軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

救いか、地獄か 其の四

――クローゼット内部にて(シュアンゼ視点)

――時は暫し、遡る。

「さあ、始まるね。『彼』はどんな人かな」

誘われて来た『彼』の姿を確認し、私は心を躍らせた。

私達がこのクローゼットに隠れると決めてから、ここには小さな明かり、そして部屋の状況が映し出される魔道具――音声付き――も用意されている。

勿論、クローゼットの内部の音は外に漏れたりしないようになっているので、魔道具を介して伝わる声や、私達の会話などが外に聞こえることはない。

なお、これらの魔道具は『何故か』ミヅキが全て持っていた。

サロヴァーラでは一体、何をしていたのだろう……?

疑問に思ったのは三人組も同じだったらしく、勇気あるカルドがミヅキに問いかけ、華麗にスルーされていた。

その時のミヅキが素晴らしい笑顔だったこともあり、カルドは口を噤んだのだ。実に、賢明な判断である。

「襲撃者達の話を聞く限り、愚かな父親を追い落そうと画策していたようですが……」

「そうだね、その話を信じるならば……『彼』は父親よりも冷静にガニアの情勢を見ることができるのだろう」

ラフィークにそう返すも、私の中ではそれほど評価が上がっていない。

だって、『彼』の計画では、その父親が愚かな行為をすることが前提となっているじゃないか。

「だけどね、逆に言ってしまえば『信頼できない』」

「それは……」

「ラフィークとて、そう思っているのだろう?」

確信をもって問いかけると、ラフィークは暫し、考えるような表情になり。

「……はい、主様。仰る通りです」

想像通りの答えを紡いだ。

「全く無関係の者達からすれば、あの方は評価できるのでしょう。しかし、その計画に巻き込まれる者からすれば、『利用される』ということなのです。……あの方の遣り方が常に『誰かを犠牲にして、何かを成す』というものであるならば、多くの敵を作る未来しかないでしょう」

「だろうねぇ。私もそう思うよ」

頷き、ラフィークに同意する。私も全面的にラフィークに同意というか、思っていたこと全てをラフィークが口にしてくれたのだから。

誰かを利用する……なんてことは、強者だからこそできることだ。規模はともかく、間違いなく反感を抱かれる。

もし、ファクル公爵あたりが同じことを企んだとしても、犠牲者は『仕方がない』と諦めるしかないだろう。

……まあ、ファクル公爵ならば犠牲者など作らず、己の力のみで遣り遂げるだろうけど。

対して、『彼』の立場は子爵令息。『当主ですらない若造』なのである。

これを他家、それも当主あたりに仕掛けた場合、格下の男爵家だろうとも、遣り返してくる可能性が高い。

それに加え、第三者には『明日は我が身(=いつ犠牲にされるか判らない)』と思われても仕方ないじゃないか。

『彼』の遣り方は、今後のガニアでは非常に危うい。

安易に敵を作るだけでなく、自分の家だけで問題を解決する力がないと言っているようなもの。

ゆえに、手を組む価値を見出せないばかりか、危険視されかねないのだ。そういったことに思い至らない以上、『彼』はモーリスと大差ない。

……こんな風に思うのは、身近に『彼』の上位互換とも言える存在が居るからだった。

「お嬢様も人を動かし、ご自分の計画通りに事を進めますが……何と言うか、それは計画の一部にしか過ぎません。ですから、利用された者達は反発ではなく、恐怖を抱くのだと思います」

「そうだね、ミヅキはそういった遣り方をする。寧ろ、その反発さえも彼女の計画の内だろう。だから……『怖い』。最終的な決着が行なわれた時、『どこからが彼女の計画か判らないから』ね」

先読みして策を練っているならば、とんでもない先見の持ち主だ。最初から最後まで、当事者達がミヅキの掌の上で踊っているように思えても仕方がない。

……が。

どうやら、ミヅキの場合は不屈の根性と無限に策を思いつく頭脳、そして彼女自身の闘争本能が多大に影響しているらしく、イルフェナの者達でさえ、『どうしてそうなるのか判らない、謎の思考回路で決着に導く』と思っているらしかった。

つまり、これまでの敗者達は黒猫の本能(意訳)に敗北したわけだ。

もしくは、野生の勘。確かに、『敵になるな、危険』という言葉は正しい。

「誰かを犠牲にするなら、その行動にすら文句を言われないようにしなければね」

迂闊に手を出したら、どうなるか判らない。それくらいの危機感を抱かせるようでなければ、最悪の場合、潰しに来る輩が出る。

これは私にも当て嵌まるだろう。王族という『身分』だけに縋って結果を出せば、『やはり、あの王弟夫妻の子』と思われ、再び国王派が排除に動くに違いない。

私にテゼルトを追い落とす野心などなくとも、そう見えてしまう。下手をしたら、権力を得た途端に横暴になった……なんて言われるかもしれないじゃないか。

だからこそ、自分自身の努力と協力者達の助力をもって功績を成す。

私自身が力を付けねば、ファクル公爵のようにはなれないのだから。

「それにしても……」

視線はずっと魔道具の映像に向けていた。音声とて、最初から聞いている。

だからこそ……『彼』には少々、呆れてしまう。

「自分語りをして、家の状況を話してくれるのは良いんだけど。それ、今言うべきことかな?」

確か、『彼』は後がない状況を察し、家ごとの破滅を回避するために、ここに来る羽目になったはず。

「情報収集という意味では、当事者のお話を聞けるのは良いことでしょうが……何故、同情してもらうことを期待するのでしょうね?」

ラフィークが映像の中に居る『彼』に向ける目は厳しい。まあ、それも当然だろう……私達には『そんなこと』なんて関係がないのだから。

私達からすれば件の襲撃とて、『モーリスの親族が攻撃を仕掛けてきた』というだけである。

「ここですべきことは、ミヅキ達への交渉なんだよね。敵の敵は友……というわけじゃないけれど、私達はモーリスの味方だと思われているんだ。ならば、モーリスの親族であることを利点として、家を存続させる価値をアピールすべきじゃないのかな」

寧ろ、それしか『彼』の家が助かる術がない。この国の王族である私と、サロヴァーラの公爵家の人間であるヴァイスが居る以上、無罪放免は不可能だ。

「もしや、お嬢様達に同情してもらいたかったのでしょうか? お二人を高位貴族と思われているならば、そのように甘い考えはないと思うのですが」

「判らないよ、ラフィーク? だって、『彼』は未だ当主じゃないんだ。自分一人で交渉を行なったりする機会だって、あるかどうか」

「……」

流石にラフィークも黙ってしまう。しかし、当主ならばともかく、『彼』はあくまでも次期当主。

書類仕事ならばやっているだろうが、家の命運をかけるような交渉なんて、したことないだろう。

私達の間に、微妙な空気が漂う。もしや、『彼』も血の繋がりがあるだけあって、モーリスと似たような甘い考えの持ち主なのだろうか。

……そんなことを考えていると、ミヅキが『彼』の甘い考えをばっさりと切り捨てていた。

当たり前かな、『彼』の家の事情なんて、私達には関係がないのだから。

そのついでとばかりに、ミヅキがヴァイスの身分を明かしていく。他国、それも公爵家の人間が襲撃に巻き込まれたと聞き、『彼』は顔面蒼白だ。

「ヴァイスの立場が一番マシなんだけどねぇ」

その次に私、一番拙いのは勿論、ミヅキである。

「主様も王族ですが、お嬢様には過保護な保護者様の他に、仲の宜しいお友達が沢山おりますからね」

イルフェナの魔王殿下ことエルシュオン殿下と彼の騎士達だけでも十分怖いのに、ミヅキと仲が良い者達は王族や高位貴族に集中している。

下位貴族でしかない『彼』の家なんて、彼らからの抗議だけでも十分に没落理由になるだろう。

そもそも、当のミヅキが一番怖い。

許してもらいたかったら、ブレイカーズ男爵家の件で良き協力者(という名の忠実な手駒)となり、きっちり働いて、存在価値を認めさせるしかないだろう。

「まさか、こんな展開になるとは……」

「……。お嬢様は本当に凄い方ですね」

ラフィーク共々、乾いた笑いが零れる。いやいや、本当にどうなっているんだろう?

ミヅキを誘ったのは純粋に『楽しいことになりそうだから』という気持ちからだったのに、蓋を開ければ、最良の決着のための布石と人員が確保されている。

仲良しで良かった。本当に、良かった!

うっかり敵になっていたら、冗談抜きにガニア滅亡の危機だ。王弟のやらかしがあまりにも拙過ぎる。

そんな未来を回避できたのは偏に、過保護な親猫様の提案があったからこそ。

彼は本当に優しい親猫だ。悪戯(というには悪質だが……)盛りの黒猫の面倒を見るだけでなく、周りの人間すら気に掛けてくれるなんて。

「主様、そろそろ出番のようですよ」

「ん?……あ、ああ。へぇ……このタイミングで呼ぶんだ?」

ヴァイスのことで精神的に大ダメージを負っているだろうに、そこに追い打ちの如く私を呼ぶとはね。

これは先ほどの予想――忠実な手駒の確保――が現実味を帯びてきたようだ。『彼』には気の毒だが、父親を止めなかったことも事実である。諦めてもらおう。

「さて、じゃあ会話に加わらせてもらおうか」

私も手加減する気はないよ? 何せ、『これまで表舞台に立てず、全く功績がない、名前ばかりの王族』だからね?

なに、大したことはできないさ。