軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第98話 筋肉を鍛えし者は全てを凌駕する

洞窟のような入り口を抜けるとそこには、白く輝く砂浜が広がり、空は青く晴れ渡っていた。

「うみだー!」

思わず走り出す。

夏なので海にも行きたいなと思っていた俺は、目の前に広がる紺碧の大海原を見てちょっとはしゃいでしまった。

本日は六ツ星ランクアップのため、海生爬虫類の生息する海域エリアにアタックする前に、事前調査なるモノをしにスプリガンのみんなと一緒にやってきてます。

六ツ星でなくとも海に入らないという約束さえ守れば、海域エリアの出入りを許可されているんだとか。でも誰も入らないんだってさ。

素晴らしい観光名所なのに、どうして誰も利用しないのか不思議だよね。

「リオン、海に入っちゃダメよ~!」

「はぁ~い!」

アマンダ姉さんが心配して、俺に声をかけて来た。

入るなと言われると入りたくなるのが人間というモノだがしかし。

約束だからな。入らないよ。泳ぎたくとも水着に着替えてないし。

『この世界の人々の殆どは泳げません。マスターの持っている水着とやらも、どこにも売っておりませんので、着替えても皆さまにはただの下着でしかないでしょう』

え? 海女さんとかもいないの?

『そのような特殊な職業の方でない限り、泳ぎを覚えることはないでしょう。船乗りですら泳げない方が大半です』

あ~そういや、日本も昔はそうだったね。

海難事故か何かが原因で、子供が沢山溺れて亡くなったのを切っ掛けに、プールを設置して泳ぎの訓練を始めたとかだっけ? どこかで聞いたか読んだ覚えがある。

大航海時代の海軍や海賊も、殆ど泳げない船員ばっかだったっけ。

特に海軍は海辺の町で若者を拉致して、無理矢理船に乗せたりしたそうだ。

海賊の場合は条件が良ければ契約して船に乗るとかだったような? 寧ろ昔は海軍よりも海賊の方が船員の待遇も給料も良かったんだよね。海賊船の船長は選挙制だったそうだし。人望がないと選ばれなかった―――って言う話は置いといて。

でも勿体ないね。泳げないから誰もこんな綺麗な海に来ないなんてさ。

ゴミ一つない海岸なんて、俺の世界じゃ少ないってのに。

漂流物すら全くない、ただひたすらに美しい海だった。

まぁ、誰も入らないからゴミも落とされてないのか?

そんな疑問にも、Siryiが答えてくれた。

『時間が経てばダンジョンが異物を排出してしまうので、ゴミを持ち込むことが出来ないのです』

でもダンジョンって人間を誘い込む罠みたいなもんだよね?

人間は入っても排出されないのは何でだ?

『生きている間は排出されることはありません。ですが、ダンジョンで生成されていない人間は、死亡すると自動的にダンジョン外に排出されます。遺品なども持ち主が死亡すると同時に同じく排出されます』

ほほう。俺の適当な知識では、ダンジョン内で死亡するとやがて吸収されるっていうイメージだったんだけど、ここでは排出されるのか。

便利というか親切設計だな。

ダンジョンで殺人事件を起こしたり、死体をダンジョンに遺棄するってことが出来ないのは、犯罪に利用されなくていいね。

しかも手に入れたアイテムなどのドロップ品は、持ち主が死亡すると同時にダンジョンが吸収してしまうのだそうだ。

なのでドロップ品目的で冒険者同士が争っても、相手を死亡させればそれらは一瞬にして失われる。無駄な争いをさせない仕組みになっているってことだね。

じゃぁ排泄物はどうなんのって話なんだけど。

『汚物は消毒されます』

「………」

えーっと。それはヒャッハーな意味ではなく?

『ダンジョンには、浄化作用があります』

あ、そういうこと。火炎放射器で焼かれる訳じゃなくて安心した。

もしかして俺の持っていた(現在は女性メンバーに譲渡している)簡易トイレと同じ仕組みなのだろうか? あれもどこに消えてるのか判んない代物なんだよなぁ。

『その質問にはお答えできません』

「いうとおもったー」

そしてSiryi情報によると、現実世界の魔物は人間を食べるけれど、ダンジョンの魔物は食いつきはしても、実際に食べたりはしないのだそうだ。

ガンプラーナという巨大なカエルの魔物も、人間を飲み込んでも食べている訳ではなく窒息させて吐き出すんだって。ペッと吐き出された後、ダンジョン外に排出されるということだ。

行方不明になったりしないのはいいんだけど、ダンジョンの外に大量の死体が積み上げられるのを想像するとちょっと怖いね。

『行方不明者の場合、死亡が確認されない限り捜索依頼が出せます』

あ~、そっか。魔塔の魔法使いがあちこちで遭難して捜索依頼が出されるのって、そういう理由があるからか。死亡してたらダンジョンの外に吐き出されるしね。

山や森だったら、フェアリーリングが生えてるところを探せばいいし。

ダンジョンの出入りに冒険者証の提示が必要なのも、一度入って出て来なかった場合に、捜索や救助依頼をするためでもあるそうだ。

だからこっそり入ったりできないようになっている。

例えるなら、山登りをする時の入山手続きのような感じかな。

ダンジョンのある地域の冒険者ギルドは、そういった管理もやっているんだった。事務処理を手伝っている時に、受付で冒険者への依頼を発注したり、査定しているだけじゃないんだと思ったことがある。ほんと大変な仕事だよね。

まだディエゴ以外の魔法使いには出会ったことがないんだけど、きっと色んな場所やダンジョンで迷惑をかけているのだろう。

アースドラゴン探しを始めるであろう魔塔の人たちも、そこへ辿り着く前に遭難するのが明らかだ。

魔動船を使えばそうとも限らないかもだけど、その前に空を飛ぶ魔物から追撃される危険性があるらしい。数百億もする魔動船だからこそ、壊されないよう安全を確保して飛ばすのだそうだ。

魔動船は無敵なようで安全な空路や航路でしか乗れない。輸出入で頻繁に飛行していないのも、時期的に繁殖期等で飛行型の魔物が増える場合や、それら魔物の生息地の空域を避ける為なのだろう。

ディエゴみたいな人間兵器が乗組員にでもいない限り、好き勝手に飛ばせないってことだな。

同じく魔法を使う存在である魔術師なのだが。アマンダ姉さんのような魔術師はそれなりに居るけど、みんなそこそこ体を鍛えている。筋肉を鍛えないと魔力が放出されないんだって。力こぶを作る要領で魔力が放出されるのだろうか?

うん? とすると、アマンダ姉さんって結構な火力持ちだから、実は脱ぐと凄いのでは――――いや、考えるのはよそう。相手に失礼だからね。

何はともあれ、この世界は筋肉が全てなのだと、改めて認識した。

冒険者などの戦闘職は、バランスの取れた肉体美であればあるほど強いってことになる。

確かに筋肉をつけるメリットは多い。姿勢が良くなるし、精神的にも健康にも良い影響を与える。何より基礎代謝が向上するし、ケガもし難くなるのだ。

結果的に自信がつくことで人間関係や仕事にも前向きになれるからね。

筋トレをすると、セロトニンっていう神経伝達物質が分泌されて、精神が安定して平常心を保てるらしい。だからある程度強くなると、無駄な争いをしなくなる。

世紀末ヒャッハーをするのは、そこまでの境地に達していない輩だってことだね。

健全な肉体には健全な精神が宿るってことかな。

アントネストを拠点にしている冒険者の多くが、今や筋トレしまくっていることによる影響は計り知れない。GGGさんたちが温厚な性格であるのにも、こういった要素が多分にあるのだろう。

細身に見えるロベルタさんやオネーサンも、筋トレジムのトレーナーが出来るんだから、そりゃもう腹筋がバキバキなんだろうねぇ。

俺もちょっとは鍛えるべきかな……?

山育ちで健脚のつもりなんだけど、最近はシルバの背中に乗って楽してたし。

以前より筋力が衰えているような気がする。ヤバイ。

取りあえず走り込みでもしとくか。

「ふふふっ。リオンったら、あんなにはしゃいじゃってるわ」

「あんなに喜ぶなら、もっと早く連れてくりゃ良かったな」

「でも砂浜で走ると危なくないっすか?」

「あ。転んだ」

「顔面からのめり込んでるな……」

「だ、大丈夫っすかね……?」

「ノワルとシルバがいるから大丈夫だろう」

「ねぇねぇ、リオっちってば、ノワルに掴まれて、浮かんでるんだけど?」

「あ、こっち来たっすよ」

転んで砂だらけになった俺は、ノワルに掴まれてふよふよと洞窟の出入り口へと連れて行かれた。

オーバーオールって、引っ掛ける部分が沢山あって持ち運びに便利だな~って言うノワルの念波が送られてくる。そうだね。肩の部分とかもそうだね……。

砂が口に入り込んで喋ることも出来ない。うえぇ。

でも一度ここから出れば、砂も奇麗になくなるからね。ノワルありがとう。

転んで恥ずかしい上に、ノワルに運ばれている姿をみんなに見られて居た堪れないんだけどさ!!