軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話 人は獣。

大学側の手の平返しは、実に鮮やかで素早かった。

なんというか、本当に驚くほどに。

ホームページや学内掲示板、オンラインメッセージに公式SNSに至るまで、全ての発信手段を使って、俺の冤罪事件に関するあれこれが誤認であった事、悪意ある誘導であったことなどを発表したのだ。

「思ったよりもあっさりだったわねー」

ソファの上で俺にもたれかかりながら亜希がぽつりと漏らす。

その視線の先、テレビの映像では西陶大学の学長と学生課長が揃って頭を下げている映像が映し出されていた。

まさか、謝罪会見までやるとは俺も予想外だった。

「藤一郎か、弁護士の日向さんが手を回したんじゃないかな」

「そうかもねぇ。明智のおじさんって、ときどきおっかないから」

まったくもって同意だ。

あの飄々とした振る舞いからは想像できないくらい、敵対者に徹底的なところがある。

若く優秀であるが故に、妬み嫉みの対象になりがちな藤一郎の処世術というヤツかもしれない。

「裕太に謝罪はあったワケ?」

「正式なものは、まだかな。弁護士を通してくれってことにしてあるから、ワンクッションおいてからだ」

「じゃあ、これ……一方的に謝ってるってコト?」

「そうなる」

軽く苦笑しつつ、テレビに映る大学のお歴々を確認する。

この中に御手杵教授がいないのは、きっと納得できていないからなんだろうな。

なにせ、大学の動きが早過ぎた。

なんなら、ちょっと軽率じゃないかと思えるくらいの早さだ。

「でも、これで裕太の疑いが晴れたってコトよね? おめでとう!」

「ありがとう。……ところで、亜希」

「はーい?」

「どうして俺の部屋でテレビを?」

俺の発した素朴な疑問に、もたれかかっていた亜希が身を起こした。

夏とはいえ、やはり薄着が過ぎる格好で……ちょっと目のやり場に困る。

「あによ。あたしがここにいちゃいけないワケ?」

「そうじゃないけどさ」

たじたじとする俺を追い詰めるように近づいてきた亜希が、がばりと俺にハグを敢行する。

女の子を感じさせる柔らかさが胸に触れて、少しだけ混乱する。

「あたしの匂いをね、つけてるの」

「匂い?」

ソファからずり落ちそうな亜紀の腰をそっと支えて、聞き返す。

うっかり触れてしまったが、いまくっついてるのは亜希の方だからセクハラには当たるまい。

セーフ。コンプライアンス的にセーフ、なはず。

「あたしと十撫がいるっていうのに、採用した 探索者(ダイバー) が『金髪JK』と『ボクっ娘メガネ』ってどういうことなのよ!」

「厳正なる審査の結果だ! 趣味で選んだわけじゃあない!」

俺だって、あまり気兼ねしないでいい男性の 探索者(ダイバー) を採用したかった。

しかし、今回は当初五名だったはずのパーティメンバーの補充という形だったので、二名の枠──しかも、一枠はジェニファー・ウィルハウスで決定だったのだから、仕方あるまい。

パーティバランスを考えた結果だ。

「ハーレムを作る気なんだ……裕太は、毎日えっちなアクシデントが起きる、ハーレムカンパニーを経営する気に違いないわ!」

「人聞きの悪いことを仰る!」

俺の信用度があまりに低すぎやしないだろうか。

「今後は男性 探索者(ダイバー) ももちろん探していくし……その、なんだ」

「?」

「心配してるようなことにはならないさ」

そう告げて、亜希の額に軽くキスをする。

ジト目だった亜希の目がゆっくりと見開かれて……みるみるうちに顔が赤くなっていく。

きっと、俺の顔も赤い。こんなキザなこと、したことがないし。

「……ごめんなさい。わがまま言った」

「なんだ、もう可愛いモードは終わりか?」

俺の軽口に、亜希が目を逸らす。

自分でも甘えていたという自覚があるんだろう。

「ちょっと、冷静になっただけ。あたしにしたって、裕太の……恋人ってわけじゃ、ないものね」

亜希の言葉に、少しばかりショックを受ける。

いや、思ったよりもこれはショックかもしれない。

そこまでセンチメンタルな人間ではないと自覚しているのだが、やはり〝ハジメテ〟の相手であれば、そういった感情もある。

「あれ、え……もしかして、傷ついちゃった?」

「すこしだけ」

「ごめん、あたしってこういう事に疎いし、ほら……ガサツなもんでして、えへへ」

誤魔化し笑いをする亜希の身体をぎゅっと抱きしめる。

一拍置いて、亜希からハグが返ってきた。

ただただ、二人で抱きしめ合う。

BGMが大学の謝罪会見だというのは、ちょっとムードが足りないけど。

「裕太が好きなのは、ホントよ?」

耳元で、亜希がドキリとするような事を囁く。

「でも、きっかけが 迷宮(ダンジョン) 適応の影響だし、生理現象? みたいなのかな、って。あの日の裕太ったら、鈍いあたしでもわかるくらいすごく……えっちな目、してた」

「え、マジで?」

「うん。十撫も気がついてたよ」

……そんなにヤバかったの? 俺。

いや、確かに相当に『渇望』に魅入られていた自覚はあったけど、それがバレてしまっているなんて思いもしなかった。

今後は気をつけないと、まずいことになりそうだ。

「だから、そういうものかなって。その、えっちした後だって、普段通りって言うか……あんまり、変わってなかったしさ」

「それについては、すまない。どうしたらいいのかわからなかったんだよ。あんな風に誰かと触れ合うのって、初めてだったから」

「あたしだって、初めてよ! フォローとケアを要求するわ!」

そんなことを口にする亜希の首筋に、唇を触れさせる。

「ぅンっ? ちょっと? 裕太?」

「『渇望』の影響なしに、君に触れたい。いいかな?」

「減点。そういうこと、いちいち確認しないでいいの!」

「今の時代、合意を確認しないと犯罪になっちゃうんだぞ?」

俺の言葉に、亜希が耳元で小さく囁く。

「優しく、してね?」

この時、俺は気が付いてしまった。

別に『渇望』なんて関係なかったことに。

亜希の柔らかさと体温、それに許しの言葉だけで……理性ってやつは、容易に蒸発するのだと。