軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

公爵夫妻の攻略法 其の一

ルーカスの側近という地位を手に入れた――いや、復帰かな?――直後、アロガンシア公爵夫妻の愚行(未遂)を知ったブラッドさんは。

――怒っていた。それはもう、とてつもなく。

……。

ですよねー!

そりゃ、怒って当然だろう。

自分の望んだ未来――ルーカスが再び表舞台に立ち、自分は再び彼の側近として傍に在る――が叶った直後にこの仕打ち。

血の繋がった自分の親ということもあり、情けなさはよりいっそうだろう。

多分、ブラッドさん同様にまともと言われている次男も似たような反応をすると予想。

ただ、そうなると。

アロガンシア公爵夫妻への制裁(意訳)は、実の息子さんの意見を反映させた方が良いと思うんだ。

……当たり前だが、『ルーカスへの誓い(※アロガンシア公爵家の人間であることよりも、主であるルーカスを選ぶ)が真実か証明する』という理由からではない。

『自分の汚点は自分で雪ぐ』、もしくは『自分の手で始末を付けさせてあげよう』という、優しさからである。

だって、あいつら全く反省しない生き物じゃん?

ここで止めておかないと、今後もやらかしそうだろう……?

ブラッドさんがまともと知ってはいても、世間的な評価はどうしても『【あの】アロガンシア公爵夫妻の実子』なのですよ。

あれだ、シュアンゼ殿下が両親から冷遇されていたと知れ渡っていても、『王弟夫妻の子』という立場からは逃れられないのと同じ。

それを多少なりとも払拭させる方法って、ブラッドさん自身がアロガンシア公爵夫妻の制裁を行なう・もしくは関わることだと思うんだ。

私達だと『痛い思い(意訳)でもさせて、恐怖の記憶で黙らせよう』くらいしかできないんだけど、相手は『あの』アロガンシア公爵夫妻。

リーリエ嬢の一件において、『夜会で晒し者になる』・『キヴェラ王から叱責される』という状況を経験したにもかかわらず、今回の愚行(未遂)なのである……!

あの夫婦に学習能力ってあるのか……?

そう思ってしまう、今日この頃。いや、めっちゃ不安なんだわ。冗談抜きに。

反省しないお馬鹿に説教したところで、無駄である。嫌な記憶なんざ、速攻で忘れ去られてしまうかもしれないじゃない!

……が。

ブラッドさんならば、何らかの弱みを知っている可能性・大。

奴らが公表されたくない汚点の一つや二つを知っているかもしれないと、少々、期待していたり。

「ブラッドさん、ブラッドさん」

ちょいちょい、と袖を引いて、彼の意識をこちらに向ける。

「何かな、魔導師殿」

「アロガンシア公爵夫妻が絶対に公表されたくない秘密とか、知りません?」

「「おい」」

速攻でルーカスとサイラス君から突っ込みが。私が考えていることがバレた模様。

い……いいじゃない! ダメ元だろうと、成功率が高い『説得』(意訳)が可能ならば、試す価値はあるだろうが!

しかし、当のブラッドさんは浮かない顔。

「うーん……」

「ありゃ、そういったものはありませんか?」

お馬鹿だもんな、あの夫婦。弱み以前に、悪事とか、そういった類の知恵は乏しいか。

しかも、公爵の方は領地経営とかは真っ当にやっているとか言っていた気がするし。

……が。

ブラッドさんはそういう意味で、言い淀んだのではなかったらしい。

「いや、『普通の』貴族ならば、そこそこの効果がありそうなんだけど」

「あの、今、『普通の』って強調しませんでした? 『普通の』って!」

「そうとしか言いようがないからねぇ。はは、あの二人にそういったものを求めるだけ無駄だよ?」

「……」

思わず、ルーカス達の方に勢いよく顔を向けると、即座に視線を逸らされる。

……。

これは……過去に、同じか似たようなことで黙らせようと試みたことがあるな……?

って言うか、実の両親なのに辛辣ですね? ブラッドさん!?

「以前、似たようなことを試みた時の結果だけで言うなら、多少の効果はあった。だけど、長続きしないと言うか、なまじ二人は高位貴族だし、王家の血も濃いだろう? 周りもそれほど噂を口にできないようでね」

「ああ……『周りから笑い者にされる』っていう手が使えないんですか」

「うん。下手をすると、第二王子殿下や御母堂の側室様に迷惑がかかるしね。そういったこともあって、思ったほど効果が得られないんだ」

なるほどー! あの夫婦の立ち位置的にも噂をし辛いし、あんなのでも第二王子殿下最大の後ろ盾であることは事実である。

遣り過ぎる、もしくはそういった噂が流れようものなら、第二王子殿下を推す派閥が火消しに走ることもありそうだ。

何より、今回の一件の対処を任された者……その責任者はルーカスだ。

ブラッドさんがルーカスの側近に復帰したこともあり、ルーカスを王に推す者達だって期待するかもしれないじゃないか。

その結果、第一王子派VS第二王子派なんてことになったら、洒落にならん。

ルーカスに王になる意思がなく、当の王子達が仲良しだろうとも、派閥の貴族が勝手にやらかす可能性もある。

そんなことになれば……まあ、私達は怒られるわな。責任持って何とかしろ、と言われるかもしれん。

「意外と難易度が高い案件だったんだねぇ」

今更ながらに呟くと、達観した表情のサイラス君に肩を叩かれる。

「これまで何もしてこなかったと思います? あの陛下ですよ!? だから、今回はアンタに期待してるんですよ」

「何もしてこなかったというより、効果がなかったってことかなー?」

「そのとおりです。ですが……さすがに今回ばかりは効果が期待できるでしょうね」

クク……と低く笑うサイラス君はいつもと違い、悪党街道まっしぐらな黒さが滲んでいる。

いや、あの……ええと、サイラス君? い……一応、息子さんがこの場に居るんですけど!?

……が。

「思いっきりやっちゃっていいよ!」

大変いい笑顔のブラッドさんが親指を立てた。

「正直なところ、死ななきゃいいと思ってるんだ。何だったら、公爵としての仕事は私が代行してもいいし、元々、仕事の補佐なんかは居るからね」

「ブラッドさん、発想が黒いっすよ」

「改善する可能性が皆無なら、仕方ない。幽閉するにしたって、それなりの理由が必要なんだ。……無意識なのかもしれないけど、あの二人は自分達に対して処罰とか、強く言えないことを察していると思う」

「へぇ……」

なるほど、リーリエ嬢の『狡賢さ』は両親譲りだったのかい。

ただ、リーリエ嬢の方は意図的にやらかしていたけど、アロガンシア公爵夫妻の方は完全に無意識と言うか、自覚無しなのだろう。

ただ……大変賢く育ったブラッドさんにはお見通しであって。

未遂であろうとも、今回の愚行もあって、ついにブチ切れた模様。もしくは、両親を見限ったか。

じゃあ、こちらもそういった方向で動こうかね。

「あのですね、一つ聞きたいんですが。……公爵夫人の方って、割と簡単に手が出たりします?」

私は報復専門なので、初手は相手からが望ましい。

いくらキヴェラ王や、奴らの実子であるブラッドさんが『報復されても仕方ない』と言ってくれたとしても、他国、それもキヴェラを敗北させた私では、説得力がないだろう。

「うーん……相手を批難すると言うか、いつも一方的なんだよね。ほら、身分的にも相手はそうそう強く出られないだろう? だから、激高して手を出す、というところまではいかないんだ」

「例外がルーちゃんだったと。まあ、さすがに手を上げたりはしていないでしょうけど」

「その程度の理性はあるみたいだよ。だけど、はっきりとキツイことを言ってくれたのは、ルーカス様くらいかな。王妃様方はどうにもお優しくてね……」

「ああ……」

判ります。軍鶏(闘鶏用の種なので、猛々しい)とシマエナガ(癒し系)くらいの差がありそうだもんな、あの人達。

当たり前だが、公爵夫人の方が軍鶏である。実際の軍鶏ほどの価値はなかろうが。

対して、シマエナガも馬鹿にはできない。シマエナガには多くのファンが居るので、怪我をさせようものなら、お怒りになる人が沢山居るのだから。

王妃様や側室様方、慕われているっぽいしねぇ……煩いだけの軍鶏、もとい公爵夫人が勝てるとは思えんのよ。

「……お前、何を狙ってるんだ?」

訝しげに尋ねてくるルーちゃん。そんな彼に対し、私はにやりと笑い。

「女同士の喧嘩でもしようと思って♡ あの人ならば私を魔導師というよりも、民間人の小娘くらいに思ってくれそう」

「それ、アンタが叩かれるってことでしょうが」

「それが狙いなんだよ、サイラス君。……正論を突き付けられて、反論できずに手が出る。もしくは、女として憤った挙句に、とか? 大丈夫、大丈夫、死ななきゃ魔法で治るから」

すでに実践済みなのです、この方法。

あの公爵夫人と遣り合う理由ならば、これが一番確実でしょ!

……。

私の性格を知っていると、裏を疑われること請け合いだけど。