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作品タイトル不明

小話集34

小話集其の一『サロヴァーラ王家の人々 其の一』

――サロヴァーラ王城・リリアンの部屋にて

「♪」

ここのところ、第一王女ティルシアは機嫌が良い。

王家に対して反意を抱いていた――あくまでも誤魔化せる程度であり、決定的な行動には出ていない―グラント侯爵家の捕縛が叶っただけでなく、処罰に追い込めそうなのだから当然か。

その切っ掛けとなったのは、イルフェナから魔導師ミヅキが訪れたことである。正確に言うと、ミヅキが手土産として持ち込んだ『ある貴族の問題行動の証拠』が原因だろう。

ミヅキ自身が調べたものであったなら、そこまで重要視はされなかったのかもしれない。

言い方は悪いが、ミヅキは民間人。しかも、他国の貴族を探るような能力があるとは証明されていないため、不確かなものと突っぱねられる可能性もあった。

ミヅキが何度も状況を覆してみせたことは事実であるし、戦闘が可能であるほど強いことも知られている。

……が、あくまでもそれは『個人の能力』と言える範疇であり、必要な情報の収集を請け負っているのは黒騎士達。そして、イルフェナの黒騎士達――特にエルシュオン殿下の直属の者達は優秀(意訳)と知られている。

ミヅキがこれまで請け負ってきた案件は『他国からの依頼』や『エルシュオンからのお願い』といったものが大半であるため、必然的に騎士寮面子や味方サイドが協力者となっているのである。

ゆえに、断罪が行なわれる際にミヅキが提示した証拠各種を、該当者達は安易に否定できないのであった。

否定することは証拠集めをした者達の能力自体を疑問視する――判りやすく言うと、証拠の捏造を疑ったり、無能扱いしている――こととイコールだ。

プライド激高の魔術師&お貴族様を敵に回す所業である。

誰がそんな怖いことをしたいと思うのだ。相手が悪過ぎる。

イルフェナ産の彼らはその凶暴性も知られているため、よっぽどのことがなければ否定の言葉を紡げないのであった。人はそれなりに学習するものなのだ。

……そんなわけで。

ミヅキからの『手土産』(証拠&情報)に、ティルシアはにっこり。

そして、リリアンはミヅキお手製のお菓子をお土産に貰って、にっこりなのである。

異世界のお菓子ということもあるが、ミヅキは国王一家でお茶をすること前提で渡してくるので、忙しい家族との一時が約束されることが嬉しいのだ。

当たり前だが、これもティルシアの機嫌の良さに拍車をかけている。シスコンな女狐様にとって、最愛の妹との一時は至福の時。

今は色々と忙しい時ということもあり、ゆっくりお茶を楽しむことができない日も珍しくはなかった。だが、支えてくれる者達の手前、我侭も言えまい。

それに加えて、煩いことを言ってくる輩も居る。疲れている姿など見せれば、彼らは嬉々として嫌味を言ってくるだろう。

しかし『魔導師からのお土産』という大義名分が投下されれば、批判的な者達は一斉に口を噤まざるをえないのであった。彼らに魔導師へと喧嘩を売る根性はないからだ。

「お姉様が楽しそうで何よりです」

にこにこと姉の現状を喜ぶリリアンに、ティルシアは笑みを深めた。

「そう? そう見えるのは、リリアンとお茶を飲むことができているからかしら」

「ふふ、それは私も嬉しいです」

優秀な姉にばかり苦労させているが、今はミヅキが来たことにより、煩い貴族達が恐ろしいほど静かである。ティルシアの変化はそのせいだと、リリアンは察していた。

やはり、忙しい日々の生活は姉を疲労させていたのだろう。そう思うと、リリアンは己の不甲斐なさを情けなく思った。

しかし同時に、『早く自分も姉や父を支えられるようになろう』と、いっそう決意を固めていた。父や姉が穏やかな表情でいられるよう、自分も頑張ろうと。

「こんなにゆったりした時間が取れたのも、ミヅキお姉様のお陰ですね」

「ええ、そうね。……本当に、ミヅキのお陰だわ」

本当に嬉しそうに告げるリリアンに、ティルシアは裏を悟らせずに微笑む。

実のところ、ティルシアが上機嫌なのは久々にゆったりと休息が取れることだけが原因ではない。ぶっちゃけて言うと、ミヅキと一緒になってグラント侯爵家を締め上げているからだ。

女狐様はどうしようもない重度のシスコンだが、王族としての矜持も、愛国心もある王女様なのである。つまり、これまでの貴族達の所業にお怒りだった。

長い年月、耐えつつ貯め込んできた怒りは相当なものなのである。

叶うことなら、自分自身でクズどもを仕留めたいと思うほどに。

そうは言っても、今のティルシアはサロヴァーラ立て直しの真っ最中。数年単位でそれが続くことが予想されるため、まだ無茶はできないのであった。

今のティルシアに許されるのは、あくまでも法に沿った程度の処罰。今後のことを考えても、非難されるような罰を与えられないのがもどかしい。

……が。

公式設定が『世界の災厄』であり、元から『サロヴァーラの貴族は嫌い』と公言している異世界人凶暴種にとっては、そんな縛りなど何の意味もなかった。

何せ、先にミヅキに手を出し、怒らせたのはサロヴァーラの貴族達。その事実がある以上、どんな目に遭わされても文句など言えなかろう。命さえあれば良い、程度の認識だ。

「私達、良い友人を持ったわね」

「はい!」

楽しげに微笑み合う姉妹の想いは実のところ、微妙~にずれている。

姉達を『とても頼りになる友人同士』と認識し、尊敬と少しの羨ましさを込めて微笑ましく思うリリアン。

対して、ティルシアは『ミヅキは私の気持ち(意訳)を理解してくれる素晴らしい友人』と思っていた。

ある意味、ティルシアにとってミヅキは得難い友人なのだろう……その本性に付き合える者など、そうそう居ないだろうし。

それでも、女狐様は最愛の妹に本性を悟らせはしない。

彼女はいつだって、妹には『素敵なお姉様』でいたいのだ。

その願いを知る黒猫は現在、地下牢があるフロアにて奮闘中である。

見張りや護衛の騎士達も共犯――当然、ティルシアが許可済みだ――なので、その所業がリリアンにバレることもない。

グラント侯爵家は今度こそ、悟るだろう……『あの女を怒らせてはいけない』と。

それが魔導師ミヅキを指すのか、それとも第一王女ティルシアのことなのかは、謎のままであろう。

※※※※※※※※

小話其の二『サロヴァーラ王家の人々 其の二』

――サロヴァーラ王の執務室にて

「魔導師殿は今回もやらかしているようだな……」

呟かれた声に、決裁の終わった書類を持って行こうとした宰相は足を止めて王を見た。その声に含まれる苦い響きは、己の不甲斐なさを感じているからだろう。

穏やかな王と言えば聞こえはいいが、実際には現状維持が精々だったというのが本当のところだ。

ただ、少し前までのサロヴァーラでは仕方なかったとも言える。

そういった背景を踏まえると、彼は亡き妃達の願い通り、娘二人は守り通したのだから頑張ったと言えるのだろう。

「大変に情けないことですが、我が国の貴族達は魔導師殿に信頼されておりません。他国からの厳しい目も仕方ないかと」

「そうであろうな。はあ……ティルシアが行動せねばどうなっていたのやら」

第一王女ティルシアが自滅覚悟でサロヴァーラの立て直しを図ろうとしたのは少し前のこと。それも『他国を巻き込む』という方法だった。

まあ、結果としてはそれで魔導師との縁ができ今に至るのだから、彼女の思い切った行動は正しかったと言えるのだろう。

関わった国々はティルシアのことを『油断のならない女狐』と認識すると同時に、『こいつが居るなら、立て直しは可能かも?』と思ってくれたのだから。

ぶっちゃけて言うなら、『やる時は殺る』という信頼がある。

女狐様は重度のシスコンであり、未来の女王たる妹の敵を許すまい。

その女狐様の頼れるお友達が『あの』魔導師なのだから、各国の安心感は半端なかった。魔導師ミヅキも『必ず結果を出す』という功績の持ち主なのだから。

と、言うか。

正直なところ、各国は『うちの国に影響が出たらやだなー』とずっと思っていたので、女狐様&黒猫による大掃除(意訳)は大歓迎であったりする。

サロヴァーラの貴族達は自国の王家を嘗めて良い気になっていただろうが、その反面、他国の王族達からはガンガン評判を落としていたのだった。

まあ、それも当然だろう……自国で同じことが起こっても困るのだから。

その結果が、『魔導師の策に乗る』という建前による、サロヴァーラ立て直しへの助力。

このような裏事情がある限り、女狐様がちょっとばかり強硬な手段を取ろうとも、仲良しのお友達のために魔導師が暴れようとも、各国はスルーする気満々であった。寧ろ、『いいぞ、もっとやれ!』とすら思っている。

諫めようとするのが親猫だけというあたり、色々と終わっている。

サロヴァーラの貴族達のカウントダウンは既に始まっているのだった。

「しかし、ティルシアはあのように苛烈な性格をしていたのか……」

「……」

これまでのことを思い返し、王と宰相は揃って遠い目になった。

事が起こる前の第一王女は『聡明』という評価を貴族達から得ていたように、『余計なことをせず、事を荒立てるような真似もしない』という、王家の状況を良く理解できている『都合の良い王女』だったのだ。

ゆえに、貴族達はティルシアが女王となることに反対はしなかった。現状が維持されると、そう思っていたから。

……が。

実際のティルシアは現状維持どころか、王家を嘗めていた貴族達を駆逐する気満々であった。

一体、いつから報復を考えていたのかは判らないが、各種証拠を押さえているあたり、『必ず仕留めてやる』という強い意志を感じる。

「妃はあのような性格はしていなかったと思うのだが」

「……姉として、母達の分も妹を守らなければと思われたのではないのでしょうか」

「ああ、そういえば……リリアンが生まれた時にもそう言っていたような。確か……」

『お姉様になるのよ、ティルシア。リリアンを守ってあげてね』

『はい、お母様! 可愛い妹の敵は私が殲滅してみせます!』

「……」

「……」

思い出し、思わず無言になる二人。

思い出に残るティルシアは姿こそ幼いが……随分と物騒な言葉を使っていたような?

母親達とて、それが有言実行されるなんて夢にも思わなかったに違いない。精々が、『妹を守ると決めた、頼もしいお姉様の無邪気な言葉』程度の認識だったはず。

「……昔から、あのような性格だったかもしれんな」

「そ、そうですね。ですが、お妃様も愛情深い方でしたし、強く在らねば守れないと決意されたのかと」

「そうだな。……そうだと良いな」

『……』

窓際で日向ぼっこをしつつ話を聞いていた巨大カエルは思った。『綺麗な言葉で纏めたね』と。

しかし、カエルは何も言う気はないし、王女達を止める気も皆無である。

カエルにとっては、遠い昔に友となった子の孫――ティルシアのこと――が可愛いし、眷属達を溺愛する魔導師の味方をしてやりたい。

結果として、賢い巨大カエルは今日も口を噤んでいる。……地下牢で何が行なわれているかを知っていたとしても。