軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖人様とモーリス君 其の二

「さて、まずは貴方の教材となる存在がどのような人物なのかを話しておきましょうか」

「教材……」

「彼女からそのように聞いておりますから、私もそう扱わせていただきます」

さらっとこちらの目的の人――状況的に、それが貴族だとモーリス君も察しているだろう――を教材扱いする聖人様に、モーリス君は微妙に顔を引き攣らせる。

うん、普通はそう思うよね。それが当たり前の反応だってのは判るよ。

でもね、聖人様にとってはその程度の扱いで良いの。

なにせ、私は今回、聖人様にここに来る目的を話している。

モーリス君の事情も含め、『死に掛けの貴族いない?』(意訳)程度のことを聞いている。

そんなお願いを了承してくれた以上、聖人様はこちらの目的を理解しているわけですよ。

モーリス君としては、ここが教会であることを踏まえて『あの、本当にそんな遣り取りをしてしまってもいいんですか……?』という心境なのだろう。

だって、貴族が教会や養護院を訪れる理由って、慰問や寄付だからね?

バラクシンの教会派貴族の行ないを知らなければ、寄付に訪れた人にしか思えないわけですよ。

そんな人達を教材扱いしていいのか!? と思うのは当然です。恩を仇で返す所業ですからね。

……が。

非常に……非常に残念なことに、バラクシンの教会に来る貴族の中には、未だに凝りてない『お馬鹿さん』が存在する。

これは私が長期的な計画で教会派貴族達の力を削ぐことを提案したせいでもあるんだけど、私達と直接遣り合った連中以外はほぼノーダメージなのだ。

勿論、王家と教会が和解(?)したことで、教会派貴族達の勢いは大きく削がれている。

だけど、地位や財産を失ったわけではないため、まだまだ以前のノリが抜け切れていない人々多数。

さすがに再度、教会を利用しようという動きを見せる連中こそ居ないものの、教会、特にこの状況を生み出すきっかけとなった聖人様に嫌味を言って来る奴はそれなりに居る模様。

なお、これらの情報源はアグノスである。

教会の大人達は子供達に会わせたくはないらしく、そういった奴らが来ると、部屋に囲って守るのだ。

ただ、教会で暮らすお子様達も何となくそれらの事情を察しているため、『嫌な人達が来た!』という認識をしているらしい。

すっかり教会の子と化しているアグノスも当然、そのような認識をしており、私へのお手紙で律儀に教えてくれるんだよねぇ……。

余談だが、アグノスにチクったという意識はない。

それどころか、悪意すらないだろう。アグノスにとっては『こんなことがあった!』という日記のようなものであり、報告という認識すらないのだから。

しかし、アグノスの所有者であり、聖人様のお友達(笑)の私としては、『そうか、そうか! まだウザい奴が居るのか!』となるわけで。

よって、今回のように『教材として使えば良くね?』となったわけです。教会にとっても旨みのあるお話ですな。

で。

聖人様としては、まずはモーリス君に『教材がどのような立場の人間か』をしっかり教えておくべきと考えたのだろう。

いくらお勉強と言われたところで、自分の言動が教会に影響するなんて思えば、どうしたって全力で挑めるわけがない。

モーリス君とて、将来的にブレイカーズ男爵家や領民達の生活を背負う立場になる。

だが、今回、モーリス君の言動が影響するのは教会という『全く関係のない場所』。

真面目なモーリス君だからこそ、最初にきっちり『教材どもは敵だ』と教えておかないと、手加減をしかねない。

「宜しいですか。今現在、教会を訪れる貴族、特に私を訪ねて来る者達は、大きく分けて二種類です」

「慰問や寄付のことについての相談ということは判るんですが……」

思い浮かばないのか、モーリス君は困惑気味。聖人様も『普通はそうですよ』と、微笑みながら頷いている。

「情けない話なのですが、この教会には教会派貴族達と癒着し、まるで教会の者達全てが教会派貴族達に与しているかのように思わせた者達が居たのです」

「……」

「我々は民間人ではありますが、信者の数だけで考えれば脅威です。バラクシンという国に信仰が根付いているからこそ、王家も無下にはできませんでした」

俯きがちに語る聖人様の表情は、かつての日々を思い出しているのか、少々、硬い。

モーリス君も何となくは察せるのか、かける言葉がないようだ。

では、ちょっとだけ判りやすくしてあげようか。

「信者を国民とか領民に置き換えれば判りやすいでしょ。抑え付ければ、暴動が起きる。王族や貴族だからと言って、民の声を無視していいわけじゃない」

「はい……ええ、そうですね。学園で学んだ歴史の中にも、そういった例はいくつもありました」

「性質が悪いことに、教会の信者達の大半は本当に真っ当というか、善良な人達なのよ。だから、王家も強く出られなかった。教会派貴族達の寄付が教会に暮らす信者達を養っていることも事実だからね」

「……」

「一言で言えば、貴族と癒着していた教会上層部が狡賢かったの。教会という組織の中だけでなら、権力者だったからね。思うところがあろうとも、信者達も彼らの言葉を無視できなかった」

だからこそ、行動できる聖人様が教会に居たことは、とてつもなく大きな幸運だったのだ。

善良な信者だからこそ、自分達よりも神に近い(と思われる)者達を『追い落とす』という発想がない。

そこに付け込んだのが一部のクズどもであり、教会の腐敗を知る一部の信者達は寄付を盾に取られて行動を起こせなかった。

「まあ、その教会派貴族が部外者である私や私の上司に喧嘩を売ってくれたおかげで介入できたんだけど」

「え゛」

ぎょっとして、私をガン見するモーリス君。はは、マジな話だぞ?

「この国の中だけならば、膠着状態のまま、どうにもならなかったのよ。だけど、綻びができた。だから、こう考えたの……『教会派貴族を〆るならば、どうするのが効果的か』って」

「え……ええと……?」

「元から、『とある件』のことで、この国の王様から謝罪は貰ってたの。ところが、何を勘違いしたのか、教会派貴族の馬鹿どもが追加で色々やらかしてくれちゃってさぁ……これはもう、一度、きっちり締め上げた方がいいかなって♪」

ハートマークが付きそうな口調で語る私に、モーリス君は盛大に混乱中。

対して、聖人様は当時を思い出しているのか、どことなく苦い顔をしながらも『あれは仕方ありませんでした』と頷いている。

「え? え!?」

……穏やかで誠実そうな人に見えていた聖人様の態度は、モーリス君を更なる混乱に陥れたようだ。

だが、これは事実である。話せないことを除いても、あれはない。

寧ろ、超大雑把に纏めると私の言葉が全てになるため、聖人様も否定しなかったのだろう。

「……自分だけで解決できないならば、時には『誰か』と手を組めばいいのよ」

にぃ、と笑いながら、私はモーリス君に囁く。

「敵の敵は味方、とは言い切れないけど、共犯者くらいにはなれるわ。もしくは興味を引いて仲間に引き入れてもいい。退屈しているなら、助言くらいはくれるかもね?」

「……お前のような者ばかりではないだろうが」

「いいじゃないの、聖人様。私は自分の目的と一致するなら手を組むし、興味があるなら『お手伝い』くらいはするわよ?」

「お手伝い、ですか?」

モーリス君はその『お手伝い』の予想がつかないらしく、首を傾げている。

そんな彼の姿に、私は……私達は笑った。

「そう! あくまでも主格は最初に始めた本人だよ。だから、人任せにせず、足搔く姿を見せることが重要」

「伝手を得る必要がありますが、彼女のように考える者が居ることも事実です。それにね、誰だって手を組むならば、遣る気のある相手を選ぶでしょう? その時こそ、問題に挑む君の態度が判断材料になります」

「……!」

聖人様の言葉に、はっとするモーリス君。どうやら、私達の言いたいことに気付いたらしい。

『当主としての責任を負うのは自分一人』だが、『問題の解決を一人でする必要はない』。

モーリス君は真面目だが、悪く言えば柔軟性がない。あくまでも現時点での評価、だが。

そんな彼がこのまま当主になれば当然、全てを背負い込もうとするだろう。

しかし、そんなことをすれば潰れるのは時間の問題だ。私達が彼の従兄弟を使う手を思いついたのも、そんな未来が予想できてしまったから。

「君には今現在、シュアンゼ殿下を始めとする私達との縁ができている。今後、近況報告と称した手紙に、さり気なく問題を絡めることだってできるじゃない。いい? 『伝手を活かすのは君の手腕に掛かっている』んだよ」

色々と無茶振りしている私達ですが、真面目に学ぼうとする子には好印象。

シュアンゼ殿下やヴァイスが無理でも、私や傭兵三人組相手ならお手紙くらい出せるだろう。

「さて、勉強のことに話を戻すね! 今回の教材はそのクズの残りカスというか、ただ嫌味を言ってくるようなお馬鹿なので、特に怖いことはない。ただし! 君よりも年上で爵位は上だ」

怖いことはないと言いつつも、『年上』で『爵位が上』という言葉に、モーリス君は顔を強張らせる。

……ちらちらと聖人様の方を窺っているので、自分の失態が教会に影響しないか案じているらしい。

そんな彼を安心させるように、聖人様は微笑んだ。

「私も同席しますから、大丈夫ですよ。と言うか、彼らは元から私に用があるので」

「わざわざ嫌味を言いに来るなんて、暇な奴よねぇ」

「え……い、嫌味ですか!?」

「マジ! って言うか、八つ当たりする相手が聖人様しか居ないのよ。ついでに、教会の情報収集って感じかな」

モーリス君は驚いているが、これがマジなのである。

そもそも、聖人様はそう簡単に弱みを見せるような人ではないので、『聖人様に嫌味を言いつつ仕掛ける→スルーされる』という状況だろうな。

馬鹿である。愚かである。

馬鹿が頑張ってもそれなりだと、いい加減に気付け。

……しかし、モーリス君にとっては実に丁度いい教材であって。

有難く利用させて貰おうと思ったわけですよ。あっさり提供してくれるあたり、聖人様もいい加減ウザくなってきたのかもしれない。

「私も居ますが、君にも話がいくでしょう。大した話もできない愚かな方ですが、私が相手にしないからこそ、君を狙ってくる可能性があります。いいですか、これは『勉強』です。遣り込める、話題を逸らす、煽る……様々な対処の仕方があるでしょう。君自身が最適と思うままに行動すればいい」

「僕が思うまま……」

「失敗しても、私がその場に居る以上、問題ありません。ただ文句を言って、優越感に浸りたいだけの輩ですからね。まあ、何か問題が起きても、彼女が出て来れば黙るでしょう」

そう言って、いい笑顔で私を見る聖人様。何となく察したらしいモーリス君は、賢くも貝になった。

先ほど『教会派貴族を〆た云々』と言ったため、教材に選ばれた人物もその影響を受けたとでも思ったのだろう。

……。

うん、大・正・解!

影響どころか、恐怖の記憶を植え付けた可能性があるけどな!

「今回、私は参加しないよ。聖人様と二人で頑張って!」

「わ……判りました!」

「いい? 今回の君の共犯者は聖人様。一人で言い返すも良し、二人がかりで煽るも良し! あ、態度や表情はできるだけ余裕があるように見せなさいね」

「はい! シュアンゼ殿下やヴァイスさんにもそう教えられていますし、頑張ってみます!」

「……何を教えているんだ、お前達……」

煩いですよ、聖人様。動揺する姿を見せないことは重要なのです!