軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

旅は楽しむものです

転移法陣を使ってキヴェラへ入国後、馬車で王都へ向かいます。

王都には転移法陣の場所から馬車で数日かかるらしい。

で。

現在、馬車に揺られてます。

「キヴェラもここまででかくならなきゃ良かったんだろうねぇ」

商人さんがぽつりと呟く。

キヴェラって元々は小国が集まってできた国なんだってさ。活気のある町は王都周辺に集中していて、後はそれなりの町の周辺に村という感じ。

……一つの国が他を吸収する形で国作ってないか、これ。あれだけ広いのに一部に集中してるし。

イルフェナとガルティアみたく生き残る為に統合というより一番力のあった国が纏め上げたと言うか、領土拡大していったと言うか。

昨日泊まった町の酒場でも仲良くなった小父さん・御爺さんが口にしていたもんな。

『俺の爺さんのガキの頃はここまでデカイ国じゃなかったんだぞ? だから城下町周辺と遠方に差があるのさ』

『そうそう、田舎は畑の方が多いもんなぁ。上の連中は攻め込まれても民に被害が出ないように、なんて言ってるが実際は自分達だけが重要だろうよ』

『中央に住んでる奴等は生粋のキヴェラ人だからなぁ。国の中でも差があるんだよ』

侵略なのか同意の上での合併なのかは知らないが、元々キヴェラだった土地が最優先ということらしい。

強国と言われる現在では内部で揉めてはいないみたいだけど。

なお、他国に接している領土は農業地帯らしく畑しかないので、入国は比較的簡単に認められるらしい。あくまで比較対象が他国であって勿論放置ではないけどね。

馬車だと時間が掛かり過ぎるってことで他国からの商人は入国後転移法陣を使うのが普通だとか。

ま、領土が広ければ侵攻されても主要な領地に辿り着くまでの時間稼ぎができるわな。転移法陣は停止させちゃえばいいんだし。

その後は王都まで数日かかる上、砦も存在するので本格的な危険は排除できると言うわけですね。幾つか村は見捨てる事になるだろうけど。

そして何となくこの国の兵力が充実している理由に思い至る。

総合人口は多いだろうけど、階級的に一番多いのは農民だろう。そんな彼等の憧れの職業が兵士。逆に商人なんかは身元のしっかりした人じゃないとなれない。

理由としてはスパイになりかねないから。隠された本音は財を蓄えさせない為だろう。

領土が広い分、守備に回す兵は多いから他国よりも簡単に兵士になれる。

英雄に憧れたり農民生活が嫌な男は進んで兵士になるわけです。命が惜しい奴や穏やかに暮らしたい奴は農民生活してればいいし。

その二択なら志願兵が多いのも納得ですね。昔のキヴェラは本当にあらゆる意味で強かったんだろう。

その子孫達が先祖の遺産を武器にしちゃってるから現在の傲慢な態度なのですが。

国が広くても豊かである為にはそれを維持できる兵力と食料が必要なのです。その二つを兼ね備えたキヴェラに攻め込まれたら押し返す強さと持久力が無い限り負ける。

余力のある方が強いよね、そりゃ。

「はっは、御嬢ちゃんはそういう感想を言うのかい」

「日頃の教育と個人の発想が殺伐としてまして」

「いやいや……御嬢ちゃんみたいな子にさらっと言われると怖いね。これが騎士様なら納得できる会話なんだが」

同行してくれている商人さん達と会話しつつ――暇なのです、とても――キヴェラについて情報貰ってます。

いや、一応下調べは済んでますよ? でも、実際目にして抱く感想というものがあるじゃないですか。

……復讐には必要です。敵を知る事は私の勝利への第一歩。

「……御嬢ちゃん。今更だが止める気は無いかね? あんたの計画だと王都に着いて数日後には別行動だ。そうなったらもう進むしかないんだよ?」

商人さん達の年齢は四十代くらい。自分の子供と被るのかとても心配してくれる。

と言っても彼等が普通の商人だったなら、という前提だが。

この人達ってさ……。

「平気です。私は『貴方達と行動できる』人間ですよ?」

「……」

「皆さん翼の名を持ってらっしゃいますよね?」

「ほう。どうしてそう思う?」

「体の線の出難い服装をしていますし、私の会話に普通に返しています。私は周囲に居るのが『彼等』なのでどうしても彼等寄りの話題なんですよ」

だって『とにかく疑え! 情報を逃すな!』な教育されてますもの。

普通の御嬢さんなら町や王都に期待しまくりな状況じゃないのかね。もしくは退屈するとか。

そう言うと商人さん達は笑みを僅かに深めた。商人の姿をしていようとも翼の名を持つ騎士。会話も当然評価対象か。

「ふふ、面白い嬢ちゃんだ。そうとも、武器には相性があるってもんさ。俺達は情報を扱う」

「ですよね。私も魔法は使えても武器は扱えませんし」

「おや、そうなのかい?」

「この細腕でどうしろと? 力尽きますよ?」

「……。お前さんフライパンで獲物を仕留めてなかったか?」

「嫌ですね〜……台所を預かる女の最強装備はフライパンと包丁です!」

胸を張る私に商人さん達は微妙な視線を向ける。……いいじゃないか、別に。

どんな世界でもそれは共通です。ついでに言うなら調理に集中している時に襲ってくる輩は一撃見舞われても文句言えません。

今回はそれが草トカゲ――野営での貧しい食生活を補う味方・美味でご馳走扱い――だったが為に夕食の一品に変化しただけで。

ちなみに私は虫とかじゃない限りは抵抗なし。美味けりゃいいんです、美味けりゃ!

でも食用だと聞いてもカエルだけは獲物扱いしない。タマちゃん達を愛してるからな。

あれだけ尽くしてくれる種族とは友好的な関係でありたいです。

つーか、あの種族は懐いている人が飢餓に陥ればリアルに『私を食べて! (食料的な意味で)』をやりかねない。

「さて。着く前にもう一度確認といこうじゃないか。御嬢ちゃん、足りない物はないかね?」

「えーと……薬各種、記録用魔道具、旅券、乾燥させた野菜と海草、野菜の種各種、調味料、フライパン、完全防水の布……多分大丈夫」

「……。初めはともかく途中からおかしいよな、絶対」

「ああ。干し肉や水はギリギリで揃えるとしてもなあ」

そうですね、私だからこその荷物だと思います。一般的な旅の荷物は薬と旅券と乾燥野菜くらい。干し肉は増えるけど。

でもちゃんと考えてありますよ?

野菜の種……地面があるからその都度時間短縮魔法を使って栽培。

調味料……必須アイテム。

フライパン……追っ手対策と美味しい御飯の為、時々武器。

完全防水の布……雨が降った時のテント代わり

ほら、ちゃんと必要な物ですって! 雨の対策まで万全じゃないか。

ちなみに水は魔法で作り出せるので持ち運びはなし。干し肉も基本現地調達するつもりなのでそこまで必要は無い。

着替えと風呂も『一度ずぶ濡れになってから汚れを分離』といった裏技が可能なので問題無し。勿論、気分的なものもあるので宿に着いたらちゃんとした風呂に入るけど。

「御嬢ちゃんは本っ当に規格外だよな。発想からして違うと言うか」

「駄目ですかね? 最初は村に住んでたので役立ちそうな魔法から手をつけたんですけど」

「ああ、それで妙な魔法が使えるのかい」

商人さん達に呆れられてますが今更です。感心するのは先生と黒騎士連中くらいだろう。

まあ、微妙な顔の商人さん達の気持ちも判らんでもない。そもそも魔法に対する認識が違うのだ。

一般的に魔法は攻撃や医療方面の認識が強いだろう。使えない人からすれば憧れとも言うかもしれない。

でも、私の場合は『如何にして快適な生活を送るか』が最重要だったが為に妙な魔法を使ったりする。

元の世界は便利な道具に満ち溢れていたのです、イメージはバッチリですとも!

それに逃亡ルートは村や町が結構ある上に馬車も通っているので野宿はそこまで多くは無いだろう。

キャンプだと思えば十分楽しめますよ。

基本逃げるだけなんだから少しくらい楽しみがあってもいいじゃないか!

「……何だか色々と間違っているような気がするが頑張れ」

「ありがとうございます! その後に控える私の個人的事情の為に全力を尽くしたいと思います」

「いや……とりあえず無事にコルベラに着くことをだな」

「そんなのは当たり前でしょう?」

問題はコルベラに迷惑を掛けることなく姫の自由を獲得することですね。

私には『如何にして相手を徹底的に黙らせて泣かせるか』と変換されてますが。

ふ……言葉って不思議ですね、同じ出来事を指してるのに。

ふと手元の地図を見る。

大まかなルートに線が引かれ、別の紙には注意点が書かれている。

同じく覗き込んだ商人達は逃亡ルートにある町などを思い浮かべたのか、面白そうな表情だ。

「しっかし、逃亡しているとは思えん道だよな」

「こそこそするから目立つんですよ。堂々と旅人してきます」

「堂々とするなよ、逃亡者」

ぴし! と軽く頭を叩かれる。

口ではそう言っても何処となく楽しげだ。

「世間的には『気の毒な姫様を助ける健気な異世界人』ですよ。この世界の常識なんて知りません」

「健気……、ね」

「というのは建前で実際は『全てを理解した上で騙される追っ手を嘲笑い弄ぶ魔導師』です」

「は!? そこまで変わるのか!?」

「いやいやいや! 落ち着こうぜ、御嬢ちゃん!?」

「落ち着いてますよ? 目指せ、大物悪役」

「さっくり殺っちゃ駄目だからね!? 小父さん達と約束してね!?」

商人さん達が慌てているけど、私はこれが普通です。

大丈夫、魔王様達もとっくに諦めてるから貴方達の責任にはなりません!

それに安心してください、『さくっと』なんて簡単には済ませませんよ?

じわじわと自分達の無能っぷりを痛感しつつ上司からは叱責、なんて目に合わせた方が楽しいじゃないですか!

「ねえ、聞いてる!?」

慌てる商人さん達の声に重なるように聞こえてきた「そろそろ着くぞ」という声に。

私は楽しげな笑みを浮かべた。