軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

モーリス君への報告 其の二

私達が其々、『馬鹿は一度〆ないと、自分の方が格下だって理解しないよね♪』(意訳)的なことを口にした途端、モーリス君以下、ブレイカーズ男爵家の人々の顔が引き攣った。

あはは、やだなー♪

王族・貴族にとっては『よくあること』じゃない!

何せ、王族個人や高位貴族が頂点となり、派閥を結成する階級なのである。

単純に個人の喧嘩で済むはずもなく、その争いは派閥同士の争いへと発展する。

その結果、『当人同士や家同士に確執はないが、派閥として敵対する』という状況が発生するのだよ。

あと、貴族には『〇〇に連なる家』という関係で繋がっていることもあるため、その頂点に立つ家に倣って……ということもある。

その結果、派閥によっては、か~な~り大規模な争いに発展することもあるだろう。

ただ、ガニアはその『頂点に立つ存在』が国王と王弟という、どちらも王族だったこともあり、細々とした繋がりはともかく、基本的には二つの派閥に分かれていた。

その結果、ブレイカーズ男爵家のような底辺貴族は、のほほんとした平和な時間を過ごせてしまったと予想。

何せ、殺る気満々なのが王弟とその周囲の有力貴族達。

ぶっちゃけ、底辺貴族にできることはない。

ブレイカーズ男爵家がどちらの派閥に所属していたのか、それとも中立を貫いていたのかは判らないけど、『派閥争いとは無縁でいられた』のである。巻き込まれていたら、潰されてそう。

有力貴族の庇護はないけど、派閥に貢献することも求められない、平穏な立ち位置です。

……が。

その片方の派閥が崩壊した以上、今後はどうなるか判らない。

結論:今後のことを思うなら、対処法の伝授は必須。

国王派VS王弟派の争いを、リアルタイムで見ていた灰色猫なシュアンゼ殿下にとって、今後のことは嫌でも予想できてしまう。

私としても、王弟一派の貴族が多過ぎて『纏めてサクッと処分』(意訳)という方向にできなかった――国が傾きます――ので、シュアンゼ殿下の懸念には同意。

今後のガニアは、王弟の派閥が幾つかに分裂すると予想。そこに+国王派。

異世界版・戦国(領)時代の幕開けです……!

……。

まあ、表面的にはそこまで酷いことにはならないけど。国がなくなったら困るので、内部でのチクチクとした権力争い程度だろうな。

ただ、モーリス君達にとっては、初戦がそれになっちゃいそうなんだよねぇ……。

それもあって、味方、それも血縁関係にある家が味方になるのは物凄く有難い。

『彼』は中々に頑張ってくれそうだし、味方――元襲撃犯のこと――も付けたので、意外と家の掌握&現当主追い落としは早いかもしれん。

そんなわけで。

今度はモーリス君やブレイカーズ男爵家の人達の教育です……!

散々、言い聞かせた甲斐があって、モーリス君達の認識は変わってきている。

これならば、私達の教育――降りかかる火の粉は振り払え! そして、敵は潰せ!――も必要なことと理解してくれるだろう。

会ったばかりの頃のモーリス君は超絶真面目に当主になること『だけ』を考えていたので、『お貴族様は互いを陥れてなんぼ』と教えたところで、拒絶されて終わりだったろう。

私達は自分達の経験から、それが必要なスキルだと知っているけれど、お子様なモーリス君や献身しまくりの使用人の皆さんには馴染みがない。

いくら優秀な使用人でも、貴族同士の争いなんて参加しないんだよ~。あくまでも主人のサポートに徹しているはず。

多分、家令さんが多少、齧ったことがある程度、かな? この家、権力争いに参加していたわけじゃないみたいだし。

「さて、少しは落ち着いたかな? ただ、今後は君達にも必要になってくるだろうから、私達の教えは必須だと考えてもらいたい」

「あの、僕は当主になっても、権力争いをするつもりはないんですが……」

「甘いことを言うんじゃないよ。何も、権力争いに参加しろとは言わないよ。ただ、『この家を守りたいなら、強さを持つ必要がある』というだけさ」

シュアンゼ殿下の言葉に、モーリス君は唇を噛んで俯いた。元々、好戦的な性格をしていないのだろう。

そういったことに苦手意識がある……もしくは、嫌な思い出でもあるのかもしれない。

「だけど、君には必須スキルでしょ。この家が私兵なり、諜報部隊なりを有しているなら何とかなるけど、どちらもない。だったら、君が向かい合うしかない」

「僕が……」

「だから、さっきも言ったじゃない。『【当主を降りる】という選択肢もある』って」

私達とモーリス君では性格の違いがあるのは判るけど、現実問題、モーリス君が頑張って降りかかる火の粉を振り払うしかない。

ただ、その『降りかかる火の粉』が貴族とはいえ人間なので、モーリス君でも十分に対処できる可能性がある。

「あの、ちょっと宜しいかしら」

内心、葛藤しているらしいモーリス君を眺めていると、不意に声が掛けられた。

若干、遠慮というか、困惑を滲ませながらも声を掛けてきたのは、後妻さん。

「仰ることは判りますわ。ですが、この子にいきなりそういうことは……」

「無理、と言いたいの?」

軽く首を傾げながら問えば、後妻さんは首を横に振った。

「いいえ、無理とは言いません。ですが、教えを受けて、いきなり本番……というのはちょっと……その、性格的なものもありますし……」

後妻さんは娼婦としての経験がある分、余計にそう思うらしい。ふむ、中々にモーリス君のことを見ている模様。

なるほど~、『無理とは思わないけど、練習は必要だよ!』ということですな。

おーけー、おーけー、私は『超できる子』ですからね! しっかり、そのことも踏まえたプランを考案済みです!

「ああ、大丈夫。まずは相手を探る方法と自分の見せ方だけど、それも含めた聞き方のテンプレートは準備してあるから。勿論、その後は実習ですよ♪」

「は、はぁ……」

にこやかーとばかりに微笑んで手を振れば、後妻さんは何故か軽く引いた。おい、その態度はどういうことだ?

「あ~……教官は性格に難ありだが、確実にできるようになるぜ」

「ええ、まぁ……僕達もそうでしたし……」

「鬼教官で手加減がねぇが、できるまで付き合ってくれるぞ。……逃げられねぇだけかもしれねぇが」

困惑する後妻さんを憐れに思ったのか、イクス、ロイ、カルドが、口々に『大丈夫だから!』(大雑把に意訳)とフォローする。

……微妙に気になる部分はあるけど、今は流そうじゃないか。

「ええと、その、『実習』って?」

「ふふ、ちゃんと考えてあるから問題ない。ちなみにガニアじゃないから、噂になることもないよ♪」

モーリス君の質問にも、きちんとお答えしますとも!

「ふむ、サロヴァーラですか? 確かに、あそこならば多少は融通が利きそうですし、練習相手にも困らないと思いますが」

「いや、違う。そっちはシュアンゼ殿下用に取っておく」

さらっと自国の貴族を練習台扱いするヴァイスにそう返すと、今度は主従が軽く目を見開いた。

「おや、私用かい?」

「そう。隣国だし、情報収集する意味でも理想的な獲物でしょ。あと、評価向上も視野に入れてる」

「獲物!?」

主従は『楽しみだね』と笑い合っているのに、今度はモーリス君が驚きの声を上げた。

ああ、『獲物』っていう表現が聞き慣れないのか。確かに、男爵位では他の貴族達を獲物呼ばわりはできまい。

「じゃあ、練習台」

「あの、獲物と大差ないような気が……」

「経験は人を成長させるんだぞ? だから……文句言わずに、や・れ」

「は、はい……」

納得できたようで何より。

すると、今度は家令さんがおずおずと尋ねてきた。

「先ほどのこと……おそらく、私が予想している家のことだとは思いますが。腐っても、当主は未だ、父親の方なのです。ご子息だけでは少々、荷が重過ぎませんか?」

『彼』が当主になるまで味方とは言えないので暈していたけど、家令さんは何となく誰のことか察してくれたらしい。

これは余計な期待をさせないための措置だったけど、思い当たる人が居た模様。

「『彼』は遣る気だったよ。そもそも、『彼』が当主になることが、交渉の条件だったからね」

「ですが、重ねた時間というものは無視できません。当主の持つ権力、その人脈……年若い者が抗うには少々、厳しいかと」

「でも、それくらいしてもらわなければ、襲撃の件を『なかったこと』にできないからね」

シュアンゼ殿下にそこまで言われれば反論できないのか、家令さんは黙り込んでしまった。

……あ。

そういえば、あのことを言ってないんだった。

「大丈夫だって! 元襲撃犯達をお手伝いに付けたから」

『は?』

ブレイカーズ男爵家の人々が綺麗にハモった。ここに襲撃犯達のリーダーが居るから、まさか他の人達がお手伝い要員にされたとは思わなかった模様。

「あの……彼らは裏社会の人間では……?」

「うん。だから、クズ当主が排除に動いた場合の対抗として付いてもらった。家の没落が懸かっている以上、『彼』は退かない。だったら、強制的に排除される可能性も含めて、戦える奴が傍に居た方がいい」

意味が判ってしまったのか、ブレイカーズ男爵家の人々は顔色が悪い。

だが、『強制的に排除』(意訳)は起こる可能性が高いだろう。クズな野心家が、大人しく当主の座を明け渡すはずがないもの。

「しかし、襲撃を請け負うような者達が、素直に指示に従ってくれるのでしょうか?」

まだ心配なのか、家令さんは半信半疑な模様。まあ、それもそうか。

「大丈夫! しっかり『お説教』(意訳)した後、相手の目を見て真摯に『お願い』したら、引き受けてくれたから!」

ええ、嘘は言ってません。ヴァイスとラフィークさん以外のこちらの面子が、生温かい目で見ていようとも、事実です!

ただ、悪夢のナイトメアシリーズを体験させた後、涙目になっていた奴ら一人一人の胸倉を掴んで、瞬きもせずに目を合わせ。

『このまま王族襲撃犯として散るか、私達の手駒として忠実に働くか選べ』

……と、無表情のまま『お願い』(意訳)したら、首がもげる勢いで首を縦に振ってくれただけで。

ふふ……その場に居た三人組が怯えていたなんて些細なことさ。第一、ここで私達に利用価値を示さなければ、奴らも問答無用であの世行きだろう。

「『彼』も覚悟を決めたんだ。襲撃者達だって、こちらに付くことを選んだ。君達も覚悟を決めるべきだよ」

もっともらしくシュアンゼ殿下が纏めれば、家令さん達は視線を交わし合い。

「……はい。ご協力に感謝いたします」

深々と、私達に頭を下げたのだった。