軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キヴェラの苦労人、激怒する

――キヴェラ・サイラスの部屋にて(サイラス視点)

「……」

テーブルの上に届いたばかりの手紙を置いたまま、俺はがっくりと項垂れた。

特殊な方法で届けられるこの『手紙』。

それを送ってくる相手を思えば、嫌な予感がするのも仕方ないだろう。

おい、前の手紙からそんなに時間は経ってないよな?

……キヴェラが関わる案件じゃあるまいな!?

これで単なるご機嫌伺いだった場合はめでたい限りだが、生憎と、手紙の送り主はそんなことをするような奴ではない。

……。

まあ、雑談という名の情報提供――面倒事に発展しそうな場合に限り、だが――という可能性もゼロではないのだが。

魔導師自身の人脈は馬鹿にできないし、親猫達は何だかんだ言ってあの魔導師に甘いのだ……ことが露見する前に動いてくれた可能性もある。

だからと言って、魔導師……ミヅキが善人なんてはずはないのだが。

何せ、奴は自他共に認める『ろくでなし』! 外道、鬼畜と罵られようとも、涼しい顔で肯定する魔導師様(=世界の災厄)だ。

そんな奴に限って、奉仕精神や慈愛の心なんてあるはずはない。

悪魔と楽しく酒が飲める生き物だぞ、あいつ。

ま……まあ、世話になる機会が多いのは認めよう。個人的な目的の副産物とは言え、こちらが助けられたのは事実である。

日頃から嫌な方向に全振りされているとはいえ、賢さも本物と言える。

ただし、それを『嫌な方向に活かす』のがミヅキであった。

自己中・外道な魔導師様は己の名声を響かせることよりも、ドン引きするような策を駆使して、『遊ぶ』(意訳)ことを好むのだから。

そして。

ミヅキの『どうしようもない部分』を知るからこそ、俺は今、こうして悩んでいるのであった。

「知らなかったことにする……わけにはいかないよなぁ」

ミヅキが『わざわざ』手紙を送って来た以上、暗に『知っておけ!』と言われているも同然なのだから。

ただし、その弊害が凄まじい。胃を痛める者達が続出することは確実だろう。

しかも、かなりの確率で、魔導師の相手をルーカス様が務めることになる。

……気の毒過ぎるだろう。我が国に魔導師と渡り合えそうな人材が少ないとしても!

「は~……覚悟を決めるか」

どうせ逃げられないのだ。溜息を吐こうが、目の前の手紙は消えてくれないのだから、さっさと開封してしまおう。

溜息を吐きつつ、手紙を手に取る。……上質な紙の手触りが、妙に憎らしい。

――そして、中の手紙に目を通し。

「あ゛?」

即座に目が据わった。

いや、俺でなくとも、これは目を据わらせるだろう。そういう内容だ。

『やっほう、ご機嫌如何かな? サイラス君』

『ハーヴィスの一件も終わって、心穏やかにキヴェラ王の側近ライフを満喫しているかい?』

『イルフェナも漸く落ち着き、私も友人達の所に遊びに行ってるよ! まあ、滞在費代わりに少しだけ【お手伝い】をしているけどね!』

『ところでさ?』

『アロガンシア公爵家を覚えてる? リーリエ嬢の実家であり、第二王子殿下の後ろ盾の』

『あいつらさ~……大人しくしてた?』

『実はね、今、シュアンゼ殿下が【なれるかな!? 新米当主チャレンジ!】を実行中なんだわ』

『正しく言うと、【甘ったれたお坊ちゃんを教育し直し、当主にしてみせろ】……という課題なんだけど』

『これ、結構難しいよ? 状況的に仕方がないとはいえ、シュアンゼ殿下には部下とか協力者になりそうな人ってガニアに居ないし、まだまだ評価も低いもの』

『そんなシュアンゼ殿下が頼ったのは、お友達である私とヴァイス。ぶっちゃけ、私達のこれまでの状況が厳し過ぎて、お坊ちゃんの教育係としては適任なんだわ』

『だって、お坊ちゃんが何かを言っても鼻で笑って【その程度は困難とは言わない】と言い切ってしまえるからね!』

『シュアンゼ殿下も同様。こちとら、もっと厳しい状況を生き残って来たのに、何を嘗めたこと言ってやがる! としか思わん』

『でね、その教育は順調だった。まあ、襲撃あり、親族相手の身内バトルありの、楽しい日々だよ』

『それで、そろそろ実践をさせてみよっかー! と思いつきまして。他国の友人に【ほどよく死にかけのお貴族様、紹介して!】と頼んでみた』

『失敗しても十分対処できるし、国にとっても【要らねっ!】と言われてる奴なら、安心でしょ』

『それで、魔王様達が【教材として問題ないか】って調べてくれたんだよ』

『そしたらね』

『教材としては問題ないけど、ちょっと無視できないことをやらかそうとしていることが発覚。イルフェナ勢、マジで有☆能』

『その教材はバラクシンの貴族なんだけどね? どうやら、アロガンシア公爵家との縁談を画策しているみたいなんですわ』

『教会派貴族側に取り込みたいのか、王族に側室として送り込みたいのかは判らないけど、キヴェラも無視できない案件でしょー!』

『多分、その対象はリーリエ嬢。息子さん達は現状を理解できているだろうし、キヴェラ王の意思に反する真似はしないでしょうしね』

『だけど、私の予想だと……これ、アロガンシア公爵夫妻が当事者だと思う』

『リーリエ嬢はがっつりやられたし、キヴェラ王が怖いと思うんだよね。自己保身的な意味から、暫くは大人しいと思うんだ』

『だけど、アロガンシア公爵夫妻は怪しい。あの時、【断罪されたのはリーリエ】と思っていたら、可愛い娘ちゃんのために、他国へ嫁がせようとするんじゃない?』

『あくまでも予想だけどね。私はアロガンシア公爵夫妻を良く知らないし』

『って言うか、馬鹿は嫌い。あの公爵夫妻、まともな公爵家と比べるのは失礼でしょ!』

『あ、バラクシンの方で教材……もとい、縁談に関わった人物を拘束してもらったから。そいつが教会派貴族のパシリなのか、単独犯なのかは今後、調べる予定だそうな』

『当たり前だけど、バラクシン王家はお怒りです!(笑)自国の貴族の馬鹿さ加減に頭を抱えていたわ。可哀想に(笑)』

『キヴェラも調べた方が良いと思うよ? バラクシンが駄目なら、他の国に縁談を持ち掛けそうだもん』

『じゃあ、またねー!』

「……」

魔導師殿の手紙は非常に砕けた口調で……あくまでも『友人への手紙』にしてくれている気遣いが窺えた。

そう、『気遣い』だ。寧ろ、彼女以外にこんな情報を伝えることは不可能だろう。イルフェナやバラクシンにも立場というものがある。

……が。

「あんの、馬鹿どもが……!」

ぐしゃり、とついつい封筒を握り締める。陛下にお見せする物だと判っていても、感情が付いて行かなかった。

「何のために、わざわざ、処罰させなかったと思っていやがる……!」

勿論、アロガンシア公爵夫妻のためでも、リーリエ嬢のためでもない。

偏に、王太子となるであろう第二王子殿下とご側室のため、そして常識人である将来のアロガンシア公爵(※第二王子殿下の側近候補)のためである。

間違っても! あの馬鹿どもを野放しにしたわけではない!

「ふふ……感謝しますよ、魔導師殿。ああ、いつもお世話になってばかりだし、一度はキヴェラに招待しましょうかねぇ……?」

その時は盛大に『玩具』で『遊んで』くれればいい。なに、賛同者は沢山居るだろう。

「さて、陛下にお見せしなければ」

言いつつ、部屋を後にする。部屋を出た途端、全力疾走するのは……まあ見逃してもらいたい。

――キヴェラ王城・城内にて

「な、なあ、今、走り抜けていったのって……」

「サイラス、だよな?」

「あいつがマナー無視して、全力疾走するのってさ……」

「……」

「……」

『もしかして、またうちの貴族がやらかした!?』(大パニック)