軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最終話 日常パートは賑やかに

オフィス兼社宅に戻って三日。

ニュース報道で渦中の人となった俺は、引きこもりのような生活をしている。

まあ、やることはいくらでもあるので別に構わないのだが。

「結論から言うと、丸樹の件は事故死ということでカタを付けましたぞ。ついでに、軽く工作して誹謗中傷の書き込み元が彼だという証拠も横流しにしておきましたぞ!」

「死体蹴りというのは、気分のいいものじゃないな」

「表立って死体を蹴らないでいいよう細工したのです。これが落としどころですな」

社長デスクでため息を吐く俺に、藤一郎が苦笑する。

大学と丸樹に対して起こしていた訴訟は、取り下げる運びとなった。

というか、藤一郎的にはおそらくそれが既定路線だったのだろう。

俺の冤罪騒ぎと追放劇、そして社長就任。

この出来過ぎたサクセス・ストーリーをいまや日本中の誰もが知っている。

大学が記者会見で洗いざらい、ぶちまけてしまったからだ。

ここまでくると、訴訟の取り下げはせざるを得ない。

そうしないと、俺の──会社のイメージに関わる。

だから、俺は『懐が広い相沢社長』のパフォーマンスをする羽目になってしまった。

「そういえば、映画化の話と、書籍化の話が来ておりましたぞ?」

「勘弁してくれ。俺は 探索者(ダイバー) であって、アイドルじゃないんだぞ?」

「まぁ、前向きに考えておくとお返事しておくとしますぞ」

「……好きにしてくれ。俺の身一つで稼げる金は稼ぐといい」

ややげんなりとしつつも、藤一郎には頭があがらないのでこう答えるしかない。

今回だって、俺がしなきゃならない対応を親会社──ひいては、藤一郎に丸投げしたのだ。

文句を言える部分がない。

「ところで、体調の方はもういいのですかな?」

「半々ってところだな。もう二日も休めば、次の 潜行(ダイブ) に向かえると思う」

「我輩、帰還酔いについてはよくわかりませんが、裕太の場合は適応能力の反動もあるそうですな?」

藤一郎の言葉に、ぎくりとする。

それについて、俺は何も話していない。

つまるところ、太刀守姉妹あたりから何か後ろ暗い秘密が漏れたと考えて間違いないだろう。

「いやはや、まさか二人ともとは恐れ入りましたぞ? これは責任問題ですな?」

「半分くらいはお前の仕込みだろうに……!」

「まぁ、理由としては岸辺のお嬢さんと同じですぞ。裕太の囲い込みですな」

「それだよ。俺って、そんなに信用ないのか?」

俺の質問に、指を振ってウィンクする藤一郎。

妙に様になっているのが、また腹立たしい。

「逆ですぞ。そういう義理堅いところは、君の弱点でもありますからな」

「逆とは?」

「もし、あのタイミングで我輩でなく、海外……たとえば、米国や、中国、もしくはインドの探索結社があなたを好待遇で引き抜く、なんて話だったらどうします?」

あのタイミング。

何もかもを失ったと、絶望に泣いたあの夜。

もし、あの時……手を差し伸べたのが藤一郎でなければ?

「受けたかもしれないな」

「そうでしょう? 我輩は、いろいろと運が良かった。タイミングにせよ、裕太との距離感にせよ、すぐに接触できる位置にいましたからな」

「だが、そんな話はないだろ?」

「そうでもないのです」

藤一郎が、懐からメモ用紙を取り出す。

四つに畳まれたそれはA4の用紙で、開いてみるとずらりと名前が書いてあった。

「これは?」

「『ティアリスト』などと呼ばれる、後ろ暗い組織のメモですぞ」

「なんで後ろ暗い組織のメモをお前が持っている?」

「有効活用できるからですな。それよりもそこに自分の名前があるのはわかりますかな?」

ざっと五十人ほどの名前が並んでいる中、中央から上よりに俺の名前がある。

名前の横には、いくつかの不明なマーク。

よくよく探せば、亜希や十撫、潮音さんの名前もあった。

「これがなんだって?」

「それは国際的 迷宮(ダンジョン) 犯罪組織『アンダーティア』のスカウトリストですぞ」

「は?」

「ちなみに、丸樹君の就職先でもありましてな」

言われて探すと、丸樹の名前もあった。

ずいぶん下の方に。

「引き入れたい人材を能力順に並べたモノがそれですぞ。お渡ししているのは、日本国籍に限定したものですな」

「海外版もある、と」

「左様。裕太は、ワールド版でも割と上位に食い込んでおりましてな」

「何で俺が?」

軽く首をひねる。

最近まで、 迷宮(ダンジョン) 適応すら発現していなかった俺を、その裏組織とやらはどう評価したんだ?

「横にいくつかマークがついておるでしょう?」

「ああ。俺のは四つついてる」

「それが特記事項でしてな。まぁ、説明は省きますが……たくさんついていると、いろいろお得ってことですな」

リストを見ながら、小さなため息を吐く。

こんなものが出回っているなんて、探索者界隈というのもなかなかキナ臭い。

「と、まあ……君のことを欲しい人材というのは、世界中にそれなりにいたわけですな」

「なる、ほど?」

「そこで、我輩は君に恩を売って社長に据え、その上で可愛い妹分を送り込んで篭絡しておこうと考えたわけですな」

「全然わからんな。そんなことをしなくても、俺がお前を裏切るはずなんてないだろう? たとえ外国企業から誘いがあっても、藤一郎が誘ってくれれば引き返したさ」

俺の言葉に、藤一郎がニコニコと顔をほころばせる。

ご機嫌そうで何よりだが、俺としてはそんなに信用がなかったのかと少しばかりショックだ。

「ま、結果オーライということで落ち着くべき所に落ち着きましたな」

「そうだろうか……」

「あとは、妹分のどちらかと所帯でも持ってくれれば、万々歳なのですがな?」

藤一郎が、そんな言葉を口にした瞬間……タイミングよくエレベーターのドアが開いた。

「そうはさせないっス! 勝負はまだついてないっスよ! 明智藤一郎!」

「正雀、仮にも親会社の社長を呼び捨ててはいけない」

「わ、わたくしも……! 納得してませんからね、相沢君!」

「潮音さんまで?」

些か意外な参戦者に、驚く。

「なに言ってんのよ! 裕太はあたしのなんだからね!」

「お姉ちゃんは、フライングの、抜け駆け。ここからが、レース本番。もちろん、わたしが、最有力」

焦った様子の亜希に、何処か余裕な表情の十撫。

四人が藤一郎を押しのけてデスクに集まり、じっと俺を見る。

なんていたたまれない時間なんだ。

「……oh、修羅場でござるな?」

「ジェニーも参加する?」

「年齢的にアウトでござる。それよりも、ユウタ。うちのパパから伝言ありけり」

赤と青の縞々した手紙を振りながら、ジェニファーが俺の前に進み出る。

「ふむ? ウィルハウスの〝ビッグマン〟からですと?」

藤一郎も興味津々といった様子で、デスクに戻ってくる。

ジェニファーが封筒の中身を取り出して、俺に差し出す。

英語は苦手なんだよな……と思ったら、そこにはピクトグラムに似た、シンプルな絵が描かれていた。

「どくろと、ショットガン?」

「パパ、ユウタが拙者に手を出したと思い込んでるみたいにござる」

「──は?」

ジェニファーはなんだか軽そうな感じだが、内容は緊急性が高い。

こんな誤解、早く解かないと。

「返事を出そう。そんな事はしてないって! すぐに!」

「明日来日して、ぶっ殺すって」

頭を抱える俺に対して、藤一郎がからからと笑う。

「これは切腹しかないですな! ハハハ」

「笑い事じゃないぞ、藤一郎!」

「いやいや、ここをどう切り抜けるか見ものですな? 相沢社長」

試すような眼をする藤一郎に、俺は軽くため息を吐いて返す。

まさか、これも仕込みじゃあるまいな。

いずれにせよ、乗り切るしかあるまい。

「こんなところで事故死してたまるか! みんな、力を貸してくれ。すぐに歓待の準備に移るぞ! 社長命令だ!」

号令に、仲間たちが小さく噴き出す。

また社長命令の使い方がセコいなどと思われているのだろう。

「では、お手並み拝見と参りますぞ」

「お前も手伝うんだよ、藤一郎」

「なんと、人使いの荒い」

「アメリカといえば、ホームパーティーだろ? ホームパーティーは家族で準備するもんだ!」

「これは一本取られましたな。では、『ピルグリム』ファミリーの皆さん、頑張って参りましょう」

俺の言葉に、藤一郎も含めて仲間たちが小さく笑う。

そんな仲間たちを頼もしく思いつつ、俺も社長の椅子から立ち上がるのだった。