軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

被害者は誰?

あれから。

エリザに手伝ってもらいつつ料理の製作に勤しみ、夕食は関係者全員が後宮のサロンに集合となった。

バイキング形式の食事なら余計な手間はかからないし、給仕もそれほど必要ない。

余談だが庭に面した一角には小さな池も作られ観賞用の魚が放されているので、寒い時はカエル達をここに避難させるそうな。庭に面している側は硝子みたいな素材になっているので庭が見える分カエル達も馴染み易かろう、ということらしい。

側室は当分来るなという意思表示も含まれている気がするが、それ以上にカエル達が愛されているのだろう。

保護者が一杯で良かったねー、カエル達。私も安心だ。

……話を戻して。

いや、絶対に認識の差があるから誤解を解いておくべきだと思うんだ。

多分ゼブレストの皆様は私が当初思い描いていたとおり『悲劇の姫君セレスティナ様』になっている。

うん、気持ちは判るよ? 私もそう思っていたし。

実際は『アホ王太子一派VS女傑連合』としか言い様が無いのだが。

個人的な事を言うなら寵姫が一番善良でまともだ。後宮での女同士の戦いなんて珍しくも無いだろう。

……悪役サイドのラスボスが実際は脇役通り越してほぼ部外者ってどうよ?

下手するとセシルの味方にしか見えんぞ、彼女の行動。少なくとも貴族からの妙な贈り物は彼女のお陰で来なかったんだし。

こう言っては何だがルドルフ達が必死に私を守る術を考えてくれたのも事態をシリアス方向に捉えていたからに他ならない。

その解釈も正しい。正しいのだが……実際はそこまで真面目にやる必要はないと推測。

個人的な判断だが各国に捜索要請は来ないと思っている。犯罪者扱いにしても『追っ手が向かうので邪魔しないで下さい』程度ではないかと。

だって砦一つ落とした組織に狙われてるって暴露しなきゃならないもん。

大国としては『強者』の立場が揺らぐ失態ですぜ?

他国に捜索を要請するぐらいの大物犯罪者なら事情を詳しく伝えなきゃならないわけで。

しかもそいつ等の狙いはキヴェラ。他国と手を組まれても困る。

私達は『只の旅人』でいなければならないが、表立って動けないのはキヴェラも同じです。

砦イベントの目的『追っ手の質を落とす』って戦力分散だけじゃないのだ、『使える手を減らす』という意味もある。

私が逃亡において一番厄介だとか考えたのが『従わざるを得ない他国の介入』だからね、一番に罠として計画しましたとも!

騎士sが本能的に様々なヤバさを感じて忠告に来たけど笑顔で却下。先生だって呆れながらも必要と認め協力してくれたしね。

それに王太子妃逃亡にしても現時点では他国にバレていると考えるのが普通。その後の状況を隠す方向にした方が突っ込まれずに済むだろう。

最終的にセシルがキヴェラに戻った時点で公表すれば『終わった事』として片付けられ、部外者にそれ以上の追求は出来まい。

ルドルフ達は私の行動とセシル達の事を知らないから『一般的な対策』としてアリバイ作りとセシル達の見極めをしたのだろう。

普通なら必要ですね、普通なら。今回、誰も普通じゃなかっただけで。

尤も『イルフェナの異世界人は無関係』というアリバイ作りはコルベラ到達まで正しい立場を隠しておきたい私にとって大変ありがたいものだ。

アル達がイルフェナに居る事も含めて当分はバレないと思われる。

皆のお陰でイルフェナに迷惑が掛かる可能性が激減したからね。素直に感謝だ。

セシル達にも事情説明して自己犠牲案は却下したので、ゼブレストで彼女達用の武器を譲ってもらおう。

捕まったら武力行使・強行突破という方向です。

……とりあえずそんな感じで王太子妃冷遇の事実と私個人の予想を関係者の皆様に暴露してみた。

ああ、勿論キヴェラでやった事や脱出するまでの状況も含めます。

どうよ、面白過ぎる展開だろ? 驚くがいい、ゼブレストの皆様!

信じられない事だが事実なんだぞ、これ。

※※※※※※※※※

「……マジ?」

「マジ。嘘吐いてどうする」

私達以外が唖然としているのは当然か。

セイルはいつもの微笑を浮かべてはいるけれど、それが何処となく引き攣っているのは気の所為ではあるまい。

ええ、ええ! その気持ち、凄く理解できますよ!

私だって最初に『最難関・後宮へ侵入し姫と接触』が何の苦労も無く済むとは思わなかったもの。

今回の救出組の誰もが通る道です、これまでの常識を捨ててください。

「じゃあ、何か? 冷遇って王太子の言動が元凶で、擦り寄りたい家の騎士や侍女が便乗したと?」

「そういうことだね。まともな人達は王太子の不興を買って遠ざけられたみたい」

「……キヴェラ王が許すとは思えんが」

「後宮に限り完全に王太子の支配下ってことでしょう。王太子妃の誓約に『王と王太子に逆らえない』ってあるから、セシルを使って王太子をどうにかしようとはしていたみたいだけど」

「廃嫡の可能性もあったってことか?」

「多分ね。問題が起きたら公の場に呼び出してセシルに証言させるつもりだったんじゃない? 立場的にセシルが自ら問題行動を起こすとは思ってないだろうし、ついでに後宮での事を聞けば王太子も言い逃れできないでしょう」

問題が起きたのなら『必要な事』としてあらゆる言い訳を跳ね除け王太子妃を召すことができる。

そして『誓約』が破られていない事さえ確認できれば王太子妃の言葉に嘘は存在しない。

何より王に対し裏切りとも言うべき行動をとった王太子に未来は無い。

「王太子を『一途な王子様』として民に印象付けているから廃嫡の場合は『病に倒れ王太子の座を降りた悲劇の王子と付き従う寵姫』っていうシナリオにでもしたんじゃない? 実質幽閉だろうけど」

「なるほど、それなら穏便に交代できるか」

「うん。罪人達は処罰、セシルも王の言葉には逆らえないから事実は闇に葬られる」

「確かにキヴェラ王ならやりそうな事だ。それならば王妃を廃せずに済む」

宰相様も私の予想に納得して頷いている。やっぱりキヴェラ王は親であることより王であることを優先する人みたい。

無理に廃嫡にすれば王太子の事情を知らず王妃を慕っている民からの反発は免れない。

『正妃の男児が継承権優先』という伝統も反発を正当化することになるだろう。

とは言え、王太子の無能振りを大々的に晒す訳にもいくまい。そういった事情を踏まえてセシルが連れて来られたのなら婚姻は王太子にとって最後のチャンスだったと言える。

「キヴェラとしては内々に事を片付ける機会をお前に引っ掻き回されたわけか」

「何と言うか……姫様方といい、ミヅキといい、キヴェラは運が無いのでしょうか」

セイルの言葉にほぼ全員が『あー、確かに運が無いな』という表情になり。

ちら、と私を見たルドルフは盛大に溜息を吐く。

呆れか。呆れてるのか、親友よ。

だが、ルドルフの反応は皆と少々違ったらしい。

「ずるいぞ、ミヅキ! 何でそんな面白そうな事を俺に黙ってやる? 親友だろ!?」

がしっ! と手を握り大変不満そうに力説する。

「あんた王でしょ。国守れ、国」

「お前に直接諜報員つければ良かった! 絶対、その方が報告は面白かった!」

そうでしょうねー。ルドルフの所に来た報告って『王太子妃の逃亡・王太子妃の冷遇と夢の疑惑・民の混乱と国の対策』くらいだろうな。

それ以上は当事者でない限り判らないだろう。何せ探りようが無いのだから。

なお、上記の報告が私からの情報を加えると非常に笑いを誘うものになる。

・実録! 私は見た、王太子妃冷遇の実態!

・キヴェラ崩壊の序曲! 王太子の真実

・幸せの場の裏側 〜神殿の汚職〜

・強国神話崩壊! 砦陥落!

一体何の特番だと思うタイトルですが、全て私製作の報告書と証拠映像。内容を見なくてもある程度は中身の判るタイトルで纏めてあります。

勿論、受け狙い要素も含まれてますが。

何が凄いって私の方もルドルフの方も嘘が一切含まれてない事ですよ!

どちらも正しいのです、齎されている情報は。大丈夫か、キヴェラ。

ちなみに砦イベントの映像はカエル達に大受けした。

娯楽が少ない世界なのです、事情を知らなきゃイベント紛いの映像は斬新です。

でも人間達は呆れと驚きが前面に出てました。この行動はさすがに誰もが予想外だったみたい。

宰相様もお小言を忘れて絶句し、将軍様は固まった。

ええ〜……魔導師が参戦するならこれくらいは予想しようよ? 天災扱いじゃん?

少しはタマちゃんを見習え。あの子は純粋に私の強さを絶賛してた気がするし。

ルドルフも難しい顔をして黙り込んでいたのだが、どうやら『楽しそう! ずるい!』という意味だったようだ。

さすがだ、親友。あの側室達の獲物になっていただけあって滅多な事じゃ動じないか。

「……ミヅキ? 随分と色々やっているようだが、砦を落とすのはやり過ぎじゃないか?」

「いいえ? キヴェラの戦力を分散させ追っ手の質と数を落とすと共に周辺諸国へ表立って捜索の協力を依頼できないようにする為の策ですよ?」

「何だと?」

怪訝そうな宰相様に私は笑って告げる。

そういや砦イベントの目的を話さずに娯楽として見せたっけ。

解説書にも『追っ手の質を落とし数を減らす為』としか書かれてないから、私が危険視される可能性を憂えているのだろう。

相変らず問題児の保護者ですね、宰相様。

「砦を落とすような組織が仕掛けてくるなら国を守る事を優先するでしょう。しかも王太子妃逃亡の情報を得た国への対策に有能な者を残さねばなりません。その王太子妃も匿われている可能性があるから捜索は国外だけでなく国内に及ぶ。何より『強国』という認識を揺るがす砦の陥落を外部に洩らすでしょうか?」

「……確かに普通に逃亡するよりは楽になるだろうな。他国からすれば逃げた王太子妃よりキヴェラの動向が気になるだろう」

「ですから、私達にとっては必要な行動なのですよ」

くすくすと笑いながら言い切る私はセイル曰く『とても楽しそうな顔』なのだろう。

此処に居る全員が私の策の裏側にあるものに気付いている。

即ち――キヴェラに対しては何のフォローもしていない。落とすだけだ。

あの王と上層部ならば国が滅ぶ事は無いだろうが、今回の傷は深いだろう。

「お前さぁ……何でキヴェラがそんなに嫌いなんだ? それ、絶対にキヴェラを困らせようとしてるだろ」

「あら、どうしてそう思う?」

「お前なら逃亡せずに交渉で姫をコルベラに連れ帰れたんじゃないのか? 非は向こうにありまくるんだし」

あらあら。鋭いですね、ルドルフ。

確かにそういった方向に持っていくことも可能だったろう。

だけど。

「何でひっそり問題解決なんてキヴェラ王が喜ぶ事をしなきゃならないのよ!」

「それはそうなんだがな」

「それに徹底的に痛い目に遭わせた方が確実でしょ? 私は素晴らしい諺に倣っただけ」

「コトワザ?」

「『最初の一撃で戦いの半分は終わる』。私にとってはキヴェラ脱出までがこれに該当」

先手必勝とも言うが。今回のキヴェラに関してはまさにこれがぴったりと当て嵌まるのだ。

後々まで響くような攻撃をせよ、との教えを無碍にはしませんとも!

呆れ半分、感心半分のルドルフ達にエリザが笑って援護射撃をする。

「ふふ、我が主を『粛清王なんて呼ばれても所詮は貴族に嘗められたお坊ちゃん』などと見下す輩に手加減など不要ですわ。エルシュオン殿下を侮辱されたイルフェナの騎士達も黙ってはいないでしょう」

「そうね、私が許すなんて魔王様達も思っていないだろうし」

「……。よ〜く判った。それが原因か」

納得、とルドルフが頷くと周囲の騎士達も深く頷き同意した。

何故それで納得できるんだ、ゼブレスト勢よ。

訝しむ私に宰相様が代表として答えをくれた。

「お前、自分はともかく親しい者達を不当に貶められる事は許さないだろうが」

「……そうかもね?」

宰相様、解説しつつも溜息を吐いて心配してます。理解していても今回は危険が多い分、納得はできないのか。

相変らず『おかん』だな、宰相様。イルフェナの親猫様も貴方と似たような反応するでしょうね。

ところでね?

「セシル、エマ……話に加わって来ないけど一体何をしてるの?」

「おたまに食事させてる。意外と可愛いな」

そう言って一口サイズに作られたパイをタマちゃんの口に放り込む。

カエル達、魔物らしく何を食べても平気らしい。勿論、毒も。

生物図鑑によると『常に体内で解毒魔法が使われている状態ではないか』とのこと。

確かに爪も牙も無い最弱種族、生き残る為には何を食べても平気なように体ができているのかもしれない。大変逞しいですね。

毒に強い魔物もいるらしいので、魔力を持っている魔物にとっては珍しくない能力なのかも? 詠唱とかできなくても魔力は持っているんだし。

「私は暖かいうちに料理を戴いておりますわ。ミヅキ、今度教えてくださいね」

セシルの隣ではエマが料理に手をつけている。

タマちゃんも御飯食べてたから静かだったのかい。二人に懐いたようで何よりだ。

それにしても二人とも。当事者のくせにマイペース過ぎです。

いや、私の同行者ならそれくらいの方がいいんだけどね。