作品タイトル不明
小話集37
小話其の一『ミヅキちゃんと後妻さん』
――とある一室にて
柔らかな午後の陽射しに照らされた室内、良い香りのするお茶、テーブルを挟んで向き合うのは――
「ふふ、お誘いいただいて嬉しいわ」
「あら、そう言って貰えるとはね」
私と後妻さんであ~る!
後妻さんがめでたくブレイカーズ男爵家に戻って来たので、お茶に誘ってみたのだ。
ほら、女同士の会話とかあるしね! 訳あり者同士だけど、女子会良いよね!
……。
お互い、笑顔ですよ。ええ、お互いにね。
たとえ、纏う空気がブリザード一歩手前だとしても。
身も蓋もない言い方になるけど、シュアンゼ殿下サイドの面子が一番連携を取っておくべきなのがこの人なんだよね。
モーリス君はまだまだお子様だし、使用人の皆さんも言葉遊びに慣れていない。
唯一、それなりにこなせそうなのが家令さんなんだけど、この人はブレイカーズ男爵家の使用人達の総括ポジションなので、そちらに集中してもらいたい。
消去法で、私達と遣り取りを行なうのに最適なのがこの後妻さん。
彼女は表舞台から退く気満々みたいなので、『ちょっと周囲にバレたらやべぇなー!』(意訳)という案件だろうとも、心置きなく話せるだろう。
お貴族様は綺麗事だけでやっていける立場ではない。
バレなきゃいいんだよ! バレなければ!
で。
そういったことも含めて、情報の共有をしたいと思ったのです。
シュアンゼ殿下が直接動くのは宜しくないし、他国の高位貴族であるヴァイスも除外。
状況を見る限り、彼女と遣り取りするのは私が適任なのですよ。元から裏方だしね、私。
「取り繕う気もないし、時間もない。お互い、『素直に』いきましょ」
そう提案すると、後妻さんは軽く驚いたように目を見開いた。
「……私はその方がありがたいけれど、貴女はそれで宜しいの? こちらの都合を押し付けている私が言うのも何ですけど、貴女にとっては弱みになる可能性があるのでは……?」
後妻さんとしては、『他国の人間が、ガニアの問題に勝手に首を突っ込んだ』と解釈され、弱みのように扱われる可能性があると言いたいのだろう。
それを弱みとして扱う者には当然、後妻さんも含まれる。彼女の最優先はブレイカーズ男爵家なので、恩知らずと言われようとも、利用することを躊躇うまい。
……が。
それは心配無用というものだ。理由は簡単、そう言われる対象が私(=魔導師)なのだから。
「今更だし、私ならば突かれても問題ない」
「え? い、今更……ですか? シュアンゼ殿下さえ巻き込まなければよい、と?」
「うん。と言うか、今まで色々遣り過ぎて、今回のことを咎めるならば、『これまでの依頼主達』も咎められなきゃならないからね」
マジでーす。魔王様経由だろうとも、私にお仕事を依頼してきた人達が居るのは事実。
それが最適と判断されたのは『異世界人という特殊な立場にある民間人だから』。
ぶっちゃけますと、私は『国』や『家』といった柵がない……そういったものが弱みにならない立ち位置です。
突かれても『異世界人だからよく知りません』という言い分でも通ってしまう。寧ろ、それを期待して私にお仕事を回したこともあるだろう。
だから、何も心配はない。
後妻さんが相手だろうと、私にとって弱みにはならないのだから。
……まあ、さすがにそこまで詳しくは語らないけれど。
そこまで言ったら、私が異世界人ということも話さなければならないので、『今更だから気にすんな☆(=余計な詮索は駄目だぞ☆)』でいい。
「……っ」
私が笑顔で脅迫する気配を感じ取ったのか、後妻さんが息を飲む。まあ、賢い人みたいだし、その雰囲気に気付いているならば、余計なことは言わないだろう。
「さあ、『楽しく』お話ししましょうか」
「……っ、え、ええ、そうね……」
にこやかに告げる私に対し、後妻さんは何となく顔色が悪い。そんな彼女の姿に、私は内心、ほくそ笑む。
――本日の目的、達成かな。
私達は助力する側であっても、主導権は得ていたい。今後のためにも、シュアンゼ殿下の守りには力を入れておくべきだ。
その第一歩が……後妻さんへの『警告』。
昨日の私達の会話を聞かれていなかったとしても、これで彼女には私への警戒心が根付いたはず。
「……過ぎる欲は身を滅ぼすよ。賢く立ち回ってね」
私達は割と貴方達が気に入っている。だから、友好的なままでいましょうね?
※※※※※※※※
小話其の二『自己中外道娘と献身的な後妻』
「早速だけど、突っ込んだ話をしてもいい?」
警告も終わり、呑気にティータイムを楽しむ私と後妻さん。……が、それだけで済むはずはないので、本題を切り出す。
「はい、構いませんわ」
多少は驚いたようだが、そういった話が出ることも予想していたらしく、後妻さんは了承してみせた。
彼女としても、私と話すことで得るものがある。それを判っているので、拒否するという選択はないのだろう。賢くて何より。
「貴女から見て、妹さんは魅力的?」
「は?」
「それで彼女の今後が決まると言っても過言ではないから。妹さん自身に価値があるなら、引き取り手は居るでしょ」
とても優秀――単なる『優秀』ではインパクトに欠けるため、才女クラスの評価が望ましい――ならば、それなりに引き取り希望者は居るだろう。
後妻さんのことがあろうとも、彼女と妹さんに血の繋がりはない。まして嫌悪する姿勢を見せていたならば、同類のように思われる心配もないだろう。
「厳しいことを言うようだけど、こちらで調べた限り、妹さんには『目を引くような要素がない』。極一般的な令嬢の一人にしか思えない。だけど、その場合、このままならば縁談があるか厳しいと思う」
「……」
はっきり言いたくはないのか、後妻さんは俯いた。ただ、反論をしてこないところを見ると、後妻さんも妹さんの今後を不安に思っていたのかもしれなかった。
「悪い子ではないと思いますわ。私への反発は仕方がないと思いますし、年頃のお嬢様からすれば、嫌悪されても仕方がありませんもの」
「……。ふーん」
後妻さんへの反発は当然のものであり、『あくまでも自分が悪い』ということにしたいらしい。
ただ、後妻さんは妹さんに反発されまくっているため、それ以外の感想がないことも事実だと思う。
それでも、そこはかとなく漂う擁護の気配に、後妻さんは彼女に対して悪く思うことはないのだと推測。
……。
やっぱり、妹さんがお子様なだけだったか。
妹さんにこちらの情報を与える気はないが、この分では探りを入れてくる心配もなさげだ。
ならばやっぱり、『どこかの家に養女に出す』という選択が有力だろう。モーリス君達が罪悪感を抱く可能性を考慮すると、それが最良の選択な気がする。
どこか他所の家に行って、余計なことをべらべら話すアホなら困るが、後妻さんの話を聞く限り、そういった類の心配もなさげ。
そんなことができる子ならば、後妻さんの話に出るはずだ。不安要素と成り得る存在ならば、私達にも伝えておくだろうしね。
「つまり、自分の置かれた状況も理解せず、個人的な感情のままに行動するお馬鹿って感じか」
「お馬鹿……」
「他に言いようがある? もっと上手く立ち回れるような子ならば私達の仕事の邪魔になる可能性があるし、縁談だってあるかもしれない。だけど、『そんな可能性はない』。情報として知っているだけの私どころか、本人と接している貴女もそう判断した。だったら、その評価で確定じゃない」
後妻さんとて妹さんを悪く言いたくはないのだろうが、アピールポイントもないのだろう。良くも、悪くも、特出した要素がないというか。
もしも『あの子はこんなことが得意なんです!』と言えるようならば、ここぞとばかりに口に出していたはず。
後妻さんも妹さんの今後は気に掛けているようなので、縁談や養子縁組先に伝手がありそうな私達に興味を抱かせようとするだろう。それくらいの強かさはある。
……しかし、現実は厳しいものでして。
妹さんは私に『お馬鹿』と言われて終わった。他に言いようもなかったので、意地悪ではない。
後妻さんが縋って来ないのは、引き際を心得ているからか……最初の警告が活きていて、私を怒らせることは拙いと判断したためだと推測。
「もうすぐ帰って来る彼女次第……ああ、これは本人の努力とか行動っていう意味ね。まあ、ともかく! それで彼女の今後が決まるでしょう。良い嫁ぎ先を見付けたければ、自分で動くしかないよ」
「……」
後妻さんは悲しげだが、私に同情する気持ちはない。他所の家だって役立たずを押し付けられても困るだけだろうし、シュアンゼ殿下やラフィークさんに縁談の伝手があるとも思えないので、こちらとしてもどうしようもないのだ。
「とりあえず、本人が帰ってきたら話してみるけど……多分、私も嫌われる気がするね」
だって、『世間的には』(重要!)羨ましがられる婚約者持ちですからね、私。
守護役だろうと、私達的には戦友同士だろうと、嘘ではない。だからこそ、取れる手段というものもあるわけで。
「あまりにも現実が見えていないようなら、『貴族籍の素敵な男性』に来てもらって、正直な感想を告げてもらえば、嫌でも現実が見えるでしょう」
「え゛」
「だいじょーぶ! そういった伝手ならあるから!」
後妻さんは顔を引き攣らせるが、私は割と本気でこの方法が効くのではないかと思っている。
第三者、それも『素敵な男性』(笑)から言われるなんて、令嬢にとってトラウマになりそうな状況じゃないか。
そこで心をバッキリ折ってもらえば、嫌でも大人しくなるだろう。なに、自分を見つめ直す切っ掛けになるなら、それも良い経験さ。
「あ、あの、あまり酷いことは……」
「……。ふふっ」
「て、手加減を……っ」
私は依頼するだけだから、しーらないっ♪