軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学ぶ者達

――ブレイカーズ男爵家にて

「申し訳ございませんでしたっ!」

皆が集った玄関ホール――使用人さん達も全員呼んだため、広さ的にここしか場所がなかった――で、襲撃犯達が揃って土下座をきめている。

その声音に宿るのは深い後悔と……必死さ、そして『恐れ』。

まあ、言うまでもなく奴らに怖がられているのは私だが。

先日の態度とは打って変わった彼らの姿に、モーリス君以下使用人の皆さんがポカーンとした顔で奴らをガン見。

……。

うん、それも仕方ないですね! こいつら、明らかにブレイカーズ男爵家の人達を見下していたし!

「あ、ああああの、ミヅキさん? これは一体、どうなっているんです……?」

「何故、私に聞く。ここはシュアンゼ殿下に聞くべきじゃないの?」

「ええと、その……ミヅキさんが彼らに教育? するとか言っていたからなんですけど」

顔を引き攣らせたまま問うてくるモーリス君に返せば、若干、言い淀みながらもそう思った理由を告げてきた。

そんなモーリス君の姿と言葉に、シュアンゼ殿下は生温かい目を私に向けてくる。

「ミヅキ、何を言ったの」

「え、『私に喧嘩を売ったようなものだもの。襲撃者達にはきっちり理解してもらいましょう。まあ、歯向かうだろうから、そこは【教育】すれば問題ない』って言った」

「本当にそれだけ?」

「……」

「……」

「『【教育】も【躾】も【調教】も大差ない』って付け加えた」

そこまで言うと、シュアンゼ殿下は納得した顔で頷いた。

「ああ、それが原因かぁ」

「失礼な! 私だって、『物分かりが良い人ならば』普通の教育だってば!」

「うん、言葉だけならそれは正しいね。だけど、今の襲撃者達の姿を見れば、どんな目に遭ったかは薄らと察するんじゃないの?」

「きっちり謝罪の仕方まで教えたじゃない」

言うまでもなく『土下座』である。『私の出身国に伝わる最敬礼……深い敬意を表す挨拶ですよ』という言葉と共に教えてみた。

いやぁ、慣れない悪夢は彼らを非常に怖がらせたみたいでね? 怯え切った彼らから『あれは何だ!?』って言われたから、馬鹿正直に『私が居た世界の娯楽の産物』と答えてみたのだよ。

嘘は言っていない……ああいったものは『あくまでも想像されたもの』なのだから。

それらをリアルに作り上げたのは、人の弛まぬ努力と優れた技術であ~る!

我が世界の誇れる一面ですよ! 魔法がなくとも、人は困難を努力で乗り越えてきたもの!

……が。

襲撃犯達はその言葉で私が異世界人だと悟ったらしく、『異世界ではあんなおぞましいものが娯楽扱いされるのか!?』と別の意味で吃驚仰天。

それを裏付けるかのように、製作者たる私が平然としていたため、彼らも信じざるを得なかったのだろう。この世界にはああいった生き物が居ないみたいだし。

それ以外にも『楽しい教育』と称し、『聞き分けのない子を良い子にする方法☆』(意訳)を語ったところ、襲撃者達はめでたく私を『逆らってはいけない人』認定。

その結果が、先ほどの『皆でごめんなさい~礼儀正しく土下座で謝罪~』だったり。聞き分けが良くて何よりだ。

なお、私が異世界人だということはまだ隠しておくように言ってある。

まだ会ったことがない後妻さんや妹さんに先入観を与えるのは避けたいし、情報が洩れて、より戦闘能力の高い刺客が送り込まれても面倒だから。

勿論、私は返り討ちにする自信があるし、三人組やヴァイスだって十分に対抗できるだろう。

しかし、三人組が優先するのはシュアンゼ殿下とラフィークさんな上、ヴァイスが怪我をするのも宜しくない。

そうなると、ブレイカーズ男爵家の人々を守るのは私になってしまうのよね。さすがにこの人数を一人で……というのは避けたい状況だ。

第一、ブレイカーズ男爵家の人達には今後、モーリス君を支えるという大本命の仕事が控えているので、怪我による脱落者が出ることは避けたい。

少なくとも、今現在この家に居る使用人達は『裏切らない』と言い切ってしまえる。これ、超重要。

新たに人を採用する場合、その人が本当に信頼できるか見極める必要が出てくるため、今はそういった手間を掛けられないこともあり、使用人の現状維持が望ましかろう。

まあ、何だかんだ言って『私達(=シュアンゼ殿下御一行)の負担を減らすため』なのだ。襲撃者達が泣こうが、シュアンゼ殿下が呆れようが、放置、放置。

「まあ、君は無駄な手間を掛けたくないだろうからね。そうなるか」

言葉にしない裏事情を察したらしいシュアンゼ殿下は、肩を竦めると、そんな言葉で会話を終わらせた。

……平和的解決と言うか、穏便に済ませたと思わないあたり、さすが私の理解者・灰色猫。

「ま、今のこの状況を見ても判るように、彼らはすでに君達に対する敵意はないよ。ついでに襲撃の依頼主を追い詰めるための証人としても確保したから、暫くはここに滞在するからね」

「……? 依頼主への抗議はなさらないのですか?」

私の言葉を不思議に思ったのか、使用人の一人が尋ねてきた。その言葉に、モーリス君は悔しそうに俯く。

この使用人はモーリス君の置かれた状況を知らないというより、貴族同士の遣り方を知らないのだろう。もしくは、家の存続のみに意識が向いていると言うか。

この家に何の問題もないならば、騎士団にでも通報してしまえばいいのだろうが……先日、モーリス君が言っていたように、今はちょっと拙い。

この家を狙っている奴の狙いが『家の乗っ取り』なのか、『モーリス君か妹さんを傀儡にして操りたい』のか判らない上、そいつの人脈も不明なのだから。

……まあ、依頼主の『お友達』(意訳)については、数日もすれば、騎士寮面子からお手紙が届くと思う。それを見てからでも遅くはないだろう。

「『今』はね。依頼主の単独犯なのか、それとも賛同者が居るのかも判らないし、下手に騒げば、こちらの不甲斐なさを指摘される恐れもある。だったら、より確実で、相手にダメージを与える方法を取りたいかな」

「……。僕が不甲斐ないせいで、味方をしてくれる人が居ないんだ。逆に、僕の当主としての能力不足を指摘された挙句、後見人として名乗りを上げられて、僕が傀儡にされる可能性があるんだよ」

私の説明に続くように、モーリス君がより詳しい説明を口にした。それを聞いた途端、使用人の皆さんは悔しげな表情で俯いてしまう。

「我々の力不足、ということです。モーリス様だけではなく、我らにも抗う術がない。それが判っているからこそ、襲撃者を送り込めたのでしょう」

家令さんは状況を理解しているらしい。勿論、悔しさはあるけれど、それ以上に状況判断能力があると言うか、冷静さが勝っている模様。

……そんなブレイカーズ男爵家の人達の様子に、私達は視線を交わし合ってひっそりと笑みを浮かべる。

そうそう、これでいいんだよ。楽観的になることなく、厳しい状況だろうとも受け入れなきゃね?

私達が滞在するのは、『モーリス君が当主になるまで』。それ以降は、彼らだけで乗り越えなければいけないのだから。

学べるのは今しかないのです。多少ならばポカをやらかしても巻き返してあげるから、きっちりお勉強しなさいな。

三人組、特に面倒見の良いカルドでさえ、私を嗜めないのはそれが判っているからだろう。

彼らは元傭兵……少しの判断を誤るだけで、窮地に陥ることとてあったはず。その経験があるからこそ、今の彼らがあるのだから。

「学びなさいな。どんなやり方が最良か、どうしたら相手の思惑に乗らないか……。警戒心が強いのは大いに結構! 楽観視せず、不利な状況を理解し、それを踏まえて足掻けばいいじゃない」

「私達が居る間は大丈夫だろうけど、それに縋れば、居なくなった時に報復が来る。この家の最大の強みは、『約一名』を除き、ほぼ全員が一丸となって苦境を乗り切ろうとしていることだろうね。『今、この場に居る者から裏切者が出ない』という事実は得難いものだよ」

「……」

灰色猫の言葉は厳しい。『約一名』とは妹さんのことだろう。モーリス君達もそれが判っているのか、複雑そうな表情だ。

しかし、モーリス君の妹だからと見逃すわけにはいかないのだ。逆に言えば、『警戒すべきは妹さん』ということになるのだから。

そして、『彼女』を排除するのは、私達の役目ではない。

それは『家を継ぐ』と決めたモーリス君の仕事だ。

「まったく、教官達は面倒見がいいのか、厳しいのか判らねぇな」

呆れたようなイクスの声に、ほんの少しだけ場が和む。対して、私達は肯定も否定もしない。

どう受け取るかはこの家の人次第だし、私達はあくまでも選択肢を増やしているに過ぎないのだから。

それが今回、私達に求められた役割です。ファクル公爵とて、私達がただ守るだけなんて、思ってはいなかろうさ。

「あの……そろそろ足が限界なんですが……」

忘れられたように感じたのか、土下座したままの襲撃犯がこそっと呟く。そうだね、慣れない姿勢は辛かろう。

そんな彼らに対し、私は勿論――

「黙ってなさい」

「はい」

要求を却下した。はは、簡単に済んだら、お仕置きにならないじゃないか。

「ああ、しっかり躾けられているようだね。なるほど、私達に彼らのこんな姿を見せることによって、すでに敵意がないことを証明させたのか」

「これならば、証人として使えそうですね」

「確かに、これを見ると『教育』も『躾』も『調教』も大差ないよね」

「サロヴァーラでもその手腕は冴え渡っておりました」

「だろうねぇ」

灰色猫とヴァイスよ、たとえ事実であっても、馬鹿正直に言うんじゃない。

うっかり君達の遣り取りが聞こえちゃった人達が、私のことをガン見してくるんですが!?

「教官だしな……」

「ま、まあ、彼らの今後のためにもこれが最良と言えますし」

「……ロイ。お前、マジでそう思っているのか?」

「……」

三人組よ、君達の言葉はしっかり聞こえている。しかし! ロイの言葉には、私は大きく頷きたい。

……。

土下座している連中、多少のトラウマ――しかも、その対象はこの世界に居ない生物達。次点で私だ――で済んだもの。

サロヴァーラの傭兵達なんて、BでLな本に実名出演だぞ? あれに比べれば、素直になった方が数倍マシでしょう?