軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『彼』への期待『も』本心です。

――その後。

すっかりシュアンゼ殿下の温情と思い込んだ『彼』は、決意を秘めた顔のまま深く私達に一礼し、帰って行った。

行きと同じく、護衛&道案内は元襲撃犯達。彼らはリーダー格の一名をこちらに残し、残りは『彼』のお手伝いとして付いて行った。一人居れば、証言者として十分だしね。

何せ、『彼』は父親とあまり仲が良くはない。いや、仲が良くないというより、愚かな父親に疎まれているような印象を受けるのだ。

現当主、器の小さい奴である。

息子に嫉妬するより、己の行ないを顧みろや!

そういった愚者を放っておくと碌なことにならないのは、ゼブレストで学習済み。

『彼』は今後、『父親を追い落とす』という、失敗できないミッションが控えているので、是非とも頑張ってもらいたいところ。

なお、『彼』に元襲撃犯達を付けたのは、父親が強行手段を取った時のため。

何~故~か、雑魚……いや、三流悪役的な人達は、追い詰められると自棄を起こすというか、突飛な行動に出がちだ。

……そんなわけで。

『彼』の父親や奴に与する使用人、もしくは新たに雇われた裏社会の人などを警戒し、対抗手段を持たせておく必要あり、と判断された。

勿論、『彼』を支持する使用人達は居るだろう。しかし、残念なことに現当主は父親の方なのだ……下手をすると、跡取り息子を追放、という可能性もゼロではない。

やりそう、超やりそう、雑魚な父親なら。

抑え込めないと判った時点で、除籍とかしかねない。

まともに遣り合っても勝てないと理解してしまった場合、父親が取れる最強の手段がそれだからね。要は、戦いの舞台から強制退場させるってことですよ。

逆に言えば、それしか父親が勝てる手段らしきものがない気がする。問題は、父親がそれを使うまでに、『彼』がどれほど実権を握れるかだな。

「とりあえず、今は『彼』に期待かな」

シュアンゼ殿下も私と同じことを考えているらしく、特に『彼』には指示を出さなかった。

これ、シュアンゼ殿下なりの『彼』への見極めなのよね。『自分で考え、結果を出して来い!』みたいな?

「一応は状況を理解できたようですし、当主の座を奪い取れば、家の存続という未来が勝ち取れるんです。必死になるのでは?」

ヴァイスも今の『彼』ならば期待できると思っているらしく、言葉の棘らしきものはない。

それは他の皆も同じようで、特に反論はないようだった。

……。

そりゃ、現状、目の前に希望をぶら下げられてる状態だもんな。

ニンジンを狙う馬の如く、必死になること請け合いだ。

しかし。

残念ながら、私達は『彼』がモーリス君の助けになることに関して期待しているわけではない。

少なくとも、『今の彼』にそこまでの価値はない……その判断が『できない』。

「『彼』は当主になって、初めて私達と交渉できる状態になるんだ。まずは、どれほど本気か見せてもらわないとね」

「だよねー」

これですよ。『即、救済』というわけじゃないの。シュアンゼ殿下の言葉が全て。

こちらは『君がブレイカーズ男爵家の助けになるなら、不敬罪と襲撃を見逃してあげてもいいよ?』(意訳)と言っただけ。

つまり、『彼』が当主になることは決定事項。それを成し遂げて、初めて私達が指示を出すことになる。

だから、シュアンゼ殿下は『今はそれでいい』と言ったわけですね!

まずはスタートラインに立って見せろ、と!

「そんな呑気なことを言っていて、いいのか? あのお坊ちゃんは学園の卒業までもう少しあるみてぇだが、そこまで時間はないだろ?」

心配なのか、珍しくイクスが疑問を口にする。カルドとロイもそこは不安なのか、視線で私達に問うてくる。

対して、私達は顔を見合わせ、苦笑した。

うーん……『できる・できない』という問題じゃないんだよねぇ。

「あのね、『できる・できない』っていう問題じゃないの。私達の提示した条件って言うか、家を残したければ『やるしかない』」

「「「は?」」」

「だからね? 『シュアンゼ殿下の手駒となって、ブレイカーズ男爵家を助ける』って言うのが、『彼』の家が存続できる条件でしょ? そのためには『彼』が当主になるしかない」

「当主になることが、前提条件に含まれているんだ。その程度のこともできない無能は要らないよ」

私の説明に続く形で、さらっと『見捨てることもあるかもね?』と告げるシュアンゼ殿下。微笑んでいるのが、恐ろしい。

ただ、雇い主の発言を聞き、三人組はぎょっとなった。

「い、いや……そこまで言い切らなくても」

「あの、もう少し時間が必要ではないかと……」

カルドとロイが顔を引き攣らせながら、微妙に『彼』を擁護する。イクスは……ああ、深く溜息を吐いて無言になった。彼はシュアンゼ殿下の言い分も理解できる模様。

「仕方ない。そもそも、これから全てを始めるわけではないのだろう? つまり、『今までしてきたことも評価される』ということだ」

「……ん? そりゃ、どういうことだ?」

ヴァイスの言葉に、三人組、特にカルドが反応する。ヴァイスも説明してくれる気はあったらしく、カルドの方を向くと話を続けた。

「先ほどの『彼』の話がただの不幸語りだけだったならば、時間が足りないだろう。だが、前々から準備し、機を窺っていたならば、シュアンゼ殿下の提案は最後の一押しとなる」

「口先だけの奴か、それとも本気で父親を追い落とすことを考えていたか。……『今から頑張る』じゃないんだよ、カルド。その見極めも兼ねて、あの条件なの」

これで『彼』が条件を達成し、シュアンゼ殿下の手駒になれるならば、その後も『とりあえず使えるかも?』程度の評価は得られるだろう。

同時に、そこそこシュアンゼ殿下の庇護も受けられる。少なくとも、シュアンゼ殿下の陣営に組み込まれる形になるのだから。

「私とヴァイスはシュアンゼ殿下の課題に協力すると言った。ならば、その課題の達成に『彼』と『彼』の家が必要ならば、襲撃されたことは水に流せるの。だって、個人的に遊びに来ただけなんだもん!」

そこまで言えば理解できたのか、三人組は軽く目を見開いて驚いている。そんな三人組の反応に、シュアンゼ殿下は苦笑気味。

そうですよー、『彼』が有能さを示すことで、マジで救済ルートが開けるの。

だって、『襲撃が【なかったこと】にはならないから』。

我ら、報告の義務があるのです……いくら個人的に遊びに来たとはいえ、『何があったか聞かれたら、素直に答えるしかない』の。

私の場合は調査もおねだりしたので、報告は必須。

ヴァイスもティルシアの後押しでこちらに来たので、同じく。

その中で『襲撃されました!』『人質にされました!』なんて言ってみろ、間違いなく『その後、シュアンゼ殿下はどう対応したのか?』と聞かれる。

勿論、これはシュアンゼ殿下の見極めのため。殆ど情報がない王族ですからね~、シュアンゼ殿下。

今まで守られてきたから、実績皆無の王族だから、なんて言い訳は通用しません。私はともかく、他国の高位貴族を危険に晒した以上、きっちり対処しなければ駄目だ。

それも踏まえて、シュアンゼ殿下は『彼』への提案をした。だから、ラフィークさんが秘かに感動したわけですよ。『ご立派になって!』と。

……まあ、三人組がそこまで察しているかは判らんが。

君達は『シュアンゼ殿下は複数の意味を持った対処の仕方をした』程度の理解で良いと思うよ? 腹黒いのは君達の雇い主だけで十分です。

「私達は全部、報告するわよ? それがシュアンゼ殿下の評価に繋がるからね」

「報告は必須だが、折角、呼んでいただいたのに、ただ護衛するだけでは情けないと思っていた。だからこそ、私は『正しく』今回のことを報告しようと思う」

その結果、課題の達成=功績ゲット! &他国におけるシュアンゼ殿下の評価向上となるだろう。

ティルシアや魔王様は他の人達にも情報を共有するだろうし、今後も適度に私達を巻き込めばいいと思う。

「……で? 教官達はああ言ってるが?」

「ふふ、その解釈で合ってるよ。持つべきものは察しの良い友人だね」

呆れながら問うたカルドに、楽しそうに返すシュアンゼ殿下。……ああ、ラフィークさんがまた目元にハンカチを当てている。

……。

これまで悔しかったんだろうな。シュアンゼ殿下が『できる子』だとしても、その優秀さを周囲に広めるわけにはいかなかったから。

「あのよ、教官。一応、あいつのために提案したんだよな? 色々言ってたのも、助けてやろうと思ったからだよな!? 少しは良心があったよな!?」

「あはは! カルド君、一つの出来事に複数の利点を見出すのは嗜みだぞぅ。これができなきゃ、王族や上層部の人間と遣り合って生きてないわ」

「アンタは少しは真っ当に生きろ!」

「はは、世界の災厄に何を言ってるのかね~♪」

貴族なんざ、蹴落とし合いが日常です。見ろ、真面目人間のヴァイスだって、私やシュアンゼ殿下に馴染んでるじゃん!