軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

舞台裏 ~身内限定~ 其の一

――ブレイカーズ男爵家の一室にて

後妻さんとの一戦(?)を終えた私達は、間借りしている部屋に集っていた。

そこで何をしているかと言えば――

「お疲れー!」

身内限定・軽くとは言え、飲み会である。ぶっちゃけると、祝杯を挙げていた。

「いやぁ、予定通りに事が進んで良かったね。これで課題の八割強は達成できたし!」

「本当にね」

「まさか、ここまで予定通りに進むとは思いませんでした。やはり、当初からの懸念通り、モーリス殿を含むこの家の人々の素直さがそうなった理由でしょうね」

「もしくは、家の存続を望む一途さ・必死さが原因かな? 視野が狭くなっているんだと思うよ」

「でしょうねー」

グラスを片手に、しみじみと言葉を交わす私とシュアンゼ殿下、そしてヴァイス。

なお、今回はラフィークさんもグラスを手に、しっかりと参加中。彼とて、私達の計画を知る一人であり、協力者でもあったのだから。

イクス達傭兵三人組は微妙な表情になりつつも、私達の言葉を否定する気はない模様。酒は美味いが、舞台裏を知る者として胸中複雑なのだろう。

ただ、この家の人達に問題があったことも理解できている。それは理解できるが、私達の『計画』を事前に知っていたこともあり、感心するべきなのか、呆れるべきなのか判らないらしい。

うん、その気持ちも判るぞ!

だって、この家の人達の善良さに付け込んだ自覚があるからね!

「最初にモーリスから言質を取ったまでは良かったんだけど、それだけだと不安だったからね。仕方がない」

三人組の微妙な表情に気付いているシュアンゼ殿下がそう諭す。ただ、それはあくまでも三人組の善良さを考慮しての言葉だ。

彼らとて、私達がこの計画を実行するにあたって事情はしっかりと説明されているので、私達の計画に文句はないと推測。

そう、文句はない。

単に、彼らの心境的に『あの善良な奴らを手玉に取るって、どうよ?』という状況に陥っているだけと見た。

「ああ、俺達だって理解してるさ。まあ、あんた達の計画を知らなければ、途中で多少は止めたかもしれねぇけどな」

『理解はしている』と、イクスが呆れた眼差しを隠そうともせず口を開く。

「あら、理解はあるんだ?」

「あるさ。やり方はともかく、あのお坊ちゃん達の素直さを見ちまうとなぁ……」

そう言うなり、イクスは若干、遠い目になった。どうやら、呆れている対象にはモーリス君達も含まれていた模様。

「個人として見れば、良い奴らなんだろうけどよ。どうにも、この状況じゃ不安しかないぜ」

「ですよねぇ……。僕でさえ、そう感じるんです。変わる決意をされたことは立派ですが、最初にシュアンゼ殿下を訪ねて来られた時点では、その、綺麗事を口にしているだけにしか思えませんでしたし」

イクスに続き、ロイも控えめな口調ながら正直な感想を漏らす。そんな彼らの反応に、私は自分の直感が正しかったことを痛感した。

三人組は傭兵という職業上、割とシビアな選択をすることがある。それは穏やかな性格をしているロイも同様。

彼らは確かに面倒見が良いけれど、それはあくまでも『自分達に火の粉が降りかからないこと』が前提だ。

自分達だって生きていかなきゃならんのです。最優先に考えるのは自分達のことだし、いざという時に優先すべきは仲間である。

「モーリスやこの家の人達が善良な性格をしていることは理解できる。だが、それゆえに行動や思考が読みやすい。これは彼ら自身が危険に晒されたり、納得できる状況にならなければ改善はされないだろう」

「それゆえの我々の行動であり、襲撃を歓迎した理由ですからね」

ヴァイスの補足に、シュアンゼ殿下は頷いた。

「そう。彼らには『変わる切っ掛け』が必要だった。そして、それは危機感を抱く切っ掛け以前に、彼ら自身の意識の改善が行なわれなければ無意味だ。下手をすれば、絶望するだけだろうからね」

「だから『甘ったれた考えを改めさせること』が必要だったんでしょ。まあ、あれだけ繰り返して言い聞かせれば、嫌でも不安になるでしょうよ。『このままで良いのか』って」

「彼らの素直さも都合が良かったしね」

私の言葉に、シュアンゼ殿下は苦笑した。反論なんてあるはずもない。そもそも、この計画は彼らの素直さ(意訳)が最重要だったのだから。

「私達は最初から『期間限定の協力者』だと口にしている。それを前提にして、色々と『助言』を行なってきた。そこには危機感を煽るものもあったけれど、彼ら自身の意識の改善を促すものも含まれていたはずだ」

「そこを読み取らせ、『第三者から言われた言葉』ではなく、『第三者の言葉を受け、自分で考えた末の結論』にさせる必要があったのですね」

「うん。ヴァイスの言葉が全てなんだけど、自分で考えて結論を出した……となった方が自信に繋がるし、重みも違うからね」

……ぶっちゃけますと、我ら、意識の改善を狙いました。

それもモーリス君だけでなく、『この家の人々全員』に対して。

「実際に、効果はあったじゃない。『誰から情報を得るか』という選択において、モーリス君は私を選択している。あれは私達の立場を冷静に考え、誰から情報を得ることが最善かを自分で導き出す必要があるもの」

「こう言っては何ですが、初めてお会いした時のモーリス様のままならば、主様の下に来られるような気が致します」

私に続き、ラフィークさんも同意を示す。やはり、彼の目から見ても初めて会った頃のモーリス君は『王族に頼る』という姿勢が透けて見えていたのだろう。

常にシュアンゼ殿下の傍に居るからこそ、ラフィークさんは人間観察に長けている気がする。特に……主であるシュアンゼ殿下を利用しようとする輩に対して。

シュアンゼ殿下が数々の悪意をかわしてこれたのは、ラフィークさんのお陰でもあるのだろう。

「それもある意味、間違いではないのだろう。だが、私はこの国の王族だよ? 今は自分の足場固めをする時期だし、配下でもない家を気にする余裕もない。見返りに忠誠を誓ってもらったところで、私が面倒を見ることの方が多そうだ。大成するまで待てるかと言われれば、微妙なところだね」

シュアンゼ殿下の言葉は厳しいが、事実である。モーリス君やブレイカーズ男爵家に面倒を見る価値があれば話は違ってくるだろうけど、現状を見る限り、どう考えてもシュアンゼ殿下の負担の方が大きかろう。

そして。

これが一番困るのだけど、モーリス君達が今後、自分達を『シュアンゼ殿下の庇護を受けている』と認識する可能性があった。

「そもそも、前提が違う。絶対に、最初に会った時のモーリス君は勘違いをしていたじゃない」

酒を口にしながら言い切ると、皆の視線が私へと向いた。

「私達は『ファクル公爵からの課題のために協力する』のであって、『ブレイカーズ男爵家のために行動するのではない』。ファクル公爵がどんな言い方をしたかは判らないけど、その認識で合ってるはずだよ」

私達の事情:ファクル公爵からの課題。

モーリス君達の認識:ファクル公爵の言葉を受け、シュアンゼ殿下が味方をしてくれた。

これ、似ているようだけど全然違う。私達は『課題達成のために協力者になった』のであって、『モーリス君達の味方になったわけではない』のだから。

それを気付かせるために、私は延々とモーリス君達に『自分の家のことは自分でやれよ』(意訳)と言っている。

あそこまで繰り返し言われて気付かなかったり、まだこちらを頼る気だった場合、遅かれ早かれ、この家は没落するだろう。他者に縋るばかりの家に未来なんてあるまい。

「だからこその、あの洗脳紛いの言葉の数々か」

「やだなぁ、イクス。意識の改善だってば! ……まあ、本当にヤバそうだったら一服盛って、睡眠学習でも実行しようと思ってた」

「睡眠学習?」

「判りやすく言うと、寝ている間に耳元で言い聞かせる感じ」

「それこそ洗脳に近いじゃねぇか!」

煩いぞ、カルド。普通に言っても意識の改善が見られないなら、やるしかないじゃないか。

「ええと……洗脳ではないんですよね?」

「違うよ、ロイ。あくまでも記憶させるだけ。まあ、甘ったれたことを考えた際、警告紛いに思い出す程度だと思うよ」

それでも抑止力にはなるだろう。『思い止まって、本当にそれが正しいかを考える切っ掛けになる』……それで行動に移さなければ、彼の評価が下がることはない。

いや、『評価が下がる』どころか、『たかが男爵家の新米当主の分際で、王族を利用する愚か者』扱いされる可能性もあるか。

いくらシュアンゼ殿下が普通の王族よりも力がないとしても、男爵家に良いようにされる謂れはない。

というか、国王一家とは普通に仲良しなので、彼らが激怒する可能性だってあるだろう。シュアンゼ殿下に対して過保護気味なんだもの、国王一家。

その場合、ファクル公爵もシュアンゼ殿下に対して『期待外れ』的な評価を下すに違いない。周囲とて、『男爵家程度に見下される王族』というレッテルを貼ってくる可能性・大。

「シュアンゼ殿下のためであることも事実だけど、この家のためでもあるんだよ。本人にその気はなくとも、周りからはシュアンゼ殿下を利用しているように見えるだろうからね」

「その場合、忠誠心厚い一部の者達が、この家に制裁を下す可能性もあるからね。お互い、良いことはないんだ。互いの立場を正しく理解させた方がいい」

忠誠心ある貴族から『忠誠ゆえの排除』を食らい掛けた私達なので、説得力は抜群です。国王一家が激怒した場合、あれがモーリス君達に発動しないなんて言えないじゃない!

「それでしつこいくらいに言い聞かせたのかよ。まあ、他の奴らの耳に入れるためにも必要だったと聞いてるけどよ」

「変わってくれて良かったよ。あれだけ繰り返せば、嫌でも一度は全員の耳に入るだろうからね。それに、私達は最初から『学べ』と言っている。だから、彼らが私達全員から何かを学ぼうとするならば、喜んで協力しよう」

「……。それで俺達にも『学ぼうとするなら、協力してやれ』って言っておいたのか」

「この家の使用人達は誰が、どの役割を担っているか、判らないしね。彼らから行動してもらうしかない」

私の所にモーリス君が来たように、他の面子の所にも『誰か』が教えを乞いに行っている。

私達の立場は『シュアンゼ殿下の護衛』なので、普通は拒否されて終わりである。親しいならばともかく、そういったこともないので拒否一択だ。

それが快く受け入れられたのは偏に、事前にシュアンゼ殿下からの『お願い』があったから。

『彼らが学ぶ姿勢を見せ、助言や教えを乞うて来たら、快く応えてあげて欲しい』

……こんなことを、この家に来る前にシュアンゼ殿下から言われているのよね。

なお、ラフィークさんの所には家令さん、ヴァイスの所には家令さんの補佐的立場の男性と侍女長、三人組の所には使用人の皆さんが行っている。

私……貴族の対策。女性でも勝者となっているため、モーリス君は無意識に『自分でも何とかなりそう』という認識をしたと推測。

ラフィークさん……シュアンゼ殿下を守ってきた術を学びたかった模様。

ヴァイス……様々な言動から高位貴族であると推測され、貴族的な『守り』(意訳)を聞きに来たらしい。ヴァイスは『守り方』に関してはエキスパートなので、その選択は正しい。

三人組……単純に戦闘や護身術について学びに来た。意外なことだけど、多少ならば魔法を使える人も居た模様。

以上、モーリス君以下ブレイカーズ男爵家の皆様の意識改革が行なわれた結果だ。全部、自発的な行動です。

これがなかった場合、彼らはもれなく『王族であるシュアンゼ殿下』に守ってもらうことを望んだだろうな。下位貴族にとって、王族は雲の上の存在なんだもの。

「それじゃあ、あの後妻が最初からいなかったのも意味があるのか?」

カルドの素朴な疑問にシュアンゼ殿下は――

「勿論、あるよ」

笑顔で肯定したのだった。