軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

とある護衛の介入(イクス視点)

「……」

目の前で繰り広げられる茶番――そう、紛れもなく『茶番』だ――を目にしながら、俺は一つ溜息を吐く。

この家に呼び付けられた男に同情する要素を見出すならば、それは『過ぎる野心を持った父親がいたこと』だろうか。

子は親を選ぶことなんてできねぇ。その点『だけ』はこいつに同情する。

……だが。

王族や高位貴族に囲まれるこの状況を招いたのは間違いなく、『こいつ自身』なのだ。

『覚悟を決めたかのように見えるけど、それ、当たり前だから。って言うか、貴方がモーリス君達に【何もしなかった】という事実は変わらないからね?』

『ブレイカーズ男爵家にとっては、父親と同類ってこと。私達はその前提で言葉を選ぶし、行動するから、厳しい目で見られるのは当たり前』

教官がこいつに言った言葉は何も間違っちゃいねぇ。ただの事実だ。

あのお坊ちゃん達が欲深い連中……自分の父親達に良いように転がされるのを、こいつは黙って見ていただけじゃねぇか。

もしも、『善良な』従兄弟として父親の所業を恥じ、こっそりでもお坊ちゃんに忠告なり、手助けなりをしていたら、状況は違っていたはずだ。

あのお坊ちゃんは甘い。そして、俺達から見ると情けない。

真面目そうな好青年と言えなくもねぇが、間違っても死んだ父親の跡を継ごうと必死になったようには見えねぇ。

表立って批難こそしねぇが、面倒見のいいカルドや頭の良いロイだって、無条件にあいつを庇おうとはしない。

つまり……俺の個人的な見解というだけじゃなく、あの二人も似たような判断をしたってことだろう。

まあ、教官達の物言いはかなりキツイこともあるから、毎回、何だかんだとカルド達が緩和剤要員になってやっている。今回とて、必要ならば口を出すだろう。

だが、あくまでもそれは『教官達の直接的な物言いを諫めているだけ』であり、『否定しているわけじゃねぇ』。

それに気が付いていれば、絶対に被害者面なんてできないはずだ。少なくとも、この家の奴らにとってのこいつは加害者じゃないか。

そんなことは、傭兵でしかない俺達でさえ判ることだというのに。

こいつは教官達に言いたい放題言われた途端、こう言いやがった。

『何故……ブレイカーズ男爵家は貴方達を味方にできたのですか?』

思い詰めた表情で、けれど、どこか自分にもその恩恵が与えられることを期待するかのような声音で。

自分で『私の選択が家の今後を決めるのですから』なんて言っておきながら、『どうでもいいこと』を口にしやがった!

教官達はあからさまに表情を変えなかったが、カルドとロイは顔を引き攣らせていたな。

当事者であるあいつは俯いていたのか、精神的な余裕がないのか、気付いていないようだったが、あの騎士の旦那も目を据わらせたはずだ。一瞬だが、殺気を滲ませやがったし。

俺だって、呆れていた。少なくとも、それは今、口にすべきことではない。

おいおい……てめぇは何のために、のこのこここまで来やがったんだ?

まさかとは思うが、本気で教官達に泣きつこうと思ってねぇだろうな!?

確かに、後妻はあの公爵や教官達を味方に付けたように見えるだろう。だが、それは間違いだ。

あの連中は『後妻の働きに興味を抱き、絶賛した』。その結果、互いに利用できる相手だと確信しただけだろう。

俺達傭兵だって、仕事に見合うだけの報酬を欲するじゃねぇか。それを踏まえれば、この状況が単なる『後妻への協力』なんてものに見えるはずもない。

ファクル公爵は『シュアンゼ殿下の手腕を見てみたかった』。

シュアンゼ殿下は『功績が欲しかった』。

教官達は『シュアンゼ殿下と一緒に遊びたかった』。

そして、後妻は……『己が望みを叶えたかった』。

何のことはない、互いの思惑が上手く噛み合っただけである。

まあ、後妻の望みは『あのお坊ちゃんが家を継ぐまでこの家を守ること』らしいから、この中では善人と言えなくもねぇ。自分が泥を被る前提の献身だからな、間違いなく。

しかし、あの公爵や教官達は別物だ。あいつらは高位貴族や王族だけあって、安っぽい同情なんてしねぇ。

寧ろ、安易な同情は悪い結果しか生まないだろう。今回の例で言えば、『何の価値もない男爵家を、王族が特別扱いする』ということになる。

その結果、どうなるか?

特別扱いされた男爵家は僻まれ、探られ、最悪の場合は利用される。

そんな状況になっても、自分達を守る術はない。

その切っ掛けになった者達が『あの一件だけの温情だった』と言っても、他の奴らは納得しないだろう。

教官達も言っていたが、ブレイカーズ男爵家が抱える問題なんざ、『王族・貴族にとってはよくあること』なのだから、誰が見ても『特別扱いに見える』のだ。

そういったことを回避する意味もあり、教官達は今回のことを『自分達が利用した』ということにすると、俺は思っている。

あくまでも都合よく利用したのは自分達だと、そう他者に示すだろう。

……まあ、それも間違っちゃいねぇ。

実際、ファクル公爵からの課題がこの件に関わった発端だ。それに、あの甘ったれたお坊ちゃんにも味方になるような家が必要だろう。

そういった意味でも、目の前の男は実に都合が良い存在だった。

何せ、正真正銘お坊ちゃんの従兄弟だし、互いに利となる交渉ができるじゃねぇか。

そんなことを思いながら、俺はちらりと目の前の男に視線を向ける。

教官達があれだけ言ってるのに、こいつには交渉しようという気概すらないようだ。

まあ、そうするだけの気力が尽きているのかもしれないが。素人同然の奴に、教官達の相手はきつかろう。

「おい、いつまで悲劇の主人公気取りでいやがる」

「……え?」

いきなり声を掛けた俺に、男は驚きの表情でこちらを見た。

……ああ、そうか。そういや、城の護衛連中は問い掛けられない限り、会話に交ざることなんてなかったな。

今の俺達はシュアンゼ殿下の護衛に見えるだろうし、まさか言葉を掛けられるなんて思っていなかったに違いない。

「お前は『この家にとって加害者』だ。そして、父親はそれ以上に救いようがねぇ。けどな、お前が自分の家を立て直したいって思っているなら、この二人と交渉すればいいじゃねぇか」

「交渉……? しかし、私にはそんなことを言う権利は……」

「権利がある・なしじゃねぇ。この二人の目的が『ブレイカーズ男爵家の立て直し』だと判っているなら、自分を売り込めばいいんだよ! てめぇはそれが可能な立ち位置に居るだろうが。足掻け!」

俺の言葉に、奴はぽかんとした表情になった。まさか、相手の護衛からそんなことを言われるなんて思っていなかったんだろう。

「あら、同情でもしたの? イクス。わざわざ教えてあげるなんて、随分と面倒見がいいじゃない」

「けっ、そんなんじゃねぇよ」

面白そうな表情で茶化す教官に、否定の言葉を。同時に、多大なる呆れを含んだ眼差しを向けた。

「アンタ達が遊ぶのは勝手だが、悲劇の主人公気取りのこいつがうぜぇ。俺達はそれに延々と付き合わされてるんだぞ!?」

「あ~……確かに、そうかも」

「すまないね。退屈だったろう」

教官どころか、シュアンゼ殿下も謝罪してきやがった。おい、『遊んでいたこと』に対する否定の言葉はなしか。なしなのか!?

だが、俺達の遣り取りは良い切っ掛けになったらしい。

「私に……交渉する余地は残されていますか?」

真剣な表情で問い掛けて来た男に対し、教官達は顔を見合わせ。

「貴方があると思えば、あるんじゃない?」

「私達は身分差よりも、互いに利のある話の方が価値があると思っているからね」

楽しそうに返しやがった。途端に、男に僅かながら覇気が戻る。

やれやれ、これで話が進みそうだ。こいつもあの甘ったれたお坊ちゃんと同様、足を進めるのに時間がかかる性格らしい。

ただ、世間的には、こいつらみたいなのが普通の貴族なんだろうとは思う。

……。

シュアンゼ殿下や、ほぼ悩まずに最善を選び取る教官が、おかしいだけなんだろうな……。