軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

妹さんの帰宅 其の五

「……ミヅキ様はどういった立場の方なのでしょうか」

好奇心が勝ったのか、それともこのままでは退けないと思ったのかは判らないが、マリアベル嬢は私との遣り取りの続行を選んできた。

そんな彼女の姿に、私は笑みを浮かべたまま感情を悟らせない。

これは彼女にとって分岐点の一つ。

『会話を終わらせる』ことも選べたのだから。

私と会話を続けることで情報を得ることができるとでも思っているのだろうけど、それは私にも言えること。

事前の情報では『義母を毛嫌いしている』ということと、『家のために特に何かをしているわけではない』という二点だけが、確実なものである。

だから、私達としてもマリアベル嬢との会話は必要だった。彼女が何を考えているか判らなかったから。

そんな状況の私達からすれば、現在のマリアベル嬢はまさに『カモ』である。

勿論、狩るのは私達。都合よく誘導して、欲しい情報を得させてもらいます♪

「シュアンゼ殿下やヴァイスの友人だよ?」

嘘ではありません。私自身の立場なんて、それだけでも十分に証明できる。

これはマジである。魔王様にも『灰色猫やヴァイスと仲良くしてます』(意訳)と自己申告している上、其々が保護者や上司に当たる人達にも告げているから。

『シュアンゼ殿下(王族)とヴァイス(公爵家四男)が私という異世界人の存在を保証している』とも言い換えられるので、マリアベル嬢の立場では疑うことすらできないとも言う。

……不敬罪があるからね?

シュアンゼ殿下はこの国の第二王子なので、彼が『仲の良い友人です』と言い切ってしまえば、それまでだ。

つまり、この場において本当~に適切な自己紹介なわけですよ。

寧ろ、魔導師と言った方が疑いを持たれるだろう。

「それは存じておりますわ! たった今、お聞きしましたもの」

「じゃあ、それが全てなんじゃない?」

「……っ」

多少の苛立ちを滲ませたマリアベル嬢にそう返すと、マリアベル嬢は悔しそうにしながらも押し黙った。

もっと詳しく聞きたいけれど、どう聞いたらいいのか判らない……という感じかな。

私自身がのらりくらりとかわしつつ煽るような言い方をしているので、苛立つのも当然なのだけど。

どうくるかなー? とワクワクしながら待っていると、マリアベル嬢は漸く違う聞き方を思いついたらしい。

「私は民間人が王族や貴族と懇意にしている……という状況が不思議なのです。ミヅキ様は魔法を扱われるようですが、職人や医師には見えませんもの。その……失礼ながら随分と『お若い』ので」

「……」

お い 、 そ こ か よ … … !

微笑んだまま硬直すること暫し。ちらりと視線を横に向けると、予想通り、シュアンゼ殿下が笑いを堪えている模様。

なるほど、なるほど、マリアベル嬢は『自分と大して年が変わらないように見えるのに、年上二人と仲良しってどういうことだ!?』とも思ったわけですか。

そっかー、身分云々ということも気になるけれど、見た目の年齢的にも釣り合わないと言いたいわけですかー。

……。

大 き な お 世 話 だ 。

悪 か っ た な 、 童 顔 で !

……そういや、日本人って海外の人達からするとかなり若く見られる人種なんだっけ。だから、商人や職人、医師といった職業に就いているとは思えなかったと。

しかも、シュアンゼ殿下は王子様なので、新人魔術師が仲良くなる機会なんてものもないだろう。王城にはもっと経験豊富で優れた魔術師が勤めているだろうし。

そうなると、高位貴族の学友くらいしか接点になるようなものがない。ヴァイスを高位貴族と認識しているのもそれが原因だろうか。

う、う~ん……これはマリアベル嬢の困惑も当然か……? 確かに、民間人として考えた場合、私の立場は想像がつかないかも。

「……ふふっ……勘違いしているようだけど、ミヅキは私達とそう歳が変わらないよ?」

「え!?」

「若く見られるからねぇ、ミヅキ。……くくっ」

「シュアンゼ殿下、煩い」

「事実じゃないか」

「黙らっしゃい!」

ピシッ! と掌で突っ込むも、シュアンゼ殿下は肩を震わせている。……まだ笑っているようだ。どうしてくれよう、この灰色猫。

ただ、そんな私達の気安い遣り取り――と言って良いか判らないが、くだらないじゃれ合い――は、マリアベル嬢を納得させる要因になったらしい。

「ほ……本当に仲が宜しいのね」

呆気に取られながら呟くマリアベル嬢。マリアベル嬢ほどではないけれど、モーリス君達も少し驚いたように私達の遣り取りを眺めている。

「ああ、私達が仲が良いのは事実だよ」

「うん、それは本当」

二人揃って肯定すれば、さすがにマリアベル嬢も納得できたらしい。ヴァイスがどことなく柔らかい表情で見守っていたこともまた、彼女を納得させたのだろう。

……この様子だと、彼女は私のことを『仲が良い魔術師(新人)』とか『元々面識がある側近の関係者』とでも思っていたのかもしれない。

今回の同行とて、目立たないよう、そこそこ使える奴をシュアンゼ殿下の護衛に付けた的な位置付けだったかも?

だから余計に、私が『民間人です』と言い出したことが信じられなかったのかもしれないね。王族と知り合う機会なんて、普通はないもの。

さて、いつまでも馬鹿な話はしていられない。次いこ、次!

「さっき私が言ったのは『職業』という括りでしょ?」

「え? ええ、そうですね」

「だから、見落としがある。職業という括りならば、シュアンゼ殿下の立場上、熟練の魔術師……もっと年上の人と接することになるでしょう。だけど、それ以外にも親しくなる機会を持つことはできる」

そこで一度言葉を切り、私はマリアベル嬢があまり聞きたくないだろうことを述べた。

「個人として功績を持つ場合は繋がりを求められることが多い。私からではなく、向こうからのアプローチで。何らかの能力を認められた場合や、結果を出した場合が該当するだろうね。私の場合はこれに当たる」

……私達の場合、王弟一派が仕掛けてきたことが、シュアンゼ殿下と親しくなった切っ掛けだがな。

ええ、不安定な転移でシュアンゼ殿下の上に落下し、抱き留めてもらいましたよ。その後、うっかり足を治したら捕獲されたけど!

「功績……」

「もっと言うなら、『個人として価値がある』ってこと。貴族同士であっても、身分差がある婚姻もある。それは何らかの旨みがある政略結婚ということも多いけど、『優秀な者を取り込む』という目的の場合もある」

「……」

何となく言われることを察したのか、マリアベル嬢の顔が強張った。

でも止めない。さあ、君が一番言われたくないことを突き付けてあげようじゃないか♪

「貴女も同じ。家がこんな状況だもの、自分自身の価値を高めて、家の利となる婚姻を目指せばいい。これには貴女が嫌っている後妻さんは関係ないでしょ。貴女自身の価値が問われるのだから」

「……っ」

マリアベル嬢は……自分の婚姻を兄頼みに考えていた。まあ、普通の貴族の家はそんなものだろう。

当主が決め、令嬢はそれに従う。反発はあるかもしれないけれど、貴族として生まれ育ってきた以上、家に尽くす義務がある。自由恋愛による婚姻なんて稀だろう。

全てを捨てて恋を選ぶ……なんて人も居るかもしれないが、その場合、その後の生活は自分自身に掛かってくる。

貴族として生きてきた者が、いきなりその生活を捨てて生きていけるわけがない。よっぽどお花畑な思考をしていない限り、大人しく政略結婚するだろう。

「貴女にはいる? 貴女自身を評価してくれる人が」

「……」

「貴女自身の能力や功績を認め、一族に加えたいと望む家がある?」

「……っ」

「今は詳しく言わないけれど、貴女が嫌っている後妻さんはこの家において最大の功労者だよ。だから、それを認めた人が私達へと話を持ってきた」

「そ……そんなこと……」

「貴女が認めないのは勝手だけど、私は事実しか言っていない。今、私達がここに居ることがその証明だね」

マリアベル嬢からの反論はない。というか、反論が思いつかないのだ。

ブレイカーズ家は所詮、男爵家。特に重要な役割を持っていることもなければ、特別裕福というわけでもない。しかも現在は当主不在の、吹けば飛ぶような下っ端貴族。

マリアベル嬢だって疑問に思ったはずだろう……『何故、ファクル公爵が動いてくれたのか?』って。

その答えを私は示したのだ。そして今、私は彼女に『貴女には何らかの価値があるか?』と問うている。

「皆が必死になって、家を守ろうとしている。ねぇ、貴女は……『何をしてきた』の?」

さあ、答えてもらうよ、マリアベル嬢? それが私との会話を続けた『代償』であり、後妻さんを批難してきた貴女が示さなければならないものなのだから。