軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

八十四話 星屑の祈杖

* * * *

「化け物かよ……!!」

「はッ、化け物過ぎンだろ!! あのクソ野郎……!!」

オーネストの叫び声と、偶然にもアレクの言葉の内容が一致した。

〝リミットブレイク〟を使ってから、もう幾分経っただろうか。

時間が限られている。

だから、一気呵成に攻め立てて倒す。

そうしている筈なのに、攻めきれない。

しかも、リクの姿が変わってからというもの、周囲に犇めいていた化け物の数も刻々と増殖を始めている。

魔法を繰り出しても、繰り出しても、抉った側から再生してゆく。

十分に限り、無尽蔵の魔力。

適性さえもを無視して繰り出せる魔法。

ヨルハ達からのサポート。

それらがあって尚、攻めきれない。

これを化け物と言わずして何と言い表せようか。

「おどれ、自慢して良いぜ。元々傷を負ってたとはいえ、この俺にコレまで使わせてんだからよぉ~~!?」

「……あの戦い方は、〝軍舞魔演〟。あの男、元帝国軍人か」

ヴォガンが分析する声。

〝軍舞魔演〟といえば、帝国の魔法師と戦士の適性を備えた人間の中でも特に優秀な人間のみが叩き込まれる戦闘術であった。

そしてそのひと握りの中でもさらにひと握りの使い手の戦闘能力は、一個大隊に匹敵する程だと文献には書き記されている。

「〝 伝承遺物(ゴッズ) 〟に、〝軍舞魔演〟とは、組み合わせが悪辣だな」

ヴォガンであっても、悪辣と言わずにはいられない組み合わせ。過多な戦闘能力。

だが、手を貸そうにも貸せない。

寧ろ、貸そうと試みる事自体が邪魔でしかないと理解をして、誰もオーネストとシュガムの戦闘に割って入らなかった。

「……あっちもあっちで、得体が知れなさ過ぎるがな。ただの魔法なら兎も角、〝 古代魔法(ロストマジック) 〟の複合魔法など、ふざけているにも程がある」

ローザのその嘆きは、アレクの内心そのものだった。

本当に────あり得ない。

化け物という言葉すら生温い気がした。

複合魔法とはそもそも、膨大な量の知識と理解があって初めて完成するもの。

失伝した現在、使える人間自体、ひと握りだというのにそれを複合魔法として撃ち放つ。

更には、まるで〝リミットブレイク〟でもしているかのように乱発している。

そして衰える気配は全く感じられない。

それどころか。

「そこに禁術を、もう一つ。嗚呼、確かに、あのベスケット・イアリが天才と吐き散らかすだけの事はある」

────禁術指定〝死告蛍〟─────。

闇に紛れて浮遊する微細な光を灯すそれは、禁術指定された魔法によるもの。

術者の命を削って行使されるソレは、死を告げる虫。

触れたが最後、何であろうと例外なく〝光〟を奪われる。

だが、奪われるのはただの光ではなく、比喩としての光。

とどのつまりは────命。

ローザが真っ先に〝死告蛍〟を風の結界で閉じ込めては、光を奪われて霧散。

再度、閉じ込め、霧散。

それらを〝 人工魔人(オグル) 〟を相手にしながらヴォガンと共に行ない、動きを止めてくれていた。

だが、湯水の如く魔力を消費して尚、それは限界を迎えようとしていた。

しかし、そんな中でローザは不敵に笑う。

「だが、グラン・アイゼンツの親友を名乗るのであれば知っているだろう。ここにいるのは、その妹だぞ」

「────」

絶句するように、リクが目を剥いた。

その理由は、〝死告蛍〟が一斉に姿を消し始めたから。そしてその原因を探り、またしてもあり得ないと結論を出してか、動きが硬直した。

「ありえない」

思わずリクの口から言葉が漏れる。

「古代文字の知識も全くない人間が、過程をすっ飛ばして、結界を構築しただと?」

そこに封じ込められたが故に、〝死告蛍〟は姿を消した。次々と、光が消えていく。

何が起こったのか理解は出来ていた。

だが、それはリクを以てしても馬鹿げた行為だったが為に、信じられない。

「当然だろう。こと補助魔法において、私はヨルハ・アイゼンツを上回る才能を見た事がない」

ローザが言う。

一度、見た。

使い方の基礎も、法則も、何も分かっていない。だが、完成されたそれを一度ヨルハは見ている。

その結果を、己のこれまでの経験と知識で補って、限りなく酷似したものを完成させた。

最早それは〝 古代魔法(ロストマジック) 〟ではなく、〝オリジナル〟。

過程らしい過程もない理解不能過ぎる結界術。だからこそ、リクであっても驚愕せずにはいられなかったのだろう。

「……攻撃の魔法も、剣も、槍も、ボクはからっきし。だけど補助は。補助に関してボクは、みんなの足を引っ張る訳にはいかない……っ」

重ね掛け──重ね掛け──重ね掛け。

後方支援に徹する中で、無理矢理に結界術を編み出し、打開してみせた。

誰が足を引っ張っていると言えようか。

「あたしの方も準備は整ったわよ、 オーネスト(、、、、、) 」

回復魔法と補助に徹していたクラシアが、珍しくオーネストの名を呼ぶ。

闘争に没頭していながらも、オーネストは口端を吊り上げた。

「でも、本当にバカ。あり得ないくらいにバカ。ベスケットさんとの鍛錬で、傷付いてた癖にそれを隠して戦うなんて本当にバカ」

本人は何事もないように振る舞っていた。

だが、〝紫霞神功 〟を習得する為に行った鍛錬で、オーネストもまた傷を負っていた。

なのに真っ先にシュガムの相手を務めると言い、互角に斬り結んでいた。

途中、気付いたクラシアが慌てて治そうと試みたものの、オレさまに割く余裕は全てローザ達の支援に回せとアイコンタクトを送ってくる始末。

でも、一番厄介だった〝死告蛍〟や、〝 人工魔人(オグル) 〟の大半が片付き始めている。

だから、これからはオーネストの補助に回る。クラシアの言葉の意味はソレだった。

「つぅわけで、悪りぃがタイムアップだ。てめえは化け物だ。万全だったら、きっとオレさまが勝ててたかどうかも怪しい」

「おいおいオイ!! おどれ、もう勝った気になってんのかよ!? それと勘違いすんなァ!? 万全でなくちゃ戦えねえってのは弱者の言い訳でしかねえ!! そんなくだらねえ事語る暇があんなら、言う通りとっととケリつけてみやがれよッ!?」

煽る。煽る。嘲り煽る。

「それと、てめえに見せてきた技が俺の手札全てとは思わねえこったなッ!?」

濃密な魔力を剣に。

身体に。瞳に。全身に纏わせて割れんばかりの叫び声をシュガムがあげる。

「〝軍舞魔演〟────終演七式────!!!」

どれ程の強さで柄を握り締めているのか。

ミシリ、という壊音さえもが響く。

対してオーネストは、槍を回して紫に染まった刃圏を築く。

手にしていた槍を若干持ち替えて、不敵に笑う。

シュガムはそれを「その一撃は譲ってやる」という意味に捉える。

だからこそ、こめかみに浮かぶ血管は膨れ上がり、殺意と憤怒の奔流が容赦なく身体から噴き出し、周囲に伝播する。

頭の中を支配する激情に、冷静さは全て削り取られてしまったのか。

そのまま、突貫。

「本当は、オレさま一人で万全のてめえに勝ちたかったんだが……贅沢は言ってらんねえ」

いつまでも一人に掛かりきりになっている訳にもいかない。

だから、と言うように。

「ここからは、全力で潰させて貰う」

人外の域に踏み込んだ高速の一撃。

風が唸る音さえも巻き込んで迫るソレを、オーネストは正面から叩き潰しに掛かった。

そして交錯。

みしりと鳴り響く骨の悲鳴。

笑う。哂う。嗤う。

不気味な笑顔がお互いの視界に映り込み、やがて、ぴしり、と亀裂が入った。

本来、ダンジョンの深層の魔物を相手にして尚、壊れる筈のない〝 古代遺物(アーティファクト) 〟。

シュガムが手にする〝 狂華月(グリコラカス) 〟に、亀裂が生まれていた。

尚も止まらぬ勢い。

そして柄越しに伝う力に耐え切れず、次は骨が、筋肉が、次々に纏めて折れてゆく。

だが、オーネストも無事では済まない。

みしりと悲鳴が上がり、こちらもヒビが入り、壊音が脳内で殊更に大きく聞こえる。

けれど、止まらない。止める気がない。

「っ、ああぁぁああぁぁぁッッ!!!」

「ッたく、どんな馬鹿力してやがんだおどれはよぉぉおッ!!!」

己を鼓舞するように大声が上がり、やがて弾けるようにシュガムの姿が吹き飛んだ。

後方に存在する瓦礫の山へと衝突。

程なく、シュガムは瓦礫に生き埋め状態となった。

動く気配がない事を確認して、足下に転がっていたシュガムの得物の残骸を一瞥した。

「さぁて。援護に向かってやるとすっか」

ぷらりと垂れた右腕は、完全に折れていた。

しかし、そんな事は知らんとばかりにオーネストは歩く。

「……いんや、これじゃキツイか」

雨霰と繰り出される魔法の数々。

最上位の魔法が、延々と繰り出されるという悪夢もさながらの光景を前に、全てに対処出来ているリクという人間はまごう事なき化け物だ。

しかも、アレクには時間制限がある。

残された時間はおそらく、あと四、五分ほど。

対してリクはそういった制限がない。

間断のない攻撃で攻め立ててはいるが、追い詰められているのはアレクだった。

「……どうすンだよ、アレク」

このままではジリ貧。

そんな事は言わずとも分かっているだろう。

だから、何か手を打たなければいけない。

クラシアに折れた腕の治療をして貰って、加勢に向かう。これ一番か。

オーネストはそんな判断を下す。

だが、クラシアの下に向かおうとしたところで足が止まる。

その理由は、大魔法による攻撃が止まったからという事も一因だったが何より、アレクの手に、見慣れない杖が握られたから────。

* * * *

『これか? これは母さんの形見だ。〝 星屑の祈杖(ステラティオ) 〟っつーんだ』

当時はまだ、〝 古代遺物(アーティファクト) 〟という知識がなかった。

だから、少し変わったアクセサリー。

その程度にしか俺は思っていなかった。

でも今考えると〝 古代遺物(アーティファクト) 〟を持つ程の冒険者だ。

きっと並の冒険者ではなかったのだと思う。

ただ、親父がそれを語る事は一度としてなかった。寧ろ、ひた隠しにしてるようでもあった。

『良いだろ? これ』

そして、よく自慢をされた。

良いだろ?これ。って、何度も。

余程に大事なものだったんだと思う。

なにせ、母さんの形見でもあるから。

『いつか、アレクにやるよ。きっと、これは俺が持っておくより、アレクの方が相応しいだろうから』

小さい頃に交わした会話。

結局、成長するにつれてそんな約束をしていた事も忘れてた。

宮廷魔法師になった時も、これだけは渡してくれなかったから。

だから、疑問だった。

どうして、エルダスがこれを持っていたのか。俺に届けてくれたのかが、どうしても。

だけど、今は後回しだ。

魔法をひたすらに行使しても、状況を打開出来ない。出来る未来が見えてこない。

ベスケット達に期待をするべきだろうが、それでももしもの事もある。

出来れば、ここでどうにかしておきたい。

〝リミットブレイク〟効果が続いている間に、せめてリクの力を削いでおきたい。

だから、やれる事はやるべき。

可能性があるなら、そこに希望を見出すべき。

故に俺は、〝 天地斬り裂く(シュヴァルト) 〟を収め、受け取っていたブレスレットに手を当てた。

「〝 星屑の祈杖(ステラティオ) 〟」

変形する。

ブレスレットが、青と白が基調の杖へ。

そして、手に収まる。

初めて手にしたのに、無性に懐かしく思えた。

初めてなのに、〝 魔力剣(ソード) 〟を手にしている時のように、しっくりときた。

ずっと昔。

俺は家に置かれていた古びたノートを読んだ事があった。

思えばあれは、母のノートだったのだろう。

お陰で、〝 星屑の祈杖(コレ) 〟の使い方がよく分かる。

「────〝 天蓋星降(ステラカーテン) 〟────」

頭上いっぱいに、空に蒔かれた星々のような光が浮かび上がる。

幻想的光景。

先程の大魔法の数々に比べれば、頼りなさを覚えてしまう魔法。

しかし、その認識は一瞬後に覆される。

「〝 降り注げ(メテオ) 〟」

さながらそれは流星群。

降り注ぐそれは、目に留まらぬ速さで以て地面を次々と抉ってゆく。

だが、それだけならば、先の大魔法の連発と大差はなかった。

故に、犇めく化け物の対処も手間取る筈だった。しかし今回は、〝 人工魔人(オグル) 〟や触手の怪物が確実に倒れ伏してゆく。

戦力を減らしてゆく。着実に。

「やはり、〝 古代遺物(アーティファクト) 〟の有無は大きいか。何より、考えたなアレク」

「……というと?」

ローザの呟きに、ヴォガンが反応した。

「アレクの〝リミットブレイク〟という命知らずな行為は、極めて万能だ。だが、致命的な弱点が二つある」

「制限時間だろう」

「ああ。それと、自前の処理能力がその〝リミットブレイク〟に追い付いていない事だ。弱点であり、勿体無さでもある。精々、化け物クラスでも三十が限界だろうな」

魔法を行使する際に必要な手順は、魔法陣を浮かばせる事。

そして、それに魔力を送る事。

そこまでして漸く、魔法は発動する。

だが、人間ならば誰しもに限界がある。

許された処理能力の限界こそが、弱点であり勿体無さ。

もっとも、それを弱点として突ける連中は間違いなく人間を辞めてるがなと付け加えられた。

「ただ、処理能力を極限まで抑えて魔法を行使する方法はある。ただし、消費魔力が大きくなる為、推奨はされないがな」

「……だから、地面を抉って無理矢理、陣を描いているのか」

ただの攻撃。

そう思われた一部が、陣を描くように正確無比に地面を抉っていた。

抉らせていた。

そうすれば、処理能力以上の魔法が展開される。

魔法で魔法陣を描く正確さ。

無尽蔵の魔力。

〝 古代遺物(アーティファクト) 〟で底上げされた魔法力。

増殖を繰り返し、数を増やしていた化け物のスピードが初めて、減らす方が上回る。

そして道はひらけた。

その一瞬を見逃さず、俺は魔法によって強化された脚力でもって突っ込む。

魔法では埒があかない。

なら、やる事はひとつだろう。

「……流石に一筋縄ではいかないか。だが、魔法師相手に近接戦を挑まれる日が来るとは思わなかった」

「俺も、魔法師相手に近接戦を挑む日が来るとは思ってもみなかった、よッ!!」

交錯する。

もう何度も行った攻防。その焼き増しだ。

だけど、これは焼き増しのようであって焼き増しではない。

「我慢比べといこうか、リク。あんたの身体も、ガタがきてるのは分かってる」

見た目は何事もなかったかのように装ってはいるが、これだけの力を得て何事もない訳がない。

そして、力をひたすら行使している状況。

間違いなく、身体にガタが来ている。

事実、

「その姿になる前のあんたは、もっと余裕があったぞ」

エルダスや魔法学院時代に叩き込まれた杖術で以て肉薄。交錯。続け様の一撃。掠める。

虚空に鮮血が飛び散る。

俺の限界が先か。

リクの限界が先か。

はたまた、ベスケット達が間に合うのが先か。これはそういう戦い────。

「それは、お前もだろうがアレク・ユグレット!!」

何処からともなく取り出した細長い槍を手に、リクが応戦してくる。

突き。突き。突き。突き。

高速で繰り出される前後運動に皮膚を掠めながら、どうにか避けてゆく。

そのまま再度、頭上に〝 天蓋星降(ステラカーテン) 〟を展開。

殺到。避けられる。カウンターで、四方より鋭利な牙を覗かせた触手が俺を襲う。

複数の軌道。

それを避けて。避けて。頭蓋に当たる部分を砕き割って。また、避けて。

自傷を厭わない一撃を用意。

足下に展開する特大の炎系魔法。

纏めて燃えろ────ッ!!!

「────〝 火葬(ヘイリオス) 〟────!!!」

轟!! と音を立てて立ち上る極大火柱。

容赦のない己の一撃は、ヨルハの補助魔法に守られていて尚、それすら穿って肌を灼く。

鋭い痛みに顔が歪む。

でも、痛がってる場合じゃない。

自傷覚悟の一撃を前に、小さな油断をしたリク目掛けて踏み込む。

一足で、空いていた距離をゼロへ。

「捕、まえた……っ!!」

杖を握っていない左手で、リクの胸ぐらを掴み上げる。

さっきは掠めただけ。

致命傷には程遠い。

ならば今度は、ゼロ距離で。

ばちりばちりと帯電する雷が音を立てる。

恐らく、時間的にこれが最後。

これでダメなら諦めるしかない。

だから、後悔だけはないように最大火力で。

「…………落雷注意、ってね」

リクが逃れようとする。

だけど、もう遅い。

「……お、まえ……ッ」

先の〝 天蓋星降(ステラカーテン) 〟で抉った地面。

そこに刻まれた魔法陣の効果が発動しており、一瞬にして広がる氷によってリクは足を取られる。

魔法の名を、〝 凍ル世界(ニヴルヘイム) 〟。

続けて大魔法。

落ちてこい───。

「────〝 雷神の憤激(トールハンマー) 〟────ッッ!!!」

眩い白雷が、俺達に降り注いだ。

立ち上る砂煙。

響き渡る轟音。

やがて、それらは引いてゆき、晴れゆく砂煙の中で立ち尽くす人影が一つ。

「……まじ、かよ」

全身に力が入らなくて、膝を折る俺の前でリクは立っていた。

「流石に、さっきのは肝が冷えた」

焼け焦げて、リクの右腕は使い物にならなくなっていた。それでも、立っている。

俺とは異なって、戦闘は可能な状態にある。

本当に、いい加減にしろよと言いたくなる。

化け物にも、程がある。

「流石は、アリア・ユグレットの血を引いているだけある。グランの、妹もそうだ。だが、それでも届かない。悪いが、お前の」

───負けだ。

恐らくはそう言おうとしたリクだった。

だが、それを言う事は出来なかった。

「か」

どうにか聞き取れたのはその一文字。

直後、水が勢いよく跳ねるような軽快な音が続いた。

唐突に、リクの口から鮮血が溢れ出した。

「…… 核(がぐ) 、か」

核が、壊された。

リクのこの変化は、それ故のなのだろう。

同時、周囲に未だ犇めいていた筈の化け物が、砂上の城のように風化を始める。

「っ、オイッ、アレク!!!」

その変化を前にして、ローザやオーネスト達が駆け寄ってくる。

「……なん、で、壊され、た」

まるでそれは、まだ壊されないと分かっていたかのような物言いだった。

「────グランはとてもとても用心深い人間ですからねえ。それこそ、核を四つに分けた上で、その一つを この愚者(、、、、) にあえて託すという選択まで取った上であの演技ですからぁ~」

あ。今は、リクでしたっけ?

そんな言葉を付け加えながら、何処からともなく聞こえてくる声。

それに、覚えはあった。

ああ。そう、だった。

闇ギルドの人間が、後一人足りない。

シュガムと初めて出会った時にいた、鎖使いがまだいた。

名は確か、ノイズ。

「……宰相は、お前らの駒だった筈だろう」

声のした方に視線を向ける。

そこには、見覚えのある黒髪男がいた。

彼の手には、首から下が失われた男の顔。

ローザはその者を、宰相と呼んでいた。

「ええ。そうですね。でも用済みになったんでえ? 殺しちゃいました。きゃは!」

生理的嫌悪を催す物言いに、怒りが湧く。

「ま、当然ですよねえ。利用価値がなくなれば斬り捨てる。それが我々のポリシーみたいなもんですから」

にこにこ不気味な笑みを浮かべながら、ノイズは手にしていた宰相の男の首を興味がなくなったのか。

ぽい、と放り投げた。

「……まて、ノイズ。〝神降ろし〟はお前らにとっても、利用価値があるものだった筈だ」

俺達が耳にしていた話が正しいならば、その筈だった。

恐らくは仲間割れをしたのだろうが、リクの行為は闇ギルド側からしても益のあるものだった、筈だ。なのにどうして。

「ええ。そうですねえ。利用価値があるもの でしたよ(、、、、) ? ただ、不確定要素が多過ぎるそうで。それと、ちゃんとした方法が見つかったそうですよ? ちゃんと、神を殺せる方法が。そんな訳で、貴方はもう用済み。斬り捨て対象という訳です。まぁ、当然ですよね。結果が伴わなかったとはいえ、貴方は我々を踏み台にしようとしていた訳ですから」

リクが歯噛みしていた。

核を壊されたという事もあり、みるみるうちに生気が彼の顔から失われていく。

元より、命を削る禁術まで持ち出していたのだ。無事に済む訳がない。

「そんな訳で、おれはテオドールから後処理を任されてましてえ」

じゃらりと音が立つ。

彼方此方に出現する、鎖。

まるで意思をもった生物のように、それは蠢いていた。

「それと、リクはテオドールを利用出来た気になっていたのかもしれませんが、貴方へのお仕置きは まだ(、、) ですよぉ?」

ニヒルに笑う。

含みのあるそれが意味する事は、一体何なのか。分からない。

分からないが、嫌な予感がした。

やがて、鎖が一斉に殺到する。

それに隠れるように、怪しい光を放つ鎖が間隙を縫うようにして────。

「それでは。哀れな 少女(、、) 。また来世」