軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

救いか、地獄か 其の六

「大丈夫かい? ……まあ、家の今後が心配ならば、無理にでも話し合いに参加してもらわなければならないんだけど」

今にも倒れそうな『彼』を案じる言葉をかけつつ、『気絶したりするのはなしねっ!』とばかりに畳み掛けるシュアンゼ殿下。

対する『彼』もそのことだけは事実と判っているのか、辛うじて持ち堪えている模様。

そんな『彼』の姿に、私は内心、大笑い!

ざ・ま・あ!

格の違いを、しっかりと理解するがいい……!

いや、だってさぁ……『彼』もモーリス君にとっては親族の一人じゃん?

『彼』は父親が企てた襲撃こそ、自分の家のために利用しようとした。だけど、『それ以前のこと』があるわけだ。

……こいつはブレイカーズ男爵家の乗っ取りに対し、反対していたわけじゃない。少なくとも、モーリス君達に父親の企みを教えることはなかった。

つまり、『ブレイカーズ男爵家の乗っ取りに文句はなかった』ってことですね!

今、行動したのは偏に、自分の方がヤバくなったから。

『家を案じる、真っ当な次期当主』という点では同情できるのかもしれないが、モーリス君達に関しては、父親と同類だからね?

そりゃ、灰色猫なシュアンゼ殿下も『遠慮も、配慮も、要らねえな!』という発想になるってものですよ。

寧ろ、しっかりと脅しておく必要があるとすら思っているだろう。信頼できる要素は皆無です。

まあ、こちらの手駒になっておいて裏切った場合、地獄を見ていただきますが。

その際には、貴様の周囲も道連れだ。覚悟しておけ。

「は……はい。ええ、そうですね。私の選択が家の今後を決めるのですから」

さすがにそれだけは理解できているのか、意外にも『彼』はしっかりと頷き返す。

……が。

そこを突くのが私であ~る!

「覚悟を決めたかのように見えるけど、それ、当たり前だから。って言うか、貴方がモーリス君達に『何もしなかった』という事実は変わらないからね?」

「え……?」

「ブレイカーズ男爵家にとっては、父親と同類ってこと。私達はその前提で言葉を選ぶし、行動するから、厳しい目で見られるのは当たり前」

『彼』は首を傾げるも、続いた私の言葉に黙り込む。

そうそう、都合よく忘れるんじゃありませんよ? この話し合いとて、『私達がブレイカーズ男爵家を立て直すために必要と判断したから』であって、間違っても同情したわけじゃない。

「最初に言っておくけど、この話し合いだって、『ブレイカーズ男爵家を立て直すために利用できそうな親族が居るから、とりあえず声を掛けてみただけ』だよ」

「当然だよね。まあ、居なくても何とかなるし」

「新米当主となるモーリス殿が孤立しないよう、近しい親族を残しておいた方がいい……という程度ですからね」

「……っ」

私に続くシュアンゼ殿下とヴァイスの言葉に、『彼』は漸く、自分がモーリス君の付属品のような扱いで助けられたと理解したらしい。

というか、私達の言葉を総合すると嫌でも『お前の家はブレイカーズ男爵家の付属品として救済あり』と理解できる。

だって、私達はこいつの家に何の義理もないじゃん?

他人事なのです。どんな貴族だって、自分の家が没落しないために奔走するのは当たり前。

よっぽどの理由がない限り、救済措置なんて取られませんよ。自分の家のことは自分達でやる。これ、常識。

勿論、『彼』とてそんなことは判っているだろう。だが、今回はそれだけで済まされない。

しっかりと『ブレイカーズ男爵家を立て直すために残される』ということを理解してもらう必要があるのだ。

「当然でしょ? 父親の企みを止めなかったことに加え、これまでのことだって評価対象になるもの。私達に信頼されたり、重要視されたりするはずないじゃない!」

「それはっ!」

からからと笑いながら突き付けてやると、『彼』は勢いよく顔を上げる。

しかし、私は『彼』の言い訳を許してやるほど優しくはないわけで。

「事実じゃない。……そうね、自分で何とか出来るならば、頼りになりそうなお友達にでも頼れば良いんじゃない? でもね、これまでのことを知っていたら……それに加えて、貴方の家がやらかした『不敬罪』について知ってしまったら。まず、関わらないでしょうね」

ガニアの貴族達は今、其々が今後のことを考えて、探り合っている状態だ。

そこに特大の不安要素――シュアンゼ殿下&他国の高位貴族への襲撃――を持った『お友達』なんてものが現れれば、縁切り一択だろう。

どんな馬鹿でも、味方はすまい。

自国の王族と隣国の公爵家、そして+αから目を付けられるじゃないか。

「何故……ブレイカーズ男爵家は貴方達を味方にできたのですか?」

「そりゃ、後妻さんの頑張りでしょ」

「え?」

即答すると、『彼』は理解できなさそうな表情で聞き返してきた。

うん、まあ、後妻さんの行動だけを見ればそういう反応になるかもね? だけど、その行動の裏まで読めなければ、王族や高位貴族なんてやってられんのだわ。

「女性としては蔑まれる行為でしょうね。だけど、そんなことは後妻さんだって判ってる。それを甘受しても、ブレイカーズ男爵家を守りたかった。だから、自分の持てる全てを使って『強者』になった」

「あの、申し訳ないのですが……言っている意味がよく判らなく……」

「人が最も油断するのは、ベッドの中なんですって。しかも、相手は見下している女性。……お口も軽くなりそうよね? 誘導だって、高級娼婦として培った話術があれば、十分に可能でしょう」

「な!?」

驚く『彼』に対し、三人組からは『教えてもいいのか?』と言わんばかりの視線が投げかけられる。

だが、これは『彼』に対する踏み絵であり、私は伝えても問題ないと確信していた。

後妻さんの手をばらすのは、『彼』がもうブレイカーズ男爵家を裏切れないからである。

何せ、私達はとても丁寧に『不敬罪に問えるけど、ブレイカーズ男爵家のために残そうかと思っている』と告げたじゃないか。

裏切ったら、正当な理由をもって始末すればいいだけですよ。

元から、王族と隣国の公爵家への不敬があるんだから。

『彼』が物凄く物分かりが悪いとか、この期に及んで野心を見せるならば、『しっかりと状況を理解させる』(意訳)だけであ~る!

そんな様子が見られなくても、迂闊な発言があったらアウト。更に心をガリガリと抉り、理解してもらおうじゃないか。

「後妻さんの悪評はあれど、彼女を害した者は居ない。それは何故か? ……手が出せなかったのよ。それに、彼女の遣り方に気付いた人は興味を持つし、事実、私達は大絶賛した。圧倒的に弱い立場ながら、彼女は強者に成り上がってみせたのだから」

「私達の言葉に疑問を持つならば、君も足掻いてみればいい。君が見下す彼女にだってできたのだから。まあ、王族と言っても、私は未だ、立場が弱い。ヴァイスだって騎士であり、四男だ。……何とかなるかもね?」

私に合わせてシュアンゼ殿下が『彼』を煽る。……しかし、口で言うほど簡単ではないと判っているのか、『彼』は力なく首を横に振った。

貴族社会を多少なりとも理解しているならば、その反応が普通だろう。格上の貴族に喧嘩を売るだけでも、下位貴族にとっては没落の危機である。

物凄く力のある商会を持っているとか、王族や高位貴族の庇護を受けているならばまだしも、『彼』の家にそれがないことは調査済み。

シュアンゼ殿下はそれを知っていて、煽ったわけですね!

性格が悪い……いやいや、逞しく成長しているようで何よりです。

「私達を何とかしても、次が来るかもしれないわよ? 何を今更」

「まあ、君が我々にとって従順な手駒になるならば、口添えをしなくもない」

さあ、どんなお返事をする? 個人的にはどっちでもいいよ?