軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バラクシン王との話し合い

――バラクシン王城にて

案内された部屋にはすでにバラクシン王とライナス殿下がスタンバイしていた。

二人……いや、バラクシン王の表情が何だか怖い気がするのは、きっと気のせい。

「こちらがお返事になります」

内心、ビビりつつもサイラス君からのお手紙を渡すと、バラクシン王達は顔を見合わせて頷き合い、手紙を開く。

……。

うん、微妙に表情が怖い気がするの、やっぱり気のせいじゃないわ。

原因として考えられるのは、ブレソール伯爵から聞き出したことだろうか?

ブレソール伯爵の単独犯ならば、それほど大それたことはできない――伯爵という爵位や力のなさから推測――と思う。

だって、馬鹿だし。

繰り返すが、ブレソール伯爵は馬鹿なのである。私の『ほどよく死に掛けの貴族』という希望に適ってしまうくらいに。

レヴィンズ殿下からも『お馬鹿さん』認定されているんだもの、王族だけの共通認識じゃあるまいよ。

これで高位貴族ならばワンチャンある可能性も捨てきれないが、相手はキヴェラの公爵家、もっと言うなら、元王女という肩書きを持つ(少々お年を召した)『お姫様』。

余談ですが、本人に『年増』や『ババア』などと言ってはいけません。ヒスを起こして、会話が成立しなくなりますからね☆

と言うか、リーリエ嬢の断罪が行なわれた夜会での姿を見る限り、彼女の思考は王族だった若かりし頃で止まっていると見た方がいい。

ルーカスに対して、ただの甥のように接したり。

他国の要人に対し、『強国キヴェラ』の王族として振る舞ったり。

キヴェラ王からの叱責も、『兄からの説教』程度の危機感のなさ。

……当たり前だが、これ、全部アウトであ~る!

身内だけの集まりだったら、ルーカスを甥として扱うことも可能だろう。血縁関係としては間違っていないのだから。

しかし、あの夜会は公の場。それも、ルーカスとアロガンシア公爵夫人は仲が悪いと嫌でも判る。

ルーカスが不敬罪を言い出さなかったのは、あんなのでも血の繋がった叔母だったから。

普通は退場させられますよ。他国の要人の前で、公爵家の人間が自国の王子を格下扱いはないだろう。

そして、キヴェラ王が多くの国に対して歩み寄りを見せていることからも、公爵夫人の『キヴェラの王族だからこそ、何をしても許される』的な態度も駄目。

キヴェラ王が身内を制御できていないと受け取られるかもしれないし、キヴェラ内部が全く変わっていないとも思われるから。

とどめが、キヴェラ王からの叱責を『お兄様からのお説教』程度にしか受け取っていないこと!

臣籍降嫁してるんだし、いくら実の兄弟だったとしても、王族だった頃と同じ感覚で良い筈がない。

公爵家だろうと、キヴェラ王陛下には跪いて首を垂れる立場ですよ。『仕えるべき主からの叱責』なの、重さが全然違う!

……が。

アロガンシア公爵夫妻……いや、夫人は何~故~か、そういった認識がすこーん! と抜けていらっしゃるわけで。

さすが、戦狂いにすらスルーされたお馬鹿さんである!

そりゃ、こんなの相手にするだけ無駄だわ。疲れるだけ。

だが、しかし。

嫌なことに……物凄く嫌なことに、他国では未だ『強国キヴェラ』という認識が根強く残っている上、アロガンシア公爵家が次代のキヴェラ王の後ろ盾というのは事実。

強気な態度に、騙される人はそれなりに居るだろう。たとえ公爵夫妻がキヴェラ王に疎まれていようとも、キヴェラにおける価値が損なわれることはなかろう、と。

しかも、これは『ある意味では』正しい。

ブレソール伯爵がどこまで考えていたかは判らないが、『繋がりを求める価値がある公爵家』ということだけは事実なのだ。

ただし、まともな奴なら、公爵家がほいほい話に乗ってくることを訝しく思うだろうけど。

そんな立派な家が、他国の中堅貴族の相手をしてくれるわけねーだろ。

「ふむ……あちらも随分と、その……」

「はっきり言っちゃっていいですよ。今更なので」

「そ、そうか」

ライナス殿下がこちらをちらちらと見ながら言い難そうにするので、頷いておく。

私が遠い目になりながら色々と考えている間に手紙は読み終わったようだが、透けて見える怒りの深さに、どう言って良いか判らなかった模様。

リーリエ嬢の断罪を知っているバラクシン王とて、手紙の内容を馬鹿正直に信じていいか判らないのだろう。難しい顔をしたまま、沈黙している。

「まあ、それを全面的に信じろ……というのは無理があると思いますよ。アロガンシア公爵家が次代の王の後ろ盾ということは事実だし、変わらないので」

「だが、魔導師殿に暴れて欲しいように書かれているが……」

「あくまでも、対象が公爵夫妻に限定されているからですよ。公爵夫妻を黙らせることだけを望んでいるようですね」

「「……」」

黙った。目の前の王族兄弟は揃って、『そんなに都合よくできるか?』とでも思っているのだろう。

ですよねー! うん、普通は無理です。公爵夫妻が処罰されれば、嫌でも家名に傷がつく。

その場合、王族と公爵家双方がちょっと困ったことになってしまう。

第二王子の立太子に待ったがかかるとか、再びルーカスを担ぎ出すといった騒動が起こる……かもしれないんだよねぇ。

まあ、まずは事実確認だ。最終的な決着はキヴェラに提示してもらうんだし。

「そこらへんはキヴェラとの情報交換後の話し合いと言うか、公表される予定の『都合の良い事実』次第でしょうね」

「はっきり言うね」

「必要なのは『真実』ではなく、『国が公表できる建前』ですからね~」

何を今更、と続けると、バラクシン王は苦笑した。あまりにもぶっちゃけ過ぎだが、咎める気はないらしい。

「で。ブレソール伯爵はどんな感じでした? やっぱり、教会派貴族のパシリでしたか?」

重要なのはそこである。ブレソール伯爵が単独犯ならば、すでに牢に捕えている以上、そこまで気を使う必要はない。

ただ、派閥単位の企みだと、ブレソール伯爵以外の関係者を抑えなければならないだろう。

放っておけば、他国に対して似たようなことをやりかねない。ブレソール伯爵に今回の責任を背負わせ、第二弾が計画されてしまう。

「そうだな、しいて言うなら……発案がブレソール伯爵、それに乗り掛けた家が二つほど、といったところだね」

「へぇ? 意外と慎重ですね?」

「高位貴族ほど、旨い話の裏を疑うからね。いくらキヴェラの次代との繋がりができると言っても、素直に信じるほど愚かではないよ」

なるほど、その二つの家はブレソール伯爵よりも爵位が上だったらしい。

よって、馬鹿正直に信じることはせず、様子見と言うか、もう少し具体的な話が出るまで静観という姿勢をとったのか。

「バラクシンとしては、ブレソール伯爵への叱責を見せしめにする……という程度かな。計画しただけで、具体的に動いたわけではないからね。だからこそ」

一度言葉を切り、バラクシン王は微笑んだまま私を見つめた。

「魔導師がアロガンシア公爵夫妻に鉄槌を下した、という事実があるならば、実にありがたい」

「では、キヴェラの計画に乗ると?」

「そうなる。今のままでも多少の牽制にはなるが、いかんせん『弱い』。先ほども言ったように、迂闊なことをするなという小言が精々だ」

「でしょうねー」

契約書でもあれば別だが、まだ口約束程度のもの。しかも、縁談の話を持ち掛けた程度ならば……まあ、処罰とかは無理か。

「私達はね、教会派貴族達の振る舞いを、ずっと苦々しく思ってきたのだよ。君が挙げてくれた長期計画、その果てにある教会派貴族の弱体化。悲願への道筋が整えられているというのに、この程度で許してやるほど私は甘くはない」

「今回はあまり動かずにいるってことですか」

「ふふ、過剰に警戒されるようになってしまえば、元も子もないからね。時には甘い処罰で油断させ、より大きな獲物を狙うさ。暫くは情けない王でいようじゃないか」

「……」

微笑んでいるバラクシン王だが、目だけが笑っていない。だが、それは私ではなく、好き勝手してきた教会派貴族達を見据えているのだろう。

客観的に見て、バラクシン王は穏やかな性格をしていると思う。ただ、王としての資質は彼を『穏やかな人』のままにしておかないだけ。

ならば、私もそれに協力しようじゃないか。

「いいですよ、今回は都合の良い駒になりましょう」

「いいのかね? 君はエルシュオン殿下に心配を掛けたくないだろうに」

頷く私に、ライナス殿下が心配そうな声を掛ける。ライナス殿下は魔王様の親猫ぶりを知っているから、私が悪者になる可能性を憂いているのだろう。

「そもそも、この情報をくれたのはイルフェナですよ。その時点で、ある程度、諦めているでしょう」

「しかしだね……」

「現状、アロガンシア公爵夫妻『だけ』に喧嘩を売れるのって、私が適任……と言うか、私しかいませんし。リーリエ嬢の時に揉めた姿を多くの人が見ていますから、喧嘩を売る理由に困らないんですよね」

そう、マジで喧嘩を吹っ掛ける理由には本当に困らない。

そこに『世界の災厄』という公式設定に加え、これまでの所業をプラスすると、『ああ、報復しにきたか』くらいに思わせることが可能だ。

「今更ですよ、い・ま・さ・ら!」

「そ、そうか……」

納得しているなら、何故に顔を引き攣らせるんですか? ライナス殿下。