軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

妹さんの帰宅 其の三

シュアンゼ殿下の言葉に、マリアベル嬢は僅かに表情を変えた。その素直さに、私は内心、大笑い!

ですよねー、気になる紹介の仕方をしたものねー!

勿論、わざとである。ここで個人的な感情のまま話題を展開しなければ、まだこの子に救いはあるだろう。

繰り返すが、現在のブレイカーズ男爵家は没落の危機にある。この家の令嬢ならば、家の役に立つべく良縁の一つや二つ狙ってみるのがベストな対応だ。

第一、シュアンゼ殿下は『君の兄上が当主となれるよう助力している』と言っていたじゃないか。

そこを上手く利用し、自分を売り込んで『縁談をお世話してくれたら嬉しいな♡』と暗に仄めかすくらいはしてもらいたい。

まあ……その『売り込む要素』が全くない場合は話にならないのだけど。

騎士とかを除けば、貴族としての爵位は最下位。その上、家も今後どうなるか判らないという不安定さ。

これだけを聞くと、どう頑張っても優良物件にはならないのよね。少なくとも、政略結婚をする価値はない。

これはモーリス君も同様だけど、彼の場合は当主でもあるので、それなりに期待されれば縁談はあるだろう。

ただし、マリアベル嬢は嫁ぐ側。家の跡取りとか爵位持ちの男性、最低でも職がある人を探さなければ、家のお荷物確定。

そうなると当然、今後を左右するのはマリアベル嬢自身の価値だ。一応、学園に通ってはいるので、出会いが全くないわけではないだろう。

……が。

マリアベル嬢が興味を示したのはヴァイス。このことから、現在の彼女には婚約を考えているような相手がいないと察することができる。

……。

この子、今後はどうするつもりだったんだろ?

割と真面目にそう思います。男であっても、家を継ぐ長男とそのスペアである次男以外は家を出るのが当たり前なので、それなりに自分の将来設計を考えると思うんだけど。

まあ、いいや。とりあえず煽ってみましょうか。

「今回も合流するまではヴァイスと一緒に居たからねぇ」

「相変わらず、仲が良いね。あちらの方達公認だっけ」

「うん、そう」

ヴァイスの正確な素性はまだ伏せておくため、シュアンゼ殿下が『あちらの方達』という曖昧な言い方をする。

サロヴァーラ王家の人達とも受け取れるし、イルフェナの魔王様とも受け取れる言い方なので、嘘は言っていない。

ゆえに、探られても、調べられても、『嘘は吐いていない』となるわけです。相手を引っ掛けるにしても、自己防衛は忘れませんよ!

魔王様達も私にヴァイスが付けられることを察しているため、今回も出がけに『あまり迷惑をかけるんじゃないよ』というお言葉を貰っている。

サロヴァーラにおける私のお守りと認識されているあたり、やはりヴァイスは微妙に不幸の人と思われている模様。

そんなことを考えつつもマリアベル嬢に視線を走らせると、私やヴァイスへの好奇心が抑えきれない様が窺えた。

……いや、一応は隠そうとしていると言うか、冷静であろうとしているのか。

ただ、マリアベル嬢は年齢的にも感情を隠して取り繕う経験が少ないのか、上手く隠せていない。

モーリス君達も当然、このことに気付いている。それでもこちらが『余計なことは言うな』と指示を出していたため、何もできないのが現状だった。

抜き打ち検査モドキになっているけど、これはマリアベル嬢の今後にとって重要なこと。どこぞの家に嫁ぐならば、良く知らない相手に感情を見せるのはNGだ。

そもそも、私の周囲にこんな素直な子(意訳)は殆ど居ないしね。

ある意味、彼女は成人前に気付けて良かったのか。

先に後妻さんの強かさというか、賢い面を見てしまうと、どうにもマリアベル嬢は見劣りする。ぶっちゃけると、未熟さが目に付いてしまう。

多少の駆け引きができるような子ならば、煽り続けて様子見……といきたいところだけど、これは直球で煽ってしまった方がいいかもしれない。

「ねぇ、マリアベル嬢?」

「は、はい? 何でしょう?」

「そんなに私達のことが気になる?」

「え……っ」

直球で尋ねると、顔を赤らめて視線を彷徨わせるマリアベル嬢。惚けることもできず、どう返そうか迷っているようだ。

「ああ、私も悪かったね。ブレイカーズ男爵家にとっては大変な時なのに、自己紹介の場とは言え、世間話をしてしまって」

「い……いいえ、そんなっ」

直球で尋ねることにした私に合わせたのか、シュアンゼ殿下が謝罪する。王子様に謝罪させてしまったことに驚いたのか、益々、余裕がなくなっていくマリアベル嬢。

そんな彼女の姿を微笑ましく眺めつつも、私は『ああ、このままじゃ民間人コースの方が幸せかも?』とか思っていたり。

……民間人なら年相応というか、別に咎められるものじゃないんだよ。生活が困窮していない状況ならば、危機感がなくても普通だし。

未成年ということもあり、特に咎められると言うか、厳しい目で見られることもないだろう。

だが、お貴族様はそうではない。特にブレイカーズ男爵家の事情を知っている人からすれば、危機感がない、で済むはずがない。

後妻さんの行動を批難していたこともまた、そういった評価に拍車をかける。言い方は悪いが、『口だけで、家のために何もしていない』のだから。

さて、そろそろ落ち着いただろうか。私も話に乗ってあげよう。

「そうよね、私達のことなんて貴女に関係ないもの」

微笑んでそう告げる。ええ、事実ですよ。マリアベル嬢と私達の接点なんて、この案件しかないじゃない。

「ああ、でも……貴女もそろそろ婚約とか考えなければならないよね」

「……っ」

「貴族だもの、家のために良縁を結ぶ努力とかしているでしょう?」

悪意なんてありません! と言わんばかりに微笑む私。対して、触れられたくない話題だったのか、マリアベル嬢は唇を噛んで俯いた。

……?

反論、ねぇな? おい、マジで何の努力もしていなかったりする……?

「私の縁談は……お兄様が決めると思います」

「そんな余裕あるように思えないけど?」

「そうだよね……モーリスは家の立て直しと当主としての職務を覚える必要もあるから、数年は忙しいだろうしね」

掘り下げると、シュアンゼ殿下が補足とばかりに付け加えた。これにはモーリス君も俯いてしまうけれど、今は彼のことを気にしている場合ではない。

「言い難いけれど、君の場合は……いや、君達の場合はすでに先代当主であった父親が亡くなっている。お父上の築いた交友関係をそのまま続けていられたら、相談に乗ってもらえたかもしれないけれど、今の状況では無理だろう」

「え? 学園のお友達は『自分の意思など関係なく決められていた』と言っていましたが……」

「それは家同士の利益を優先した政略結婚か、融資を目的とした婚姻か、親同士が友人同士といった場合だろうね。もしくは欲しい人材だった場合だよ。優秀な人材は確保しておきたいからね」

自分も学園の友人達と同じだと思っていたらしいマリアベル嬢は、シュアンゼ殿下の言葉に顔色を変えた。

やはり、彼女も一年前までのモーリス君同様、自分も友人達と同じだと思っていたらしい。

しかも、シュアンゼ殿下が丁寧に解説しちゃったものだから、改めて家の現状と照らし合わせて、理解できてしまったのだろう。……シュアンゼ殿下の言葉は正しい、と!

「我が家には……口に出すことすら汚らわしい後妻が居るのです。ですから、我が家と縁を結んでくださる方は居な――」

「関係ないじゃない」

「え……?」

ズバッと否定すると、嫌悪を滲ませながら後妻さんのせいにしようとしていたマリアベル嬢が呆けたような声を出す。

「関係ないじゃない。だって、後妻でしょ? 血の繋がりなんてないじゃない。しかも、貴女の様子から慕っているようには見えないし、こちらが調べた限り、反発しかしていないでしょう?」

「で、ですがっ、あの人の言動はとても淑女とは言えず、貴族として相応しい存在ではありません!」

「血の繋がりがあるなら、『親子は似る』と言われてしまうかもしれない。だけど、貴女達にはそれがない。仲が良いどころか、反発しかしていない。そもそも、モーリス君が当主になったら、表舞台から降りる人だよ?」

無理があるのですよ、全てを後妻さんのせいにするのは。

第三者であるお友達ならば、無責任に『貴女も大変ね』とか言って貰えたかもしれないが、私達は家の立て直しの『協力者』。

マリアベル嬢が後妻さんを『相応しくない存在』と言うならば、私達だって貴女に『この家に不要な存在』という評価を下す。

「自分は違うと言うのなら。……貴女の価値は何? 私達に指摘されるまで、自分が積極的に行動したり、努力したりすることの重要さに気付かなかったみたいだね? ねぇ、自分の家がこんな状況なのに何もしない貴女は何なの。貴族は家ありきって知っているでしょう? 貴女こそ『貴族に相応しくない』じゃない」

「……っ」

自分の言った言葉を返され、マリアベル嬢は私を睨みつけた。彼女としては、あくまでも貴族に相応しくないのは後妻さんであって、自分が言われる側ではないのだろう。

まあ、その気持ちも判る。状況はともかく、部外者の私に指摘されたくはなかろうな。

……いや、部外者というだけじゃないか。自分が素敵だと思った男性と懇意にしている――あくまでも『仲良し』であり、恋人や婚約者といった情報はない――女だからこそ、敵意もひとしお……って感じかな。

それじゃあ、更に煽ってみよっかなー♪

「貴女に……言われたくはありません!」

「あら、私は自分の経験に基づいて言っているのだけど」

さらりと返せば、益々マリアベル嬢は睨み付けてきた。どうやら、めでたく彼女の地雷を踏んだ模様。

そして。

私の思惑を理解し、更に悪乗りしてくれるのがシュアンゼ殿下……灰色猫であ~る!

「そうだよね、ミヅキは『必要とされる存在』だし」

「あら、そう言ってくれる?」

「ヴァイスだってそう思っているさ」

「ええ、勿論です」

ま さ か の ヴ ァ イ ス 、 参 戦 … … !

話を振るシュアンゼ殿下もアレだが、即座に乗ってくるヴァイスもなぁ……。

どうやら、マリアベル嬢は徹底的に凹まされないと駄目だと判断した模様。真面目人間だからこそ、厳しい人でもあるのよね、ヴァイス。

そんな裏事情なんて欠片も知らないマリアベル嬢は、シュアンゼ殿下の誤解を招く発言にあっさりと乗せられたらしく、少し泣きそうな顔でヴァイスを見た。

それでも批難の声を上げないのは、最初に私とヴァイスが仲良しだと明言されたからだろう。

……。

よし、マリアベル嬢が感情的になりやすいようにしてあげようじゃないか!

「貴族じゃなくとも、必要とされることはあるのよ」

「え!? あ、貴女は貴族ではないのですか!?」

「民間人ですよ」

さあ、どうなるかなー♪