軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三十七話 終わりなき日々を

* * * *

「————そういや、今日は一段と賑やかだな」

レグルスとの騒動の後。

レヴィエルから「ちょいと用があるんで日暮れあたりにギルドに寄ってくれ」と言われていた事もあり、俺達はギルドに足を踏み入れていた。

ただ、中は多くの冒険者でごった返しており、息苦しい事この上なかった。

「そりゃあそうだろ。フィーゼルで発行される【アルカナ】の参加権利だぜ? 噂じゃあ金ピカっつー話もたまに聞く。物珍しさからどいつもこいつも集まってきたってクチだろ」

隣で足を組み、退屈そうにふんぞり返っていたオーネストが上体を起こしながら答えてくれる。

「……【アルカナ】の参加権利っていうと」

「————パーティーランクSへの昇級、だね」

そう答えてくれたのは、ヨルハだった。

通称、【アルカナダンジョン】。

それは、一層限りの超高難易度ダンジョンであり、通常のダンジョンとは乖離したその難易度から、Sランクパーティーを除いて参加が認められていない特殊ダンジョンの一つ。

故に、参加権利。

「つか、オレ、アレクにそのこと言ってなかったっけか?」

「……聞いてねーよ」

「……あー。確かに言われてみれば、言い忘れてたような気もするわ」

おい、てめえふざけんな。

半眼でそう言わんばかりに睨め付けてやると、居心地が悪かったのか。

ぷぃ、と顔を背け、逃げられる。

「……この馬鹿が適当な事は今に始まった事じゃないでしょ。アレクにはオレさまが伝えるんだ! って言っときながら忘れるってただの馬鹿よね。あ、馬鹿だったわ」

「…………」

クラシアの罵倒を前に、ぷるぷると怒り故か。

オーネストの身体が震えていたが、今回ばかりは自分に非があると理解しているのか、黙って耐えていた。中々見れない光景である。

「————やあ、やあ」

そんな折。

不意にへらりとした軽い挨拶のような言葉が喧騒に紛れて聞こえてきた。

「お久しぶり」

近づく足音と人の気配。

声のした方へ視線を向けると、そこには見知った顔があった。

アッシュグレーに染まったマッシュ頭の男。

ロキ・シルベリアである。

「……なにしに来やがったよ、〝クソ野郎〟」

「あれあれぇ? この僕にそぉんな口を利いていいのかなあ? オーネストくぅん?」

相変わらずとしか言いようのないあからさまに腹立つ口調でもって、ロキは喧嘩腰のオーネストに対して言葉を返す。

「キミ達がギルドにいるのって、これが理由じゃないのかなあ?」

そう言うロキの手には、〝タンク殺し〟64層から帰って来た日にレヴィエルから受け取っていた通行証。

それに酷似した銀製の何かが親指と人差し指を使って握られていた。

「キミ達用の、Sランクを証明する証」

「……なんでてめぇが持ってんだ」

「いやぁ、レヴィエルからオレの代わりに渡してくれってついさっき頼まれてさあ。どうにも、何かをやらかしたみたいで今は副ギルドマスターに絞られてるんじゃないかな。ま、僕には関係ないからどうでも良いんだけど」

いい加減な性格はオーネストだけではなく、ギルドマスターであるレヴィエルにも言える話で。

この1ヶ月の間だけでも定期的に副ギルドマスターから怒鳴られている光景を俺もたびたび目にしていた。

だからか、ロキのその言葉はすんなりと受け入れる事が出来た。

「とはいえ、だ! さぁどうする。キミらの欲しがってるモノは僕の手中!! オーネストくんが『いつも生意気を言ってすみませんでした。わたくしめが悪うございました』と謝るならこれを素直に渡してあげるってのも、考えても良いけどね!! ふはは! どうする!? どうする!? どうしちゃうううううぅ!!? ————ぃだっ!?」

ゴツン、とロキの頭に拳骨が繰り出され、次いで殴られた当人はそのまま前のめりに倒れ込む。

「……お前は餓鬼か」

頭を押さえ、うおおぉおお!!! と、悶えるロキに軽蔑の眼差しを向けるのはSランクパーティー〝 緋色の花(リクロマ) 〟所属のメンバーの1人、クリスタであった。

そしてロキが手にする通行証に似た証を有無を言わせる間もなく取り上げ、それをヨルハに向かって差し出していた。

「……馬鹿が失礼した」

「あ、あー、全然気にしてないんで大丈夫ですよ」

割と本気で殴られたのか。

若干涙目になりながら痛がるロキに同情の眼差しを向けつつ、差し出されたそれをヨルハが受け取る。

「……Sランク、とはいえ、これまでと基本的に特別変わる事はない。ギルド内では多少、融通が利くようになるくらい。ただ、あえて違いを一つ挙げるとすれば」

「【アルカナダンジョン】の参加が許される」

「……そういう事」

淡々と説明を始めるクリスタの発言に、一度ばかりオーネストが言葉を被せ、そして説明が終わる。

「分からない事があればいつでも頼って下さい。これで恩を全て返せたとは此方は思ってませんので」

いつの間にやら、すぐ側まで歩み寄って来ていた〝 緋色の花(リクロマ) 〟のリーダー、リウェルが柔和な笑みを向けながらそう言ってくれていた。

やがて、すぅ、と息を吸い込み、そして大きく口を開かせて腹からリウェルが声をあげる。

「————さぁ、さぁ、さぁ、さあ!!!」

この場に居合わせた冒険者全てに届くようにと張り上げられる声。

「新しいSランクパーティー、〝 終わりなき日々を(ラスティングピリオド) 〟の誕生を祝って、今日は朝まで馬鹿騒ぎしましょうや!!!」

大仰に手を広げ、どこまでも楽しそうに、

「朝までの飲み食い代は、今日に限り全て〝 緋色の花(リクロマ) 〟が持つ!! だから遠慮せずに吐くまで飲み食いしてくれ!!!」

一瞬ばかり、リウェルの大声により場が静まり返るも、その言葉を最後に場がわっ、と湧き上がった。

「……良いんですか?」

心配そうにヨルハがリウェルに問い掛ける。

「全く問題ありません。それに、代金は全て〝 緋色の花(リクロマ) 〟が持つとは言いましたが、まだ、 誰(、) とは決まってませんから」

「……?」

その言葉の意図が理解出来なかったのか。

ヨルハは頭上に疑問符を浮かべていた。

しかし、リウェルにその疑問を解消する気はないのか。ヨルハに対して言葉が続けられる事はなく、

「さ、やりましょうか」

ぐっ、とリウェルの右の拳が力強く握り締められ、〝 緋色の花(リクロマ) 〟メンバーに対して言葉が向けられた。

それに伴って発せられる緊張感は、ただならぬもので。

「恨みっこなしの一発勝負でいくよん」

「……本気でいく」

リウェルのその発言に言葉が続く。

やがて、〝 緋色の花(リクロマ) 〟メンバー最後の一人であるロキはすっくと無言で立ち上がる。そして、ゆっくりと息を吸い込み、吐き出して精神を落ち着かせる。

次いで、勢い良く右の手を天井目掛けて突き出した。

なんと、掲げられたのは力強く握り締められた拳ではなく、まさかのピースサインがそこにはあった。

突如として場に降りた極限の緊張感の中。

「————僕は、 チョキを出す(、、、、、、) !!!!」

その一言でもって、ロキは究極の ジャンケンポン(デスマッチ) の火蓋を切った。

挨拶がわりと言わんばかりの心理戦を展開。

彼らの様子を見るからに、つい先程公言していた代金を持つ件について、誰がそれを持つのか。

という事を掛けた勝負なのだろう。

剣呑に似た空気であったから、殴り合いでも始まるのかと思った矢先にピースサイン。

思わず吹き出しかけた。

「如何にパーティーメンバーとはいえ、勝負をするからには僕も本気で行かせてもらう……!! このロキ・シルベリア!! 心理戦ならまず負けない……ッ!! というより、オーネストくんにだけは奢りたくねえ!!」

「てめえ張り倒すぞ」

冷静なツッコミが入るも、それをガン無視。

さあどうする! と、相手の反応を窺うロキであったが、彼が心理戦を持ちかける事は当然、見透かしていたのか。誰一人として反応はしない。

数秒待とうとも誰一人として反応しなかった事に痺れを切らしてか。

〝 緋色の花(リクロマ) 〟メンバー全員が一斉に無言で右手を後ろに引き、構えを取る。

決戦の合図をするのは唯一、心理戦を持ちかけたにもかかわらず、一切反応して貰えなかったロキ。

「————よ、よーし、いくぞおおぉぉおお!!! じゃああん!!」

「けぇぇええん!!」

「「ポォォオオオン————ッ!!」」

場に出された手は、

グー。

グー。

グー。

チョキ。

唯一の仲間外れは、ロキであった。

「……はん」

「作戦通りです」

「んじゃ、今日はロッキーの奢りって事でええええ!!! ゴチになります!!」

「なに全員馬鹿正直にグーだしてんの!!? 僕の言葉は疑えよッ!!?」

膝から崩れ落ちるロキの姿が鮮明に映り込む。

「自分で自分の首絞めただけじゃねえか。バカだろあいつ」

「馬鹿ね」

「馬鹿だね」

「馬鹿だな」

「うるっさいなぁ!? そこ4人!!!」

心理戦が得意だと言いながら完全に読まれ切っていた今のロキに、64層での勇姿の影は何処にも存在していなかった。

「……Sランクパーティー、か」

同情の眼差しを僕に向けるなあ!

と、叫ぶロキから視線を外し、ぽつりと俺は呟く。

「……おい、アレク」

「んあ?」

「まさか、自分が本当にここにいて良いのか。なんて思ってねえだろうなあ? 俺は何もしてないのにSランクパーティーになんて。そんな事を思ってんならぶっ飛ばすぞ」

俺の心を読みでもしたのか。

丁度考えていた心境をずばり言い当てられた。

「ここがスタートラインだ。『 伝説(、、) 』の、スタートラインなのさ」

「そういう事よ」

珍しくオーネストの言葉にクラシアが同調する。ヨルハは俺とオーネストの会話を微笑ましそうに眺めていた。

「オレらの『伝説』はここからなのさ。ここから、『再開』なのさ。馬鹿な事を思ってっとオレさまがぶっ飛ばすぞ」

「……はっ、そりゃ怖え。気をつけないとだな」

「おう。二度目はねえぞ」

その言葉に、一緒になって笑い合う。

「さ、オレらのSランク昇級を祝して、 いつもの(、、、、) 頼むぜ。 元リーダー(、、、、、) 」

思い起こされるは、〝魔法学院〟時代。

俺やオーネストが口癖のように発していたある言葉。事あるごとにその言葉を口にしていた。

きっと、オーネストが求めているのはその言葉なのだろう。

だから、ヨルハやクラシアは呆れ混じりの笑みを浮かべていたけれど、それに構わず言うことにした。

「———— 度肝抜いてやるぞ(、、、、、、、、) 、〝 終わりなき日々を(ラスティングピリオド) 〟!!!」