軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三十一話 ヨルハと2人

* * * *

「————フィーゼルには、もう慣れた?」

Sランクパーティー〝 緋色の花(リクロマ) 〟の救出の為、〝タンク殺し〟と呼ばれるダンジョン。その64層に向かってから早、1ヶ月が経過した頃。

雲ひとつない空の下。

くあっ、と気怠げに欠伸をした折に、すぐ側からそんな質問がやって来た。

「お陰様で」

「なら、良かった」

そう言って、隣を歩くヨルハは満足そうに花咲いたような笑みを浮かべる。

『————オレさまはパス。ヨルハに頼め』

『————あたしもパス。ヨルハに頼んで』

フィーゼルを案内してくれ。

結果的に64層の攻略が済んでしまった翌日に、俺がそう言ってみたもののオーネストとクラシアからはやんわりと断られた為、暇を見つけては唯一拒まれなかったヨルハに案内をして貰っていた。

そして今日が、その暇なうちの1日。

「……にしてもあの2人、薄情に見えるけど、その実すごい気遣い屋だよね」

「……まぁな」

唐突に振られる話題。

あの2人が指す人物は、間違いなくオーネストとクラシアの事だろう。

そして、これから続けられる言葉についても何となく理解が及んだ。

「ああは言ってたけど、きっと2人はボクに譲ってくれたんだろうね」

何を。とは言わない。

案内する機会を。2人になる機会を。

そんな言葉が反射的に脳裏に浮かんできたけれど、俺もあえて、それを口にする事はしなかった。

「あの時ボクは、言葉では納得をしてる風に言ってたけど、本音を言うと納得なんてこれっぽっちもしてなかった」

オーネストやクラシアはそれがアレクの意思であるなら。そう言って割り切って納得してたけど、ボクだけが最後まで納得してなかった。

と、言葉が付け足される。

「周りからはそうは見えないらしいけど、ほら、ボクってばこの4人の中じゃ一番我儘だし」

「それは、知ってる」

「……あは、は。だよ、ね。アレクは、知ってるよね」

6年も一緒にいたんだ。

そんな事は改めて言われなくても、知っている。

そして、一番我儘で、一番我慢強いヤツがヨルハって事も。

「だから、ボクはみんなでいたかった。どんな形であれ、みんなと。あのメンバーで、馬鹿やっていたかった。その気持ちは昔も今も変わってない。でも、あくまでそれはボクの気持ち。どんな理由があれ、無理強いだけはしたくない」

……ごめんね。こんな狡い言い方をして。

それは、すぐ側にいて尚、聞こえるか、聞こえないかギリギリの細声であった。

「だから、もう一度だけ返事が欲しいんだ。王都にいたあの時は、アレクの弱味につけ込む形になっちゃってたから」

次いで、華奢なヨルハの右腕が俺に向かって差し伸ばされる。

「…………」

一連の行動で、漸くヨルハが何を言いたいのか。それを悟る。

……本当に、律儀というか。何というか。

本人は狡い。などと言葉を漏らしていたけれど、ここまで真っ直ぐな人間もそうはいないと思う。

きっと、だから。

俺も包み隠さず言おうと思った。

ここまで真摯に向き合ってくれている人間の前で、隠し事はフェアじゃない。

たとえそれが、相手にとって取るに足らない感情であろうとも、話すべきだと思った。

「……正直、未練が無いと言えばそれはたぶん、嘘になる」

1ヶ月。

この話題を振るにあたって、それだけの期間を置いてくれたヨルハの気遣いもあり、頭の中はあの時よりもずっとずっと整理されていた。

その上で、俺は言う。

「でもそれは、また宮廷魔法師として戻りたいだとかそういうものじゃなくて、遣る瀬無いとか、情けないだとか、自分に対するそんな感情故のものだと思う」

何一つ成せなかった自分に対する怒りであり、そこから来る未練。

それ故に、追放されたから。はい、終わりでは他でもない自分自身が納得出来やしない。

だからこそ、ヨルハに対し俺はこんな返答をしているのだろうし。

「……だから、どんな形で終わる事になるとしても、俺はガルダナにもう一度向かうんだろうなって、 思ってた(、、、、) 」

あえて選んだ過去形の言葉に気付いてか。

ヨルハの眉根が不思議そうに微かに寄った。

「でも、考えれば考えるほど、どうしたら良いのかなんて分からなくなってくる。身も蓋もない事を言ってしまえば、俺は宮廷魔法師を夢見ていた人間じゃあないから、別に追放されたところで『それで』と思える俺も確かにいたんだ」

でも、かつての恩を返したい。

そして、オーネストではないが高慢ちきな貴族や、あの猪突猛進な王太子に対する苛つきをどうにかして少しでも払拭しておきたいと思う自分もいる。

バラバラだ。

バラバラ過ぎて、どれを取ればいいのか。

どれが正解なのかが分からない。

だから、

「————なぁ、どうしたらいいと思う。ヨルハ」

ヨルハに、相談する事にした。

俺の口から漏れ出た呟きは心底、意外なものであったのか。彼女は瞬きを一度、二度、三度と短い間隔で行い、此方を見詰めてくる。

「……あぁ、悪い。返事をするのが先だった。……俺の答えは変わらない。みんなが許してくれるのなら、また一緒に4人でダンジョン、攻略するか」

そして、差し出されていた手を掴み、握り返す。

「……うちは、原則脱退禁止だよ」

「そりゃ初めて聞いた」

「なにせボクが今、作ったからね。〝 魔法学院(あの頃) 〟とは違って、今はボクがリーダー。だったら、ボクがルールを決める。〝 終わりなき日々を(ラスティングピリオド) 〟は、この4人じゃなきゃ、あり得ない」

ぎゅっ、と強く手を握り締められる。

もう逃さないぞと、言わんばかりに。

「……肝に銘じとく」

「忘れたら地の果てまでオーネストに追い掛けさせるから」

「そりゃ、忘れられないな」

化け物に追い掛けられるより怖そうだ。

そんな感想を抱きながら、俺は笑い、握り締めていた手を離す。

「……それと、相談、してくれるんだ」

「一応これ、〝罰ゲーム〟でもあるしな」

悩みがあるンなら打ち明けろ。

それが、てめえへの〝罰〟だ。

64層にて、俺に言葉を突き付けてくれたオーネストの発言が不意に蘇った。

「〝罰ゲーム〟は絶対遵守、だったっけ。……なーんか少しだけ納得いかないけど、アレクがそれで相談をしてくれるのなら、それはそれで良いのかなあ」

少なくとも、胸の内に抱え込んだまま背を向けられるよりはずっと、ずっと。

哀愁混じる視線を前に、何とも言えない心境に陥り、俺は堪らず一度ヨルハから目を逸らす。

「で、どうしたら良いのか。だったっけ」

「……ああ」

「なら、一度みんなでガルダナ向かおっか」

何気ない口調で、当たり前の事を口にするかのようにサラリと発せられた。

今度は、俺が驚く番であった。

「でもきっと、オーネストも、クラシアも、ボクと同じ事を言うと思うよ」

『なら話は早え。だったら、殴り込みに行くか。ガルダナに!!』

『……これだから短絡的な馬鹿は嫌いなのよ。そういうわけだから、行くなら3人でって事になるわね』

『あぁッ!?』

『……うるっさ』

この場にいない筈の2人の会話が、いとも容易く浮かび上がる。

そして、気付いた時には己の顔は綻んでいた。

「ボクにこうしてアレクは相談をしてくれた。きっと、それが答えだとボクは思うけどな」

「…………」

ヨルハのその発言に、俺は何も言い返せなくて。

「本当にどうでもいいって割り切れてるなら、そもそもアレクはこうして相談を持ち掛けては来なかったと思う」

……その通りだと、思った。

やがて俺は、右の手をズボンのポケットへ突っ込む。

じゃらり。

ロキから譲り受けた〝 古代遺物(アーティファクト) 〟であるブレスレットと擦れた事で金属音が小さく鳴り響いた。

そして手をポケットから引き抜き、取り出すは勲章のようなものが下げられたペンダント。

「……なにそれ?」

「宮廷魔法師としての身分証みたいなもんだ。事が唐突だっただけに、すっかり返し忘れててさ」

返し忘れていた事実に気付いたのは、既にガルダナを出た後であった。

どうせ、身分証代わりとはいえ、俺が追い出された事は既に通達がいっている筈。

だったら、どうせこの ペンダント(身分証) も効力を失っている事だろう。

……ただ、捨てられなかった。

理由はまだ整理がついてないけれど、どうしてか、捨てられなかったんだ。

「……ま、返すついでに一言言ってやるくらいしても、バチは当たらないか」

もしかすると、「ペンダントを返す」というもっともらしい理由として使い、いつかまた、王城に赴きたい。

心の何処かでそう考えていたからこそ、手放せなかったのかもしれない。

「じゃ、みんなと話し合ってガルダナに向かう日程でも決めよっか」

……俺の事情にみんなを巻き込めない。

一瞬、そんな言葉が過りはしたけれど、それを振り払う。

1人で抱え込むな。

そう、オーネストと約束をしてしまったから。

「2人とも、ギルドの中にいてくれると話が早いんだけど、そう都合良く話は進んでくれないよね」

呟きながら、ヨルハは眼前にあるギルドへ足を踏み入れんと足早に歩を進め始める。

……ただ。

少し離れた場所からでも分かってしまう程に、ギルドの様子が普段とは明らかに異なっていた。

異様というか。静か過ぎるというか。

殺気立っているというか。剣呑、というか。

そして極め付けに、ギルドの前でギルドマスターであるレヴィエルが不自然に突っ立っていた。

間もなく、ギルドのすぐ側までたどり着き、先へ進もうとするヨルハに対して何故か、待て待て待てとレヴィエルが制止。

程なく俺も、ギルドにまだ足を踏み入れるなと言わんばかりに足を止められてしまう。

「……随分と探したぜぇ。漸く帰って来やがった。おい、アレク。お前さんに、客が来てんぞ」

疲労感がこれ以上なく滲んだ声音であった以上に、その予想外の発言に気を取られた。

「客……?」

「おうよ。中で待たせちゃいるが、先に言っとくと、お前さんからすりゃロクでもねぇ待ち人だと思うぜ」