軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

救いか、地獄か 其の一

――ブレイカーズ男爵家にて

「モーリス君、モーリス君。これからちょっと『話し合い』をするために『お客様』が来るけど、私が呼ぶまでこの部屋には誰も来ないようにしてくれる?」

「客……ですか? だったら、お茶くらいは用意しますけど」

「ううん! 相手の対応次第で『客じゃなくなるかもしれない』から、最初は要らないよ」

「え゛」

「相手次第ってこと♡ あ、誰にも会わないようにしてくれるといいかも」

「そ、そうですか。判りました。皆にも伝えておきます」

顔を引き攣らせながらも、深く聞いてこないモーリス君は良い子である。

ここで突っ込んでくるようならば、『駄・目・だ・ぞ♡』(意訳)と教えなければならないが、そこらへんの線引きはできている模様。

『必要ない情報』とこちらが判断した以上、口を出すのは悪手である。

相手を不快にさせ、お馬鹿認定される可能性・大。

だって、『聞かない(知らない)方が良い情報』(意訳)の場合もあるからさ?

最悪の場合、『知ってしまった以上、問答無用に関係者認定』という可能性もあるだろう。

『聞かない(知らない)』は、最強の回避方法の一つなのであ~る。

今回、モーリス君は関係者だが、全く関係のない案件と予想される場合は『聞かない』一択!

現在のモーリス君では、ブレイカーズ男爵家の皆様を巻き込むことにしかなるまい……しかも悪い方向に。

『好奇心、猫を殺す』とはよく言ったもの。

その状況を利用できる時以外は、知らんぷりで回避推奨です。

私の場合、当事者にならないと報復やお仕事ができないため、意図して巻き込まれていったりするが……そもそも、親しい相手以外は良い顔をされまい。

聞かせたくない場合は『マナー違反』や『貴方には関係ない』といった言葉で濁されるが、不快に思われた場合は言葉での喧嘩になったりするからね。

ちなみに、この『喧嘩になる』や『不快感を露わにする』といった行動は、半分くらい罠である。

……相手の注意や興味を逸らすことに使うんだよ。怒らせたと思われたら、よっぽどの馬鹿でない限り、『謝罪して退場!(=逃亡)』という行動を取るもの。

王族・貴族は感情を露わにしない・悟らせないのが基本です。

どう考えても、『おかしい行動』なのだよ。

稀にとんでもなく空気を読まない奴も居るけど、間違いなく目を付けられるか、自身の評価を下げることになるだろう。

弱小貴族と言ってもいいモーリス君は、できる限り避けたい事態です。目立つ行動、絶対に駄目。

……そんなこともあり、秘かに心配をしていたわけですが。

家令さんの教育の賜なのか、元々の性格――割と真面目で、人を気遣いそう――なのかは判らないけど、きちんと身に付いている模様。良かった、良かった。

「まあ、こちらの『お話し』が済んだら、モーリス君達にも聞いてもらうことになるんだけどねぇ」

去り行く背中にぽつりと呟く。当然、モーリス君には聞こえていまい。

だが、それでいい。『彼』の出方次第で、今後の対応が変わってくるのだから、『今は』モーリス君達に言えることはない。

「そろそろかな。……お互い、納得できる状況にしたいわね」

さあ、話し合いを始めましょうか。……もっとも、どんな選択をしようとも、『彼』に拒否権なんてないけどね?

※※※※※※※※

――ブレイカーズ男爵家・間借りしている一室にて

「え……」

襲撃者に連れて来られた『彼』はそれまでの訝しげな表情を崩し、呆けたような顔になった。

まあ、それも仕方ない。ブレイカーズ男爵家に連れて来られたのに、この家の人々には全く出会わないのだから、不審に思って当然だ。

普通、貴族の家を訪ねる場合は先触れが必須。しかも、部外者が家の中を歩いていれば……まあ、普通は声を掛けるか警戒するだろう。

もっとも、ブレイカーズ男爵家の人達は『彼』を知っているだろうから、それほど不審に思わないかもしれない。

……。

いや、寧ろ、警戒するか。何せ、この家を狙っている『優しい親族(笑)』の筆頭は『彼』の父親なのだから。

まあ、ともかく。

こちらから招待(意訳)した以上、『彼』は父親の所業がバレていたと思ったはずなのだ。

それなのに、導かれて訪れた館では人に出会わない。しかも、指定された部屋に来てみれば、見ず知らずの男女+その護衛らしき三人組が待ち構えている。

意味が判らなくて、当然です。

君、私達の顔なんて知らないだろうしね。

なお、対面した男女=私とヴァイス、背後の三人組はイクス達だ。

『彼』は自分よりも上位の存在に喧嘩を売ったと思っているので、見た目からして高位貴族のヴァイスを、シュアンゼ殿下の代理に仕立ててみた。

うん、まあ、ヴァイスも公爵家の人間なんだけど、本人も言っているように、騎士として扱って欲しいらしいし? 自国の王族よりは話しやすいでしょ?

……シュアンゼ殿下とラフィークさん? 勿論、居るよ? この部屋に。

というか、シュアンゼ殿下が『自分もこの場に居たい!(=ミヅキ達ばかり、狡い!)』とほざいたため、ラフィークさんとクローゼットの中に居る。

……。

何やってんだよ、と思われること請け合いです。

超楽しそうなんですが、この灰色猫。

クローゼットと言ってもかなり大きいので、中に何も入っていない状態ならば、人が隠れることなんて楽勝だ。

男性の衣服はともかく、女性のドレスって嵩張りますからね~。当然、それなりに奥行きもある大きいものになるのだよ。

余談だが、『登場する時は、魔法で何か演出してあげようか?』と言ってみたら、満面の笑みで『是非!』と返って来やがった。

基本的に『主様が楽しそうで何よりです』なラフィークさんからの視線を受け、『お、おう……乗り気か……!』と思いつつも頷いておきました。

そうか、そうか。折角だから、魔法で紙吹雪の幻影でも出してやろう。

気分はすっかり、脱出系マジックの登場シーンの演出係さ。

こ れ 魔 王 様 に も 提 出 す る 記 録 な ん だ け ど ね ?

「初めまして。貴方が襲撃者の雇い主――」

「違います!」

速攻で否定の言葉を叫ぶ『彼』。うんうん、必死だね。その気持ちも判るけど、少しは落ち着こうね?

「大丈夫。仕掛けてきたのは貴方の父親だって、こちらも判ってるから」

「そ、そうですか。良かっ」

「まあ、処罰は家単位になるだろうし、意味ないけどね」

「う゛」

安堵しかけた『彼』は私の言葉に再度、顔を引き攣らせた。

はは、お貴族様のくせに何を言ってやがる。高位貴族に仕掛けたと思っているなら、個人の処罰で済むはずなかろう。

『彼』とて、それほど甘い考えはしていないのだろうが、部屋に入って目についたのが私とヴァイスの二人。

年齢的にも当主に見えない――ヴァイスは騎士、私は令嬢? くらいの認識だろう――ため、少しだけ安堵したんだろうな。

なお、当主だった場合、下手をすると一族郎党が敵に……という事態になる時もある。高位貴族の当主が一族の長、という場合があるから。

結束が固い一族だった場合、冗談抜きに拙い事態です。歴史ある家ならば、分家だってそれなりにあるだろうからね。

「あらあら、覚悟を決めてきたんじゃないの? 襲撃を依頼したことを知っていた以上、『知らなかった』は通らない。こちらが貴方を一纏めにして考えていても不思議じゃないでしょう?」

「それ、は……」

否定の言葉を紡げない彼に対し、私は更なる追い打ちを。

「謝罪する意思があるのは認める。だけどね……『行動が遅過ぎる』のよ」

「……」

項垂れ、沈黙してしまった『彼』の姿を確認し。

私は……楽し気に笑みを深めた。