軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミヅキという異世界人

アリサ達と親交を深めた翌日。

私達はアルベルダへと旅立った。今のところ追っ手も無く平和です。

どうもライズさん達の反応を見る限りキヴェラは表立って動いてないっぽいな、砦イベントの威力って凄ぇ。

尤も、そうなったのは国の上層部が非常にまともな対応をしているからだと思われる。

誓約という最強の切り札がある以上は復讐者達(仮)の事を優先しますね、普通。

「いいんですかね、こんなに良くして戴いて」

「気にするな」

そう返すのはリカードさん。

彼は私が情報を齎した事に感謝し、アルベルダの国境まで送ってくれている。

更に破格な事にライズさんの口利きにより国境付近まで転移法陣を使わせて貰えた。

ここまで来ると本来の身分が誰でも判る。隠してる意味あるのかね?

いや、ライズさんも私達が気付いていると思ったからこういった手段をとってくれたんだろうけど。

「口止めか、口止め料代わりなのか」

「……。すまない、答えられん」

「じゃあ、『これから忙しくなるから危険人物をさっさと他国に捨てて来い♪』的な感じ?」

「……」

「無言は肯定ととるぞ、護衛騎士」

更に突っ込むと無言で顔を背けられた。

無表情を取り繕いながらも微妙に隠し切れていないね、リカードさん。

駄目だな、そこはにこやかに『どうでしょうね?』位は言わないと!

「まあ、ミヅキってば楽しそう」

「楽し……!?」

「ああ、リカード殿をからかって遊んでいるな」

「二人ともネタばらししちゃ駄目!」

軽く睨むと楽しげな笑い声が返ってくる。

二人も楽しんでるみたいですね。類友達よ、君らも十分酷いぞ。

セシルとエマの援護射撃と言う名の突き落としにリカードさんは今度こそ絶句した。

思わず勢い良くこちらを振り返るあたり会話はしっかり聞いていた模様。

「今更じゃないか」

「そうですわ。それにミヅキはリカード様の欠点を教えようとしているのでは?」

笑いながらも私を窺うエマの言葉にセシルも頷く事で同意する。

あらら、やっぱり気付いてましたか。

でも、この二人にも判るくらい判り易い欠点なんだよね。

言われた対象であるリカードさんは私に視線を戻しながらも内心首を傾げているようだ。

まあ、本人だと判り難いかもしれない。特別に教えてあげよう。

「真面目過ぎるんだよ」

「何?」

「考え方が硬過ぎる。お忍びであっても護衛という形を崩さないから判る人にはライズさんの正体がバレるよ」

「自らの職務に忠実であるのは当然だが……」

「うん、普段はね。でも御忍び中に同じ態度を取ってると目印にしかならないよ? それに、ただの貴族に毒見役なんてつく?」

この二日間のエドワードさんとリカードさんの態度は実に判り易いものだった。

まず口に入る物は何を出しても二人が先に手をつける。ライズさんは二人が口にしてから暫くして手を出す、という状態。

これは私が魔導師だから警戒されない為に解毒の魔道具を置いて来た為だろう。

別に貴族が持っていても不思議はないけど、今回の設定は『友人の家を訪ねた貴族』。毒殺の心配なんてしてませんよ、という意思表示か。

自分の客人を紹介するくらい親しく、信頼しているのだと見せつける意味もあったと推測。

加えて言うなら解毒の魔道具を常に身に着けていなければならないような立場の人間に軽々しく情報を口にするはずがない。……普通なら。

エリートコースから外れたエドワードさんの親しい友人で毒殺の危険無い人物ならば国の中枢に関わっている等とはまず思われないもんな。

……という事を正直に言ったらリカードさんは落ち込んだ。

まさか自分達の態度が立場を見破られる原因とは思ってなかったらしい。

「リカードさんの態度ってさ、近衛の勤務態度そのままだからねぇ。『御守りします!』って力一杯主張されると重要な人物は誰なのかすぐに判るよ。気をつけた方がいい」

「こう言っては何だが、いっそライズ殿とは友人として接した方がバレないと思うぞ? 見た目からして武術を嗜んでいそうなリカード殿が危機を察する術に長ける事も抗う力がある事も不自然ではないのだし」

「ライズ様はどちらかと言えば文官寄りですものね。特に会話を先導する事も含めて誤魔化しが効くと思いますわ」

流石ですね、お二人さん。

って言うか……キヴェラで普通に出歩いていたしね、君達は!

そうか、そんな風に設定を作っていたのかい。それでバレなかったのなら確かに効果はありそうだ。

セシルとエマの言葉は実に的確ですよ。確かにそれなら無理はない。

得意分野が違っても気が合う友人同士ならば互いの長所を理解している。

危険が迫るならば武に長けた者が、会話を弾ませたいならば話術に長けた者が担当する。

初めから『互いに無い物を持つからこそ気の合う友人なんですよ』的な事を言っておけば大体の人は納得するだろう。

ついでに『自分を守る術がないので常に備えているんです』くらい言っておけば解毒や結界の魔道具を持っていても怪しまれまい。実際、そういう貴族は多いのだし。

「そうか……確かに思い当たる事はあるな」

「逆に言えば誰かに王族的な態度を取ってもらえれば、狙われた時も対処できるんじゃない?」

「何?」

「あまり褒められたやり方じゃないけど囮にするってこと。幻覚系の魔道具ならば姿を偽る事くらいできるでしょ?」

護衛に付いている人間がその対象以外を守るなどありえない。だからその対象が狙われた時に別人の安否を確認すればどうなるか。

当然、その時心配された人物が『本物』だと襲撃者は思い込む。

後は偽物だと思わせた本物の護衛対象を予め決めておいたとおり周囲の人間から隠せばいい。

身代わりを危険に晒す人でなしな方法だが王族を優先するのは当然なのです。リカードさんは自分が犠牲になる事は当然と考えていても、誰かを犠牲にして守るという方法には思い至らないだろう。

「君は本当に民間人らしからぬ考え方をするな。それも教育の賜物か?」

「そんなところです。私は善人ではないし、偽善者になるつもりもありませんよ」

そう返すとリカードさんは複雑そうな表情で黙り込む。

うん、私を信用する必要はないよ。君は自分の判断で自分の大事なものを守っておくれ。

ただ『そういう方法』もあるってことだけ覚えておいた方がいい。

「何故そんな事を教えてくれるんだ? 君に何らかの恩恵があるわけじゃないだろう?」

「利点も恩恵も無いですね。ただ、ライズさん共々簡単に死んで欲しくないってところでしょうか」

「アリサの為か?」

「それもあります。ですが個人的にも惜しい人物ですよ」

にこり、と笑う。

私だけじゃなく、グレンの傍にも味方でいてくれた人達が居ただろう。

ライズさん達はアリサにとって間違いなく『味方』だ。彼女の態度を見てそう思う。

あれだけ周囲に怯えていた子が貴族や騎士相手に普通に接する筈はない。

『利害関係無しに味方でいてくれる人達』を同じ異世界人である私が好意的に見ても不思議はないでしょ?

私から情報を聞き出すという目的があるならばアリサを利用した方が確実だ。

だが、彼等はアリサを巻き込もうとはしなかった。

それで十分ですよ、御二方。

「さて。そろそろ国境ですね。少し見物したいから先に行くね」

そう言って彼等を置いて一人先に行く。

大丈夫だとは思うが警戒するに越した事は無い。リカードさんが同行している状態で追っ手が現れれば共犯を疑われてしまうだろう。それは避けなければならんしね。

「気をつけてな」

セシル達も目的が判っているので敢えて追って来ない。

護衛が多少外れても問題無い旅だと示す意味でも過剰な心配をしないだろう。

そして私は注意を国境へと向けた。

※※※※※※※※※

ミヅキの後姿をリカードは困惑した表情で見送る。

その表情にセシルとエマは時間稼ぎも兼ねて声をかけた。

「どうした、リカード殿」

「いや……ミヅキ殿は恐ろしいのか優しいのか判らんと思ってな」

アリサの為に笑顔で脅迫してくるかと思えば有益な情報を惜しげも無く齎す。

目的の為に平然と他者を切り捨てる冷酷さを持ちながらも騎士に助言する。

いっそ利点があるならばまだ彼女の行動に納得できただろう。

そう思うほどに彼女の言動はリカードにとって得体の知れないものに映った。

「難しく考える必要などありませんわ。ミヅキは自分に素直なだけですもの」

「自分に素直……?」

「優先すべきものを明確に位置付けている事は事実ですわ。ですが、個人的な感情を殺す事もしないのです」

「最良の結果を出す事を常に考えてはいるだろうが、それ以外を疎かにする気もないんだ。それに一方的に与えるのではなく、手を差し伸べた対象に結果を出させるという傾向にあるのは自分がそういった教育を受けたからなのだろう」

例えば今回齎された情報。

それを活かすも捨てるも情報を得た者達次第。ミヅキがした事は『切っ掛け』に過ぎず、結果を出すのはバラクシンである。

アリサに関しても『教育の場を整える事』であって、全面的な守りではない。

彼女と周囲の成長と自覚を促し、変わる切っ掛けとなっただけである。

淡々と説明するセシルにリカードの中でミヅキに対する違和感が消えていく。

そして二人の言った意味も理解できた。

「彼女の行動は……利害関係の一致と個人的な思惑に分けて考えればいいのか」

「そういうことだ。全てを利害関係の一致で括ればあまりにも不自然だし、逆に個人的な感情で括るにはどう考えても個人の範疇を超えている」

「だからこそ気付かなければ非常に判り難いのですわ。本人もそれを判っていてそういった態度を取っていますし」

『思考が読めない』という事ほど恐ろしいものは無い。何せ対策をとる事がほぼ不可能だ。

逆に圧倒的な力ならば簡単だったろう。『防ぐ』か『敵を倒す』かの二択しかない。

「なるほど、それならば何となく理解できる。彼女なりの先読みされぬ為の防衛手段なのだな」

「そういうことですわ。ですから私達は彼女の行動が理解できずともミヅキを信じております。私達の味方だと言い切ってくれましたから」

そこにあるのは信頼だけではなく利害関係の一致も含まれる。

だからこそ疑う事はない。ミヅキの望みの為には自分達の望みが叶う事が必須なのだから。

暗に何らかの事情があると匂わせたエマの言葉にリカードは訝しげな顔になるも、エマはその微笑で答えを拒絶する。

それはセシルも同様だ。その様に二人が貴族階級以上の存在だとリカードは確信する。

「きっと彼女は優しいのだろうな……『友人』である君達の為に『圧倒的な力』さえ平然と敵に回しそうだ」

「ふふ、そうですわね。きっとミヅキならばやるでしょう」

「……。やるだろうな」

それで会話を打ち切ると三人はミヅキの待つ国境へと足を進める。

『知らなければ良い』のだ、これ以上の会話は必要ない。

「ああ、そうだ。これは俺の独り言なんだが」

不意に足を止めリカードはセシルとエマを振り返り。

「苦難に立ち向かう者に幸あらんことを。君達の『旅』が幸せな結末に終わるよう願っている」

贈ることができるのはその言葉だけ。

それでも一欠けらの好意は確実に彼女達に伝わるのだろう。

その後リカードが『鬼畜』という言葉の意味を様々な意味で思い知り、己が判断に再び悩むのは暫く経ってからのことである。

※※※※※※※※※

「こちらにどうぞ。じきにグレン様が到着されますので」

「……」

国境を越える直前にリカードさんと別れ。

アルベルダの警備兵に旅券を見せた直後。

「貴女様は!? どうぞこちらに!」

そんな台詞と共に警備兵に詰め所の奥にある部屋に案内されました。

茶も出され客人待遇です。一体何があった。

「えーと。私達は一般人なんですが」

あまりに普通とは言い難い扱いに訝しげに尋ねれば、警備兵は深々と頭を下げた。

だから、私は、民間人だと……!

「申し訳ございません、説明不足でございました。我々はグレン様より客人をもてなせと命を受けております」

あぁ〜かぁ〜ねぇ〜こぉ〜? お前が原因かぁぁぁぁっっ!

ビビるだろ!? 拘束されるかと思ったじゃないか!

それ以前に彼等は不審に思わなかったのだろうか? 知将と言われる人物の客が年齢的にも身分的にも小娘なんて。

そんな感情が顔に出たのか、警備兵は笑って言葉を続けた。

「我々は元あの方の部下だったのです。新人の中には救われた者とています。グレン様からの頼みならば喜んで引き受けましょう」

「へぇ……グレンは慕われてるんだね」

何気なく呟いた言葉に彼は大きく頷く。

「あの方は結果を出すだけではなく、民の視点に立ち物事を考えてくださいます。そういう方が王の信頼を得ているという事がどれだけ我らにとって救いとなるか……」

「あ〜……内乱があったんだっけ」

「はい。お恥ずかしい話ですが、ある王とその御機嫌取りでしかない者達の為に我が国は荒れました。それを共に苦労しながら国を建て直してくださったのが今の国王陛下なのです」

詳しい事は知らないが色々と苦労があったのだろう。彼等にとってそんな時代を終わらせてくれた王は英雄であり、王を支えた者達は敬愛すべき存在なのか。

まあ、グレン個人の苦悩を考えなければ理想的な側近の一人だと言える。

何せ彼は元々庶民。その比重はどうしても近しい立場の民に傾く。

しかも異世界の知識を活かす術があるなら『手を差し伸べてくれた者達の為』に躊躇わず使うだろう。

そこに善悪など関係ない。グレンもまた必死だっただけなのだから。

「いらっしゃいました!」

若い男性の声はどこか嬉しげだ。その言葉に釣られるように見た先に友人の姿を見つけ笑みを浮かべる。

「久しぶり、グレン」

「よく来たな、ミヅキ。それから『護衛』の二人も歓迎しよう」

おいおい、一応私達の設定はイルフェナ三人娘なのですが。

他の人が聞いているのに、あんたの友人は護衛の付く立場だと教えてどうする。

だが。

「グレン様。彼女は貴族階級の方だったのですか?」

「うむ、近衛騎士団長の娘だ」

はい?

初耳ですよ? いや、『母様』発言はあったけどね!?

困惑する私を他所にグレンと騙されている哀れな警備兵の会話は続く。

「放っておけば親の背を追って騎士団に入ると言い出しかねんからな、医師のゴードン殿に師事させて宮廷医師の弟子ということになっておる」

「こんな御嬢さんが騎士、ですか?」

「侮らん方がいいぞ? 魔術師だからな」

「何と……優秀なのですね」

……もしもーし?

赤猫。お前、さらっと嘘吐いてるんじゃねぇよ。

ジト目で睨むと「お前の親から事前に手紙を貰っているぞ」と一通の手紙が手渡される。

『ミヅキへ。

君の偽りの身分が宮廷医師の弟子になっている事は知ってるよね?

近衛騎士達がそれを更に疑われないようにする為に協力を申し出てくれた。

聞いたように君は近衛騎士団長夫妻の娘という事になっている。

(先日の「母様」発言もこの為らしいよ? 映像が記録されているそうだ)

近衛騎士達がそれを事実だと証言してくれるから安心なさい。

突き抜けた行動をしてもあの夫婦の娘という設定ならば誤魔化せる!

グレン殿には説明してあるから話を合わせるようにするんだよ。 』

……。

魔王様。

貴方、面白がってイルフェナでは私達に黙っていましたね……?

あの擬似親子な会話はこの仕込みだったのか!?

手紙を背後から覗き込んでいたセシル達も生暖かい視線を私に向けている。

『あの保護者相手では大変だな』

『知らない間に御両親が出来ていたのですか』

そんな言葉が聞こえてきそうな気がします。

「とりあえず移動するか。色々考えるのは後にするのだな、ミヅキ」

「……はーい」

促すグレンに従い馬車に乗り込む。

さて、グレン……と言うかアルベルダはどういう方針なんでしょうかねー?