軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

モーリス君への報告 其の一

――ブレイカーズ男爵家の一室にて

「は……? あの、もう一度言って頂いても……?」

ぽかんとした表情のまま、モーリス君が尋ねて来る。言葉こそないけれど、他の人も似たり寄ったりの反応だ。

うん、その反応も予想通り。まあ、確かに、反応に困る内容ですね!

彼らがこうなったのは、シュアンゼ殿下が『君達にとっての【優しい伯父さん】が近々、隠居するかもしれないよ』と言ったから。

あれです、あの気の毒な息子さん――ただし、こいつもブレイカーズ男爵家にとっては加害者扱いだ――のお父様(笑)

奴はモーリス君達にとって『優しい親族』(笑)だったので、一応、教えておいた方がいいだろうということになったのである。

正直、『近々、身の丈に合わない野心を持ったクズが表舞台から消えるよ』で良いと思うんだ。

魔王様におねだりした調査書にも『居なくなっても、特に問題ない』って書かれていたからね?

いきなり家ごと消えても、どこかに迷惑がかかることはないだろう。そういった意味でも、調査は必要だったのです。

一応言っておくが、最初から消す(意訳)予定だったのではない。

血の近い親族である以上、使い道があることを期待し、家『だけ』は残す方向にしたいな、とか思っていただけで。

ええ、全っ然! これっぽっちも! 物騒なことは考えていませんよぉっ!

……。

アホ過ぎて、そこまで労力を割く意味がない、という意味で。

こいつを大々的に潰したところで、シュアンゼ殿下の株が上がるか? と考えた場合、非常に微妙と言うか、自慢にはならないなー、と思ったわけですよ。

寧ろ、放っておいてもいつかは潰れただろう。今後、荒れる予定のガニアを生き残れるか怪しいもん。

……そう思っていたのは事実なのです、が!

物騒な方向にはならなかったけれど、奴が企てた『ブレイカーズ男爵家への脅迫行為』(=襲撃)が、しっかりとどめを刺してくれちゃったわけだ。

勿論、私達……と言うか、この国の第二王子様がこの家に滞在していたのは、本当に運がなかったとしか言いようがないアクシデント。

ただし、そこに他国の人間であるヴァイス(=サロヴァーラのエヴィエニス公爵家四男)と、『貴方の身近な恐怖』として定評のある魔導師(=過保護な親猫持ち)が居たとなると、『無罪放免は有り得ない』。

他国への誠意を見せる意味でも、無理なんだよねぇ……。特に、ガニアは王弟夫妻のことがあったばかりなので、ガニア王はきっちりと対処せねばなるまいよ。

……そんなわけで。

私達は当初、あの家のことは見捨てかけていた。わざわざ労力を割く価値もなし。

さようなら、『優しい親族』(笑)!

こちらが何もしてないのに、自滅で退場お疲れさん!

家の再興も無理だと思うし、残りの人生は罪人として過ごしてくれ!

……何てことを思っていたのだけど、唐突にダークホースが湧いたのだ。

意外なことに……本当に意外なことに、奴の息子さんはまともだった。遺伝子の不思議である。

多分、現当主の愚かさに危機感を抱いていた家族が、物凄く教育を頑張ったのだろう。お貴族様って『家』が重要だもんね。

ただ、それを知った時の、シュアンゼ殿下の楽しそうな顔と言ったら……!

『おや、意外と使えるかもしれないね?』

……。

うん、メチャクチャ期待してるとか、有能さを認めているというわけじゃないんだ。

あくまでも『意外と使えるかも?』くらいの期待と言うか、この課題をより良くクリアするための手駒の一つとして認識したと言うか。

決意を固めた表情で帰って行った『彼』には大変申し訳ないのだが、私達の『彼』に対する認識はその程度。ただし、『現時点では』(重要!)。

まあ、『家の存続』を餌にした私達の提案を温情のように感じ、感謝していたようなので、『彼』は頑張ってくれると思う! 後がないのも事実だし!

「だから、『君達にとっての【優しい伯父さん】が近々、隠居するかもしれないよ』って言ったんだよ」

「……」

シュアンゼ殿下が苦笑しながらも再度告げた言葉に、モーリス君は暫し、沈黙し。

「は!? あ、あの、何故、そのようなことに!?」

半ばパニックを起こしながら、その理由を尋ねて来た。

しかし、灰色猫なシュアンゼ殿下はそんなモーリス君を落ち着かせる……はずもなく。

「おや、君にも心当たりがあるだろう? 言うまでもなく、先日の襲撃が原因だよ。脅迫目的とはいえ、王族である私が巻き添えになったんだ。当然のことじゃないかな」

「た、確かに、それはそうなのですが……っ」

頷きつつも、モーリス君は未だ、納得できない模様。

これは『狙われたのがブレイカーズ男爵家に属する人々』ということに加え、自分達が何のお咎めも受けていないことが原因だな。

シュアンゼ殿下もそれは察したらしく、より詳しい説明を続ける。

「私達は『こちら側の事情で押し掛けた』んだ。だから、警備が不十分であろうとも、君達が罰せられることはない。非は私達にあるんだ、それと相殺されたような感じだね」

「……」

「それに加えて、ミヅキとヴァイスは『私の友人として同行してくれた』のであって、仕事じゃないんだよ。だから、二人が許すと言えば、それも考慮される」

『勝手に押し掛けてきた私達が巻き込まれようとも、自己責任!』ということですな。

勿論、いつもそれが適用されて無罪放免になるわけじゃないけれど、今回は事前に襲撃があることを知っていたため、ブレイカーズ男爵家は無罪です♪

……。

いや、私達が襲撃を狙っていたのも事実だからさ?

そこを突かれると、こちらとしても困るのよ!

そして、シュアンゼ殿下は王家公認で、ファクル公爵からの課題真っ最中。

『お互い、黙って【なかったこと】にしましょうね』という、暗黙の了解なのです。

そもそも、私は魔王様に『シュアンゼ殿下のお手伝いしてくる!』と申請済み。

その上で、あのおねだりをしたので、魔王様としても『ああ、お手伝いの一環ね』くらいの認識だろう。

ヴァイスの方は先払いと言うか、最初の『エヴィエニス家へのガニア王家からのお手紙』が貴族どもにとっては大ダメージのはず。

あれは『北の大国の王家と王家派の公爵家に繋がり有り!(しかも、友好的)』としか見られないため、サロヴァーラの貴族達にとってはかなりの牽制になるだろう。

しかも、真面目人間で王家第一のヴァイスが、ティルシアの後押しの下、『遊びに行っている』!

後ろ盾のように見られても不思議じゃないのですよ。それでなくとも、『他国の王族、もしくは高位貴族に親しい友人が居る』という事実は怖かろう。

実際、ヴァイスはイルフェナに来てくれた時に、私の友人達とも知り合っている。

ヴァイスは騎士だけど、王家に忠誠を誓う貴族でもあるのだ……王家を守るためなら、他国の友人達に頭を下げて助けを求めるだろう。己の恥より王家の安寧を選ぶだろうから。

そんなことを考えている間も、シュアンゼ殿下の話は続いていた。

「だから、『この家に関しては』問題ない。だけど、襲撃犯は無罪放免というわけにはいかないだろう?」

「それは……そう、ですね」

「ああ、仕事を請け負った者達だけじゃなく、依頼した者、という意味だよ」

「……っ」

「だからね……『依頼主は逃げられない』。家の没落だってありえたことなんだ」

そこまで言われれば、依頼主が誰かなんて嫌でも判る。……判ってしまう。

それはモーリス君の辛そうな表情からも見て取れた。『優しい親族』は敵だったのだと、襲撃という動かし難い事実と共に突き付けられたのだ。

まあ、複雑な心境だわな。よしよし、お姉さんが助言をしてやろうな。

「顔を上げなよ。こんなことは今後、いくらだってあるじゃない」

声を掛けると、モーリス君はゆっくりとこちらを向いた。

「珍しいことじゃないでしょ、貴族なんだから。この家は最初から狙われていた。君は……君達は傀儡にされかかっていた。これまではギリギリのところで後妻さんが抗い、使用人達が一丸となって防いでくれていた。だけど、当主になれば、君はその事実と向き合うことになる」

そこで一度言葉を切り。

「だって、もう子供じゃいられないから。守られている時間は終わるの。今度は君が抗い、守る側になる番だよ。同時に、『当主を降りる』という選択肢もあるけどね」

「それだけは選びません!」

即座に反応し、睨み付けてくるモーリス君。そこには最初に会った時のような気弱さはなく、何が何でも自分が家を継ぐという確かな意思が感じられた。

そんな彼の様子に、私だけでなく、こちら側の面子にも笑みが浮かぶ。

あらあら、良い顔をするようになったじゃない。

これならば、当主になっても何とかなりそう。

「だったら、俯くな。悩んでもいいけど、信頼できる人以外に弱さを見せるんじゃない。前も言ったけど、以前の君の姿を知られている以上、今後、足を掬おうとする輩が湧く可能性がある。それらを退けていれば、君が以前とは違うことが証明されるでしょう」

以前のモーリス君の評価は、モーリス君自身が覆すしかない。

当主が弱ければ狙われる……なんて、どこにでもある話なのだから。

「僕は……貴方達のような強さを持つことができるでしょうか?」

「君の背後に、家令さん達が居ると思えば、倒れるわけにはいかないんじゃない?」

「……! 確かに……そう思えば、頑張れるかもしれません」

「まあ、最終目標は『仕掛けてきた奴には十倍返し』くらいが望ましいけど」

「え゛」

何故か、固まるモーリス君。そんなモーリス君の姿に、私は首を傾げ。

「当然でしょ? 馬鹿は痛い目を見ないと、『手を出したら拙い』って気付かないもの。いくら言葉を尽くしたところで、嘗められてたら無意味だよ」

「だよねぇ。その言葉には本当に同意するよ。どれほど立派な言葉や正論だろうと、価値のない相手からの言葉だと思っているから、『全く』意味がないし」

「本当に。あのような連中が高位貴族に居るだけで、国の評価が下がり続けたと思うと、悔しい限りです。言葉で通じないのですから、実力行使という名の追い落としで理解していただくしかないでしょうね」

私、シュアンゼ殿下、ヴァイスの順で語られる『現実』に、モーリス君達が顔を引き攣らせる。

「あの……それは一体、どのようなことから学んだものなので……?」

若干、震えているような気がするモーリス君の言葉に、私達は顔を見合わせ。

「自分の経験かな。私は歩けなかったからね。弱者と侮られることが大半だった」

「屈辱の日々からだ。だが、耐え続けてきた日々を無駄にはしない」

「貴族や王族を相手にしていると、嫌でも判る。こちらに身分がないと、それだけで強気になるから、心に傷を負うくらいやらないと奴らは理解しない」

「……え? え!? あの、最後のミヅキさんの言葉って……ミヅキさんは民間人ですよね!?」

「そうだよー」

そのうち、嫌でも私達の気持ちが理解できるようになるぞ、モーリス君。

大丈夫、お貴族様は叩けば埃が出るご身分だ。証拠を掴んだ上でそいつの政敵に売り、最終的に潰せば大勝利!