はシュテルの案に乗ってしまったのだ」

シュテルさんを捕獲した際、拷問がてら尋問しまくったので、アマル様の事情とやらは知っている。

ある程度予想はしていたけど、高貴は高貴でもなんとアマル様は、サヘール国の第三王子様であらせられるらしい。そして数ヶ月前までは第五王子様だったとのこと。

どういうことかというと、上の兄王子様が次々と不審死したので、第三王子に繰り上がったのだそうだ。

王族(封建制度)あるあるみたいな感じだが、リアルタイムでお命を狙われているお立場であった。

三番目の王子様だから命を狙われる心配がないだろうって?

実はそう簡単な話ではない。

普通なら第一王子に王位継承権が与えられると思いがちだが、サヘールは実力至上主義なので、男女共に継承する資格がある。

要するに、正室だろうが側室だろうが、産まれた子供が優秀であれば王位につけるらしいのだ。

封建制度の場合、統治者がアホでバカだと国が亡ぶからね。

しかし何でこんな面倒なことをしてまで、俺たちを巻き込んだのか。

シュテルさんをとっ捕まえて、絞り上げた際に聞き出した事情を思い出す。

とはいえ詳しい話は、殆どギルベルトさんやランドルさんから聞き出したんだけどねー。

あの二人もどうせいつかはバレることだからと、シュテルさんがお仕置きされるのを見た後、隠すことなくあっさりゲロってくれたのである。

「アマル様ご自身、商団の隊長で満足されておりますが、その優秀さから王太子に選ばれる可能性があるのです。しかしアマル様は姉上である第一王女に王位を継いで頂きたいとお考えになっておりまして……」

「しかしながらアマル様が商船で交易中に、第一王女様がナベリウス討伐の最中、負傷されたと連絡を受けたのです」

腕や脚を欠損するケガを負ったそうで、現在も深刻な状態らしい。

命が助かったとはいえ、王位を継承するには五体満足でなければならない決まりがある。

為政者は完璧でなくてはならない為、身体の欠損という大怪我を負った第一王女はその候補から外れた。

なので暗殺の危機から免れたとはいえ、その大怪我を負う原因となったのも、おそらく他の王太子候補の勢力であることは間違いない。

こういった内部情報は、商団ならではの通信魔道具で知らされたそうだ。

「その為、一刻も早くディエゴさんがお売りになった、アースドラゴンの骨から抽出された治療薬を運ぶ必要があるのですよ」

アースドラゴンの骨を、何故サヘール(アマル様)が超高額で購入したのかが判明した。

そしてディエゴが魔動車の購入をする際、実は魔動船が買いたかったというのを知っていたシュテルさんが、魔動船を格安で売りに出すからどうだと持ち掛けたのも、こういった話の流れがあったからのようだ。

商人という生き物は、色んなところに聞き耳を立てるよね。だから情報も沢山もっているんだろうけれど。それを上手いこと隠しながら、俺たちに都合のいい部分だけを抜き出して伝えてくるんだから、質が悪いんだよなー。

中古の魔動船を売りに出すという話も、高ランクの冒険者を集めるためのエサだったらしい。とはいえ中古の魔動船を売るという話は本当で、アマル様は他国の王族や貴族、大手の商会に話を持ち掛けようとしていた。

だがそれは、お姉さんの第一王女様が怪我をする前の話である。

そこへシュテルさんが、いっそのことお金を持っている高ランクの冒険者パーティで構成されているクランへ持ちかけてはどうかとアマル様に提案したのだそうだ。

「我々は反対したのですが、貴族や他の商会が買うより、武装集団である冒険者を搔き集めるのに一役買うからと言い張りまして」

「どうせ討伐依頼をするのだから、役に立たない貴族や商人を魔動船に乗せても邪魔になるだろうと言い張りまして」

確かに戦力にならない貴族や商人を乗せても、逆に守らなくてはならない立場上、面倒事は避けたいと考えるだろうけれどね。

「私は手っ取り早く冒険者を集めるべく、け、決して他の商会や貴族が、魔動船を購入するのを邪魔したかったのではあああああああああっ!!」

はい嘘~。邪魔したかっただけということが判明して、シュテルさんは電気ビリビリ攻撃を受けた。

「アマル様はまんまとその提案に乗せられただけです」

「あの方は単純に、合理的に考えた結果だと思われますので」

シュテルさんが電気ビリビリ攻撃によって撃沈している姿を見ながら、ギルベルトさんとランドルさんはそう締め括った。

まぁ、色々と複雑な事情はあるみたいだけれど、纏めると以下の通りである。

アマル様の姉君である第一王女様は、弟の航路の邪魔となるナベリウスを討伐しようとして大怪我を負った。

その怪我の治療薬を運ばなければならない商船は、討伐に失敗したナベリウスに航路を邪魔され辿り着けそうにない。しかも王女様が大怪我を負ったのを理由に、サヘール側はナベリウスの討伐を躊躇しているそうだ。

それも本当かどうか判らないし、王太子候補であるアマル様が戻れないよう邪魔をしているとも考えられる。

飛竜程度なら撃退できても、戦力の乏しい魔動船は、ナベリウスを討伐できる実力を持った冒険者を連れ出す必要があった。

とはいえ高ランクの魔物の討伐依頼を出しても集まるまでに時間がかかる。

対岸の火事でしかない遠い国の魔物の討伐依頼だ。強制依頼を出しても引き受けてくれる冒険者が揃うまで早くて半年、下手したら塩漬け案件となる。

しかもシュテルさんが既にスプリガンに強制依頼をしているのもあって、他の冒険者も既に強制依頼を熟した後だった。

そこで魔動船の購入希望者を募り試乗という形で連れ出そうというシュテルさんの提案に、姉王女様を一刻も早く助けたいと焦ったアマル様は、乗っかっちゃったっていう訳だ。

そこで次いでとばかりにシュテルさんは、どこにも所属していないであろう俺たちスプリガンをお勧めしたらしい。俺たちの了承も得ずに。

まぁ、ディエゴが人外七ツ星だから、保険として加えておく方が安心なのは判るんだけどね。出来れば相談をして欲しかったよ。断る確率の方が高いけど。

色々と思うところはあれど、乗りかかった舟というか既に乗っちゃった魔動船である。複雑な事情に巻き込まれて迷惑だと思えば、下船するチャンスはあるのだ。

だがしかし、ナベリウス自体はいつか討伐しなければならない訳で。

何せサヘールのキャラバンがなければ、大量に消費される魔晶石や、希少な香辛料、様々な品物などが手に入らなくなる。

どうせその内強制依頼が発動すると考えれば、まだそこまで繁殖力を増していない今のうちに討伐した方が良いだろう。

こうして。

電気ビリビリ嘘発見器のお陰で、嘘を吐いていないことが判るのもあり、大体の事情は聞き出せた。

そしてみんなで話し合った末、俺たちはナベリウス討伐までは付き合うことにしたのである。万が一に備えて、ディエゴ作のデバフアイテムもあるしね!

「このような形で、冒険者を集めることになって、申し訳ないと思う」

自分の兄弟ですら信用できないなんて、貴族も大変だね。

アマル様は王族だから更に大変なんだろうけど。こうしてわざわざ詫びを入れに来たってことは、誠実な人なのだろう。

貴族が平民に頭を下げるなんて、普通じゃできないことだからね。

「冒険者だって信用ならねぇだろう?」

「兄上の息が掛かっていない者は、他国の冒険者ぐらいしかいないのだ。姉上の為にも、私はいかなる手段をもってしても、生きて自国へ戻らねばならん」

だからシュテルさんの護衛である、ランドルさんとギルベルトさんが付き添っていたってことかな?

そして幼少の頃から身の回りの世話をしてくれている、乳兄妹である侍女さんぐらいしか側に置けないのだそうだ。そんな侍女さんもかなりお強いらしいよ。

「あ。そうだ」

周りが信用できないというアマル様に、戦闘力のない俺でも何か協力できることはないかなと考えたところ。ちょうど良いモノを持っていることに気付いた。

「てれれってれー」

嘘発見器~。

「リオン、おまっ、それは……っ!」

「シュテル氏に使った例の奴か?」

「電撃ビリビリ拷問魔道具っすね!」

シュテルさんのような商人を頼るしかないまでに、周りが信用できない程追い詰められているアマル様が可哀想なので、この魔道具を貸してあげよう。

「それは、なんだ?」

「うそはっけんきー」

スパイや裏切り者を根こそぎ炙り出せる魔道具だよ。

使い方は簡単。嘘を吐けば電気ビリビリ攻撃を受けるので、敵や味方を判断するには打ってつけである。経験者的には電撃なのだそうで。浮気するとお仕置きを食らわせる宇宙人の女の子みたいな感じの威力かな?

拒否ったらそれすなわち裏切り者ってことだしねー。うはははは!

「シュテルさんでじっけんしよー」

既に実験済みではあるが、アマル様にご覧になって頂きたいので、再びのお仕置きとしてシュテルさんでその効果を実感してもらおう。

この魔道具に物凄ーく興味を持ってたし、また触れるから本人も喜ぶに違いない。

自分に使われるのは恐怖でしかないだろうけどね。

「流石は妖精、容赦ないっすね」

「これでシュテル氏も懲りるだろう」

「懲りればいいんだがな……」

多分懲りないと思うけどね!

だってシュテルさんだから!

その分躊躇うことなくお仕置きが出来るので、それはそれでいいのだ。