作品タイトル不明
希望の光(笑)其の二
漸く覚悟が決まったらしい『彼』の姿に、シュアンゼ殿下やヴァイスも表情を変えた。
うん、そうですねー。そちらが変われば、こっちも真面目に相手をしようというものですよ。
だって、今までの『彼』は無意識とは言え、『父親の被害者』という立場を崩さなかったもの。
ある意味、それは間違っていないが、そんなことなど私達には関係ない。『一人で悲劇の主人公でもやってろ!』としか思わん。
つーか、私達の方が『彼』よりも苦難の人生歩んでますし。
同情してくれと望まれてもねぇ……?
イクスの一喝がなければ、『彼』は延々と悲劇の主人公的トークでもしていたのだろうか? さすがに、それは人生舐めてるとしか言いようがないのだけど。
と言うか、今後のガニアは荒れると予想されるので、遅かれ、早かれ、家ごと潰れること請け合いですな。
今回の不運(=父親の愚行)を幸運(=シュアンゼ殿下と交渉の余地があり、庇護を受けられる)に変えることができれば、それなりに生き残ることはできるだろうが……どうかねー?
「さて、君にはまず、父親を追い落とすだけの証拠を集めてもらいたい。……ああ、家にとって不都合だろうとも、隠さない方がいいよ? 後から出てきた場合、新たな当主となった君が責任を取らされるかもしれないから」
念のためと言わんばかりに、シュアンゼ殿下が釘を刺す。なお、これは意地悪ではなく、本当に必要なことだったりする。
まったくの無罪にはならないけれど、どうしたって責任の比重は『現当主』の方が重い。
隠居したことで一応の禊が済んだという扱いならば、その矛先が家や現当主に向くということだろう。
『彼』の父親は人の恨みこそ買えど、人望があるタイプには思えないので、ここぞとばかりに嫌がらせを仕掛けてくる可能性がある。
と、言うか。
ガニアが荒れた場合、自分の家を守るため、都合の悪いこと(意訳)はトカゲの尻尾の如く切り捨てようとする輩は絶対に出る。
ぶっちゃけ、悪事の全てを押し付けられてポイッ! とされる可能性・大。
下手に頭の悪い奴を残しておくと、道連れや救済を求めて、べらべらとお仲間のことを喋るかもしれないじゃないか。
……その果てに待つのが、何かも判らずに。
シュアンゼ殿下はこういった展開を危惧しているように思う。『彼』も頼りないけど、その父親がそれに輪をかけてボンクラ(予想)なんだもの。
絶対に、余計なことをすると思うんだ。その挙句に折角の手駒(=『彼』と『彼』の家)を失うならば、先手を打っておくべきだろう。
「勿論です。我が家の恥を晒すことになってしまいますが、そうすることが貴方達からの信頼を得ることに繋がると思っております」
……いや、私が心配しているのは君のことなんだけど。
決意を胸に、大真面目に頷く『彼』。微妙な温度差に、ついつい生温かい目を向けてしまう。
う、うん、それも間違っていないかなー? 真面目だねー?
そう、間違いではない。それも間違いではないのだが……どちらかと言えば、君の今後のためという意味合いが強いと思うぞー?
「……気負う必要はない。まずは君の覚悟を見せてもらいたいだけだから」
さすがに『やらかした悪事を放置すれば、家を継いだ後に責任を取らされるかもしれないよ?』とは言い難かったのか、シュアンゼ殿下が無難な言葉を紡ぐ。
……あの、灰色猫? いくらテーブルの下のことは見えないからって、杖で私の足を突いて『何も言うな』(予想)と意思表示するの、止めて。
『遣る気を削ぐな』ってことですか。余計なことは言うな、と。
「そうだな。君には『家を潰さない』という目標がある。ここで都合の悪いことを隠すようならば、シュアンゼ殿下とて、それなりの扱いをするだろう」
「ええ、判っています」
ヴァイスの厳しい言葉と視線にも、『彼』は目を逸らさずにしっかりと頷いた。
……。
真面目である。
馬鹿正直である。
少しは狡猾さを持たんかい! と思わんでもない。
「ミヅキ、君じゃないんだから」
「ハハ、何ノコトデショウ?」
黙っていろ、灰色猫。『彼』が不思議そうな顔をしているじゃないか。
「まあ、君の気持ちも判るけどね」
「いや、判るんかい!」
「ただ、『今』は『彼』の誠実さを確かめるだけでいいと思っているから」
なるほど、今後はどうなるか判らないのですね?
「父親を追い落とす以上、家の内部も完全に掌握してもらわなければならないし」
身包み剥いで、権力どころか、人員・財力も取り上げろってことですか? 全面同意です!
「現当主に味方するか、次期当主に味方するか、決めかねている人も居ると思うんだ」
つまり、今後は父親VS息子の家内バトル勃発ですな!
で、負けた方は味方した使用人諸共、どこかに隔離するなりしろ、と。
「『彼』だって、家の内部に不安要素を残したくないだろう。見極めは必要だよ」
裏切る前に叩き出せ! ってことですね♪ もしくは、捨てろと。判ります!
当然、切り捨てた奴の一覧も要求し、おかしな真似ができないように『お説教と忠告』(意訳)をする気でしょ?
「……教官達が何を考えているか、何となく判る気がするんだが」
「カルドさん、黙って! 僕達はただの護衛です!」
……聞こえているぞ、カルドとロイ。折角、『彼』が遣る気になっているんだし、ここは良い子で黙ってような? 私みたいに突かれるぞ?
「聞こえていただろう? 君がやらなければならないことは結構多い。ただ、それくらいしなければ、君が提示した『新たな当主となり、家単位で味方する』ということは不可能なんだ」
「ええ、そうだと思います。今も使用人達はある程度、私に付いていますが……やはり、仕えた時間の長さか、完全には掌握できていないでしょう」
「それを覆すのがまず一つの課題だろうね。方法は問わないけれど、今後のことを考えたら、『君』を裏切る可能性がある者は排除すべきだ」
「それはっ……」
「『家』を守りたいと思っていても、『君が当主を務める家』とは限らない。そういうことだよ」
「……っ」
穏やかな声音で語るシュアンゼ殿下に、『彼』は悔し気な表情になった。ただ、その可能性は『彼』も理解しているのだろう。
当主になるのは『血を継ぐ者』であり、直系である必要はない。
都合が悪ければ、実の息子を廃して、言いなりになる分家の養子に継がせる手もあるのだ。
『彼』の父親にはそれができてしまう。……奴は紛れもなく『現当主』なのだから。
それだけではない。『彼』がどれだけ周りを味方に付けられるか、ということも重要だ。
使用人にしろ、家同士の共同事業に関わっている他家にしろ、『彼』が父親よりも当主に相応しいと思わせなければならないだろう。
「だから、『今はそれでいい』と言ったんだ。結果として、私達は君が口先だけの人間かどうかを知ることになるからね」
微笑みさえ浮かべ、シュアンゼ殿下は言い切った。そこにあるのは紛れもなく、圧倒的に優位な立ち場を示す『残酷さ』。
『彼』が提示された条件の裏に気付かない可能性を考慮し、今回はわざわざ真意を明かしたのだろう。
それが『彼』を追い立てるものになるか、シュアンゼ殿下を恐れる要素になるかは判らない。全ては『彼』の覚悟次第。
「シュアンゼ殿下は『王族』なんだよ。その意味をよく考えた方がいい」
「甘く見れば、何も伝えずにそれなりの評価を下されるだろう。君は運が良い。今回限りかもしれないが、わざわざ説明してくださったのだからな」
私とヴァイスの言葉はある意味、助言だ。だから、『きちんと期待に応えて』ね?
……王族の前で口にし、家が救われるための交渉材料として、自ら提示したのだから。