軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

妹さんの帰宅 其の四

「え!? あ、貴女は貴族ではないのですか!?」

「民間人ですよ」

私の言葉はマリアベル嬢にとって衝撃的だったらしく、暫し、私をガン見していた。

なお、モーリス君達も驚いてはいたようだが、こちらはマリアベル嬢ほどの驚きはない模様。

理由は簡単、『シュアンゼ殿下がこれまでほぼ表に出られなかった状態であること』――足が悪いことは本人が暴露済み――と、『私が魔術師と名乗っているから』だ。

あれですよ、シュアンゼ殿下の足の治療で知り合い、お友達になった……と思えるの。

王城勤めの魔術師や王家が出資している研究所あたりに勤務している魔術師という発想になるのは当然のことながら、個人で研究を続けていた魔術師という可能性もあるじゃない?

モーリス君達はそういったことに思い至っているので、それほど驚かなかったのだろう。マリアベル嬢はお子様なので、『民間人』という単語のみに反応したと思われた。

……シュアンゼ殿下自身、私のことを友人と紹介し、『心配して付いて来てくれた』的な言い方をしたからね。

ヒントは与えられていたわけですよ。私の言動も貴族階級の女性とは思えないだろうし、様々な要素から推測することはできたわけですな。

なお、こういったこともモーリス君達の評価対象になっている。

お貴族様は直球ストレートに言わないこともあるし、物凄く暈した言い方をすることも多い。

その言葉を馬鹿正直に受け止めていると馬鹿を見るので、自分である程度の情報収集をしたり、頭を働かせることも重要なのです。

これができないと、今後ちょっと困ることになるので、練習がてら私達の立場を伏せていた。言動から察しろよ、と!

後妻さんあたりならば、私が魔導師と気付く可能性もあるけれど……彼女が難しい立場であることに加え、当の魔導師は王弟夫妻を処刑に追いやった存在。

それを知っていると、実子であるシュアンゼ殿下が仲良くしていることに違和感を覚えるのが普通。普通に考えれば、魔導師は脅威としてしか見られないからね。

当たり前だが、それらはただの思い込み!

だって、シュアンゼ殿下は被害者であると同時に、『共犯者』なのだから。

灰色猫と称されるシュアンゼ殿下の性格を知っていないと、『魔導師と仲良し♪』という状況は有り得ないわけですよ。

灰色猫、大半の貴族達からは未だ『生まれつき足が悪く、両親から見捨てられたことから国王一家に守られ、ひっそりと暮らしてきた無害な王族』だからね?

正直、『誰のことだよ?』としか思わないけど、シュアンゼ殿下の状況『だけ』を見た場合、決して間違いではない。

しかも、見た目が華奢で優しげ、纏う色彩も淡い色……ということも相まって、前述した思い込みを未だにされているらしい。

……。

多分、まだ行動してないからだろうな、それ。

手駒がほぼ居ない状態からのスタートなので、シュアンゼ殿下は現在、足場固めをしているのだろう。

大人しいのではなく、多分、それが原因。というか、それしか思い当たる理由がない。

ファクル公爵からの課題に乗ったのも、それが自分の力や評価に繋がると理解しているからだ。

この王子様は優し気な見た目こそしているが、単なる善意で動いてくれるほど優しくはないのだから。本当に優しいのはテゼルト殿下の方だろう。

そんなことを考えていると、マリアベル嬢は漸く、落ち着いてくれたらしい。私に向けた視線は強いままなので、彼女の興味は薄れていない模様。

「あの……それでは何故、そのようなことを仰いますの?」

「『そのようなこと』って、何? 正確に言ってくれないと、答えようがないよ?」

「……っ」

ちょろっと意地悪い言い方をすれば、マリアベル嬢が悔しげに唇を噛んだ。どうやら、少しだけ私への警戒意識が上がった模様。

そんな彼女の様子に、私はひっそりとほくそ笑む。少なくとも、いきなり見下してくるお馬鹿ではなかったことが喜ばしい。

お貴族様の中には『民間人』と聞いた途端、見下してくるアホもいる。当たり前だが、『この場では』それは悪手以外の何物でもない。

シュアンゼ殿下は私のことを『友人』と言っている。

これまでの様子からも、親しい間柄だと察することができるだろう。

その王子様の前で『仲良しのお友達』(意訳)へと見下し発言なんてすればねぇ……?

下手をするとマリアベル嬢個人どころか、ブレイカーズ男爵家へとお叱りの声が飛びますよ。『お前達の教育はどうなっている!』と!

そもそも、側仕えのラフィークさんが私のシュアンゼ殿下への態度を一切、咎めていない。

このことから『このお友達は王家公認』(※現在のシュアンゼ殿下の両親は国王夫妻である)ということが判るだろう。

ラフィークさんの主はシュアンゼ殿下であろうとも、雇い主は今のところ国王夫妻なのだから。

「先ほどの……『貴族ではなくとも、必要とされることはある』という発言についてですわ」

「そのままの意味だけど」

それだけではそうとしか答えようがない。聞くなら『それはどういった場合に起こり得るのですか?』と付け加えるべきだ。

だって、彼女の聞きたいことは『民間人が貴族に必要とされる状況について』でしょ?

当事者である私に聞く以上、私が誤魔化せない聞き方をするべきだ。聞けば欲しい答えが返ってくる……なんて思い込まれても困るじゃないか。

「し……失礼致しました。私はどういった状況下において、貴族や王族が民間人を必要とするのか……ということを伺いたかったのです」

意地悪い受け答えに、どこか悔しそうにしながらも、懸命に言葉を選んでくるマリアベル嬢。そんな彼女に対し、私は微笑んだ。

「そりゃ、沢山あるでしょ」

「え?」

「国が関わっている研究所に勤める民間人、優れた技能を持つ職人、ああ、マリアベル嬢に馴染みがある例で言うなら、ドレスのデザイナーなんかも該当するかな。……貴族階級に在る人達だけでは、貴族の生活なんて成り立たないでしょう?」

事実である。功績を認められて爵位を貰ったりする場合もあるだろうけど、それまでは民間人なのです。

君達の食べ物だって、民間人の皆さんが頑張ってくれているから口にできるじゃない。酒だって、造っているのは労働力として働いている人達だ。

「それは……確かにそう、ですね」

一瞬、ぽかんとした表情になったマリアベル嬢だが、身近な例を出したことで気が付いたのだろう。意外と素直に頷いている。

他には……男爵家の使用人達のことに思い至ったか。貴族としては下位なので、この男爵家の使用人達は『そこそこ教養のある民間人』という人も交じっているに違いない。

「で、貴女の疑問は解消した?」

マリアベル嬢の尋ねたかったことが言葉のままならば、これで十分答えになったはず。本人も納得したしね?

ここでシュアンゼ殿下が会話に割り込んでくれば、マリアベル嬢も納得せざるを得ない。いくら何でも、王族の言葉を否定することはできないだろうから。

……が。

灰色猫は興味深そうにしているだけで、一向に会話に参加する素振りは見せなかった。と言うか、青い目が楽し気な光を宿している。

なるほど、私に会話をさせてマリアベル嬢を見極める気か。

この程度の理解力では、合格点とは言えないってことですね!

勿論、それに気付いていないのはマリアベル嬢だけだろう。ヴァイスも無言を貫いているので、こちらが尋ねない限り、何らかの動きは見せない気か。

モーリス君達は……こちらの思惑に気付いている分、どこかはらはらとした様子で見守っている。

ただ、先ほどの問い掛けの答えを聞いたマリアベル嬢の素直さには安堵したようだ。いくら家の状況が見えていなくとも、民間人への見下しはないみたいだし。

……まあ、そんなものが見受けられたら、別の意味で会話は強制終了だが。

『選民意識だけはあるお馬鹿』じゃ救いようがないもん! サクッと見捨てて、終了! ですよ。

「……」

マリアベル嬢は暫し、迷っているようだった。ここで引くなら、何の傷も受けないだろう。

ただし、これ以上踏み込むならば、私に突かれる可能性を考えなければならない。

だって、『私はマリアベル嬢にとって、全くの他人』なのだから。

ほぼ無関係の人のことを根掘り葉掘り聞くのならば、拒絶も、反撃も、覚悟しろってことですよ。

いくらヴァイスに興味があっても、マリアベル嬢は私達にとって『他人』。不審がるのが当然です。

それでも、彼と親しい(※シュアンゼ殿下が意図して言葉を選んだ結果。ヴァイスも国に関わることは暈したので、恋人のように誤解させるには十分)私の立ち位置を知りたいのならば、挑んで来るはず。

さあ、ここが分かれ道。無難に済ませるか、より突っ込んでくるか――

「……ミヅキ様はどういった立場の方なのでしょうか」

彼女が選んだのは『会話の続行』。どうやら、好奇心が勝ってしまった模様。

まあ、その気持ちも判らなくはない。私達が用があるのはモーリス君であり、ここに居るのは期間限定。この機を逃せば、次はないのだから。

「ふふ、気になるの」

「ええ。……お二方とは随分と仲が宜しいように見えたもので」

よしよし、会話に応じてあげようじゃないか。まだまだ灰色猫が満足していないしね☆