軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第100話 這いよる海の旧支配者?

網の上でハマグリが熱せられて、パカリと口を開く。

そこに醤油を垂らすと、ジュワッと良い音を立てて、香ばしい匂いが立ち込めた。

「俺、貝ってのを食べるの初めてっすけど、マジ美味いっす!」

「潮汁ってのも、おいしぃ~い! 海って美味しいものが一杯あるんだね!」

島国や海辺で育っていないと、海を見る機会もないしね。

大人組は海を見たこともあるし、ある程度の知識はあるが、若手にはない。

海産物はそこに住んでいる者でしか食べられない、鮮度が特に重要な食べ物でもあるし。あったところで干物ぐらいだろう。

特に若手二人は、俺みたいに海を見てはしゃぐ感覚もあんまりなかったようだったし、大きな湖ぐらいの感じなんだろうね。

だからこの機会に、海の幸の素晴らしさを頭に叩き込んでやろう。

「はぁ~、このハマグリ、すっごく身がぷりっぷりで美味しいわねぇ~」

「あさりの酒蒸しって奴もうめぇな。ビールじゃねぇ、エールによく合うぜ!」

「……今更その飲み物の名前を変えたところでバレてるわよ」

「そ、そうか。まぁ、今更だよなぁ」

誰かに見られる心配がないので堂々と缶で飲んでいるビールを、アマンダ姉さんに指摘されたギガンは頭を掻いた。

クーラーボックスには、キンキンに冷やされた超乾燥(直訳)が入っている。

相変わらず謎のルートで送られてくる、お中元のビールなどの酒類が俺のリュックには溜まっているので、ここぞとばかりに大放出中だ。

アマンダ姉さんはお気に入りのカクテルを飲んでるけれど。それもビールで割ってるもんな。ビールとレモネードで割ったカクテルをパナシェって言うんだよ。

パイナップルやオレンジもあったから、ジューサーで絞ってビールで割ってトロピカルビアにした。

ハチミツを混ぜて甘くしたそっちは、若者二人に飲ませている。アルコール度数も低いので、ジュースみたいだって。俺は相変わらずの麦茶だけどね。

それにしても浜焼きが美味い。醤油の香りと磯の香りが絶妙なハーモニーを奏でていて、これぞ海鮮BBQって感じがするよね~。

「結局、一日中遊んでいた気がするんだが……」

「ちょうさだよー」

「まぁ、そういうことにしておくか」

大物を釣り上げたディエゴは、俺が適当に刺身にした石鯛モドキをツマミに、お気に入りの日本酒を飲んでいた。

刺身に抵抗がないっていうのも、ある意味こっちが驚くのだが。

ワサビもディエゴは平気そうだし、順調に和食舌になっているようだ。

因みに大人組の釣果であるが、アマンダ姉さんとギガンは坊主で、石鯛モドキを釣り上げたディエゴに軍配が上がった。

余談だが、マテ貝は見た目が卑猥であるとされ、アマンダ姉さんから教育的指導を受けたことをお伝えしておく。(焼いて食べたけどね)

遊んでいるようで確りと調査した結果。この海域エリアでは、海生爬虫類が生息している以外に、食べ物が豊富だってことが判明した。

ダンジョン内でしか食べられない物ではあるが。

でもそれって凄いことじゃないかな?

海に沈みゆく夕陽を眺めながら、まったりとした一時を過ごす贅沢。

いやぁ~海生爬虫類が出現する以外、ここってただの楽園リゾートじゃないかな?

海に入らなきゃ危険はないし、冒険者であれば一度はこの楽園を楽しんでみるのもいいのではなかろうか?

気忙しい日常から離れて、ゆっくりまったりする時間って、最高だよなぁ。

はぁ~、あさりと石鯛の白ワイン蒸しが美味いや。

「ノワルの報告によると、沿岸付近に魔物はいないそうだ。奴らに遭遇するには、沖合まで行かなきゃならないらしい」

「遠すぎるわよねぇ」

「まぁ、普通の海域でもそうだろ。ここだけが例外って訳じゃねぇ」

沿岸なら日帰りできる距離で、沖合だと数日はかかる距離ってことかな?

ノワルだからそこまで飛んで行っても直ぐに帰ってこれるけど、人間だったら難しい距離のようだ。

たとえ海を割って徒歩で行くことになったとして、健脚な冒険者でも数時間以上はかかる。何かおびき寄せる手段でもあれば良いんだけどねぇ。

う~ん、ハマグリのバター醤油焼きが美味しい。

俺たちが浜辺でまったりと海鮮BBQを楽しみながら、ダラダラと何かいい方法がないかなぁと考えながら。その日は何もいい案が思いつかなかったので、そのまま寝ることにした。

海は静かに凪いでいて、ただ沈みゆく夕陽を眺める贅沢な一時を味わった。

だがしかし。

異変がその日の夜から、ひたひたと着実に近づいていることを、この時の俺たちは知る由もなかった。

真夜中に騒がしさを感じて目が覚めた。

また海水がテントに浸水してきたのかと思って、慌てて起きる。

だがそんなことはなく、テントから顔を出すと、シルバが珍しく吠えていた。

「リオンッ! ここは危険だから、今すぐ洞窟を抜けて外へ出なさいっ!」

「え?」

「妙な生物が、海から這い上がってきているらしい!」

「は?」

なんだなんだ?

海から這いよってくるって、アレかな? コズミックホラー的な旧支配者かな?

「くそっ、海から這い上がってくる魔物がいるなんて、聞いてねぇぞ!!」

「調査は昼間しかしてなかったみたいだもの。海域エリアで一晩過ごしたのは、きっと私たちだけだわっ!」

「しかし、見たことがないヤツだな」

「話に聞いてたザラタン(海亀)やシードラゴンとは違うぞ!」

「なんかうねうねしてる~っ!」

「得体が知れないだけに、不気味っすね……」

ギガンたちが視線を向けている方へ俺も顔を向けると、沿岸に黒い何かが盛り上がっていた。津波にしてはおかしい盛り上がりで、まるで海坊主のようだ。

Siryiに鑑定してもらおうと虫メガネを向ける。

『ただの巨大なオクトパスです。夜間に現れる海の生き物の一種ですね。ランクとしてはせいぜい四ツ星でしょう。このパーティのメンバーであれば、慌てなければ対処できます』

タコって爬虫類じゃないよね? 貝と同じ軟体動物だったと思うんだけど。

『頭足綱(イカ綱)となりますが、アレも食用です。斃せば食べられますよ』

食べられるのか。タコだしな。ダイオウイカじゃなくて良かった。あれは食べられない。アンモニア臭くて。

俺は早速ディエゴに念波を飛ばして、ただの海の生物なので掘った貝や釣った魚と同じく食べられることを伝えた。

「―――わかった。リオンからの伝言だ。奴を斃せ。食えるそうだぞ」

「ちょっ、嘘でしょ!? アレって食用なのっ?」

「魔物じゃねぇのか!?」

「大きなオクトパスだそうだ。ランクとしては四ツ星程度らしい。落ち着けばテオやチェリッシュでも斃せる」

「それってほんとなのぉ!? 信じらんないよぉ~!」

「四ツ星なら、取りあえず、俺が行くっす!」

「落ち着いていけよ!」

「何かあれば直ぐに駆け付けるわ!」

「りょーかいっすっ!」

「チェリッシュ、アンタは援護しなさい!」

「いやぁぁ~!」

今や軽々と振り回せるようになったバスターソードを片手に持つと、テオは砂浜に這い上がって来た巨大なタコへと向かって行った。

その後ろには叫びながらチェリッシュも続く。

砂浜にぞろりと長い足を忍ばせ、海から這い出て来た巨大なタコに臆することなくテオがバスターソードを振り上げた。

まずチェリッシュが牽制攻撃として弓矢でタコの頭部を撃ち抜き、ひるんだ隙にテオが触手の様に伸ばされた足をぶった切る。見事な連携プレーだね。

タコはうねるように踊り、二人が伸ばされた足を避けながら飛び跳ねる。

次々と放たれる矢により、タコの攻撃が怯む瞬間を逃さず、テオが次々と踊る足を切りつけて行く。ブルーベリーの摂取により、チェリッシュは夜目がかなり利くようになったようだ。

誤射もなく矢が放たれることにより、テオも信頼して剣を振り回している。

正体不明な魔物ではなく、タコだと判明したのもあるだろう。

安定感のある戦いっぷりで、今のところ若手組の優勢のようだ。

本当に強くなったなぁ、二人とも。

月明かりに照らされながら、影絵のように見える二人の戦闘は非現実的だった。

なんだかんだいって、ただの巨大なタコだもんな。海の中なら負けるかもだけど、陸に上がればうねるしか攻撃手段がないし。

タコ相手に有利な陸上とはいえ、挑んでもすぐに絞め殺されそうだから、俺は絶対に近付かないけど。

なんか……うん。コズミックホラーを想起させる巨大なタコだな~と、思いつつ。

見たからと言ってSAN値は減ることもなく。

若手が危機に陥れば大人組がすぐさま駆け付けられるように待機しているので、俺も遠目から安心して眺めていられた。

それにしても。

危機感があまりないせいもあるんだけど。

海産物を見るとすぐに美味そうだなと思うのは、日本人の悪いクセだよね。

激しい戦闘が繰り広げられ、漸く斃した巨大なタコを見下ろす。

朝日に照らされたそいつの姿は、まんまタコだった。

「本当に、ただの海の生物なんだな……?」

「巨大なだけで、魔法攻撃も何もしてこなかったっす」

「でも、真っ黒い液体を吐いたよぉ~っ! うわぁん、なまぐさぁ~い!」

タコ墨は外敵から身を守るために吐く煙幕だからね。

攻撃したら、そりゃ吐かれるよ。

海の中じゃなかったから、そのまま被っちゃったんだろうけど。

テオは上手く躱してたけど、チェリッシュは直撃したようだ。

「ちょっと一旦外に出て、汚れを落としてきなさい」

「はぁ~い」

昨日の俺の様に、墨塗れのチェリッシュがとぼとぼと出入り口に向かって行った。

戻ってきたら綺麗になってるよ。経験者は語るだけど。

「この巨大オクトパスって奴ぁ、何で真夜中に海岸に現れたんだ?」

「そういうしゅーせいだって」

日本の妖怪である海坊主もそうだけど、この巨大タコは真夜中に沿岸付近に現れる。そして陸上に美味しそうな人間がいたから、這いよって来たらしかった。

斃されたタコは魔物ではないので、何もドロップはしない。ある意味では魔物と同じぐらい強いけど、丸っと食用として存在しているので消えないようだ。

放っておけばダンジョンが吸収して消えるんだろうけど。

『貝や魚と同じで、捕獲した者が死亡、またはダンジョンから出ない限り消えません』

捕獲した者って、二人のこと? チェリッシュは出てったけど、テオがいるからいいのか。判定が緩いな。

『そのようです。ダンジョン内であれば、食せるようになっていますね』

タコと言えばタコ焼きだよね。タコ刺しも美味いし。タコ飯もあるなぁ。

普通に醤油で焼いても美味しそうだねぇ。あ、涎が出た。

「なぁ、これって、どうすればいいと思う?」

「たべられるよ」

「うへぇ……これ、本当に食べられるんすか?」

「リオンが言うなら、食えるんだろうが……」

「やだぁ~きも~い~!」

「流石にこれはちょっと……ねぇ?」

全長十五メートル程の巨大なタコを見ながら、みんなが嫌そうな顔をした。

俺としてはただ大きなだけで、見た目はただのタコなんだよな。

そういやタコを食べるのって、俺の世界でもそう多くなかったっけ。日本が全世界の約2/3を消費するってぐらいだし。

見た目の気持ち悪さから、忌み嫌われてるんだった。

コズミックホラーの巨匠もタコとかの海の生物が嫌いで、神話生物にしたとかなんとか。そして猫が大好きなんだよね。どうでもいいことだけど。

じっとタコを見ていると、Siryiの鑑定が終わったようで話しかけてきた。

表面的な鑑定は直ぐに出るけど、詳細となると少し時間がかかる。

そして出た鑑定結果は。

『マスター、どうやらこれはエサのようです』

「なんの?」

『海生爬虫類をおびき寄せるための、エサでもあるようです』

「ふ~ん?」

だったらこれを調理してたら魔物をおびき寄せられるってことかな?

それとも海に放り投げて、釣りみたいに試してみようか。

どちらも捨てがたいな。

『両方試してみれば如何でしょうか?』

それもそうだな。

昨日は特に何も良い案が思い浮かばなかったし、やれることは全部やってみるとしよう。

みんなぁ~、朝食はタコパだよ~!

タコパといってもタコ焼きパーティじゃないけどね~。

寧ろタコ三昧かな?

食べたら美味しいって判るから、全員そんな嫌そうな顔をしない!

牛タンだって美味しかったんだから、俺を信じろ!