軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

話し合い開始 其の三

「そ、そんな……」

そう呟くなり、ブレソール伯爵はがっくりと項垂れた。

まあ、そうなるだろうね。教会派貴族達にとって、アロガンシア公爵家との縁談――もしくは繋がり――は、希望の星だっただろうから。

しかし、実際は不幸の星ですな。

私が関わったことで、キヴェラ王にまで話が伝わるもん。

こう言っては何だが、バラクシンの教会派貴族に対する評判は宜しくない。

勿論、純粋に宗教的な理由で教会派に属している家もあるだろう。サンドラ嬢の家とか、これに該当するみたいだし。

……が。

いくら教会の始まりが王族だからと言っても、他国からの認識は『王家に敵対する派閥』以外の何物でもないわけで。

縁談なんて受けるわけねーだろ、普通。

自国の王族どころか、各国の王族を敵に回す未来しか見えんわ!

その結果、教会派貴族達は長らく身内同士で固まる閉鎖的な状況になったと推測。バラクシン王家にとって痛手だったのは、教会派貴族達が一大派閥になってしまったことだろうな。

教会派貴族達は自分達を基準に考えているからこそ、魔王様に対しても『あの』態度だったわけですよ。

それが私どころか、騎士寮面子を敵に回す事態を引き起こしているのだから、愚かにもほどがある。

やだなぁ、私達は『あの時のこと』をまだまだ許してないぞぅ♪

って言うか、イルフェナ的にも、個人的にも、バラクシン王家と仲良しですが?

私と聖人様は共闘した仲だし、アグノスもお世話になっているんだよねぇ。

結論:ウザイ教会派貴族ども、要~らない♡

長期的な排除計画が始動していようとも、ふざけた真似をするなら、要所要所で報復するに決まっているだろー?

我、魔導師ぞ? 公式設定『世界の災厄』ぞ? 騎士寮面子は『最悪の剣』ですが、何か?

解決済みの案件(=リーリエ嬢の一件)を掘り返し、〆た連中に再起を促すようなことをするなら――

潰 さ れ る っ て 判 る よ ね ?

なお、私とキヴェラ王は其々別勢力なので、私とキヴェラ王の『お叱り』(意訳)は別々である。

つまり、最低限、二度は〆られる運命だ。多分、そこにバラクシン王家も追加される。

ブレソール伯爵は傷心(笑)のあまり呆然となっているようだけど、そこに気付いては……いないだろうな。

ブレソール伯爵の単独犯ならば被害は最小限で済みそうだけど、お仲間達が居る場合は……ねぇ?

だって、私(魔導師)とキヴェラ王、高位貴族相手でも気にしないもん。

身分差ゆえに手を引く、なんて選択肢は最初からない!

ライナス殿下経由でキヴェラ王の怒りを知っているならば、バラクシン王とて庇わないだろうさ。

多少は国力が削がれようとも、生贄として素直に差し出した方が傷は浅いし。

「ほーれ、そろそろ正気に戻ろうか?」

パン! とブレソール伯爵の目の前で手を叩くと、ブレソール伯爵はゆっくりと顔を上げた。

……うん、私はまだまだ貴方を踏んでいるんですけどね? それが気にならないくらい、ショックが大きかったのかい。

「すでに行動した以上、貴方は手遅れ。そこは理解できてるかなー?」

確認とばかりに問い掛けると、ブレソール伯爵は悔しそうに顔を歪めた。そして、キッとばかりに睨みつけてくる。

「私だけが悪いように言っておりますがね、応じたのはアロガンシア公爵家ですぞ!」

「うん、判ってる」

「だったら……!」

「でも、それは別件だから」

「は?」

意味が判らなかったのか、訝しげな表情になるブレソール伯爵。……無理矢理こちらを向けている首が辛そうなので、そろそろ足を退けて移動しようか。

……そして。

「ぶっ!?」

床にへばっているブレソール伯爵の正面に移動すると、今度は顔面を踏みつける。

「魔導師殿……扱いがより酷くなっていないか……?」

「反省しない奴には妥当な扱いだと思います」

ライナス殿下は黙っていてください。お兄ちゃん(=バラクシン王)はいい笑顔で頷いているじゃないですか!

「私やバラクシン王がアロガンシア公爵家をどうこうする必要はないの。だって、あれはキヴェラ王の獲物だもの」

「え、獲物!?」

「訂正、キヴェラ王の責任です、責任!」

いかん、つい本音が。

ただ、言葉を変えただけで間違ってはいない。王家の血を存えさせるために降嫁させたのはキヴェラ王だし、処罰する権利を持つのもあの人だ。

「さっき言ったように、アロガンシア公爵家には『まだ』無事でいてもらわなければならないの。没落や処罰って困るの。最低限、次代が当主交代できる年齢になるまでは」

実のところ、ルーカスを支えることを選んだ長男に、一時的に家を継いでもらう……という手もあるにはある。

しかし、ルーカスが今後、家を興す予定がある以上、アロガンシア公爵家がルーカスを支持しているように見える状況は宜しくない。

もしもそんなことになれば、一部のルーカス支持派が『もしや、王太子に戻る可能性があるのでは!?』と騒ぎかねないじゃないか。

特に私から『お前ら、ルーカスをコケにするのもいい加減にしろ。自分達はそれ以下のくせに(笑)』(意訳)とやられたキヴェラ王の側近の皆さんが怪しい。

彼らはキヴェラ王の側近になるだけあって愚かではないので、反省するあまり、かつての正しい流れ(=ルーカスが次代の王となる)に戻そうとする可能性がある。

……が。

当のルーカスがそれを望まず、『妻はエレーナだけ』と言い切ってしまっているので、揉めることは必至だろう。

……。

個人的には、今の形が理想だと思う今日この頃。

それを崩すと、キヴェラ王の退位後がま~た怪しくなるじゃんか。

「バラクシン王陛下にお伺いします」

「ふむ、何かな?」

「ライナス殿下からの報告により、キヴェラにおけるアロガンシア公爵家の現状は理解していらっしゃいますよね?」

「ああ、勿論だ」

即答。ちらりとライナス殿下に視線を向けると、「君が渡してくれた魔道具の記録も見せているから、我々は正しく理解しているよ」と頷いてくれた。

「では、今回のことはどのように収めるおつもりですか?」

直球で尋ねた私に、バラクシン王は不敬を問う……なんてことはなく。

「まずは事実確認だな。その相手は当然、キヴェラ王となる。そして裏が取れれば、まずあちらに謝罪すべきだろう。魔導師殿からの情報通りならば、先に仕掛けたのはこちらなのだから」

微笑みながら、あっさりと予想通りのことを口にした。

……。

ですよねー! こちらからの謝罪も必要になってきますよねー……!

バラクシン王家に非は全くないが、やらかしたのはバラクシンの貴族。

アロガンシア公爵家に怒っているのは、キヴェラの頂点たるキヴェラ王その人なので、こちらからは『王』の謝罪が必要です。

「貴方に恥をかかせることが目的だった可能性もありますが……」

その場に居る全員の目が、ブレソール伯爵を見た。……足はそっと顔から退けておこう。生温かい視線が、微妙に私へと向けられてるし!

「その可能性はないんじゃないか?」

とライナス殿下。

「そうだな、私もそう思う」

弟に同意するバラクシン王。

……そして、勇者は最後にやって来た。

「魔導師殿、ブレソール伯爵はそれほど賢くありませんよ。今、貴女に言われて、初めてそこに気が付いた可能性もあるかと」

馬鹿正直なワンコ……もとい、第三王子レヴィンズ殿下が睨み付けながら、ブレソール伯爵を扱き下ろす。

……。

いや、そんな悪意はないかもしれんな。爽やか・好青年な大型犬は、意図して誰かを貶めるようなことはしなさそう。

ただし、彼の最愛の婚約者は真面目人間なヒルダちゃんであって。

彼女は公爵令嬢ながら努力の人なので、大変に勤勉なのです。当然、昔から彼女にベタ惚れ状態(※部下の皆さん情報)のレヴィンズ殿下は、彼女の話に付いて行けるよう努力してきたそうな。

つまり、『レヴィンズ殿下は愚かではない』。

ただ、ちょっとばかり正直なだけで。

本人も『交渉事には向かない』と言っているので、正直過ぎるところが欠点になってしまっているのだろう。

まあ、ジークほどではない。場の空気も読めるし、沈黙すべき時は騎士として控えているからね。

本当に、ただ正直なだけなのだ……この場では誰もが口にしなかった『馬鹿だから多分、そこまで考えてない』(意訳)と言ってしまっただけで(笑)

「……ブレソール伯爵がどう思われているか、よく判りました」

「……」

「目先の餌に釣られて、考えなしな行動をするから、今回のことになったわけですね」

「……」

王家からどう思われているかを知り、傷ついたらしいブレソール伯爵は沈黙した。傷つくような心は持っていた模様。

……が。

私はブレソール伯爵の反応に、それ以上に王家の皆様の態度に、大いに納得していたりする。

そりゃ、『教材』には最適だわな! 怒ったところで、こいつが単独でできることなんざ、身分をひけらかすか、嫌味を言う程度だろう。

新米当主(予定)のモーリス君でも勝てるわけですね! うむ、人選に納得です……!

「とりあえず、キヴェラ王の側近に連絡が取れるので、私から手紙でも送っておきます?」

気を取り直して提案すれば、顔を見合わせる王族兄弟。

大丈夫ですよ。ご主人様のお役に立てるならば、玩具は喜んで働きます。

「いいのかね?」

「あちらも事実確認をしなければならないでしょうし、バラクシン側がどのような対応を取るか伝えておけば、話し合いはスムーズかと」

「すまないね、助かる」

バラクシン王がほっとしたような表情になるのは、未だにキヴェラに対する苦手意識めいたものがあるからだろうか?

ライナス殿下は『あの』断罪の場で、私とキヴェラ王の遣り取りを見ているからそこまで心配はしていないだろうが、バラクシン王は知らないもんね。

「じゃあ、『これ』は……」

「当然、牢に直行だ。『色々と』聞かねばならないこともあるしなぁ……?」

ちょっとバラクシン王の顔が怖い気がしたのは、きっと気のせい。